第十五話:人造魔石
打ち合わせの次の日から、本格的にエルシエ全体を覆う防壁づくりが始まった。
それに伴い、火狐たちの新居もエルシエ内に用意されはじめた。防壁を工房があるところまで広げるのは無駄が多いし、さすがにいつまでもエルシエの外に集団で暮らしているわけにはいかない。
もう火狐達が来て半年になりエルフと火狐の壁がなくなって来ていることもある。
最近では俺とクウが結婚したことで、エルフと火狐のカップルもちらほらと出始めている。今まではそういうカップルも別々に暮らしていたが、今後は同居を推奨していくのもいいだろう。
そんな風潮なのに、肝心の種族間カップル一号である俺とクウがうまく行っていない。嫌われているわけではないが、夫婦の営みを拒否されるようになった上、その理由を教えてくれない。クウに断られる度に男としての自信がなくなってくる。
いくらクウに聞いても、
「まだ確定しているわけじゃないので、ごめんなさい」
と言ってはぐらかされる。おかげで色々と溜まっている。ルシエは拒否しないが、イラクサの訓練で疲れている日は俺が遠慮してしまうし、ユキノが一緒に暮らしていることもあり、なかなか機会が訪れないのだ。
「ユキノは可愛いな」
俺の布団の中に入り込んでいるユキノの頭をそっと撫でる。
彼女は長くてふさふさの尻尾を両足の間から前に通し、尻尾に抱き着いて眠っている。俺はそんなユキノをぎゅっと抱きしめる。彼女の体温と匂いが腕の中に広がり幸せな気持ちになる。
ユキノが寝ぼけたまま抱き返してきて俺の胸元に顔を擦り付けてきた。本当に俺に懐いてくれている。密着度が上がってきたことでユキノの柔らかさが伝わってきて、幸せ成分以外に、色々な感情が湧きあがってくる。
「いや、それは人として駄目だろう」
邪な気持ちに蓋をする。ユキノは可愛い妹だ。こうして俺を信頼して無防備な姿を見せてくれているのだから裏切ってはいけない。俺は彼女の可愛い寝顔を見て、父性を全力でひねり出した。
◇
ユキノは朝になった途端、俺の布団から抜け出して、隣のルシエの布団に入り込む。
寝るときはいつもルシエの布団に入って眠るのだが、ルシエがあまりにも強く抱きしめるものだから寝辛いらしくルシエが寝込むのを見計らって俺の布団に逃げ込む。
たが、ルシエは起きた時にユキノが居ないと不機嫌になるので、こうして早起きしてルシエが起きる前に布団を移動しているのだ。……ユキノはそういう気を使うぐらいにはルシエのことを大事に思っているらしい。
「結構ユキノは気を使うよな」
普段の仕事ぶりも細かいところまでよく気が付くし、日常生活でも俺とルシエがそういう気分になったとき、それとなく空気を読んで火狐の工房に帰ったりしてくれる。
……そういう気遣いのさせ方をしてしまうこと自体問題があるのかもしれない。俺も改善が必要だろう。
◇
「クラオ、ルシエ、工事の進捗具合はどうかな」
俺はエルシエの防壁工事の進捗を確認しに来ていた。現場の指揮は長代理のクラオが取り、補佐をルシエにさせている。
初めは工事の指導まで俺がしていたが、図面の読み方を二人に教え終わって以降はこうしてたまに見に来る程度に控えていた。
「はい、シリル様の書かれた図面の通り無事進んでいますよ。予定されていた工期よりも三日ほど前倒しになっていますね」
長の代理、クラオが嬉しそうに報告してきた。
工事が始まって三週間たっている。まだまだ完成には程遠いがだいぶ形にはなってきた。
防壁は今回の件で作ることを早めたが、そもそもないほうがおかしいものだ。
例えば、地球の日本には城を守る城壁は多数あったが都市全体を覆う市壁はほとんどなかった。それは、日本列島は単一民族が暮らしている島であり、そこに住む住人は、統治する者が変わっても生活がさほど変わらずに新たな支配者を素直に受け入れられたからだ。
為政者にとって住民は資源なので傷つける必要がなく、統治者が居る城だけを守ればよかった。
だが、西洋では都市全体を覆う防壁がいくつも残っている。それは一つの大陸に複数の民族が存在し、住人達は統治者が変わったからと言って簡単には受け入れらない。だからこそ、侵略者の攻撃対象になり、侵略されれば殺されるか奴隷にされる。
統治者だけを守る城壁だけでは不十分で都市の財産である住人を守ることが必要とされ、都市を丸ごと防壁で覆うというのが常識となった。
エルシエはもちろん後者だ。エルシエの民は魅力的な財産であり、それを奪うために敵は攻めてくる。
