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三分間憎悪 ~時を止める青年の主張~   作者: 川内重信
第二章 いくらどんなに切ない夜も
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2-4. 縫いなおしてもう一度始める回

いままでのあらすじ

・私(川内)はなんやかんやで白岡(直情径行)の主宰する結社に参加することに。

・そんな折、幼馴染のヒロミ(もう一人の能力者)が東京から引っ越してくるという。

・ヒロミ(バカっぽい)とは過去の色々でわだかまりがある。

●■■■● ●● ■■● ●■■●■ ■■●● ●●● ●■


「あ、シゲシゲ! シゲシゲだよね? わっ、本当に大きくなってる。てか、本当に迎えに来てくれたんだ、Guratche, guratche !」


 その日の夕方、松山空港。朝から降り続く雨は未だ止んでいない。なんでも昨日は夜まで人に会う用事があったとかで、両親から一日遅れでやってきたという。こちらも振替休日なので、ちょうどよかった。


 ヒロミが驚くように身長は私の方が伸びたかもしれないが、久々にあった彼女は確かに成長していて、外見は大人びた印象を与えた。けれども、手を振りながらこちらへ近づいてくる彼女の無邪気な笑顔は記憶の中の彼女そのままであった。あと、この髪型は私でもわかる、「ショートカット」ってやつだ。


 大都市圏にしか住んだことのない方も多いであろう読者の皆様に、松山という町がどのように思われているか分からないが、千代田区の十倍を超える人口を擁する大都会(*1)である。スタバが10年以上前からあるし、そこで妙な呪文を唱えても、誰かに見られてはやし立てられるなんてことはない。そんな松山にあって、特に賞賛すべき点はその空港の近さである。ヒロミの新居はその空港の近くにあるというので、荷物をそこへ運びこむ。


「何か買いたいものはある?」

「あ、そうだ……じゃこ天食べたい、ほら、松山といえばじゃこ天的な?」


 いや、新生活で必要な、何かという意味で聞いたんだけどなあ。まあ、諸々の手配はおばさんがぬかりなくやっているんだろうし、実は足りなかった一品なんて言うのは後から気づくものなんだろう。じゃこ天というと、松山駅前のおばちゃんを想起される方もいらっしゃるかもしれないが、松山駅というのは町の外れのさびしいところにある。



 バスで真の中心地である松山市駅に到着した後、銀天街という商店街のアーケード内の店でじゃこ天を買う。その後、ドトールに入った。もう少し洒落た店でとも思ったが、ヒロミが推した。


 ヒロミは甘そうなパンをカフェオレと一緒に買っていた。食べ終わったのを見計らって声をかける。


「ヒロミ、ずっと言わなきゃと思っていたんだけど」

「あの時、俺は本当にひどいことを言ってしまった。今から言ったってもう仕方のないことだろうけれど、それでも言わせてほしい。本当にすまなかった」


 そういって、私は頭を下げた。


「そうじゃないんだよ」


 いつもより大きな、でも低い声にドキリとする。周囲の雑音が耳に入らなくなり、完全な静寂が訪れたかのように錯覚する。


 そりゃあ彼女の言うとおりだ。今更誤ったところで過ぎたことは過ぎたことだ。後から郵便局に通ったところでもはや手遅れだ。


「そうじゃないんだよ」


 ヒロミは同じ言葉をもう一度繰り返した。しかし、そのまとった空気は随分と異なる印象を与えるものだった。さながら冬の日本海から春の瀬戸内海に移ったかのようだ。


「私、あの時のことは何とも思ってないよ」


 ヒロミは一転して笑顔を見せる。私の感覚は間違っていなかったようだ。けれどその声は、電話で話した時のような微かな愁いを帯びていた。ヒロミは続ける。


「もしあたしが怒ることがあるとすれば、それはあの後のシゲシゲかな。いくらどんなに切ない夜も 、シゲシゲとまた会うことを考えたから乗り越えられた。でも本当は、怖かった。もう二度とシゲシゲと昔みたいに話せないんじゃないかって」

