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エルフ転生からのチート建国記  作者: 月夜 涙(るい)
第三章 二十三対四千五百の戦争
41/105

第二話:二重スパイ

今日から累計200位突破記念。三日連続更新をします。

みんな、応援ありがとう!

 火狐達を差し出すというラッファの言葉に俺は首を振り、口を開いた。


「ダメだ。火狐を差し出したところで穏便に済む保証はない」

「だから、火狐さえ差し出せば大丈夫なんだよ! 信じろよ!」

「一体何を根拠にそう言っているんだ」

「それは……、ともかく、火狐さえ差し出せば助かるんだよ」


 必死にラッファは言い募る。だが、俺は奴が裏切り者だと知っているし、そもそも……


「仮にそうだとしても、火狐達はエルシエの民だ。俺は、民を売るつもりはない」

「火狐が仲間だ!? 何言ってるんだ? ここはエルフの村だ!」


 ラッファの怒声にクウの肩がぴくりと震える。

 俺は、クウの肩を抱きたい衝動を堪える。ここでそれをするのは弱みを見せることになる。


「根拠のない話は信じられない。エルフだけでは勝てないことは以前、説明した。今後、火狐だけじゃなく、状況に応じて他の種族も迎え入れる。そのためのエルシエだ。もう、ラッファ、おまえは黙っていろ」

「黙らない。みんなはどう思う? 敵は三千、いや、もっと来る。戦っても勝てない。降伏するしかない。俺が言っていることが正しいってわかるだろう? それだけじゃない、火狐さえ、奴らさえ渡せば!」


 必死にラッファは周りを見渡す。だが、誰も頷かない。

 そんななかロレウが口を開いた。


「ラッファ、絶望的な状況なんていくらでもあった。それでも長は勝ってきた。だから俺は長を信じるし、その精鋭とやらに志願するつもりだ」

「ロレウ、気が触れたのか?」

「それにな、裏切り者の言葉を信じると思うか。長、もういいだろ?」

「ああ、構わない」


 その瞬間、ロレウの合図でエルシエの自警団が現れてラッファを押さえつけた。ラッファは鬼のような形相で顔をあげて俺を睨み付けてくる。


「ラッファ、騙すような形になってすまない。おまえが帝国兵と密会してエルシエの情報を漏らしていることは知っていたんだ。

 現場を見ている者が居るから言い逃れはできない。今まで見逃してやったのは、漏らしてくれたほうが有益な情報しかなかったのと、他に密告者が居ないか調べるためだ」


 今日もこの場でラッファに同調するものを探すためにあえて彼を煽っていた。数日の調査と、今日の反応でラッファ以外は居ないと結論は出た。


「火狐を差し出せば助かるっていうのは、帝国から、そう吹き込まれたから言ったのか?」

「ああ、そうさ。だが、俺の言ったことは本当だ。だから火狐を差し出せば助かる。そう帝国の奴は言ってくれたんだ」

「何度も同じことを言わせないでくれ。俺は仲間を売らない」

「ちくしょう。なんでだよ。そうしたほうがいいに決まってんだろう。なんでわかんないんだよ!」


 ラッファの怒声があたりに響く。


「ラッファ、どうして俺たちを裏切った。おまえがもし致命的な情報を漏らしていたら、エルシエは滅んだかもしれないんだ。エルフも、火狐も関係なく皆が死ぬか、帝国の奴隷になっていた」


 もっとも、ラッファには致命的な情報を一切与えていない。

 懸念されたのは、クロスボウそのものや、クウがエルシエに来たときに託してくれた火の魔石を盗まれて流される等のリスクだが、クロスボウにはそれぞれシリアルコードを掘りこんでおり、各人で厳重に管理させ紛失すれば多大な罰を与えると明言してあるし、倉庫のほうには、信頼できるエルフたちに交代制で二十四時間監視させている。

 ラッファには、そのどちらも不可能だった。


 だから、できることと言えば、情報を漏らすことぐらい。戦える人数や、クロスボウの性能、個人単位の戦力。


 そんなものは、とっくに露見している。帝国が新たに得た情報と言えば、俺がブラフで言った俺よりも強い連中が山ほどいるという嘘がばれたことぐらいだ。これはラッファを動かすための餌だったのでまったく問題がない。