「そうか、皆頑張ってくれているんだね。ありがたいことだ」
「うん、本当に皆、頑張ってるよ。きっとシリルが育てた今のエルシエが好きなんだよ」
ルシエが嬉しいことを言ってくれる。
防壁作りは単純だが、ひどく単調な重労働だ。やる気と根気がなければ作業はまったく進まない。たった百人強でここまでやってくれることに俺は驚いていた。
今回作っている防壁は、木で簡単な枠組みをつくったあと、粘土と砂と石を混ぜたものを盛って踏み固め、最後に火狐の炎で焼くことで硬度を増すという至極単純なものだ。
エルシエ全体を覆うだけの材料を確保するために、日夜森から土を運び出す作業だけでも気の遠くなるほどの労力を必要としていた。
「でも、シリル。こんな防壁でいいの? ベル・エルシエの防壁はもっと高かったよ」
「これぐらいの高さで問題ないよ。低いって言っても4mあればそうそう乗り越えられないからね」
「けど不思議だね。あんまり高くない割にすごく分厚いね」
「高さと厚さは何を重要視するかによって決まるんだ。ルシエ、防壁をどうして高くするかわかるかな?」
俺が設計した防壁は、高さが4mほどしかないくせに、厚さが10mほどある。帝国やエリンの防壁は厚さが2m、高さが20mほどあるのが一般的だからその真逆を行っていることになる。
「高いほうが乗り越えにくいからと、弓矢や投石は高いところから放ったほうが射程も、威力もあがるからだよね?」
「正解。逆に言えば乗り越えられなければあまり高くする必要がない。それに高い位置でなくても十分な射程と攻撃力が確保できれば高さは要らないんだよ。あと、高くすればするほど、構築が難しくなるし時間もかかる。エルシエの皆に20m以上の防壁を作る技術はないよ」
高さがない分色々と工夫してある。純粋な高さではなく、構造を台形にして上りにくくし、さらに有刺鉄線を頂点に配置し非常時には高圧の電気を流せるようにする予定だ。素手で握っても鎧越しでも、剣で有刺鉄線を除去しようとしても感電死する。防壁の周辺を掘り地面を低くすることで高さの水増し等の小細工も施す。
有刺鉄線に接続するバッテリーは科学的なものではなく魔術的なものを作った。人造の魔石で、魔石内を魔力が円を描くように循環していて外に魔力が漏れず、【俺】が解析した勇者が使っていた電気変換の術式を魔石そのものに刻むことで、ため込んだ魔力が解放されると同時に電気に変換される。
現状、人造魔石は【俺】の知識とドワーフのクイーロの技量を用いても、俺の全魔力の五倍ほどしか魔力を保持できない。
この人造魔石はアシュノと戦う際の直接的な武器にも使用できるが、【輪廻回帰】の時間制限のせいで、一つ作るのに五日はかかり通常運用と予備の二つしか作れていない。
口には出さなかったが他にもデメリットがあって壁が低いと、放物線を描く攻撃、例えば投石器などの攻撃で壁を簡単に乗り越えられて壁の中を攻撃される恐れはある。それは防壁以外で対応するつもりだ。
「そして、もう一つ問題をだそうか。どうして防壁を厚くするのかわかるかい?」
「貫かれないようにするためだよね?」
「それも正解。今は2mぐらいの厚さがあれば十分だと考えられているけど、近い将来、そんな壁だとあっさり貫かれるようになるよ。最低でも10mはないと不安だ」
幸い、エルシエは帝国からの街道が整備されてない上に山の中にあるおかげで、大規模な攻城兵器をここまで運ぶのは並大抵の苦労ではないので、攻城兵器で攻められることはないだろう。
だがそれは今の話だ。すぐに携帯性にすぐれた貫通力の高い兵器が産まれる。
俺が懸念しているのは大砲だ。火薬というものを世に放った以上、現れるのは時間の問題だ。地球では大砲が実用化されたばかりのとき、今までの防壁のほとんどは簡単に貫かれ意味を無くした。
だが、厚さ十メートルの壁なら大砲が実用化されてもそうそう打ち抜くことができない。石と砂を混ぜた粘土というのは硬いだけではなく衝撃を吸収する柔軟性もあるし、上りにくさをあげるための傾斜は衝撃を逸らすという効果も生む。
「シリルとかなら、10mあっても簡単に貫いちゃいそうだね」
冗談めかしてルシエが言った。
俺はそれに苦笑いを返した。
実際に出来てしまう。シリルのままでは無理だが、【輪廻回帰】をすればそれが可能な俺が数人いる。
そして、今回の敵であるアシュノは、それと同等の力を持っているはずだ。今回の作戦の大前提は、俺が彼女を足止めすること。俺は本当にそれが出来るのか?
