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エルフ転生からのチート建国記  作者: 月夜 涙(るい)
第四章:商業都市からの使者
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エピローグ:結婚式

 珍しく俺は時間を持て余していた。

 村長宅の一室で一人になって出番が来るのを待っている。


 ルシエとクウは別室で待機しているし、長代理のクラオは会場で準備をしてくれていて、ユキノは数人の火狐と共に今日の料理を仕上げてくれていた。


 昨日の夜に徹夜で料理の仕込は終わらせていたが、作り立ての美味しさを出すために仕上げは任せてある。ユキノにはうちに来てから暇さえあれば料理を指導したので、レシピさえあれば彼女に任せて問題ない。


「俺は、いい長だったのかな」


 たまに自問自答する。

 エルシエは強く豊かになった。だが、俺がいい長だったのかは話が別だ。

 俺にとっての理想の長は父だ。


 父はかつて、いい長の条件とは民に夢を見せること。一人一人がこの人についていけば、明日はもっと幸せになれると信じられると思えること。そんな長になれと俺に言った。


 俺はそこを目指して来た。だけど、エルシエのみんなは本当に俺についてくれば幸せになれると思ってくれているのか不安になることがある。

 そして、


「俺はいい夫になれるのか」


 最高の嫁を二人も手に入れる。

 俺はその二人に見合う男なのだろうか?


 ルシエとクウのことを心の底から愛している。だけど、どう言い繕っても二股をかけていることに変わりはない。


 彼女たちだって本音を言えば、自分だけを愛して欲しいだろう。

 でも、俺は二人とも欲しかった。誰にも渡したくなかった。彼女たちに他の男が触れることが我慢できない。


 俺は自分の判断を後悔していない。

 だからせめて全力で幸せにするしかない。そして、これ以上二人を裏切るようなことをしない。それが俺の義務だ。


「シリル兄様、結婚式がはじまる。来て」


 妹分である銀色の火狐ユキノが部屋に入ってきた。


 相変わらずのメイド服に、今日だけのお洒落な髪飾りをつけている。それに今朝会ったときよりも尻尾の毛先が整っている。ブラッシングして来たのだろう。


「料理はきちんと仕上がっているかい?」

「うん、シリル兄様に教えてもらった通りにきちんとできた」


 まだ薄い胸を張って誇らしげにユキノは言った。


「さすがユキノだ。今日のユキノはいつもより可愛いね。髪飾りがよく似合っているよ」

「この髪飾りはお気に入り、クウ姉様が渡してくれた。お母さんの形見。大事なときだけつけることにしてる」


 それをつけてくれたということは俺とルシエとクウの結婚式をよほど大事に思ってくれているのだろう。


「ルシエとクウは?」

「ケミンとクロネが呼びに行ってる。シリル兄様のところにはユキノが来たかったから譲ってもらった」

「そうなんだ。ユキノありがとう。二人には秘密だけどね。俺もユキノが来てくれたほうがうれしいよ」


 どうしても三人の中でユキノを贔屓してしまう。一緒に居る時間が長いので情がわいている。


 いや、違うな。俺にくっついて料理や家事を必死に覚えたり、イラクサの訓練やクウの稽古を頑張っているユキノを見たことで、どんどんユキノを応援したくなっている。彼女みたいな頑張り屋が純粋に好きだ。


「シリル兄様、ケミンとクロネに言ったら落ち込むからユキノは絶対に言わない。シリル兄様とユキノだけの二人だけの秘密」


 二人だけの秘密と言ったとき、ユキノは上機嫌に尻尾をぱたぱたと振った。時折見せる、こういう子供らしいところも愛おしく思う。


「行こうか。あんまりみんなを待たせると悪いし」


 会場のエルフや火狐たちは、おなかを空かせて今か今かと結婚式のはじまりを待っているだろう。


 俺は立ち上がり、歩き出す。

 すると、ユキノが後ろから抱きついてきた。


「どうしたんだユキノ? 抱きつかれたら歩きにくいよ」

「ごめんなさい。シリル兄様。自分でもわからないの。気がついたらこうしてた」


 後ろから回してくるユキノの手が震えていた。


「シリル兄様が遠くに行っちゃう気がして、寂しくて、悲しくて、体が勝手に動いた」

「きっとね、ユキノは無意識のうちに俺が結婚したら、構ってくれなくなるんじゃないかって思っているんだよ。心配しないで結婚してからも、今まで通りユキノとは接するから」

