第九話:お嬢様襲来
行商人はどうやらエリン方面から来たようだ。
帝国方面は何かあればベル・エルシエから連絡が来るはずだし見張りも用意してある。
だが、エリン方面の監視は行っていない。
クラオの話ではエルシエの入り口で待たせているようだ。エルシエも非常に簡易的にではあるがエルシエ全体を木の柵で覆っており入口は限られている。
もっとも、その気になれば簡単に切り倒せるものなので、早急にきちんとしたものを作らないといけない。
「クラオ、それで規模は?」
「シリル様、馬車が三台です」
「それぐらいが限界だろうな」
エリン方面をあまり警戒していない理由にエリンからエルシエに来るまでの道がひどい悪路であることがあげられる。
曲がりくねっているうえに山を一つ越える必要があり、さらに馬車一台がせいぜいの道幅しかない。多数の兵を送り届けるのは非常に厳しい。
そして少数同士の戦いであればエルシエは負ける気がしないので、あまり見張りに労力を割いていない。
「行商人はどこから来て、何を目的にしているのかは聞いているか?」
「それが、その、何分慌てていたもので」
「今回はいいけど、次から俺が知りたい情報を推測して事前に集めてから報告するように」
「はっ! このクラオ、肝に銘じました」
クラオは一度言ったことは必ず守るので大丈夫だろう。
むしろ、俺の言うことを素直に聞きすぎて心配になるぐらいだ。
五分ほど歩いて、エルシエのエリン側の門にたどり着く。そこには馬車が三台止まっていた。飾り気はないが、どれも車輪の精度などを見る限りかなりの高級品であることが窺える。
五名ほど馬車の外に出て門番をしているルシエに話しかけている。本来イラクサのメンバーはこのような仕事をしないが、もしもの時に備えて呼ばれている。
このあたりはマニュアルに記載してあったので、きっちりとクラオが指示を出したのだろう。
「中に入れないってどういうことかしら、さっきから言っているように暴れるつもりはないわよ。ただ商品を売るだけと言っているじゃない」
「申し訳ないけど私の一存じゃ決められないよ。上の判断が出るまで待って。すぐ来るはずだから」
馬車で来た五人のうち、一際態度が大きく派手なドレスを着た青髪の女が喚き声をあげているのを、ルシエが軽く受け流している。女性は十代後半に見える。
「私の立場をわかって言っているのかしら? 私は」
「お嬢様ストップ、まだ言っちゃ駄目! ほら、エリンの最先端の商品を安い値段でばらまいて、娯楽を知らないエルフがその素晴らしさに触れて盛り上がったところで、自分の立場を明かしてびっくりさせるって、馬車に揺られながらドヤ顔で言ってたじゃないですか!」
今にも殴りかかりそうな青い髪の女性を後ろから、上品な男性服を着た女性が嗜めている。
「じい、止めてくれたのは嬉しいけど、それをここで言ってしまったら意味がないわ」
「お嬢様、きっとこの子は下っ端ですよ。上まで話が行きませんって」
「それもそうね。この子、素材はいいけど、恰好がどろ臭いし、あまりいい生活はしてなさそう」
「そうそう、下っ端も下っ端、ただの村長の妻ってだけですから」
「全然大丈夫じゃないでしょ!?」
「確かに!?」
「というかシリルきゅん結婚してたの!? なんで報告しなかったのよ」
「だって言ったらヒスるじゃないですか、そうなったらお嬢様めんどくさいです。第一、シリルきゅんってなんですかドン引きですよ。ドン引き。そういうの寝室で絵に向かってだけにしてくださいよ。人が居る場で『きゅん』とかないわー」
いつのまにか、青い髪の女性の矛先がかんぜんに男性服を着た女性へ切り替わっていた。
あんまり関わりたくないタイプだと思ってしまう。
しかし、そうはいかないだろう。俺は意を決して近づき、声をかけた。
