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エルフ転生からのチート建国記  作者: 月夜 涙(るい)
第三章 二十三対四千五百の戦争
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第十一話:イラクサ出陣

「遅くなりました。シリルくん、ルシエちゃん」


 家に戻って二時間ほど経ってから、俺とルシエの家にクウが来た。


「こんな日に呼び出して悪かったクウ。火狐の皆と居たかっただろうに」

「いえ、火狐の皆にも、シリルくんと過ごしたほうがいいって追い出されちゃいました。私もシリルくんと一緒に居たかったですし」


 俺はクウと見つめ合う。すると、ごほんっと咳の音が聞こえた。


「ルシエちゃん、ごめんなさい。その、悪気があったわけじゃないんです。ただ、ちょっと」


 正妻に対する引け目かクウが小さくなってルシエに謝る。


「いいよ。クウちゃんもシリルのお嫁さん候補だし、私に気を使う必要はないの。むしろ、今のは私が大人げなかった。ごめん」


 きっとルシエの咳払いはほとんど無意識だったのだろう。

 俺もルシエが俺の前で他の男といちゃつきはじめたら無意識のうちに腰にあるナイフで男の喉元に突きをいれかねない。

 二人同時に愛することを許してくれたルシエとクウには感謝しないと。


「明日から出陣だから、今日は三人だけでゆっくり過ごしたかったんだ。まずは、二人にプレゼント。この袋に服が入っているから、これに着替えてきて。その間に夕食の仕上げを済ませてしまうから」


 俺は、丁寧に包装された服を二人に手渡す。

 商業都市エリンで、俺のポケットマネーで購入したセミオーダーメードの高級服だ。

 店長にお願いして二人が輝く最高のコーディネートをしてもらっている。


「シリル、この服」

「こんなの、いつの間に用意したんですか?」


 さっそく包装を開けた二人。その服の仕立ての良さに驚きの声をあげていた。


「そんなことはいいから早く着替えてきて」


 可愛い服に身惚れながらも、疑問を浮かべる二人の背中を押して無理やり部屋から追い出す。

 服を見て、二人が着ている姿を浮かべるだけで幸せになれた。実物を見ればもっと幸せになれるだろう。楽しみで仕方がない。

 

 ◇


 料理が終わった頃、二人が戻ってきた。

 さっきから扉のほうに隠れて顔だけ出してこちらをうかがっている。


「二人とも早く来てよ。料理が冷めちゃう」

「うう、でもこんな可愛い服はじめてだから恥ずかしいよ」

「私もです。ちょっと服が可愛すぎて着こなせている自信が無くて」


 自信がなさそうに弱音を吐く二人。おしゃれをする機会なんて祭りの衣装を着るぐらいしか今までなかったせいだろう。


「ルシエもクウも二人とも最高に可愛い女の子だからそんな心配はいらないよ。ほら、今日はいつもより頑張ってご馳走を作ったんだ。美味しいうちに食べてほしいな」


 俺の言葉でようやく踏ん切りがついた二人が顔を若干赤くしながら出てきた。

 もじもじと両足を合わせて体の前で手を擦り合わせている。


「二人ともすごく似合ってる。ルシエは清楚で可憐。まるで妖精みたいだ」


 ルシエは白を基調としたフリルのついたお嬢様風のワンピース。全体的に明るく可愛らしいイメージでルシエの可憐さがより引き立てられている。


「クウのは綺麗で色っぽくて、どきりとするよ」


 クウの服は黒を基調に体のラインを強調しているドレス。一言で言えばエロい。クウのシャープな魅力を強調している。


 俺の言葉を聞いて二人が安堵の息を漏らして笑顔を浮かべた。そして嬉しそうにその場で回ったり、お互いに褒め合ったりして楽しそうだ。

 女の子が喜ぶのはおしゃれと甘いもの。それはいつの時代も変わらない。


「さあ、座って今日は二人の大好物を用意したんだ」


 俺はそう言って料理を次々と出していく。普段では考えられない贅沢だ。


「もしかして、シカのレバーのお刺身? 久しぶり! すっごく好きなんだ。嬉しい!」

「この前ルシエがすごく喜んでいたから用意したんだ」


 そのためにわざわざ今日の早朝から抜け出してシカを狩ってきた。

 俺の知る限り、ルシエがもっとも美味しそうに食べた料理がこれだった。


 前回と違って調理器具と材料が揃っているので、ひと手間加えることが出来た。表面を炙って特製ソースをかけている。商業都市エリンに行ったときに個人用に買ったハーブをふんだんに作った特製ソースだ。


