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妄想少女 ガラシャさん 作者:天浮橋
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◆マサイの戦士

◆マサイの戦士

8月2日 曇

火災報知器がけたたましく鳴り響く中、あたしは煙に巻かれ逃げ遅れていた。
目の前は、モウモウとした煙で全く視界がきかない。
時々あちらこちらから、真っ赤な炎が見え隠れしている。

もう助からない。 これはどの時代でも、細川ガラシャの運命なのだろうか。
どうせなら、岩清水さんともう一度楽しいひと時を過ごしたかったなぁ・・・
涙がスゥーっと頬を伝わり流れた。

そこでハッと目が覚める。
枕が涙で濡れている。
いや、間違え。 涙にしては濡れている位置がマクラのずいぶん下の方なのでヨダレかな・・うん、ヨダレだろう。

火災報知器だと思ったのは、一度では起きないあたしへの、目覚まし時計どもの一斉報復攻撃だった。

岩清水さんは、どうやらお金持ちのお嬢様らしい。
あたしが遊びに行くには、いろいろとお家の都合もあって、自分の自由にはならないって事なのだろう。

きっとピアノ以外にも、いろいろな習い事があって、本人の自由になる時間が少ないに違いない。

ボォ~とする頭をスッキリさせたくて、滅多に飲まない紙パックに入ったアイスコーヒーをコップに半分ほど注ぎ、牛乳で割って飲んだ。
30分ほどソファにかけて、朝のニュースなどを眺めていると徐々に頭が冴えてる。

学校以外で岩清水さんが、あたしと一緒の時間を過ごせる確立はいったいどれくらいあるのだろう。
あたしと岩清水さんの楽しい時間を増やすために、何かできる事が無いか、よく考えてみよう。

11時を過ぎていたので、あたしは外出着に着替えてからトモちゃん(携帯)と昨日パパに書いてもらった携帯電話の機種変更で必要になる委任状をポシェットに仕舞って家を出た。
今日は曇っているのに蒸し暑い。 少し歩いただけで、じっとり汗をかいている。
Do○oMoショップは、まだまだ遠い。
あたしは汗を引かせるために、いったん涼しい場所に避難する事にした。

どこかに涼げな良いお店はないかと、辺をキョロキョロしていると、なんと通りの反対側をトコトコと歩いている小学生・・じゃなかった、岩清水さんを発見した。

「おお~い。 岩清水さぁ~ん!」
あたしは通りを行き交うクルマの音にも負けないくらいの大声と、もうこれ以上は振れないと言う限界まで両手を振りながら、ピョンピョンと飛び跳ねて岩清水さんを呼んだ。
傍から見たら、まるでマサイの戦士かと思われたに違いない。

恥ずかしさを我慢して何回も飛び跳ねた甲斐があって、岩清水さんも気が付き、手を振って答えてくれた。
運が悪いのは生まれつきで、道路の中央分離帯の柵が邪魔になり、通りの反対側に行くのには、いい加減先の歩道橋を渡らなければならなかった。
あたしは、一刻も早く岩清水さんと話がしたくて、生まれてから16年間の中ではおそらく一番の猛ダッシュで歩道橋を一気に駆け上がり、反対側の歩道を岩清水さん目掛け突進した。
おかげで、あたしは滝汗を掻いて、まるで洋服のままプールに落ちたドジ女みたいになっていた。
いや、むしろ溺死体とか妖怪濡れ女とでも行った方が適切な表現かも知れない。

ゼイ ゼイ ハァ ハァ
しゃべりたくても息が上がって言葉が出ない。
岩清水さんがレースのハンカチをそっと差し出してくれたのだけれど、あまりに高級そうなので自分のハンカチを使う。
汗を拭いてて気がついたのだけれどハンカチには、あたしが楽しみに録画して見ていた深夜アニメのヒロインが、でかでかとプリントされていた。
さらに余計な汗が吹き出てしまった。

「昨日は電話できないで、ごめんね。 ピアノのレッスンが遅くまでかかってしまって」
あたしが、夏バテした大型犬のように、ハァハァしているので、岩清水さんが先に話し出した。
「あっ、いや。 あたしの方こそ、ごめん。 なんか行き違いばっかりで・・」
クスッ
「ほんとだね。 さっきも細川さん家の電話にメッセージを入れてから出てきたんだよ」
「えっ、そうなんだぁ」
『ちぇ~っ、本当にいつもタイミングが悪いなぁ・・』

「うん。 それでね、今日もこれから用事ができちゃって・・」
「そっか。 でもここで会えてよかったよ。 これからトモちゃんじゃなかった、携帯を新しいのに換えに行くんだ。 メアドや電話番号は引き継ぐから、よかったらまたメールちょうだいね」
「うん。 そうするね」

岩清水さんは、にっこり笑って、あたしに手を振りながらトコトコ歩き始めた。
「あのっ! ・・・夏休み中に、また遊べるよね?」
もう、これっきりになってしまいそうで、あたしは岩清水さんの後ろ姿に追いすがるように必死に声をかけた。

「うん。 予定を確認したら必ずメールするね~」
やばい。 泣きそうになってるかも。
あたしは、無理やり笑顔を作って、ひらひらと手を振りながら、あたしのあ○にゃんを見送った。
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