「お待たせしました。行商人の方々、私がエルシエの長、シリルです。本日はお越し頂きありがとうございます」
少なくともいきなり武力行使をする気はないようなので、あくまで客を相手にするつもりで接することに俺は決めていた。
俺が声をかけた瞬間、青い髪の女性の顔つきが変わった。あくまで上品にそしてどこか知性の光を目に宿している。
「これはこれはご丁寧に。突然のぶしつけな訪問をお許しください。私はアスール。エリンで商店を切り盛りしているわ。エリンで話題になっている甘いシロップと最高のお酒の噂を聞いて仕入れに来たの。
それだけだと味気ないからここで売るためのものも用意したわ。というわけで、シロップと酒の生産者の紹介と、人通りが多い広場での商売する権利を求めるわ」
そう言って握手を求めている。なぜか鼻息が荒く驚く。
後ろの男性服を着ている女性の口元がさっきから微妙に動いている。
なんとなく読唇術で読み取ると。
『うわぁ、お嬢様機嫌いいな。年下の美少年とか超好物だし。絵でもはぁはぁしちゃってるぐらいだから夜とか襲っちゃいそう。選り好みしまくってまだ処女だけど、今回こそ手を出しちゃうかも。あの人お姫様だって自覚ないし。そうなったら色んな人が怒るだろうな。私の首とか比喩じゃないほうで飛びそう。そしたら退職金でるかな? でないと妹たち飢え死にか、貯金溜めとけばよかったな。調子乗って二回もお替りしたクレープ。あれ一枚買うお金で、一週間ぐらいの食費になったのに……情けないお姉ちゃんを許して』
俺は青い髪の女性……アスールと男性服の女性、二人同時に憐みの視線を送る。
「ごほんっ。すごいですね。エリンに商店を構えるなんてなかなかできることじゃないです。エリンからここまで大変だったでしょう」
「そうよ。道は狭いし、でこぼこしていて馬車が揺れまくるし、狼は出るし。あまりに人気がない街道なおかげで山賊の類が一切出ないのが唯一の救いね」
「そんな道を通って来てまで割に合うと思っているのでしょうか?」
「思っているわ。実際にその品物を私たちも見ているもの」
「そういえば、そちらの方は私どもの菓子を二回もお替りしてくださいましたね」
俺が男性服の女性に微笑みかける。すると、アスールの視線が若干険しくなった。
「じい、お替り一回じゃなかったのね」
「大変おいしゅうございました」
「ナイフも買って行かれましたが、切れ味はどうですか?」
「そりゃ、もうばっちりです。お魚を三枚に卸すときとかすごいですよ。しゅっしゅで切れて、料理が終わったあと、空中でシュッ! ってすると血と脂がとんできらって輝くんです。もう手放せませんね……ってはう!?」
男性服の女性が慌てて口を押える。
ナイフは屋台を借りての商売では品物として置いていない。あくまで個人として武器屋に売ったものだ。
俺を尾行していたこの女性は、俺が売ったものを全て買い集めている。
他にも、俺が買ったものは全て情報を集めていた。食料や、エリンではアクセサリー用として売られていた硫黄、そしてウェディングドレスまで全ての情報を掴まれている。
「じい、あなた尾行がもろばれしていたわね」
「申し訳ございません、お嬢様、でも、ぜんぜん気付いたそぶりなんてなかったですよこの人」
「あとでお仕置きね。あと減給二か月」
「ひいぃ、そんな」
この世の終わりみたいな声を男性服の女性はあげる。
「あまり、責めないであげてください。彼女は一番ましでしたよ。あとの四人に比べたらずっとうまかった。彼女のミスではなく、彼女たちの技量では気付かれてしまう相手に尾行を命じた人間のミスだと私は考えます」
「……なるほど、そう言われればそうね。認めるわ。じい、この件は不問よ」
「この件?」
「ええ、エルフが売ったものは全部集めろと言ったわよね? どうしてあなたは、エルフが売ったナイフで魚を三枚に卸しているのかしら?」