「シカのシチューじゃないですか! 私、この優しい味が大好きなんです」


 クウが耳をピンと立てる。クウはシカで出汁を取ったスープが好きだ。どうも、はじめてエルシエに来たときに出されたスープの味が忘れられないらしい。


 今回はしっかりとシカの骨とスネ肉、それに干しキノコを煮込んで作った出汁をベースに小麦とヤギ乳を使ってクリームシチューを作っている。我ながらいい出来だ。


 他にも焼き立てのパンや、イノシシのステーキ、それにデザートに砂糖とヤギ乳で作ったホイップクリームをたっぷり乗せたパンケーキを用意してある。


「シリル、どうしたの? こんなご馳走一度に出したの初めてだよね」

「はい、私もびっくりしてます。火狐の村に居た頃でもこんなの見たことないです」


 二人は大好物を含めた豪華な料理に魅入っていた。

 涎を垂らしそうになるのを必死に我慢しているみたいだ。


「それは夕食の後、ほらグラスをだして」


 二人の目の前には、透明度が高く美しいグラス。机の上に用意されているキャンドルによって照らされ、不思議な気品がある。


「すっごく不思議な気分、まるで自分の家じゃないみたい」

「今日は私、驚いてばかりです」


 戸惑う二人のコップにエルシエワインを注ぐ、俺のグラスにはルシエが注いでくれた。


「三人の幸せを祈って乾杯」

「乾杯」


 グラスがぶつかる音が響く。

 それから、ルシエとクウは二人とも、最初は突然のご馳走に戸惑いつつ食事を開始したが、次第に料理に夢中になり、途中から我を忘れて食べ始めた。それだけの魅力がこの料理にはある。


 エルシエワインも、料理によく合い、二人の食欲をより駆り立てる。

 気がつけばたっぷり用意したご馳走も、デザートを含めてなくなっていた。


「ルシエ、口にクリームがついているよ」


 俺はルシエの口元についているクリームを指で掬って口に入れる。

 甘い。カスタード濃厚な甘さもすきだけど、ふんわりしたホイップクレームの軽やかさもいい。


 いつも、挨拶代りにキスをしているはずなのに、こんな些細なことでルシエは顔を赤くする。いつまで経ってもルシエは不意打ちには弱い。


「シリルくん」


 クウが声をかけてきた。わざとらしく口元にクリームがついている。

 俺は笑いをこらえて、身を乗り出し指ではなく直接舌でクリームを舐めとる。悪戯をしかけてきたクウに対するお仕置きだ。


「なっ、なっ、想定外すぎます」


 案の定、クウが驚きながら顔を真っ赤に染めた。

 ついに俺はこらえきれずに笑い出した。


「今日のシリル。いつもより楽しそう。本当にこのごちそうは何だったの?」

「もしかして、最後の食卓になるかもしれないから贅沢をしたってことですか?」


 二人の問いに対して俺はゆっくりと首を振った。


「違うよ。そんな後ろ向きな理由でご馳走なんて振るまわない。今日は三人の記念日なんだ」


 そう言うと今度は逆に二人が首を傾げた。


「ルシエ、何の記念日? わからないよ」

「私もです。全然想像がつきません」


 無理もない。なにせ俺は一言も話していないのだから。


「二人とも左手を出して」


 首を傾げたままルシエとクウが左手を差し出す。

 俺は二人の左手の薬指に、一カラットのダイヤモンドがついた銀の指輪をはめ、その後に同じものを自分の指にはめる。


「すごく、きれい」


 ルシエが熱い吐息を漏らす。


「はう、こんな綺麗な石見たことないです」


 クウも同じだ。まるで魂が奪われたように目が指輪に釘付けになっていた。


「今日はね、俺たちの婚約記念日だよ。さっきの料理と酒はそのお祝い。この指輪が婚約の証。人間の街だと結婚を約束した相手に指輪を贈る風習があるみたいだから、それにならったんだ。薬指に指輪をはめている女性は将来を約束した男が居るってアピールになって他の男は手を出せないから害虫避けに……ごほん、まあそんな意味があるんだよ」


