Count.1.10 信用
「違うの…。そういう意味じゃないの。」
「何なんだよ…!この事故は……!?こんな事故が起きて一体何の意味があるんだよ…!!オレたちは実験台じゃねえんだよ…!それに…こんなの…試さなくたって…解るじゃんか…。運転士も…運転士の母親も…被害者も…被害者の家族も…友達も…みんなみんな悲しむだけじゃんか…。悲しむ人間が増えるだけじゃんか…。それに……。運転士だって……、被害者だ……。」
“葉月…。”
「でも…オレは…陽を助けられたから良かったよ…」
オレはこんな葉月の姿を初めて見た。普段は無口で正直何考えてるか分からない所もあるけど、だから余計驚いたし、こいつと本当に友達で良かった。そう再認識させられた。オレは言いたかった。色々言いたかった。
「ありがとう」
とかそんな簡単な言葉じゃなくて今のこの気持ちを表現したく必死で言葉を探していた。しかし悩んでいる間にマキに先手を取られてしまった。
「葉月くんの言いたいことは分かったわ。
急ぎましょう。時間がないの。」
彼女はそう言い終えると病院の出口へ向かい歩きだした。
陽も痛む足をかばいながら立ち上がると、マキが足を止めた。同時に陽たちの方に振り返った。
しかしマキは陽を見ているのではなく明らかに視線は葉月に向いていた。
マキは葉月の目をじっと見つめる。
葉月も今度は視線を反らさなかった。
「葉月くん。」
「はい。」
「あなたの気持ちは無駄にはしないわ。」
“なぜだろう…。少し声が震えていた…?”
そう一言だけ告げ、再び病院の出口に向かい歩きだした。
オレと葉月は少し茫然としてその場に立ち尽くしていた。
テレビもついていたし、他の人の話し声も聞こえていたのは確かだが、オレの耳には彼女の“コツコツ”という自分の気持ちを押さえた、どこか寂しげな冷静さが伝わってくる靴音しか響かなかった。
「なぁ…。」
「……。」
「なぁ…。陽。」
「…。えっ。どうした?」
『あの人を信用しろ…。
あの人に着いていけ…。』
葉月が急にそんな事を言い出したのには驚いたが、オレは二つ返事で
「うん」
と答えていた。