「シリル兄様、ちがっ……ううん、なんでもない。シリル兄様引き留めてごめんなさい」


 ユキノの手がゆっくりと離れていく。ユキノの可愛らしいわがままに俺は頬をほころばしていた。


「気にしないで良いさ。そういうふうに甘えてくれると兄として嬉しいよ。でも、甘えてばかりも居られないかもね。ユキノにだけは教えるんだけどね。新しい家族が増えるんだ」


 クウの話を聞いてから、一週間に一度俺はクウの体を調べていた。そして、先週ようやく妊娠していると確証がとれた。妊娠一カ月といったところだ。


 本人に伝えてあり、そのときクウは口を押さえてポロポロと涙を流しながら、良かったと繰り返した。


「新しい家族?」

「まだ誰にも言ったらダメだよ。クウが俺の子を宿してる」

「すごい! クウ姉様の子供! 新しい火狐が生まれる!」


 火狐たちはせっかく火狐の村のみんなのおかげでエルシエに逃げてきたのに、血を絶やしてしまうことをずっと恐れていた。


 新しい命、それも族長のクウの子供というのは非常に喜ばしいことだ。


「だけど、俺はどうしても留守にしないといけない。だから、ユキノにお願いがあるんだ。クウを守ってあげてくれ」

「うん、頑張る。絶対にクウ姉様を守る。帝国兵が来ても、勇者が来ても、ユキノの命に代えても守ってみせる」


 それだけの気構えがあれば安心だ。

 実際に命をかけてもらう必要はないが。


「ありがとう。お姉ちゃん」

「お姉ちゃん?」

「そう、ユキノには子供の面倒も見て欲しいんだ。産まれてくる子供のお姉ちゃんになってくれないか。ユキノなら安心して任せられる」

「任せてシリル兄様。クウ姉様の子供、一流の火狐の戦士に育てあげる。クウ姉様のやり方じゃ温いから、レラ式で徹底的にやる」

「……それはまだ気が早いかな?」


 クウが妊娠したかもしれないとわかってから、ユキノの訓練はクウの師匠のレラに頼むようになった。


 クウの訓練も相当スパルタだったが、それを温いと言わせるレラの訓練っていったいなんだろうか。


「気を取り直して行こうか」

「うん、シリル兄様」


 ユキノが手を伸ばしてくる。俺はそれを取り握りしめた。そして、ユキノが俺を引っ張って歩き出した。


 ◇


 村長宅の出口でウェディングドレスを着たルシエとクウが待っていてくれた。


 珍しく二人とも薄化粧をしている。そして何より、


「二人ともすごく綺麗だ」


 純白のシルクのドレスを着た二人は非常に美しかった。

 ドレス自体は非常にシンプルで、飾り付けも最低限に押さえられている。だが、シンプルさ故に仕事のきめ細かさ、使われた最高級の絹のすばらしさ、何よりそれを着る二人の魅力が引き立てられている。


 きっと、服単体でみればもっといいドレスはあるだろう。だが、ここまでルシエとクウが着たときに美しいドレスはこの世にない。


 今更ながら、エリンの服屋の店主の腕には驚かされる。


「シリルもカッコいいよ。その服、エルフの村に伝わる礼服だよね」

「よくお似合いです。でも、どうしてシリルくんは、エリンで服を仕立てなかったんですか?」


 クウの質問もある意味当然だ。

 俺が着ている先祖伝来の服は、俺もわからない不思議な素材で出来ているので劣化はしない。それでも派手さにかけるところはある。エリンで仕立てたほうが、結婚式には良かったと思う。


 それでも、この服を結婚式に着ようと思ったのは、金貨をケチったわけじゃない。


「俺の父、前々代のエルフの長は結婚式のときにはじめて、この服を着て言ったんだ。『俺が長になったからには、妻も幸せにするけど、おまえ等も全員幸せにする』って。俺は母からこの惚気話を毎日のように聞かされて育った。だから、俺は子供の頃から夢だったんだよ。結婚式にこの服を着て、みんな幸せにするって言うのが」