 満足いく出来のものが作れるまで本当に苦労した。ダイヤは所詮炭素の塊なのでドワーフのクイーロであれば魔術で生成することは容易い。だが、独特の美しい多面体カット。いわゆるダイヤモンドカットをいれることが非常に難しかった。


 三か月間、何度も試行錯誤を繰り返しようやく満足のいくものが作れたのだ。ダイヤのカットだけでなく、ダイヤをより美しく見せるための銀の装飾にもかなり力を入れてある。


 そしてもっと大きなダイヤを用意できたのに一カラットにしたのは、指輪にした際にもっとも美しいサイズだと俺が信じているからだ。それ以上大きくなると、どうしてもどこか下品に見えてしまう。


 舞台は整った。なら最後は真っ直ぐに気持ちを伝えるだけだ。


「ルシエ、クウ。この戦いが終わったら結婚しよう」


 俺の言葉を聞いた途端、ルシエが真顔になって目からポタポタと涙をこぼし、それから口を開いた。


「シリル、嬉しい。うん、結婚しよう。すごく嬉しい。おかしいな。嬉しいのに涙が止まらない」


 涙はを服の裾で拭って顔をくしゃくしゃにしながらルシエは笑った。

 本当に喜んでくれている。


「私も、嬉しいです。すっごく嬉しいですけど、私も一緒で本当にいいんですか?」


 クウは胸元に指輪をつけた左手を引き寄せ右手で覆っている。絶対に指輪を奪われないようにしているみたいだ。


「もちろん、クウのことも大好きだから。結婚するときは三人で一緒だって決めていたんだ」

「そんな、嘘じゃないですよね? 私は二番目だから、ただの愛人で、ちゃんとした結婚なんて、絶対にしてくれないって思ってたんです。本当に、本当に、いいんですか?」

「俺はクウが欲しい。でも、無理強いはしないさ。クウが嫌ならすごく悲しいけど諦める」


 クウはこれ以上ないぐらいに大きく何度も首を振った。

 そして、ルシエと同じように泣き出した。


「嬉しいです。私もシリルくんのこと大好きだから。だけど、ルシエちゃん、いいんですか?」


 不安を隠しきれずに弱弱しい声でクウがルシエに問いかける。


「いいよ。シリルが好きになっちゃったんだもん。それにクウちゃんだから。他の女の子だったらもっと怒ってたかも」

「ルシエちゃんごめん。ううん、ありがとう」


 俺にとって二人が仲良くしてくれること、それが何よりの喜びだ。


「ルシエ、クウのことを許してくれてありがとう。クウ、二番目だなんて不誠実なことを言っている俺を愛してありがとう。俺は二人とずっと一緒にいれて本当に幸せだ」


 優しい口調で声をかけて、俺は立ちあがり二人の近くに歩いて行く。

 二人は俺の目をしばらくじっと見て、それから頬を緩めた。

 キスをしたい。確認の言葉はいらない。二人の目が、雰囲気が俺を受け入れてくれていた。だから、二人を抱き寄せてキスをした。

 その夜は俺の発案で、三人一緒の同じ布団で過ごした。いい夜だった。


 ◇


 翌朝。エルシエの正門にイラクサの二十名、そしてクウとユキノが集まっていた。

 全員防寒着を着込んだうえで、食料と水、下着の替えをいれたリュックを背負っている。


 リュックのほうは、ヒップベルトをつけて負荷がかかるポイントを分散している。些細なことだが、長時間の活動になると全然違ってくる。


「さあ、みんな行こうか。心残りはないな」


 イラクサの面々は無言で頷く。いい緊張感と言いたいが、少し硬すぎだ。


「よし、出発だ。帝国の連中を軽く叩きのめしてさっさと帰って来よう。こんな面倒な仕事はさっさと終わらせるに限る」


 俺の軽口を聞いて皆の表情が柔らかくなる。

 さっきよりマシな表情だ。


「では、イラクサの初陣だ。遅れるなよ」


 俺はそう叫ぶと同時に駆け出した。


 ◇