「ひっ、まさかの身から出た錆び!? ほんの出来心なんです。全部ちゃんと、予算で買うつもりだったんですよ。でも、そのこう、太陽にかざすとキラッてして、なんか、その一本ぐらい他の客が買ったことにして自分で買っちゃおうかなっと……」
「じい、減給三か月」
「殺生な!」
そうしてじいは崩れ落ちて、地面にのの字を書き始めた。
「もう一度聞きましょうか? エリンに入ってすぐに尾行をつけて俺を追い回していたあなたたちが本当にただの商人だと言い張るつもりですか?」
そんなはずはない。メープルシロップを売りはじめた後ならまだわかるが、入ってすぐに尾行をつけたということは、少なくとも遠く離れたエリンに居るにも関わらずエルフの状態を把握していたということだ
耳を隠した上で俺の正体を気付けたということは、俺の顔の情報まで持っている。一商人が扱える情報の範疇を超えている。
「ふう、予定が狂ったわね。これ以上の演技は無駄だから答えてあげる。私は、コリーネ王国の商業都市エリンを治めている町長、アスール・フェル・コリーネ。今日は、エルフの村との交渉に来たの」
「驚きました。その筋だということは予測しておりましたが、まさか町長自ら来られると思っていませんでした」
「まあね。普通はこんな辺境なんて来ないわね。道が悪いせいで往復に一週間はかかるもの。私が一週間不在にするのはエリンにとって大きなマイナスよ。それでも、来る必要があると考えて来たわ」
「書状でも頂ければこちらから伺いましたのに」
「それでは、誠意が伝わらないわ。私はお願いする立場なのだから」
不敵な笑みをアスールは浮かべた。自信家で我が強い強いタイプ。エルシエにはいないタイプだ。
「商売をしていただくことは構わないのですが、残念ながらエルシエには計算ができ、貨幣を扱えるものがそうはおりませんので、代表のものが注文をさせていただく形になります」
勉強している暇があれば畑を耕せというのがこの時代の常識だ。
エルフも火狐もある程度の力のある家の子供以外は、字も計算も教わっていない。エルフと火狐合わせて二百五十人ほど居るが、その中で貨幣を使いこなせるものは二十人に届かない。
「構わないわ。持ってきたものの一覧と、単価は送るから欲しいものをまとめなさい。ただし、条件があるわ。商品の受け渡しは個人単位にしてほしいの」
俺はその言葉を聞いて面白いと思った。
「かまいませんよ。私としてもそっちのほうがありがたい」
こういった機会に少しでも外に興味を持つエルフを増やしたい。
◇
「ふうん、趣がある建物ね」
「素直に質素といってもらって構いませんよ」
アスールとその護衛として二人の三名を村長宅の一室に案内していた。
村長宅がエルシエでは一番立派だし、帝国の兵士が泊まるための部屋もあり今日宿泊してもらうので都合が良かった。
扉を開けると、はたきを持ったユキノが爪先立ちをして背伸びをしながら必死に手を伸ばして掃除をしていた。
「あっ、シリル兄様、お客様?」
「うん、お客様。ここの掃除はもういいから、いつもは使ってない泊まりようの部屋を急いで掃除して来て」
「うん、わかった。頑張る」
ユキノは握りこぶしを作って部屋を出て行った。
「ねえ、シリルきゅ……シリルさん。あの子可愛いわね」
アスールが去っていくユキノの尻尾を見つめながらそう言った。
確かにユキノは美人だし、着ている衣装もばっちり似合っていて、最高に可愛い。俺の自慢の妹だ。
「そう言ってもらえると嬉しいですね。自慢の妹ですから」
「あの子、うちに預ける気はない? うちで雇ってあげるわ。ちゃんとした教育も受けさせてあげるし、ここにいるよりいい暮らしを送れると思うわよ。支度金も払ってあげる」
「家族を売るような人はいませんよ。それに、あの子は火狐ですよ。エルシエ以外では幸せになれない」