 一度は諦めた子供の頃からの夢。


「シリルってやっぱりロマンチストだね」

「でも、私はシリルくんのそういうところが好きです」


 ルシエとクウが微笑ましそうな目で俺を見て笑った。


「式が始まる前に言っておきたいことがあるんだ。ルシエ、俺を見捨てないでくれてありがとう」


 すべてを諦めていた頃、俺はクズだった。何もせずただ流されているだけ。

 そんなダメ男、普通ならとっくに見限って当然だ。ルシエだけが俺を信じていてくれた。


 だから、立ち上がることが出来た。その延長に今のエルシエがある。

 それだけじゃない。諦めようとしたときは、いつもルシエが背中を押してくれた。


「クウ、二番目に好きだなんて言ったのにそばに居てくれてありがとう。こんな不誠実な男を好きになってくれてありがとう」


 俺の一番はルシエだ。クウが俺のことを好きと言ったとき、俺がルシエが一番好きだけど、クウのことも好きだから、他の男にとられたくないから傍に居てくれと言った。

 クウはそんな俺を愛してくれると言って受け入れてくれた。

 そのことに俺は感謝している。

 

 エルシエの運営も、家族や友達を失って辛い中ずっと、前向きに頑張って俺を支えてくれた。彼女が居なければ二度目の戦いは勝てなかっただろう。


 ルシエとクウ、二人とも最高の俺の嫁だ。


「シリル、私もありがとう。私が好きなシリルで居てくれてありがとう。お婿さんがシリルだから私は世界で一番幸せなお嫁さんになれるよ」

「私もです。こんなめんどくさい女の子をもらってくれるのはシリルくんぐらいです。シリルくんには私自身も、火狐の皆も数えきれないぐらいたくさん助けてもらって感謝しています。シリルくんが居なかったら、お父さん達が命がけで戦った意味も分からなかったし、兄様たちの仇うちもできなかった」


 俺たち三人は、自然に抱き合った。

 柔らかな抱擁だ。それだけで自然と心が満たされる。


 ◇


 村長宅の扉から出て広場を目指す。

 広場には、エルシエの民衆の他にエリンから着たお嬢様のアスールに男性服を来たじい、ベル・エルシエから五大長が来ていた。


 民衆の真ん中に道が開いており、そこに赤い布が敷き詰められている。俺たちは、ユキノ、ケミン、クロネの三人にそれぞれ手を引かれて歩く。


 両サイドからおめでとうという叫び声と拍手の音が鳴り響く。


 そして一段高い舞台にたどり着く、そこでユキノ、ケミン、クロネは手を離し、俺とルシエとクウだけが舞台にあがる。俺が真ん中で三人で横一列になった。


 その途端、声と拍手が止んだ。

 舞台には、仕立てのいい服を着たクラオが居た。


「今日ここで、世界樹の祝福のもと挙式を行います」


 エルフに伝わる婚礼の祝詞。


「新郎、シリルよ。逆風が吹き荒れようと、飢えや病に蝕まれようと、ルシエ、クウの両名を愛し、共にあることを誓うか?」

「誓う」


 俺は頷く。どんなときだろうと二人の手を離さない。

 その気持ちは絶対に変わらない。


「新婦、ルシエ、クウよ。逆風が吹き荒れようと、飢えや病に蝕まれようと、シリルを愛し、共にあることを誓うか?