 俺の後ろに綺麗に二列にクウとユキノを含めたイラクサの面々が並ぶ。

 先頭の俺が【風避け】を発動し空気抵抗をほぼゼロにする。その効果は後列に居るイラクサの面々にまで及んでいた。


 普通の魔力量であれば、【風避け】と【身体強化】を同時に使えばそう長くは持たない。

 だが、魔力を数百人分もつ俺が全員分の【風避け】を肩代わりすることで後続は【身体強化】だけで済むし、火狐の二人は【身体強化】すら使わずに自前の足だけで十分スピードが出る。


「少しペースをあげる」


 風の抵抗がなくなるのは移動する上でかなりの強みになる。

 例えば時速40kmスピードを出した際には、運動エネルギーの約半分は空気抵抗に抗うために消えていく。それほどに空気抵抗の与える影響は大きい。逆に言えば風の抵抗さえなければ半分の運動エネルギーで同じ速度をだせる。

 【風避け】の影響範囲内であれば、【身体強化】を最低限にし力を抜き燃費重視で走っても時速40kmほどのペースでイラクサは移動できる。


 もちろん、【身体強化】を使えば魔力はもとより、筋肉のほうも無理に動かされることで悲鳴を上げ始める。強化幅を落としても三~四時間後にはズタボロになってまともに動けなくなってしまう。


 だが、それも問題ない。


「よし、ここで一時間の休憩だ」


 三時間ほど走った後に、足を止め開けた場所で休憩を取る。みんなが座り込み、水分と特製クッキーで補給をするなか、俺は一人一人の背中に手を当て【自己回復力強化】の魔術を使用し、痛んだ筋肉を急速に回復させる。


 一時間の間に全員分の筋肉を補修し、自身の水分・カロリー補給を済ませる。

 筋肉が痛んだなら治してしまえばいい。俺ならそれができる。


「休憩は終わりだ。そろそろ出発しよう」


 俺の声に誰も嫌そうな顔をしない。魔力の消耗以外は癒されているおかげだ。

 魔力が切れない限りイラクサは高速移動が可能だ。この一連の流れが俺たちの進軍速度を支える。

 

 イラクサの面々は力を抜いた【身体強化】であれば三時間、二セットまでなら対応できる。つまり、俺が居れば一日で240kmを走破するとんでもない進軍速度を持っているのだ。


 日が暮れる前に合計200kmもの進軍をし、帝国の都市と補給基地の間にある小屋にたどり着いた。ここから帝国まで20kmというところにこの小屋はある。


 近くの街道の状態を見るに大軍が通った形跡はない。まだ帝国はここまでたどり着いていない証拠だ。


 ここをいれて二つ帝国の補給基地までの道のりの間に特製高カロリークッキーと矢を大量に保存し、井戸を掘った小屋を用意してある。この人数であればこの小屋にある物資だけで二か月は生き延びられる。

 おかげで気軽にこの小屋で待ち伏せができる。


 食料の他には俺が作った望遠鏡も用意してある。

 この小屋は決して見つからないように街道から800m離れた深い森の中に建築されているが、それでも、1km先まで見ることが出来る望遠鏡なら小屋の付近から街道の監視が出来るのだ。


 ◇

 

 この小屋にたどり着いてからイラクサの面々に交代で街道を監視させていた。その間は保存食の消費を避けるために主に森で獲物を獲ってそれをメインの食事にして、それなりに楽しむ余裕すらあった。

 

 そして、この小屋にたどり着いてから三日後のことだ。


「長、ついに帝国兵が来たぜ」


 監視をしていたロレウが帝国を捉えた。

 ようやくか、待ちくたびれた。


「みんな戦闘開始だ。勝つぞ! エルシエで待つ友のために」

「「「おう」」」


 勢いよく俺たちは小屋から出る。

 そうして四千五百対二十三の戦争が始まった。

 


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