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エルフ転生からのチート建国記  作者: 月夜 涙(るい)
第四章:商業都市からの使者
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第二話:暗躍

「戻りましたお嬢様」


 商業都市エリンでも一際大きな屋敷、その高級感ある一室で一人の女性が頭を下げる。二十代後半で男物の礼服を着こなしている。

 頭を下げた先には、一人のドレスを着た少女が居た。


「おかえりなさい。じい。それで、帝国に放っていた間者はなんと言っていたのかしら?」


 青い髪をロングにした勝気な少女だった。年齢は十代後半に見える。エルフほどではないが耳が長く尖っているのも特徴的だった。

 彼女は水精族という種族に分類される水魔術のエキスパートだ。


「此度の遠征ですが、帝国の遠征軍は壊滅しました。帝国を出た四千五百の兵士のうち戻って来たのは三百に満たないとのことです。しかもエルフの村は勝つだけではなく、帝国の補給基地として機能していた砦を奪い三百人ほどの難民を集めて移住させ、帝国に対する守りまで固めたと報告を受けました」


 それを聞いた青い髪の少女の目が好奇心で輝く。


「たった二百人の村の反乱よね?」

「はいそうです」

「四千五百の遠征軍よね?」

「はいそうです」

「軍を率いていたのは馬鹿貴族のボンボンじゃなくて、歴戦の勇士、ルルビッシュ男爵よね?」

「はいそうです」


 女性が頷くたびによりいっそう青い髪の少女は嬉しそうな顔をする。


「それで、エルフはどうやって勝ったの?」

「それがわからないのです。帝国も戻ってきた兵から話を聞こうとしたそうですが、兵たちは心が壊れてしまっていてまともに話が出来ず、支離滅裂なことしか言わないそうです」

「それほどのことをしたと言うことね。面白い。面白いわ。じい、本国から島流しでエリンに来てから、こんなに心が躍るのは初めてよ。ちょうど、退屈で死にそうだったから助かるわ。念のために準備していた兵たちは解散させて」

「はい、手配させて頂きます。それとお嬢様、じいというのはよしてください。私は女です」

「でも、私のおつきでメイドなんて領域を超える仕事を任せているわ。だからあなたはじいよ」

「せめて秘書とお呼びください」

「嫌よ。私のお嬢様力が下がるわ。じいかメイド以外を傍に置く気はないの」

「もう、なんでもいいです」

「わかればよろしい。ふふ、私の勘が言っているの。やっと大きなことができるって」

「やっと大きなことですか……お嬢様がこの街を治めるようになってから、たった五年でエリンはよりいっそう豊かにになりました。商業規模は三倍ほどに膨れ上がっています。その手腕、発想力は内外に認められています。十分大きなことをされているのでは?」


 その言葉に青髪の少女は、ちっ、ちっ、ちっ、と一指し指を振り口を開いた。


「この立地でこの環境。放っておいてもこの街は育ったわ。私はそれを早めただけで作り上げたわけじゃないの。でもね、そのエルフの村の力をうまく使えば、私だけしかできないことが見えてくるのよ。欲しいわね。エルフの村の力」

「確かに、近頃のエルフの村は異常です。本来なら一度目の五百人の襲撃で滅んでいるはずですから」


 青い髪の少女が頷く。帝国は唯一実用レベルの製鉄技術を持っている強国だ。鉄の武器を装備した兵たちの力は凄まじいものがある。それを捻出できる兵数が百程度しか存在せず、五倍近い戦力差をつけられているエルフの村が打ち破るなんて通常では考えられない。


 二度目なんて兵力差が五十倍近い。これで勝つなんてもはや夢物語だ。


「一度目、エルフの村が勝てたのは、信じられないことに帝国を超える品質の鉄で出来た弓矢を複数用意して効果的に運用したからだと聞いているわ。二度目の戦いはどうしたのかしら? 気になるわ。


 一度、新しいエルフの長と話してみたいわね。出来ればスカウトして引き入れたいわ。小さな村で終わるには惜しい人みたいだし。そうだわ。今進めている港町の開拓。そこを任せてみましょうか。本格的に海が商業の舞台になれば歴史が動くわ」


 エルフの村の変化は全てエルフの村の長が変わってからと聞いている。

 間者の報告によるとカリスマがある優秀な指導者であると同時に軍略に長け、農業、工業に明るく、様々な発明や改革を行っている。そのどれもが生活を豊かにすることにつながっているらしい。