「口減らしが出来てお金が入るならって喜んで家族を売る人は無数にいるわよ。後者については……そうね。悪かったわ。私たちと違ってエルフと火狐は有名すぎるわね。エリンなら魔石狙いでいつ襲われるかわかったものじゃないわ」
「その口ぶり、もしかしてとは思っていましたが、あなたは水精族ですか?」
「ご名答、私の先祖の水精族の変わり者が地上に出て作った国がコリーネ。水精族は滅多に人前に出ないし、特徴と言えば青い髪とほんの少し尖った耳だけど、割と他の種族にもある特徴だから、狙われたりしないのよ。一番の特徴の、水の中で皮膚呼吸出来るっていうのは、見た目でわからないし」
水精族は、魔石を体内に宿す四種族の一つだが、幻の種族と言われている。海底に住んでいるせいでまず人前に現れない。
そのせいでどんな姿をしているのかすらも情報としてあまり残っていない。
「それは羨ましい」
「とは言っても時間の問題だと思うわよ。今後、海の上が商売の主戦場になる。そしたら、海底にへばりついて、上を通った船を、住処が荒らされたって言って襲っている水精族たちは駆除され始める。
そしたら死体が晒され、姿形が出回ってエルフや火狐と同じ立場になるかもしれないわね」
「水の中で水精族に手を出せるとは思えませんが」
「今はね。これは私の持論だけどね。すべてのできないには『今は』っていう言葉がつくの。たくさんの人が願っていることほど、『今は』が取れるのが早い。駆除されるのは時間の問題よ。
頭の固いあいつらを説得しているのに、まるで話を聞こうともしない。あいつらにとって世界は海底の狭い縄張りで終わっているのよ。水精族の力を健全に使えば大貿易時代の覇者にだってなれるのに!」
大貿易時代の覇者。そのあまりにも大きな目標に度胆を抜かれた。
「海が商売の中心、確かに面白いですね。地上にある無数の関所を無視するから税は安くなる。一度に運べる荷物の量が陸路とは段違いに多い、商売の相手が別の国どころか、別の大陸まで広がる。海には夢がありますよ」
「そうよ! 絶対にそんな時代が来るわ。今は、色んな街の中継点になる内陸の街に富と物、人が集まっているけど、私が死ぬまでに港町に全部が集まる時代が来る!」
「まだまだ船の性能が悪いし、人間自身の航行技術も拙い。その両方が円熟すればすぐにでもそうなるでしょうね」
「だからこその水精族よ! あの頭でっかちどもを囲い込んで、水流を操らせて未熟な船と技術でも安全かつ迅速な船旅を可能にするのよ」
「それは面白い、ならエルフも手を貸せるかもしれませんね。風を読めるから天気はだいたい予想できて嵐や大雨を避けられる。帆を張れば、風の力で水を操るだけよりずっと早く船が進むでしょうね」
「いいわねそれ。どこよりも早く手に入れたいわ」
いつの間にか二人で盛り上がってしまった。周りの皆は口を開けてぽかーんとしている。
アスールとの話は面白い。
「シリルさん、噂以上に博識なようね。私の話について来てくれる人は少ないから嬉しいわ。でも、私の今話した内容って、夢があるけど危険だってことも理解できるわよね?」
「そうですね、エルフと水精族の力を借りるんじゃなくて、風と水の魔石を用意できればと多数の国が考え出したら、今以上に狙われるのは間違いない」
鉄を溶かす火力が必要になり、火狐の魔石の需要が増したように、今後風の魔石の価値が跳ね上がる可能性は確かにある。
「そうよ。だから思うの。エルフと水精族、そして火狐。魔石を宿す種族はみんな、協力をしていくべきよ」
話がきな臭くなってきた。
「だから、エリンがエルシエを保護してやるとでも言うつもりでしょうか」
「ええ、雑談をたくさんしちゃったけど、その提案に来るつもりだったのよ」
「もう少し詳しく話をお聞かせください」
