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第二十話:防衛戦

「全員、所定の位置につけ!!」


 朝早くから帝国の襲撃がはじまっていた。

 監視のために各方面へと配置していたエルフたちがけたたましい見張り台の鐘を叩き音を鳴らして、エルシエの民を叩き起こす。

 エルフも火狐も、おのおのが決められた配置へと急いで駆けつけていく。


 帝国は兵力を集中させるのではなく、分散させ全方位から同時攻撃を実施するようだ。


 エルシエの防衛は外壁に登って行われる。外壁の内側にはきちんと足場を用意してある。さらに、有線の通信機が取り付けられているので、全方面への連絡が可能だ。……とは言っても、とりつけた通信機は原理は糸電話と同じ程度の原始的なものだ。

 俺はもっとも攻撃が苛烈な南方面に陣取りながら、各方面に指示を出していた。

 残りの、東、西、北方面にはそれぞれ指揮者を置き、俺の通信機での指示に従い、その方面の民たちに指示を出している。

 帝国がクロスボウの射程である一五〇メートルほどまで近づいたころ、ようやくエルシエ側も迎撃準備が整った。


「全員、十分に惹きつけて撃て。俺が許可するまで手榴弾の使用は禁止。矢での攻撃に専念しろ!}


 俺の命令に従い、各方面のエルフたちが、外壁に迫ってくる帝国兵たちに各自クロスボウで高台から狙撃している。

 今は全員風の魔術を使用している。

 アシュノはマナの支配を奪えるのは、効果範囲は三〇〇メートル程度。全方面には対処できない。なので、必要以上に控える意味が無い。


 念のため、今回の戦いでは、手榴弾及び、クラスター爆弾の使用は俺が許可を出すまで禁止にしている。

 もし、アシュノが飛び出してきてクラスター爆弾や手榴弾を風で跳ね返し、壁の中で爆発するようなことになれば洒落にならない被害がでてしまうからだ。

 もし、風の魔術への干渉が確認できれば、即座に通信機を使って俺に連絡をするように全方面へと指示を出している。その時点でアシュノがそこに居ることがわかる。

 そうなれば俺が駆けつける。彼女を止められるとしたら俺だけだ。


 ……そして俺がアシュノと戦っている間だけは手榴弾の使用が解禁されることになっている。そうなれば全力で手榴弾などを用いた殲滅戦を行うのだ。


「さあ、みんな気合をいれて行くぞ!」

「「「おう」」」


 エルシエに押し寄せてくる帝国兵の先頭集団が爆風に吹き飛ばされ、悲鳴をあげる。地雷を踏み抜いたのだ。

 無数の地雷が外壁から少し離れたところを中心に埋まっている。

 突進を躊躇してくれればありがたいが、残念なことに被害を出しながらも、帝国兵たちは進軍してきている。

 まったく、大した度胸だ。だが、その蛮勇故に無数の被害が出ている。


「撃て、撃ちまくれ」


 高所からの狙撃というのは、圧倒的に優位だ。

 ましてや、今回の外壁はクロスボウの射線に穴をあけているので、壁の後ろから射撃出る。 

 さらに、風のマナを使用して吹き下ろしの風を吹かせているので、壁まで敵の攻撃がとどかず、壁の外からの攻撃はほとんど意味を成さない。


「シリル様、次の弓です」

「ありがとう」


 俺は、エルフの男の子からクロスボウを受け取る。

 今回は総力戦だ。

 筋力不足で、クロスボウを引けない子どもたちにも、非力なものでもクロスボウをセットできるようにするための手回し式の補助具を配布し、ひたすら予備のクロスボウに矢をセットする仕事をしてもらっている。