「……話してくれたんだよ。帝国のルルビッシュって奴が、エルフが生き残るためには、それしかない。俺のしたことは、裏切りかもしれないが、エルフを救うための行動になるって」


 なるほど、そういう理屈か。無謀な戦いを止めさせるためにあえて汚名を被る。

 そう思い込ませることで、罪悪感を無くさせる。


「それに、エルフが降伏すれば、返してくれるって言ったんだ。連れ去られた俺の妻を。まだ生きているってルルビッシュの野郎が言っていたんだ。なあ、シリル、もしお前がルシエを連れ去られて、同じことを言われたら、どうしたんだよ!? ルシエを見捨てたのか? お前にそれが出来るのか?」


 さっきと趣旨がずれている。あえて、エルフのために裏切り者の汚名を被ったと言ったすぐ後に、人質を取られて仕方がなかったと喚く。

 ラッファはまともな精神状態ではない。


「俺なら、帝国の言葉に従わない」

「口だけならなんとでも言える! それとも、おまえは、好きな女を見捨てる血も涙もない男なのか?」

「違うよ。帝国に従っても絶対に戻ってこないからだ。考えてみろ。火狐を手に入れた帝国が、どうしてわざわざ用済みになった相手に、報酬を渡す必要がある? それも貴重な魔石の材料を、しかもその数を増やせる女を」


 今まで、女を強引に攫わなかったのは、エルフ同士のほうが圧倒的に妊娠しやすく、エルフの村で勝手に増えるのを待ったほうが効率いいし、ついでに税が徴収できたからに他ならない。


 満足に、エルフから生贄を確保できなくなれば、例え非効率でも女は数を増やすために使うと言う発想になるに決まっている。


 俺は、そもそも今もラッファの妻が生きているとは信じていないし、生きていたとすれば数少ない帝国側の貴重な女性のエルフを手放すとは到底思えない。


 生贄に女性は滅多に選ばれなかった。選ばれたのは、流行病にかかったラッファの妻や、体がひどく弱いルシエの妹や、かなり高齢の女性等、労働力としても母親としても期待できないエルフばかりだ。そんな彼女たちを生かしておくとは思えない。


「人質か……。ラッファ、そんな事情があるならどうして言ってくれなかったんだ?」

「言ったら助けてくれたのか!」

「もちろんだ。貴族様の人質が居ただろう。知っていれば、その人質と交換をする交渉だって出来たんだよ。貴族様の命だ。うまくいけば、エルフの一人や二人助けられたんだ」


 もっとも、生きていればの話だが。


「そっ、そんな、でも、金が、金が必要だったんだろう。シリルは人質交換で金を手に入れてたじゃないか」

「金なんてその気になれば、いくらでも他の方法で稼げる。俺は絶対に仲間を優先した。ラッファ、どうして俺を信じてくれなかったんだ? あのとき言ってくれていれば、そうすれば助けられたのに……もう、今は、帝国と交渉するカードがない」

「だから、火狐を差し出せばいい! そうだ今からでも遅くない。正式にシリルが長として火狐とエルフの交換を」

「ラッファ。俺はエルシエの長として、エルフと火狐を同列に扱っている。誰かを助けるために、誰かを差し出したりはしない。おまえは失敗したんだよ。俺たちを裏切る前に全て話すべきだった。もちろん、本当にエルフが捕らえられて生きているなら、助ける努力をする。捕虜が得られたら、交換するように掛け合おう」


 その言葉を聞いて、ラッファは大きく目を見開いて、大声をあげる。


「なんで、なんでだよ。なんで、この村に居るはずのあいつが居なくて、居ないはずの火狐が居るんだ。おかしいじゃないか! 裏切り者! エルフならエルフを優先しろ!!」


 クウを指さして、なんで、なんでと壊れたように繰り返す。


「それに、シリル! おまえは俺に『どうして早く話してくれなかったのか?』 と聞いたな。なら、俺は逆にお前に言ってやる。どうして早く立ち上がってくれなかった! お前は強いよ。なんでも出来るよ。

