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人工知能戦争2035~Deep Learning War~ 作者:@IngaSakimori

第2章『静寂の祖国にて』

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第69話『申し訳ありませんでした、と彼女は言った』

(話は通ってる、ってことか)

 一応、警備員が2人立っていたが、コウ達の姿を一瞥するや、検査の必要はない、とでも言うように脇へと一歩退く。

 なんとなく会釈しながらも、コウは自分がこのようなところへいても良いのか、という思いにとらわれる。

(そりゃあ国レベルの大事な会合かもしれないけれど……)

 今の自分にそんな場に居合わせる資格など。関わるだけの能力など。

(何もない……)

 S・パーティが自分を指名するようなことがなければ、何としても固辞していただろう。こんな開業前の路線まで利用して、まるで特別扱いのVIPではないか。

(僕はそんな立派な人間じゃないんだ……)

 後ろで相変わらず鉄道話をしている叔父はともかくとしても、である。

 そして━━百メートルも歩いただろうか。
 空港の搭乗口間に比べれば短い距離、しかし駅の構内としては長い距離を進むと、下りのエスカレーターが見えてきた。

(深いな……でも、このくらいなら地下鉄にもあるかな)

 ゆっくりと地の底へ下っていくエスカレーター。その壁面にはポスターの一枚も張られておらず、ダイヤを表示することになるであろうディスプレイは『枠』だけがあるだけで、中身はまだがらんどうのままである。

 とはいえ、いかにも工事中という様子だったこれまでの構内に比べると、地面に敷き詰められたビニールシートもなければ、そこかしこに鎮座する資材や重機もない。

(こっちはほとんど出来上がっているのかな……)

 何より空気の質が違う。
 埃っぽさがほとんどない。空調がしっかり効いているらしく、温度も快適であり、呼吸していてもその清浄さがわかる。

「………………へぇ」

 そして、長いエスカレーターを降りた先には。

 そう、後ろでおっさん2人が「上野駅みたいだな!」「ええそうでしょう!」と盛り上がるほどに長い━━下りエスカレーターを降りた先では、鉄道に何ら特別な感情を持たないコウでも、驚きの声をあげてしまう光景が広がっていた。

~~~~~~Deep Learning War 2035~~~~~~

 リニア中央新幹線。

 2027年には名古屋まで、そして2035年には大阪まで開業を予定していた夢の新路線が、2035年の現代に至ってもなお、暫定開業にすら至っていないのは、特筆すべき問題が起こったからではない。

(こういうのは……遅れるっていうからな)

 たとえば道路の開通。たとえば建造物の完工。たとえばソフトウェア開発プロジェクトの検収。
 もちろん、新規鉄道路線に至るまで。

 計画がずさんなわけでもなければ、見込みが甘かったわけでもないとしても、計画における完了年度と実際の完了年度は乖離するのが日常である。
 少なくとも、私有財産が認められている先進国においては、だ。

「用地関連の嫌がらせ裁判に、中央構造線の難工事……他にも電磁波がなんのと難癖つけてきたバカ共を黙らせて、9年遅れならまあ、上等じゃないか?」

 地上で喋ったら、問題になりそうことを平然とキミズ叔父が口にした。駅員の道志もためらうことなくうなずいた。
 数十メートルもの土の中に埋もれながら、その空間では不思議な開放感があった。もっとも、実際のところはテロ対策の監視カメラが死角なく設置されているため、今の会話も捉えられているはずなのだが。

(でも……今日みたいな日の記録は消されちゃうのかな?)

 何しろ国家の交渉のために、開業前の民営路線を間借りしようという、ある意味ではとんでもない横紙破りである。

「わ~、すごいね、コー(にぃ)
「確かに……すごいな」

 その不思議なほど高い天井。地下鉄のようなホームを想像していた川野コウには意外である。

 だが、リニア中央新幹線品川駅のホームが見せる異様はそれだけではない。

 ホームといってもホームドアの類が存在しない。
 そして、左右に並んで停車する16両編成のリニア中央新幹線は、うっすらと黄金色の輝きを放つイリジウムコーティング隔離壁の向こうに巨体を横たえており、各車両の扉にあたる位置には空港のボーティングブリッジのような移動接合式ゲートが存在している。

(これは……たぶん、電波対策なのかな?)

 イリジウムコーティングの隔離壁へおそるおそる手をふれてみる。
 ひんやりとした感触を想像していたものの、温度的な違和感はほとんどない。これはその熱伝導性もさることながら、隔離壁とその向こうの走行空間が、ホームと近い温度に保たれていることを意味している。

「コー(にぃ)、これ何キロで走るんだっけ」
「確か……時速500kmだっけ」
「ふーん、あんまし速くないんだね。上海にもリニアってあったけど、そのくらい出たような━━」
「400kmです!」
「上海トランスラピッドは400kmだ!」
「わー!?」

 キノエにしてみれば、おぼろげな記憶からの呟きだったのだろう。
 だが、それは決して見過ごすことのできない神への冒涜である!━━とでも言うように、道志駅員とキミズ叔父は後方からものすごいスピードで接近すると、口々に言い放った。

『400kmと500kmでは125パーセントもの差があります!』
「ええ……で、でもそれって大して変わらないってことじゃ……」
「バカを言うな、キノエちゃん! 10分が8分以下に! 10時間が7時間台になるんだぞ!」
「だ、だけど、叔父さん、そのくらい余裕をもって移動すればいいじゃ……」
『しかも上海トランスラピッドは、ただの永久磁石と電磁石を使った常電導ですが、リニア中央新幹線は超電導!』
「技術としてのモノがまるで違う!!」
「は、はあ……」
「『わかったら謝りなさい! リニア中央新幹線に謝りなさい!』」
「は、はい」

 理由はまったくわからないが、とにかくひどく怒っているらしい中年2人を前にして、さすがのキノエも自分を押し通すことはできず。

「す、すいません……りにあちゅーおー新幹線……さん? もーしわけありませんでした……」
「謝ればよし!」
『編成NX0005さんはお許し下さいましたよ!』
「ど、どーもありがとうございます……ううう、意味わかんない……」

 キノエは深々と頭を下げさせられただけで、ひどく精神的に打撃を負ったらしく、ふらふらとよろめくようにコウの肩にもたれかかってきた。

「コー(にぃ)もリニアさんをバカにしたらこーなるよー」
「お前はいろいろ失礼すぎるんだよ」

 いい気味だ、とまでは言わなかったが、どこか溜飲を下げた思いでコウがため息をついていると、ホームの奥から1人の男性が歩いてきた。
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