 他にも伝令や、食事の準備、さまざまに仕事を割り振った。

 そうすることで、誰もが戦いに協力できるようにしているのだ。

 人数の少ないエルシエでは、民全員の力を借りなければあっという間に押し潰される。


 矢を引く時間が節約できるエルフたちは次々にクロスボウを放っていく。

 地雷で数を減らし、さらに浴びせるように矢を放つことで一方的にダメージを与えることができている。

 ……だが、それでも数の差がありすぎる。しだいに帝国兵に距離を詰められてしまっていた。


 帝国兵が数十人で、先端が尖った巨大な丸太を載せた台車を押しながら突っ込んできた。


 破城槌だ。エルフたちは優先して台車を押す兵士たち狙うが、努力も虚しく。破城槌がエルシエの外壁に突き刺さる。 

 しかし……。


「大砲を想定して作った外壁だ。これぐらいじゃびくともしない」


 壁に突っ込んだ破城槌のほうが逆に砕けた。

 エルシエの外壁は高さは4メートルほどとかなり控えめだが、厚さが10メートルあるうえに、火狐たちの力で焼き固めてある。

 この程度の攻撃ではびくともしない。


 門の部分は若干強度が劣るが、そこも巨大な鉄板の中央にショックを吸収する柔らかい粘土の層をつくる頑強な門なので、まず貫けないだろう。


 俺の居る南方面以外にも各所から報告があがっているが、どこも同じような攻め方をされているが、問題なく防げているらしい。

 丸太での外壁の破壊を諦めた帝国兵たちは、今度は巨大な木製のハシゴを持って突撃してくる。

 確かに、4メートルほどの外壁であればハシゴさえあれば簡単によじ登れるだろう。


「そろそろ出番だ。いいな皆」

「シリルくん、火狐一同準備はできていますよ」


 弓の装填役に混じって、弓をセットしていたクウをはじめとする火狐たちが声をあげる。

 彼女たちの役割は三つ、一つ目はエルフの射撃の回転数をあげるために矢をセットし続けること。

 ニつ目は切り札の起動。これはまだはやい。

 そして三つ目は張り付く敵の排除だ。


「【狐火】!!」


 火狐が数人がかりで炎の魔術を起動する。

 火狐たちは対象が射程内であれば、目視さえできれば魔術を起動できる。クロスボウの射線を確保するための穴から帝国兵を覗き込み、壁に隠れたまま魔術を起動させたのだ。


 ハシゴが勢い良く燃え始め、登り始めていた帝国兵たちが落下していく。

 近距離の的に対処するには火狐の力のほうがてっとり速い。


 風でハシゴを倒す手段もあるが、数人がかりで抑えられると質量をもたない風だとこちらの消耗も大きいし、何よりも燃やしてしまい再利用を防ぎたい。

 戦場が膠着する。

 いや、じりじりと押されてきてしまっている。

 向こうの物量に耐え切れなくなってきているのだ。矢を放つエルフたちにも、壁に張り付いた敵を燃やす火狐たちにも疲れが見え始めた。

 矢の残量にだって限りはある。


「全員、今は耐えろ。切り札はまだ使うな!」


 俺は通信機で、全方面に指示を出す。

 一つ、この状況を覆すものを用意している。今すぐ使いたい誘惑に必死に耐える。

 もっと、致命的なタイミングで使わないといけない。


 ◇


 時間が過ぎていく。開戦から三時間はたっただろう。

 皆の集中力が落ちてきていた。

 エルシエ側に限界が見えてきた。

 矢を放つエルフの命中精度は落ち、火狐たちも炎の魔術を放つときに脂汗を浮かべている。矢を装填し続けてた、非力なものたちも手が震え、必死にがんばってくれているが、明らかにペースダウン。

 だが、帝国の勢いが止む気配がない。

 外壁にいくつものハシゴが立てかけられ、火狐たちの処理が追いつかなくなった。

 あと少しで攻略できると、帝国兵が勢いづき、どんどんと兵力を投入してくる。この瞬間、今日もっとも外壁周辺に帝国兵が多くなった。

 絶対絶命。だが、チャンスでもある。

 ……俺たちは、このときを待っていた!


「切り札を使う、担当者は準備を急げ!」

「北方面いつでもいいの。ユキノ、がんばる」

「東方面も、大丈夫。クロたち、いつでもいけるのー」

「シリル兄様。西方面も準備出来ています。いつでもどうぞ」


 電話を使い、全方面に切り札の使用許可をだす。

 各方面の火狐をまとめる、ユキノ、クロネ、ケミンから返事が帰ってきた。

 俺のいる南方面も、クウをはじめとした火狐たちが、せわしなく動き始める。

 火狐たちが外壁からおりて地面に手をあてる。

 さあ、これで準備は整った。


「カウントダウンを開始する。俺の合図で一斉に例の魔術を使用しろ。……3、2、1。起動!!」


 俺が号令を出すと、地響きが聞こえ始めた。

 そう、予め外壁の周囲三メートルを十メートルかなりの深さまで掘っておき、地表を固めていた。


 十メートルの厚さを誇る外壁を高く積み上げるのは難しい。

 なら逆転の発送で周囲のほうを掘ってしまえば高い壁を作るのと同じ効果がある。


 幸い、火狐たちは火の魔術の次に土魔術が得意だ。短期間のうちにこれだけ大規模な穴を掘ることができた。


 そして、その穴を見て考えた。

 これは防御力をあげるだけではなく、罠として使用できるのではないかと。

 そのために、穴の上に土を盛り。しっかりと焼き固めて、火狐総出で土魔術を使わないと崩れないほどの強度をもたせた。

 もっとも致命的なタイミングで、帝国兵に最大限のダメージを与えるためだ。

 生半可な負荷で壊れてしまっては困る。

 そしてついに、地面が割れた。

 帝国兵たちが次々と地中に吸い込まれている。


「シリル、大成功だね」


 俺の隣で矢を放っていたルシエが、安堵の息をもらしながら言った。

 俺は微笑み返す。


「そうだな。作戦ははまった」

「これだけ、ひどい状態になれば、帝国の人も引き上げてくれるかな?」


 ルシエの言うとおり、壁に張り付いてた兵士たちはハシゴごと落とし穴に落ちていて、多数のものは即死。生き残ったものも重症を追っている。


 さらに、落とし穴に落ちなかったものも、中の惨状に加え、あと少しで攻略できると思っていたのに、振り出しに戻ったどころか、難易度があがって呆然としていた。


 おそらく、これで今日は引き上げてくれるだろう。

 兵士たちの士気が壊滅的なうえに、まだ生きている兵士たちの救助が必要だ。

 気になるとすれば、まったくアシュノの動きがないこと。

 何か良からぬことを考えいなければいいが……


「帝国の人たち、撤退していくね」

「そうだな……各員、各々に狙撃。必中距離の外にいる敵は放置しろ! 深追いはするな! 矢の数にも限りがある」


 そして、逃げる兵たちを追打ちしながら、今日の戦いは終わった。

 俺は長い息を吐いた。


「全方面、見張りの兵を除いて撤収して体を休めろ。予定通り、六時間を目安に交代だ」


 長い初日が終わった。

 籠城戦はまだはじまったばかりだ。

 明日以降は、こちらの守り方を学習した帝国は、数と勢いに任せた力押しはしない。何かしらの絡めてで来るだろう。まだまだ気が抜けない。


 そして何より、まったく姿を見せないアシュノの存在が不気味で仕方がなかった。

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