「誓うよ」

「誓います」


 ルシエとクウも俺と同じ気持ちで誓ってくれた。


「それでは誓いの口づけを」


 俺はまずルシエとキスをしてから、クウとキスをした。

 唇の感触が違うのだなと、そんなことが頭に浮かぶ。


「これにて誓約は結ばれた。三人が末永く幸せであることを祈る」


 クラオの言葉で誓いは終わり、ユキノ達が舞台にあがり、ブーケをルシエとクウに手渡す。二人がブーケを受け取ると、一斉に拍手と歓声が鳴り響いた。


「みんな、俺たちの式に来てくれてありがとう。俺はこの場で誓う。よき夫となりルシエとクウを幸せにする。そして、長として皆に誓う。エルシエに居る皆を幸せにする」


 拍手の音がより一層激しくなった。この激しい拍手は俺のことを信じているからだろう。

 俺はいい長だったのか? その問いの答えがようやく返ってきて、胸に熱いものが込みあげる。


「俺たちから幸せのお裾分けだ」

「みんな行くよ」

「幸せを受け取ってください」


 そう言った瞬間、男性陣や既婚の女性陣が二歩後ろに下がり逆に未婚の女性陣が前に来る。


 ブーケトスだ。エルフも火狐も不思議とこういう風習があった。ブーケを受け取ったものが次に結婚できるというものだ。


 ふとユキノを見ると、目をぎらぎらさせている女性陣を冷めた目で見ながら一歩引いた位置に居た。


 子供が欲しいと言っていたから結婚に興味があると思っていたが、そうでもないのか?


 そんなことを考えていると、二人の手からブーケが放たれた。

 放物線を描き、ルシエの投げた花束は、必死に手を伸ばしてジャンプをしたエルフの少女、コンナがもぎ取った。イラクサの訓練の成果だろう。


 クウが投げたブーケは、ブーケをもぎ取ろうとする女性たちによる激しい空中戦で弾かれ、もう一度空に跳ね上がり、それが奇跡的な確率で何度か繰り返された後、後方でぼんやりと立っていたユキノの胸にストンと収まった。


 ユキノは目を丸くしている。そして、複雑な表情をしてからブーケを抱きしめた。


「式は終わりだ。ここからはパーティだ。向こうの机とテーブルにとびっきりのご馳走を用意した。エリンから来てくれたアスールが送ってくれた上等で珍しい酒も並べてある。思う存分楽しんでくれ」


 歓声があがって、皆が料理のあるテーブルに向かっていく。

 今までの一番のご馳走と美味い酒があそこにはある。


 火狐たちの要望で初めて火狐達が来たときに振る舞った鹿のスープ、ヤギ肉の香草入りハンバーグや、イノシシ肉のステーキ、鶏一匹を使ったロースト。ハーブを使ったイワナの蒸し焼き、それらの材料を包むことができる手巻きクレープの皮。


 酒はエルシエワインはもちろん、アスールから今日届けられた上等な酒が並んでいる。


 今日は盛大に盛り上がるだろう。


「やっと夢が叶った」


 幼い頃からずっと描き続けた夢、父のような長になる。一度は諦めた夢。それがやっと叶った。最高の人生の伴侶も傍にいる。


 これからは掴んだ幸せを失わないように、守って積み重ねて、いや違う、もっと幸せにならないといけない。


 ◇


「みんな、見てくれ」


 パーティがはじまって二時間、そろそろ料理が尽きる頃、俺は満面のドヤ顔で最終兵器を取り出した。

 それはウエディングケーキだ。

 それも三段の特大サイズ。エルシエ全員にワンカットずつ切り分けられる量を用意した。

 イギリス式等と違って特に段事の意味がない。作り易さだけなら大きな一段だが、こっちのほうが見栄えがいいという理由で作ったのだ。


 普通は入刀する部分だけが本物で後は偽物だが、これは全て本物だ。強度を確保するための土台すら使っていない。


 崩れないようにするために、ジャガイモから水あめを作ってそれで表面をコーティングしてから積み上げ、ヤギの乳とメープルシロップで作った生クリームで盛り付け、仕上げに飴細工で豪華に飾り付けた。


「なに、これ、すごい、こんなのエリンでも見たことがないわ」


 さすがのアスールもこんなふざけたものを見たことがないようで驚いている。


「ルシエ、クウ、最初の夫婦の共同作業だ。このデザートを切り分けて皆に配ろう」

「シリル、夜居ないと思ったらこんなの作ってたんだ」

「お菓子で出来た塔みたいです」


 二人とも、感心したような呆れたような不思議な表情だ。それでも心の底では楽しんでいるのがわかる。


 俺たちは最初の一刀は三人で手を重ねて、微笑みながらウエディングケーキに入刀する。

 これが俺達の夫婦としてのはじまりの作業だ。


おそくなってすみません。四章最終回をお送りします。

祝50万文字突破! 


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