 だったら、どうして、あと二年、いやあと一年早く行動してくれなかったんだよ。そうしてくれていたら、俺は妻を失うことがなかった。なんでだよ。どうして、出来るのにやらなったんだ!? ルシエが危険に晒されるまで、他の連中はどうでもよかったってことか? なあ、どうなんだよシリル」


 鬼気迫る表情。確かに、そんなことを考えているエルフは居るだろう。

 どうしてもっと早く。その言葉が俺の胸をえぐる。


「そのときの俺に勇気と力が無かったからだよ」


 そう言うと、ラッファが、自分を抑えていたロレウの部下を振り払い、殴りかかってくる。ロレウがその拳を受け止めて再び抑え込み、そして口を開く。


「長を恨むのはお門違いだぜラッファ。おまえがそのとき、戦うべきだったんだよ。人任せにするんじゃなくてな」

「俺はシリルみたいな超人とは違う、普通のエルフだ!」

「そうやって簡単に諦めたお前に、長を責める資格はないさ」


 ロレウの言葉がとどめになり、ラッファは崩れ落ちた。


「ラッファ、おまえに一つ仕事を頼みたい」


 この状況で俺はあえて切り出す。

 ラッファは当然のように答えない。


「二重スパイだ。帝国が連絡してきたときに俺の言った情報を流してほしい。報酬は、人質交換が可能な状況で最優先にお前の妻を指定することだ」


 その言葉にラッファは顔をあげる。


「そもそもだが、どうしておまえは帝国に攫われた妻が生きていると信じている?」

「生きていると、奴らが言っていたからだ」

「つまり、おまえが騙されている可能性があるんだな」


 俺の言葉に、ラッファは口を開けて阿呆みたいに固まる。本来なら真っ先に疑うことのはずなのに。……エルフ自体、人が良く、疑うことを知らないところはある。だけど、ラッファはそう信じたい心の弱さに付け込まれている。


「報酬をもう一つ上乗せしよう。生きているかどうかを確認させてやる。帝国は死ぬほど欲しがっている、これを使っていい」 


 俺は火の魔石を一つ、ラッファに手渡した。


「情報を流した後に、これを、エルシエの倉庫から盗み出してきた。妻と交換しろと持ち掛けろ。それは、一蹴されるだろうが、こう食い下がれ、せめて一目合せてくれ。

 もし、それすら渋るようなら、既に死んでいるだろう。面会が許されれば、その場で俺が確実に奪還してみせる」 


 事前にクウから許可は得ている。彼女たちが持ってきた形見。クウはエルフの仲間を救うためにそれを使っていいと言ってくれた。


「おっ、俺は」


 ラッファは長く葛藤し、そして、


「二重スパイをやる」


 そう言った。

 彼にとっては唯一妻を助けられる道だ。断れるはずがない。


「そうか、なら次に帝国に会う時にこう言ってくれ、エルシエは鉄の精錬技術とクロスボウの設計図をコリーネ王国に提供することで、食料と資金、そして兵の支援を受けようとしている」

「おい、長、そんなことをすれば」


 ロレウが慌てふためきながら口を挟んでくる。


「必死になって襲ってくるだろうな。それこそ、無理をして、さらに兵を増やしてまで、雪が溶けてから可能な限り早く」


 なにせ、帝国は他の国にはない鉄の精錬技術によって、工業、武力共にアドバンテージを得ている。コリーネ王国のような大国が自分達以上の鉄の精錬技術を得るなんて言語道断だと思うだろう。


 そして、それだけの対価があれば、コリーネ王国はエルシエを守るために兵を出すことをためらわない。数千は引っ張って来ることができる。


 実際にこれは、俺の案の一つにあった。この方法でも勝つことはできるだろう。だが新たに、より強力な敵を作ることにつながりかねない危険な手でもある。


 もし、俺がコリーネ王国を指揮する立場なら、他に情報を漏らす前に消す。


「長、それがわかっていながら、煽るようなことをするんだ」

「足かせは多いほどいいだろう? 今回の作戦は……」


 俺はその場で、今回の作戦を話し始めた。

 その悪辣さと、容赦のなさ、そして確かな勝ちへの道筋。それを感じ取ったここに居る面々は息を呑んだ。足かせが多いほどよく、可能な限り襲撃が早いほうがいいと言う意味はわかっただろう。