「ルシエ。俺がルシエの目の前で見た目とか全然変わって、突然別人みたいになったらどう思う? そうだね、例えばお伽噺の化け物みたいになっちゃうとか」
「シリル、急にどうしたの?」
脈絡のない問いかけにルシエが怪訝そうな顔をした。
「ごめん、なんでもないよ。ただの冗談だよ」
俺はそう言って誤魔化した。
俺は今までルシエをはじめとしたエルシエの皆の前では【輪廻回帰】を使わなかったし、そもそも前世の記憶を得たことも話していない。
純粋に怖かった。ルシエにとってのシリルじゃなくなることが。俺自身、本当に自分がシリルなのか、【俺】によって歪められた別の誰かになってしまったのか、わからなくなるときがある。
「きっと、すっごく驚くと思うよ」
「そっ、そうか」
不安で少し声が裏返っていた。今回はルシエ達の前で【輪廻回帰】を使わないといけない状況が来るかもしれない。そのときに彼女に拒絶されたら俺は……
「でも、どんな姿になっても、目を合わせて言葉を交わしたら、やっぱりシリルだって納得しちゃいそう」
しかし、続く言葉でその不安が消えた。
「ありがとう。ルシエ。その言葉を聞いて安心したよ」
いつか、ルシエになら俺の秘密を話してもいい。そう思った。
◇
工房で作り上げた人工魔石に魔力を流し込む。
魂を喰らえば喰らうほど、魔力の貯蔵量が増え、魔力の回復量もあがる。だが、ゲームのように一日で使い切った魔力が全て回復というわけにはいかない。
俺の場合、一度空になった魔力を回復させるのに、理想的な体調で、七十時間はかかる。
そして、この魔石は俺五人分の魔力を溜めこめるため、最大まで補充するのに約二週間。一つ作るのに五日かかるから、合計で三週間かかる計算だ。
それでも、これはアシュノと戦う切り札になるので用意しないといけない。
感覚でわかるのだが、人間数百人と勇者を喰らったことで俺の魔力容量は魂が許容する限界まで膨れ上がっていてこれ以上増やせない。一度に放出できる魔力量なんてほんとうに微々たる量しか訓練で増えない。
技量についても、前世の経験を引き継いでいるのでほとんど頭打ち、これ以上強くなることは難しい。
そんな俺がアシュノに対抗するには武器がいる。例えば、この人造魔石は、本物の魔石のように属性魔術の効果を高めることはできないが、ため込んだ魔力を瞬間放出することで、俺五人分の魔力を瞬時に全開放して即座に電気に変換する。
ようやく【俺】がアシュノの知識の一部を開放してわかったが、彼女は、正真正銘の規格外の存在だ。この人工魔石も、アシュノの足止め以上の効果は期待できない。
「まだ足りない。強くなりたい。シリルのまま強くなる方法……あったな。俺の、シリルだけの魔術が欲しい」
この魔石を作れたのは、クイーロの固有魔術があったからこそだ。
クイーロが器用で、土と火のマナに愛され、道具の精製に天才的なセンスを持っているのは種族としての性質に過ぎない。
クイーロの固有魔術は自分の製作物への汎用魔術式の埋め込み。属性魔術は対応していないが、自分が使用できる汎用魔術ならほぼ全て、自作の道具に刻み込める。
これがあるから魔力を流したときに特定の魔術が発動するという道具が作れる。ドワーフの力ではなく、【輪廻回帰】と同じ、クイーロだけの固有魔術。
クイーロの願い。『俺だけしか作れないものを後世に残し、歴史に名を刻みたい』その狂おしいほどの渇望が、クイーロという存在に方向性を与え、数十年かけてクイーロがそれに特化してようやくクイーロは【魔術刻印】を手に入れた。
固有魔術は欲しいからと言ってすぐに手に入るものではない。
実際、固有魔術を得た俺はそれほど多くない。全体の三割程度だ。
そもそも、俺に、シリルに、全存在をかけてまで得たい渇望があるのか?