 驚いたのは帝国に滅ぼされた火狐の村の生き残りを村に受け入れた際、治安を悪化させずに良好な関係を築いていることだ。普通であれば風習が違う民族を短期間のうちに大人数受け入れればさまざまな軋轢が生まれてしまう。そのことからも新しい長の手腕の良さが窺える。


「お嬢様、本気ですか? エルフですよ」

「それがどうしたのかしら? 優秀な人が欲しいのは施政者として当然じゃなくて?」

「それはそうですが……火種になります」

「結構よ。それにね、そんなことが気にならないほどのメリットがあるもの。帝国を超えるほどの製鉄の知識、これをエリンが得られれば、軍備の増強をするも、他国に売りつけるほどの大量の鉄を作るも自由自在よ。五倍の戦力を覆したエルフの弓、それを千人ぐらいの兵士に持たせて並べてみたいわね」


 製鉄の知識を得られるだけで国家間パワーバランスをある程度操作できるようになる。自国が帝国と戦う場合を想定しても国力が勝っているコリーネ王国なら、優位に戦いを進められるようになるし、敵対国と争っている国に武器を供給することだって可能だ。


 もっと怖いのがその知識を他の国に売られることだ。そうなれば軍事強国があっという間に出来上がってしまうだろう。


 今までは名目上、帝国の支配下にあるエルフの村に直接干渉することは国家間の火種になりえるので躊躇していたが、今回の戦いでエルフたちが完全に独立してくれたおかげで接触しやすくなってくれた。ここまで大敗しておいてエルフの村を統治できているとは帝国も言えまい。


 エルフが帝国に滅ぼされた時に難民の保護を名目に有益な知識を持つエルフを確保するためにエルフの村近隣に兵を忍ばせていたのは無駄になってしまったが些細なことだ。


「そのエルフの長、間違いなく経済感覚も優れていると思うの。考えなしに帝国から独立していたら村人たちが飢えて滅んでいたはずだわ。それがない上に、二回目の戦いで村の人数を超える難民を飢えさなせないために支援するほどの余裕まで持っている。相当のやり手よ」


 青髪の少女は自分の考えを口に出すとますますエルフの村の長が欲しくなってきた。

 年齢も若いと聞いている。いっそのこと、


「私の伴侶に迎えるのもいいわね。これは実物に会ってからだけど。美形じゃないと嫌だし」

「自分の立場を考えてください。あなたの婿になるということは、この国の……」

「それはないわよ。そういうのが嫌で、島流しを受け入れたの。そういうのは本国に残った兄妹たちが勝手にやるから私まで順番が回ってくることはないわよ。だからじいにはお姫様じゃなくて、お嬢様と呼ばせているの」


 そうあっけらかんと笑う青い髪の少女を見て、一瞬だけ女性は表情を歪め、そしてさきほどまでの微笑を浮かべる。


「……お嬢様はそういう方でした。お嬢様、今回はたいした情報を仕入れることができなかったので、お詫びとしてエルフたちのことがわかるものを用意しました」


 女性が指を鳴らして合図すると、扉が開きメイドが現れる。

 そして机の上に、皿に乗った茶色いシロップがかかった焼き菓子、二種類の瓶を置いていく。


「これは何かしら?」

「実はエルフの方がエリンに来て商売をなさっているようです。宿の予約状況を見る限り明日で引き上げるようですが」

「気が利くわね。それにしてもエルフが商売というのは驚きだわ。彼らが売るものと言ったら毛皮製品や、干し肉ぐらいだと思っていたのに、さっそくいただくわ」


 青い髪の少女は皿に盛られた焼き菓子を用意されたナイフで切り分けて、口に含む。

 一口食べると目を見開いて、次々に口に放り込み、一瞬で皿を空にしてしまった。


「これはすごいわね。初めての食感。それにくどくない素晴らしい甘味。砂糖と違って雑味もないわ。美味しくて甘いお菓子を売るほど用意できるなんて……これいくらで売ってるの」