 だからこそ、ラッファを使って帝国の危機感を煽り、可能な限り、帝国の兵士を増員させたい。そのためにラッファを生かしている。


「長、だから二十人の精鋭に、火狐二人なのか。普通のエルフじゃ絶対に無理だ。徹底的に鍛えなきゃならねえ。長が教えれば、精鋭って言うのは、そこまで出来るようになるのか?」

「もちろん、俺の弓の腕は知っているだろう? あれは、【知覚拡張】という魔術のたまものだ。俺が教えたルシエはもう使える。素質がある二十人に絞って練習させれば、雪が溶けるまでに実践レベルまで引き上げることができる」


 精鋭である最低限の条件、【知覚拡張】と【身体強化】。この二つを使いこなせること。

 俺が教えればと言ってはみたが、普通のやり方では無理だろう。どちらも繊細な魔術だ。真面目にやれば習熟だけで、普通、数年はかかる。


 ルシエが【知覚拡張】をものにしかけているのは、彼女の才能が異常なだけだ。


 だから【輪廻回帰】を使う、その中に、ただの人間だがそういうことに長けた俺が居る。一日一人ぐらいならなんとか、修得させられるだろう。


 【知覚拡張】は狙撃に必須のスキルだ。視界が無くても正確な位置を掴むことができるので、隠れた兵を見つけられるし、自身を狙って近づく敵にも気付き、不意打ちは絶対にうけない。さらに、夜だろうとまったく苦にしない。


 【身体強化】があれば、手でクロスボウが引けるので、わざわざ地面に押し付ける必要がなくなり、連射性能が跳ね上がる。さらに【知覚拡張】で早期に敵の接近に気づき、【身体強化】で得た速さがあれば、よほどのことがない限り確実に逃げることができる。


 どんな状況でも狙撃が出来て、なおかつ絶対に敵に捕まらない兵士。その存在は反則に近い。


「すげえな。俺も長みたいな化け物になれるってことか」

「そうだ。もともと、エルフにはそれぐらいできる資質がある。ただ、みんなその鍛え方を知らないだけだ」


 周りが生唾を飲む。

 今回は二十人の精鋭を育てるのが精いっぱいだが、もし今後、全てのエルフがそうなればと考えてしまう。


「ラッファ、今の話は帝国に絶対に聞かれてはいけないほうの情報だ」


 そう、作戦そのものも、エルフの狙撃兵の性能も。


「あえて話したのは俺がラッファを信じているからだ。ラッファがエルシエの今後を考えて、降伏する道を選んだことも、そして妻を助けたいと言う気持ちも、ちゃんと理解しているよ」


 そう言って微笑みかける。


「ラッファも、この戦いは勝てるとわかってくれただろう? 帝国が約束を守って妻を返してくれることにかけるよりも、俺に従ったほうが帰ってくる確率が高い。だから、ちゃんと俺の言ったことだけを話してくれるな」