こんなふうに考えている時点でその資格がないんだろう。
「ないものねだりはやめよう。今は少しでも武器を用意しないと」
人造魔石があれば、マナに依存しない戦い方の幅が広がる。高出力の電気を扱えるというのは、かなり応用が効く。
せっかく、クイーロの力を使えば簡単に作れる防壁を、エルシエの皆に作ってもらっているんだ。そのことで得た自由になった時間と魔力で少しでも勝利の可能性を作らないといけない。
◇
「シリルくん、入っていいですか」
魔石に全ての魔力を注ぎ込んだあと、倦怠感に耐えながら紙に兵器の案をまとめていると、クウが工房の扉をノックして声をかけてきた。
「入っていいよ。クウがここに来るのは久しぶりだね」
「はい、その、ここに来るのは、そういうことをするときでしたから」
さすがに火狐に貸している工房や、村長宅、ルシエの家等でことに及ぶのは躊躇われる。だからクウと愛し合うのはこの工房か外というのが俺たちのルールだった。
「今日はどうして来たのかな?」
「その、シリルくんに、伝えたいことがあって来ました」
クウが真剣な顔をしてまっすぐにこちらの目を見つめる。その瞳には不安が浮かんでいた。クウが不安を覚える俺との話。
俺の脳裏に、クウに見捨てられる自分の姿が浮かんだ。クウが最近、拒否するのはそういうことだったのか、仕方がないかもしれない。俺は世界で二番目に好きなんて悪びれずに言っている。クウだって一番愛してくれる人がいいに決まっている。
「そうか、クウ、ごめん。大丈夫、心配いらない。火狐のことはクウと別れてもきちんと面倒を見るから。私情は挟まないよ」
「シリルくん、何を言っているんですか!?」
クウが顔を真っ赤にして詰め寄ってくる。
「結婚直前になって、やっぱり俺との結婚が嫌になったんだろう? でも、長の俺に嫌われて火狐が冷遇されるのが怖くて今まで黙っていた。言わなくてもわかるよ。気付かなくてごめん」
三日後に三人の結婚式が控えている。アスールのところにも、食料の買い占めに行かせたロレウたちに、招待状を届けさせている。
このタイミングでクウの我慢の限界が来たのだろう。
「……何をどうしたら、そんな的外れな答えが出て来るんですか!? 怒りますよ!」
「違うんだ?」
「違います! 何度も言ってるじゃないですか。私はシリルくんのことが大好きだって。大好きじゃない人に、尻尾を握らせたり体を許したりしないです」
「クウなら、火狐の皆のためにそうしそうじゃないか」
「……それは否定しませんけど、でも違うんです。シリルくんが好きだから、ずっと一緒に居るって決めたんです」
クウは自分よりも周りを大事にする。もし、エルシエの長が俺じゃなくて、下種野郎で受け入れる代わりにクウ自身を要求すれば妹たちのために従っただろう。
「なら、どうして拒否するんだ」
「……本当は黙っているつもりだったんです。ぬか喜びだったら嫌だから。でも、ユキノが『シリル兄様がクウ姉様に嫌われていると思って落ち込んでる。クウ姉様、シリル兄様を嫌いになったの?』って毎日、訓練の度に泣きそうな顔で言うんですよ? だから全部話すことにしました」
……エルシエ一かもしれない気配り上手のユキノが裏で動いていたらしい。今度、ユキノを思いっきり甘やかしてあげよう。
そう言えば、帝国との戦争のときに約束したご褒美も、ユキノがなかなか要求してこないから、そのままになっている。もう、こちらで勝手に決めて何かしてやったほうがいいかもしれない。
「その、出来たかもしれません。先月から、来ないんです」
「何が?」
クウが顔をさらに赤くした。