「一つ、銀貨一枚(千二百円)です」

「こんな甘くて美味しいのが銀貨一枚? 飛ぶように売れるでしょうね」

「ええ、すごい行列でしたね。すごくいい匂いがして足を止められちゃいます。冷めても美味しいですけど焼き立てはもっとすごくて、思わずお替り……」

「そう、じいは焼き立てを二枚も食べたの」

「まあ、それは置いときましょう。他の二つもすごいんですよ」


 露骨に汗をかきながら、女性は話題を逸らす。


「一つは、焼き菓子にかかっている甘いソース、それの元になったシロップです。金貨一枚(六万円)です」

「砂糖と同じぐらいの値段ね」

「はい、ですが。この焼き菓子で魅力に気づくと買っちゃうんです。私も、自分用に二瓶買いましたし」

「……聞かなかったことにするわ。でも、本当に甘いわね。それも上品で洗練されている甘さ。これ、金貨一枚なら百本単位で買いたいわ。そもそもこの瓶がすごいわよ。信じられないほど透明度が高くて不純物がない、これは弓と蔦と、狐の尻尾かしら? かわいい彫りまでいれて。こんなのエリンでも作れないわ。芸術品よ。この瓶だけで金貨一枚ぐらいの価値があるわ」

「そう思って商人の方が集まっていましたが、こだわりがあるらしく、一人につき二本までと決められていました。今日売る分も決まっていて、明日と、それを逃したら来月の同じ日だとのことです」


 青い髪の少女は顎に手を当てて考える。

 生産が間に合わないのが理由なのか? それとも?


「きっと、ブランド作りね。今ある分を全て売り飛ばすことよりも、認知度をあげるためにあえて流通量を絞っているんだわ。瓶の質や彫りもそういう理由ね」

「私も同意見です。最後にお酒です。シロップを原料にしたお酒でエルシエワインと言うそうです。こちらは銀貨二十枚(二万四千円)」

「強気な値段ね。銀貨一枚もだせばそれなりのワインを買えるのに」

「それでも、期待はありますね。さすがの私も勤務中なので味見はできていないです」

「そう、なら私が目の前で飲んであげるわ」

「お嬢様、仕事中に昼間からお酒とはずいぶんと良い身分ですね」

「お酒一杯で仕事に影響が出るほど柔な体はしていないわ。それに、エルフを知るために必要なこと。これもお仕事だわ。じいも飲みなさい。仕事よ」


 女性は仕方ないと苦笑いしてからグラスにお酒を注いだ。

 甘酸っぱく、胸がすっとする香りがあたりに広がる。

 青い髪の少女と女性はグラスをぶつけて乾杯してから、ゆっくりと味わって飲む。


「いいお酒だわ。これなら、銀貨二十枚払ってもいい。甘いけど、その甘さが自然に消えていく。後味が最高だわ。程よい酸味、これクランベリーね。使っている水そのものが美味しいわ。すごく透明でいくらでも飲めそうなお酒。じい、買い溜めしておいて、気にいったわ。一人二本なら使用人十人ぐらい連れて行って。贈呈品用にももっておきたいの」


 青い髪の少女は心底驚いていた。

 エルフが用意した三つの商品はどれもよく売れ金になる。これほど魅力的な商品を作り出せるとは思っていなかった。

 これなら少量の荷物の輸送量かつ短期間でも莫大な儲けがでる。エルフの村のような小さな村なら月に一度程度でも村人全員を養えるだろう。


「いったい、どれほどの知識がエルフの新しい長の頭にはあるんでしょうね。本当に惜しい、小さな村じゃできないことも、エリンと私ならさせてあげられるのに……そういえばじいは、自ら買いに行ったのよね? 長らしき人はいたの?」

「はい、長と呼ばれている男性のかたが居たので間違いないかと」

「イケメン?」


 問われた女性は、自分の主の反応を予想して言いたくないとは考えつつも口を開いた。


「はい、イケメンです。でも、お嬢様よりも年下で十代半ばぐらいに見えましたよ」

「私、年下が好きなの。ますます欲しくなったわね。絶対に手に入れるわ」

「もし、断られたらどうします?」

「戦争よ」


 その一言で女性が身を固くする。


「正気ですか? 相手は四千五百人の帝国兵を蹴散らす化け物ですよ」


 その言葉を聞いて青い髪の少女は悪戯っぽい笑顔を浮かべる。


「別に殴りあうだけが戦争じゃないわ。文化でも侵略できるし、商業でも包囲戦が出来る。これも立派な戦争よ。それもエリンが圧倒的に優位なね。エルフの村はエリンという街がないと立ちいかないはずだわ。ひとまずは、エルフの村に行く準備をしましょうか」

「呼び出さないんですか? 今こちらに来ているのに」

「私がエルフの村を見たいのが一つ、あとは、こっちから出向いたほうが印象いいでしょ? 数日留守にしてもいいようにスケジュールを調整しないといけないわね」


 青い髪の少女は口笛を吹きながら、どうやってエルフの村の長をスカウトするかを考え始めた。


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