Count.1.17 決意
そして落ち着きを取り戻したタカシとオレ達は、ようやくマキの待つ一室へと向かう。暗闇の中に靴音だけが響き渡る。誰も口を開こうとはしなかった。この沈黙も心地よかったのかもしれない。タカシが一度振り返り、ふいに陽と目があった。
そして、タカシが一つのドアの前で立ち止まると、2、3度ノックをする。コンコン。タカシは返事も待たずにドアを開いた。
「失礼します。」
あまりにも唐突だったのでオレは心の準備をする暇もなかった。
ゆっくりと室内に目を向ける。その部屋もありえない光景だったが、陽の心はそんな事ぐらいではもうびくともしなかった。
全面コンクリートが打ちっぱなしのその部屋は、かろうじて明かりはついていたが、間接照明のみで薄暗く、やはり窓には遮光カーテンがかかっていた。
色も無機質なブラックでここはお化け屋敷か何かかとうたぐってしまう。
そして何より気味が悪いのは、20畳ぐらいの広い室内には家具という家具がほとんど何もなかった。いや、正確にはあることはあるのだが、だだっ広い部屋の中央に四角いダイニングテーブルとイスが4脚のみ。ダイニングテーブルというのも不思議だが、それもどちらも素材はステンレスなのだろう。間接照明に照らされ、怪しげな銀色の光を放っていた。
マキが何か声をかけてきた。その少し離れた場所にユリの姿もあった。
「そんな所に立ったままでもあれでしょう。中に入ってきて。陽くん。葉月くん。」
オレはマキさんの目を見ないように、じっと佇み動こうとはしなかった。
「……。陽くん……。」
陽は
「はい」
という返事の代わりにマキの目を見る。
「……。警戒しないで……。」
“この人は毎回毎回、力を秘めた眼をオレに見せる。どんな言葉よりも1番信用できる。ここまで来てしまったんだ。この人を、この人たちを、とことん信用してみるのも悪くない。もし仮にこの選択が失敗だったとしても、また一つオレは成長できる気がするから。でもそれは冗談だ。眼は嘘をつけないということをオレは知っているから。”
オレの肩に誰かの手が乗せられた。葉月かと思い、振り返ると心配そうな表情をしたタカシがこっちを見ていた。オレは肩にかかる手をそっとはずして、こう告げる。
「ありがとうございます。」
葉月といつも通りのアイコンタクトを取り、オレ達は部屋の中へと進んで行く。