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第十一話:ルシエとクウ

 エルシエに戻ってから、旧村長宅の隣にある倉庫に向かう。

 倉庫には食料と貴重品をしまっているので、今日獲得した金貨を保管する。ここ以外だと俺の工房ぐらいしか鍵がついている場所がない。


 金貨が詰まった袋を馬車から取り出すのだが、かなり重い。

 なにせ、金貨は小さなコインだが、金そのものが重く、帝国の金貨は純度が高いので、一つ40gほどの重さがある。それが二千枚もあるものだから、80kgにもなる。


 それを苦労して担ぎ込んでから、麻袋も一緒に倉庫にいれる。

 そして、その麻袋を開き、500gほど中身を小さな麻袋に小分けする。

 中身は、黒砂糖だ。


「生きている内に手に入るとは思わなかったな」


 砂糖はひどく貴重だ。原料となるサトウキビは温暖な気候でしか育たず、エルシエや帝国はおろか、この大陸では収穫できない。そのため海を渡った輸入に頼る必要がある。


 しかし、造船技術、航海技術が未熟、海底の地形が複雑なせいで周辺の海は荒れている。しかも近海に住みついている水精族は自身のテリトリーを冒されると思い、怒って船を沈めるので、輸入品そのものが高価だ。


 付け加えて、帝国はかなりの内陸部にあり、港のある都市からもたらされるものは、いくつもの都市や関所を通るため、その度に関税をかけられる。


 それなのに、砂糖の需要は非常に高く、甘いものを食べられるのは、金持ちや貴族のステータスだと、見栄の張りあいまで起こり、1kgの砂糖が金貨一枚(六万円相当)で買えれば運がいい。そもそも、いくら金を出しても手に入らないなんて愉快な状態になっているのだ。


 この10kgの砂糖だけで金貨十枚(六十万円)はするだろう。


「甜菜の根から砂糖を作る方法が広まればだいぶ変わるとは思うんだけど、難しいだろうな」


 俺は何気なくぼやいてしまった。砂糖の原料になるのは、サトウキビだけじゃない。

 代表的な例に、寒冷な気候でも育つ甜菜と言うものがある。別名を砂糖大根と言う。

 根が肥大化する植物で、その根を千切りにして茹で、その汁をろ過し、結晶化させれば見事な砂糖ができる。

 その質と、栽培のしやすさから地球ではサトウキビよりも、甜菜から出来た砂糖のほうが多く出回っているぐらいだ。


 甜菜、そのものはなくても、その代用品になる植物は探せば見つかるかもしれない。

 そして、もう一つ砂糖を得る方法がある……


「エルシエのことだけを考えるなら、甜菜そのものも、そこから砂糖を作る製法も、一生見つからないほうがいいかもしれないな。そっちのほうが、冬にしか取れない俺たちの特産品の価値を保てる」


 そう、この甘味がまったく出回らず、需要が極度に高まっている状況を商売にする方法を俺は考えていた。

 エルシエだけの完全な自給自足は不可能、そして今日のような臨時収入を得る機会なんてそうそうない以上、早急に安定した収入源、それも外貨を得られるものが必須だった。


 あと二か月もすれば、形に出来るだろう。

 さて、倉庫での用事は終わったし、プライベートのほうを片付けるとしようか。


 ◇


 俺とルシエの家に戻った。


「シリル、お帰り。今日はどこに出かけてたの?」


 ルシエは先に家に帰っていたみたいで笑顔で出迎えてくれた。


 冬に向けた準備がほぼ終わり、エルフ達はみんな暇になっている。逆に火狐のほうは、俺が買ってくるヤギを出迎える準備や、村の特産を作るための下準備で、大忙しになる予定だ。