「そう……」


 私が二の句を継ぐ前にヒロミは続けた。


「だからさ、いますっごく嬉しい。話してて思ったけど、シゲシゲ、変わってないじゃん? あたしも、変わってないからさ」

「そりゃ俺も嬉しいけど」


 私が喋り切る前にまたしてもヒロミが言葉を並べる。


「あたしたち、まだ高校二年生じゃん? これから、だよ。二度目の人生を始めるんだよ」


 今度の笑顔は私の記憶にある幼いころの姿とほとんど見分けがつかず、またしても私はドキリとする。『まだ高校二年生』、彼女はそう言った。


「これから、か」


 もう一度生まれてもう一度死ぬのも悪くないかもしれない。


「そう、これからこれから。そうだ! 将来への投資ということで今日は、シゲシゲのおごりで」


 おごるのはいい、むしろ積極的にやらせてください、とすら思う。しかし、一般におごるというのは伝票を店員に渡して(席で会計するタイプの店だとなおよいです)、できれば諭吉を取り出して、まとめて支払うのがスマートなやり方ではないだろうか。ところが、ここはドトールだ。既に会計は済ませている。小銭をジャラジャラとやり取りして「おごる」ってちょっとそれは違うのではないだろうか。



 銀天街をあちこちウィンドウショッピングで冷やかした後、バス停のある駅前まで引き返す。


「ほんと、一週間前には信じられなかったな、こうやってシゲシゲと歩いているなんて」


 ヒロミはスキップでもしそうな勢いである。


「ああ、本当にご……」


 ヒロミに発言を遮られる。自分でもいいながら「しまった」と思っていた。


「だーかーら、そういうこと言わない! なんかさ、運命感じない?」

 まさか、ヒロミも白岡化してしまったのだろうか。

「ヒロミも分かってると思うけど、俺が松山に移ったのは能力が……」


 能力がゆえに引き合わされたというのはヒロミに分からないはずがなかった。そもそも、私と彼女が幼馴染になったのもヒロミが転校してきたからである。別に水をかけたりお湯をかけたりするとどうこうする体質の人が練馬区に多いわけではない。


「それも含めて運命なんだって。あたしたちを出会わせるように神様が能力を授けたんだよ」


 運命というのをそういう風に定義すれば確かにそうだ、としか言いようがない(*2)。


「まあそういう考え方もあるかもな」

「うんうん、そう考えた方が楽しいじゃん」


 そういったヒロミは、満面の笑みをそのままにこう言うのだ。


「あたし、シゲシゲの味方だから。これまでも、これからも。全部ちゃんと知っているから」


 ヒロミの『全部ちゃんと』の意味を考えて、返す句が思いつない。そうこうしているうちにバス停に到着してしまう。


「ここでいいよ。今日はありがと」

「ああ、今日は俺も楽しかった」


 ヒロミは道路を背にしてこちらに向き直る。


「あたしさ、高校デビュー?っていうのも違うのかな、とにかく新しい高校で頑張ろうと思うんだ」

「何だよ、それ」


 その時、ヒロミの家の最寄りに至る系統のバスがバス停に進入した。整理券(*3)をとりながら、ヒロミがこちらを振り返る。


「嘘、つきたくないからさ」


 嘘をつかない人間、そんなのがいるわけがない、いたらインディアンもビックリ だ。まったく、こういう発言をするからバカっぽいとかインターネットに書かれるんだ。


■ ■●■●■ ■■●■● ●●■■ ■ ●●●


〈註〉

*1 大都会: 松山の発展ぶりとポテンシャルの高さを知るには、例えば以下のブログを参照されたい。「松山を首府に四国府を創設 四国統合再編 大阪都構想に倣って」『しまひとみ』(2015年6月23日)

http://shimahitomi.blog.enjoy.jp/newscaster/dousyuusei_shikokusyuu_syuuto_matsuyama.html

*2 運命というのを……: 実のところ、形式的には私もヒロミのこの見解に賛同する。ただし、以下の二点で解釈に相違があるため、実質的な理解は大きく異なっていると言えるだろう。第一に、能力を有するかどうかとどういう人間であるかは不可分である。会うために能力を授かったということは一応できるけれども、能力を授からない場合とは別の人間なのだから、あまり意味のある議論ではないように思われる。能力なんてなければ、私も註釈でネチネチと議論を展開するような陰湿な人間にはならず、もっと清く正しく美しく生きていたはずである。第二に、これを運命と定義するならば、運命はもっと遍く存在しているはずである。私が先ごろ自転車を運転しているときにぶつかった蠅に関しても、ほかのどの蠅でもなくあの蠅にぶつかったのは運命だ、と主張しなくてはアンフェアというものであろう。

*3 整理券: 四国ではそんな旧時代の料金支払い手段が用いられているのか、とバカにされる読者もいるかもしれないがそれは見当違いである。松山にもICカードはある。しかも、2005年使用開始でPASMOより歴史がある。それどころか、モバイル版はSuicaより早く全国初である。この場面においては、引っ越したばかりのヒロミがまだカードを持っていなかったというだけの話である。

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