「子供が出来たかもしません。生理が来ないんです」
見ているのが可哀相なぐらいに限界まで真っ赤になって蚊の鳴くような声でクウが漏らした。
「だから、しばらくはそういうの避けたかったんです! 悪影響があったら嫌じゃないですか。それに、もしこんなこと言って、ただ生理がたまたま来なかっただけだったらシリルくんをがっかりさせちゃうって思って、言えなかったんです!」
一瞬、俺は目の前が真っ白になった。
気がつけばクウの前まで歩いて行って彼女を持ち上げ、ぐるぐる回っていた。
「そうか、子供か、クウ、よくやった」
笑いながらぐるぐる回りはじめる。クウが目をまるくして慌てはじめる。そんなクウも可愛い。
「しっ、しりる、くん、やめて、怖いです」
「大丈夫、落としたりしないから」
「いえ、怖いのはそっちじゃなくて、流産です」
彼女が放った一瞬で我に返り優しくおろす。
「その、クウ、ごめん」
「いえ、喜んでくれて嬉しいです。言えなかったのは、ルシエちゃんより先に出来たことを気にされて、今回は堕ろせとか言われるんじゃないかって不安もあったんです。シリルくんエルシエの長だし、私二番目だし」
「俺やルシエがそんなひどいことすると思うか?」
「二人はそうですけど、長じゃないですか!」
時として立場というのは個人の意志を無視する。だけどエルシエは違う。
「大丈夫だよ。エルシエでは俺がルールだ」
「それを言い切っちゃうことに私は、少しの不安を覚えます」
「冗談だよ。本気じゃない。でも、そんなことを気にする人はいないから安心して」
そうか、子供か。名前は何にしようか? 男の子なら……
「それと、あくまでまだ来なかっただけですから、違うかもしれないですよ。喜んでくれたことは嬉しいですけど、違ったら本当にごめんなさい」
「今は無理だけど、あと半月も経てば俺なら診察すればわかると思う。そのときに正式な発表をしようか」
「発表はギリギリまで待ってください」
「どうして?」
「たぶん、本当に妊娠していて火狐の皆がそれを知れば、私を監禁して外にも出してくれなくなります」
「クウは愛されているからな」
「はい。身の回りの世話とかに数人常に張り付いて、すごく行動しにくくなります。ユキノの訓練もさせてくれなくなるかもしれません。
ユキノは今、一番成長してくれている時期なんで、すごく楽しいんですよ。ユキノはすごいです。昨日なんて、本当に綺麗な一発をもらっちゃいました。私に一発入れたのは、シリルくん以外にはお兄様とレラぐらいです」
「クウ、ユキノの訓練はクウの師匠のレラに任せよう」
「言ってるそばから!? シリルくんのいけず」
火狐の訓練は実戦形式だ。さすがにまずい。綺麗な一発がクウのお腹に当たれば目も当てられない。
「できれば女の子がいいですね」
「女の子のほうが可愛いから?」
「いえ、私とシリルくんの子供で火狐の男の子だったら、火狐の皆でものすごい取り合いになっちゃいそうです」
俺はその光景を想像して笑ってしまった。
そう言えば、クロネとケミンもクウの子供が火狐の王子様で、お婿にするって冗談めかして言っていたのを思い出した。きっと男の子が産まれたら、俺以上の女難が待ち構えているだろう。
「クウ、本当に子供が出来ているといいな」
俺の言葉を聞いてクウが目を輝かせて、
「はい!」
そう頷いた。
そして、子供に影響なさそうな範囲まで久しぶりにクウといちゃついた。
モンスター大賞の最終選考に残りました
ここまでこれたのも皆様のおかげです
あと一つで受賞です。これからもがんばって面白いお話を届けていきたいと思います