 エルフに仕事を振ったほうがいいとも思うが、火の魔術がないと作業効率が極端に落ちるのと、火狐達の有用性を示すために、あえて火狐だけに負担を押し付ける。


 火狐の皆は俺を信頼してくれているし、クウが居る。なんとか納得してもらえるだろう。


 そっちよりも、最近、エルフたちの中で俺が火狐達ばかり構ってエルフを蔑ろにしているだとか、火狐を贔屓しているという噂がちらほら流れているほうが不味い。

 昨日の親睦会で解消されたと信じたいし、そうでないなら早急に手をうたないといけない。


「今日は、帝国の偉い人とあって、人質と身代金の交換をしてきたんだ。これで当分は、金に困ることはなくなったよ」


 それを聞いたルシエが、ぴくぴくと震えながら、なっ、なっ、なっ、と声にならない声をあげる。


「どうしてそんなこと一人でするの! 事前に話してよ」

「事前に話せば心配かけるし、ついて来るって言い出す奴が、一人、二人出て来るだろう? 説得が面倒だったし、時間もなかった」


 今日の状況だと、誰かを守りながら戦う余裕はなかった。一人で行ったからこそうまく立ち回れたのだ。


「わかるけど、シリルの言うことはわかるけど、それでもやっぱり寂しいよ」


 ルシエが小声でそう言う。

 彼女は、自分を必要だとされていないことが悲しかったんだろう。


「ルシエ、今日みたいな状況だと俺一人が良かったけど、俺一人じゃダメなこともたくさんある。その時はちゃんと、ルシエ達の力を借りるよ。早速だけどね、お願いがあるんだ」


 ある意味、ここからが本題だ。


「明日、コリーネ王国の商業都市エリンに買い出しに行こうと思う、一緒に来てくれないか。ルシエの力が必要なんだ」


 色々と考えた結果、買い出しは俺一人では無理だと結論付けた。ルシエとクウの二人は最低限必要だ。


「……私が必要なんだね」

「もちろん、ルシエじゃないと駄目だ」

「わかった! 一緒に行くね」


 ルシエは嬉しそうに笑顔で頷いてくれた。

 俺はそれを見て苦笑する。

 きっと、彼女は俺に頼って欲しかったんだろう。そんなこと気にする必要はないのに。

 どんなに俺がルシエに助けられているのか、それをどうすれば伝えることができるのだろうか。


「シリル、一緒に行くことはいいんだけどね。今日みたいに、何も言わないのはやっぱりやめてほしい。わがまま言わないし、シリルを困らせないから、せめて私にだけは話して。じゃないと、シリルが目の前に居ない間、また危険なことしてないかって、ずっと不安に思わないといけなくなるから、駄目?」


