Count.1.14 キセキ?
二人はいつの間にか立ち止まり話し込んでいた。
その時、蚊だろうか一匹の虫が現れ二人の周りを飛び始めた。二人は手で虫を払うしぐさを見せる。葉月は虫がどこにいるのか探し上下左右、目でたどる。しかし暗いので見つかるはずがない。そんな時ふと、陽の足元に目が止まった。
“あれ……?”
その時葉月は陽のある異変に気がついてしまった。
「なぁ…陽…。」
「えっ。何?」
葉月に背を向けていた陽が振り返った。しかし葉月は陽と目を合わせようとはしない。ただ一点を見つめている。ただ一点、陽の足元だけを。陽もそれに気付き葉月の目線をたどる。その時、ようやく陽も気付いてしまった。
“…………!?”
「なぁ…、足…平気なのか……?」
「………………。」
陽はここまで痛がるそぶりも見せずに歩いて来たのだった。
「……。どういうことだよ……?」
陽はもう何が何だか解らなくなっていた。さっきまで、ズキズキと痛んでいたのは覚えている。もちろん足には包帯も巻かれているのだから。
「ま……」
言葉を発しようとしている葉月に反射的に目を向ける陽。
「ま…、まあ…初めからたいした事なかったんじゃないのか…?包帯を巻くぐらいで済むような怪我だったんだし……」
その時、陽の頭には医者、瀬名の言葉が浮かんだ。
“
「大丈夫。全治二週間て所かな。そんなにひどくない。」
”
“いくら全治二週間っていったってこんなにも早く良くなるもんなのか……?いや…、これはそういうレベルの問題じゃない…。
何かがおかしい…。”
「陽…?」
「あ…、いや…。確かに…お前の言う通りかもな…。」
オレは医者、瀬名に言われた事をあえて葉月には伝えなかった。
「あぁ、そうだよ。奇跡だよ、奇跡。オレ達、運いいんだよ。」
「……。奇跡……。」
オレはこの“奇跡”が素直に喜べるものではないという事をまだ知らなかった。