Count.1.11 目的地
病院を出てワゴンで待機していたタカシとユリと共にまた別の場所へ移動することになった。
車内は沈黙が続いていた。誰もしゃべろうとはしないのに不思議とそこには“気まずさ”というものは漂ってはいなかった。
陽と葉月はワゴンの3列目、つまり1番後ろに並んで座っていた。その前にマキとユリ。タカシが運転をしている。
陽は前に座っているユリに目を向けた。
“この人が…たしかユリさんだよな…。1、2個上なのかな。マキさんのアシスタントって言ってたけど一体何のアシストしてるんだ…?ちゃんと顔見てなかったけど、どことなく宮崎あおいに似てたような…。”
ユリが視線を感じたのかちらっと後方を確認したため陽は自然に視線を前方へと反らした。
“この人がタカシさんか…。マキさんよりも年上なのかな…。それでも24、5ぐらいだろ…。”
そんな事を考えているとバックミラー越しにタカシと目があった。
一秒ぐらいだろうか、二人は目を合わせていたが、どちらからともなく目線をそらした。
そしていつの間にか目的地に着いたようだ。
「ここは…?」
陽たちの目に飛び込んできたのはビルだった。しかしそれは高級マンションのようなオシャレなビルでもエリート商社マンが集う高層ビルでもなく、ホラー映画に出てくるような、たぶん、いや間違いなく現在は使われていない廃ビルだった。いや少なからずマキたちは使っているのだろうが。
ア然としているオレらをよそにマキさんをはじめ3人は
「着いて来て。」
と一言だけ残し、ビルの中へと消えていった。