「エルシエが帝国の砦を落して難民を集めているのは知っているわ。でも、やはり素人ばかりというのは不味いと思うわよ。エリンからプロの兵士を三百人出して常駐させるわ。平時は難民たちの教育と治安維持まで面倒をみてあげる」
「そっちは事足りています。つい先日も帝国の千人以上の規模からなる襲撃襲撃を追いました」
俺の言葉を聞いたアスールは、ほうっと、感嘆の声をあげる。
「素人以下の連中を集めて、よく反乱も起こさずに対処できたものね。驚きだわ」
「だから、エリンの手を借りるまでもないのです」
「あなたが言うなら、そうなんでしょうね。でも、問題はそれだけじゃないわよ。食料はまだ人口に対して生産が追い付いていないわね。エリンでの補充が必要なんじゃないかしら?」
それは確かにそうだ。もともと五百人までは増やしていくつもりだったが、今の段階で四百人まで人口が膨れ上がったのは予想外だった。
収穫までの間は、ベル・エルシエの手持ちの食料でしのぐのだが、今の人数でぎりぎり大丈夫という試算結果だ。これ以上人数が増えればどこかのタイミングで買い出しをしないといけない。
「それは、脅しているつもりか?」
「そんなつもりはないけど、脅すなら、そうね。エリンの保護を断るようなら、エリンへのエルフの立ち入りを断り、エルフとかかわりを持った者は今後一切のエリンでの商業活動を禁じる。こんなのはどうかしら?」
この女ならやりかねない。
現状、エルシエから帝国方面の村は全て貧乏だ。売るほどの備蓄なんてないだろう。そしてここからエリン方面にはいくつかの村があるが、どこもエリンと深いかかわりをもっている。
エリンから絶縁されてまでエルフに物を売ってくれる村なんて存在しない。
ベル・エルシエは難民キャンプのようなものだ。食べ物があるうちは最低限の治安は保つことができるが、それが無くなれば一気に荒れる。
下手をすると帝国に寝返ることまで考えないといけない。五大長を洗脳することで安全弁にしているが、飢えた民衆に五大長が殺されることも十分ありえる。
「保護するだけならエリンにメリットはない。保護の見返りに何を要求するつもりだ?」
「エルシエの鉄の矢の話は聞いているわ。あなたの持つ製鉄の技術、それを伝えてほしいわ。出来れば工房の立ち上げまで面倒を見て欲しいわね」
「……まったく、戦争でもするつもりか」
「何をするにも武力が必要よ。一番手っ取りばやいのが鉄の装備を揃えることだわ。それに、鉄は武器以外にも活躍するしね」
「それだけか」
「あと、もう一つ。あなたに港町の開拓を任せてみたいと思っているのよ。もともと、冗談のつもりだったけど、私と同じ目線で話をしてくれたあなたになら任せていいわ」
港町の開拓、確かに面白そうな話だ。純粋に興味はある。だけど、エルシエを放ってまでやりたいとは思わない。
「この場では回答できない。そちらの滞在期間中に返事を出そう。何日とどまるつもりだ?」
「今日を含めて三日お世話になるわ」
「滞在期間の間、最大限のもてなしをさせてもらおう」
「期待しているわ」
アスールはそう言ったあとごほんっと咳をした。
「それはそうと、大きな話は終わりにして小さな話を済ませてしまいましょう。こっちが今回持ってきた商品のリストよ。値段はぶっちゃけ原価以下の赤字サービス、エリンのすごさを思い知るがいいわ」
「ずいぶんと無茶な要求を突き付けて置いて、よくそんなふうに話せるな」
「それはそれ、これはこれよ。そうじゃないと商業都市の町長なんてやってられないわ。切替の速さは商人の必須条件よ」
そして、その日はメープルシロップとエルシエワインの販売数と価格の調整。
計算が出来る連中を全員呼び集め、予算を決めて可能な限りエルシエの一人一人の要望を聞いて買うものを選んでいる内に日が暮れてしまった。
そろそろ夕食の仕込みの時間だ。
ここで粗末なものを出せばエルシエ自体が軽んじられる。いつも以上に気合をいれて俺は料理の準備を始めていた。