「シリル……いや、長、ありがとう。裏切りものの俺のために、ここまで考えてくれるなんて」


 ラッファが感極まった声を出す。エルシエを裏切り危険に晒そうとしておいて……虫唾が走る。


「ラッファ、もし妻がもう死んでいたらどうする?」

「絶対に許さない。何をしてでも、奴らに復讐してやる」

「そうか、覚悟だけはしておいてくれ」

「……そうだな」


 神妙な顔でラッファは頷いた。


「次からは、ラッファが帝国と会う時には、俺も隠れて見守っておくよ。いざというとき、ラッファを守れるようにね。だから、合う時は事前に伝えてほしい」

「長が居ると心強い、感謝する」


 俺は笑顔の裏で、まず、俺が知らない間に密会しようとしてもわかるように継続して監視させること、そして密会の場で都合の悪いことを話せば殺そうと決めていた。


 奴は俺の【知覚拡張】が音まで拾うことを知らない。

 疑わないわけにはいかない。エルシエの二百五十人の命を預かっているのだから。


 俺はラッファを許していない。奴はエルシエ全体を危険に晒していた。もし、利用価値が無ければ、容赦なく断罪しただろう。


 ◇


 その後、具体的な精鋭の選出方法などを話し合ってから解散した。

 もう夜になってしまった。色々と物騒なのでクウを工房まで送って行く。


「クウ、あの場では庇ってやれなくてすまない」

「ううん、シリルくんが、エルフと火狐を同列に扱うって言ってくれたのは嬉しかったです。さすが、私の旦那様」

「クウも、俺の自慢の嫁だよ」

「二号さんですけどね」

「二号でも嫁は嫁だ」


 俺とクウは、お互いに笑いあう。


「シリルくんの作戦、こんなことを言うと不謹慎かもしれませんが、聞いていてわくわくしました。とどめは、私たち火狐の力が必要で、自分の手で仇が取れることが嬉しいんです」


 そして、クウは首飾りにぶら下げた。血のような真紅の宝石を手で撫ぜる。それはクウの兄の形見……火狐の魔石だ。


 彼女は、これを使い潰して帝国に復讐を果たす。

 特定の属性のマナに愛されているエルフや火狐は、魔術の補助に魔石を使うことはできないが、魔石を使い捨てにすることで一度きりの強大な魔術を行使できる。


「クウ、おまえは長だ。直接手をくだすべきじゃない。危険なことは、もっと向いている奴に任せるべきだ。おまえに何かあれば、火狐達をまとめられなくなる」

「シリルくんだって、長のくせに先頭に立って戦うつもりなんですよね?」

「俺が一番強いからね」

「なら、私も一緒です。今、唯一の黄金の火狐です。私が一番うまくできます。もう一人は、ユキノを選びます。彼女は白銀だから」


 火狐は髪と尻尾の体毛にいくらか種類があり、黄金と白銀は他と比べて飛び抜けた力をもっている。


「クウはともかく、ユキノはまだ子供だ」

「それでもです。私たちは小さな頃から特別視されて、優遇されてきました。先頭に立って戦うのは義務です。少数精鋭での戦いを行う以上、勝つためには、少しでも強い人が戦わないといけない……フォローはしますし、ユキノはシリルくんが思っているよりずっと、強くて、仲間想いの子ですよ。ケミンがリーダーのように見えて、本当はユキノが皆を支えているんです」

「そうか、可愛いだけじゃないんだな。……クウに任せるよ」


 確かに強い気持ちと力があれば、子供でも大人でも関係ない。俺だってまだ十四の若造だ。


「シリルくん、一つ聞いていいですか」


 クウが不安と期待の入り混じった声で俺に問いかけてきた。


「シリルくんは火狐とエルフを区別しないと言ってくれました。だけど、もしルシエちゃんと私のどちらかを選ばないといけない状況になったらどうします?」


 俺はすぐに返事をすることができなかった。

 答えに迷ったわけじゃない。そんなものは決まっている。選ぶとすればルシエだ。だけど、それを口にできるほど、クウを愛していないわけじゃない。


「ありがとうございます。その顔を見ればわかります。即答しないぐらいには私のことも思ってくれてるってだけでも感謝です」

「……クウ、俺は、どちらかなんて状況を作らない。二人とも幸せにする」

「そのことは疑ってないですよ。でも、やっぱり、女の子としては、いつかシリルくんの一番になりたいなと思うわけで」


 クウはそこで一度言葉を切って、そして微笑み、


「シリルくんにいっぱい好きになってもらえるように頑張りますね」


 そう言って笑った。

 それに笑みで返して俺は口を開いた。


「クウ、火狐の家に帰る前に俺の工房に来てくれないか」

「はい、喜んで。ですが、お願いがあります。シリルくんの工房の窓、布か何かで隠してもらえないですか?」

「どうして?」

「たまに、あの三人が覗いてるみたいなんです。様子がおかしかったのでこの前問い詰めたらクロネが話してくれました」

「……それは教育上よくないな」


 俺たちは苦笑して、確か、売るために作っていた毛布があったと考えながら帰路を急いだ。


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