Count.1.16 タカシの涙
「マキさんて一体何なんですか?」
タカシはすぐには答えようとせず、ただ陽の眼をじっと見続ける。
「君は、そんなにあの人が信用できないのかい?」
「そんな事を言ってるんじゃありません。質問に答えて下さい。」
「おい、陽。」
空気が悪くなるのを止めようと葉月が割って入ってきたが、陽は聞く耳を持たなかった。
「答えてください…。」
陽はあくまでも冷静さを保とうとしていた。
タカシは何も喋らずに1、2歩、歩き陽たちに背中を向ける形をとる。
「マキさんは…大事な恩人だ……。」
「………!!」
陽の脳裏に医者、瀬名の言葉が蘇る。
『いえ、あなたには恩がありますからね。私には断る理由はありません……。』
「彼女がいなければ…僕は…立ち直ることもできなかった……。」
「恩ってどういうことですか?」
「それは……」
「どういうことですか?ねぇ、タカシさん答えてください。ねぇ…」
「陽、落ち着け。」
取り乱す陽を葉月が腕を掴み押さえ込む。陽の頭の中は混乱しきっていた。陽の目に映る葉月。
力強い、眼をしていた。
「マキさんは…」
タカシが顔をあげようとせず下を向いたまま口を開いた。
「マキさんは…君にとっても…人生を変える存在になると思う…。陽くん、僕は…君の気持ちが痛いほど…よく分かる…。でも…必ず…必ずだ…彼女が…マキさんが助けてくれる…。あとは…君の気持ち次第だ…。でも…君は大丈夫……。わかるかい…?だって…。信じてるだろ……?自分の事…、そして…葉月くんの事……。」
「……。信じてますよ。自分の事も、葉月の事も……あなたたちの事も…。」
タカシは涙ながらに陽たちに微笑んで見せた。
陽にとっても葉月にとっても言葉にできない想いが募っていく。
その一部始終を陰に隠れて聞いていたユリ。彼女の瞳からもまた一雫の涙がそっと零れ落ちた。