 上目使いに見てくるルシエ。

 そんな彼女がたまらなく愛おしくて頬に手を添える。


「ごめん、俺が悪かった。そうだね。なんにも言ってくれないと心配させちゃうよね。今度からはちゃんと、ルシエには全部話すよ」

「うん、そうしてくれると嬉しい。……シリルのことは何でも知っておきたいから」


 どうしてこんなにルシエには笑顔が似合うんだろう。

 それだけに、クウのことを切り出し辛い。


 内心で冷や汗をかきながら、ルシエの頭を撫でる。子供扱いするなとルシエは口では言うが、彼女の体は正直で、それをいつも喜んで受け入れてくれている。


「それじゃ、ご飯にしようか、いっぱい動いたからお腹空いたんだ。すごい材料が入ったから楽しみにしていてね」


 俺はルシエの頭から手を離し厨房の石かまどに向かう。

 さて、色んな意味で命がけの特別料理を作ろう。


 ◇


「はい、ルシエ出来たよ。作り立てが一番美味しいから食べて」

「すっごく香ばしくて甘い匂い。これ何?」

「ドーナッツっていうお菓子だよ。たまにはいいかなと思って」


 今回作ったのは、こんがりとキツネ色にあがった拳よりも二回り小さいまるいお菓子だ。

 作り方は簡単、小麦粉に水と砂糖を混ぜ合わせて作った固めの生地を適量にまとめてラードで揚げ、最後に表面に砂糖をまぶしたものだ。

 ドーナッツというより、サーターアンダーギーに近いが、呼びにくいのでドーナッツと言い切った。


「甘い。こんなに甘いの初めて、幸せ、ほっぺた落ちちゃいそう」


 甘いものが大好きなルシエはいつも以上に幸せそうに、ドーナッツをパクリパクリと食べていた。

 俺からすれば、ベーキングパウダーも鶏卵も入っていない物足りない品だが、砂糖の強烈な甘さを経験したことがないルシエにとっては、人生初のご馳走だろう。


「ルシエ、お替りを揚げるからもっと食べていいよ」

「うう、お替りしたいけど、少しでも長く楽しみたいから我慢する。こんなに甘いのどうやって作ったの?」

「砂糖をぶち込んだ」

「砂糖!? そんなのよく手に入ったね。本物を食べたの初めて」

「うん、帝国の交渉に来た人がくれたんだ」

「帝国にもいい人が居るのかな?」

「そうだね。まともな帝国軍人は初めて見た気がする」


 今までで、初めてあった優秀な軍人だ。彼が指揮を執るなら、今度の戦闘は気を引き締めていかないといけない。

 エルシエの皆の経験値なんて言っている場合じゃない。手段を選ばずに処理をする必要があるだろう。


「みんなの分もある?」

「残念だけど、皆に配るのはきついかな」


 10kgの砂糖は、エルシエの一人一人に配るには少なすぎる。


「私だけ贅沢しちゃった。ねえ、シリル、私はもういいよ。でも、どうしよう。残った分、どうやってわけよう。どうしても不公平になっちゃう」


 ドーナッツを見つめながらルシエが頭を抱えている。どうしたって全員に行き渡ることはないとわかっていても諦められないんだろう。

 今日の感動を皆に分かち合いたいとルシエは考えているはずだ。


「大丈夫だよ。砂糖は、そのまま配ることは難しいけどね。甘い汁物のお菓子にして、いつか皆に振る舞うから。だから目の前にある分は気兼ねなく食べていいよ」

「でも、なんかズルしたみたいで」

「金貨のほうは、長としての仕事で獲得したけど、砂糖は俺が個人的にもらったものだから、本当は全部、俺のものだ。けどね、ルシエがそういうの嫌がると思って、みんなに振る舞うことにした。ルシエが、そのドーナッツ食べてくれないなら、残りの砂糖は全部俺が一人占めしちゃうよ」

「シリルっていつも、そういうずるいこと言うよね。そんなこと言われたら、食べるしかなくなるよ。……でも、ありがとう」


 ルシエが笑顔でドーナッツを頬張る。

 その笑顔を見るだけで頑張った価値があった。でも、その笑顔を凍りつかせることを言わないといけない。


「その、ルシエ、謝らないといけないことがあるんだ」 

「何、かしこまって」

「クウに好きだと言われたから、好きだと言って、抱いた」


 その言葉を聞いた瞬間、ルシエがドーナッツを取り落とす。


「シリル、クウちゃんを、好きになったの?」

「ああ、クウの一生懸命に頑張るところに惹かれていたし、俺が振ると自暴自棄になりそうだったから断れなかった」


 ルシエが目に涙を溜めて、泣きそうな顔をした。胸が痛む。


「ねえ、もしかして、私がさせてあげなかったから? 私だってしたかったけど、お祖母ちゃんと結婚するまでしないって約束したんだもん、でもシリル、結婚はエルシエが平和になるまでしないって言うから」

「違うんだルシエ!」

「何が違うの? 他に理由があるの? 私を好きじゃなくなったのはいつ?」

「ルシエのことが嫌いになったわけじゃない。今でも世界で一番愛しているのは変わらない」

「だったらどうして、クウちゃんとそういうことするの?」

「クウのことも好きだからだ。ルシエを一番愛していて、二番目がクウなんだ」


 俺の言葉を聞いてルシエが信じられないと言う顔を浮かべた。祖母が貞操観念に厳しい人だったので、愛する人が二人いると言う俺の言葉に驚いている様子だ。


「……シリル、もしだけどね。私が、シリルのこと一番好きだけど、他の男の人も好きなったって言ったらどう思う?」


 ルシエは、普段は見せない冷たい目で俺を見て、小さな声でつぶやいた。


「すごく悲しいよ。それに、胸が苦しくなる」

「私が、シリル以外の男の人と寝たらどう思う?」

「気が狂いそうになるな。たぶん、俺はルシエも、その男も許せなくなる」

「私は今、ちょうどそんな気持ち。ねえ、シリル。どうして隠してくれなかったの? 私は、こんなこと聞きたくなかった。大好きなシリルも、友達のクウちゃんも、嫌いになんかなりたくないよ。私の知らないところで、付き合ってればよかったのに」


 それは、俺も考えた。だけど、


「それは嫌だ。ルシエにも、クウにも不誠実だ。だから、全部話すことにした。勝手な話だが、それでも俺を好きでいてほしい。俺だけのルシエで居て欲しいんだ」


 俺は自分の自己満足のためにルシエを傷つけているのかもしれない。それでも、ちゃんと話すべきだと決めた。


「本当に私のこと愛してる?」

「ああ、世界で一番愛している」

「同じ言葉、クウちゃんにも言ってない?」

「クウには、好きっていうときに世界で二番目に好きだ。それでいいなら付き合ってくれって言ったんだ」

「……クウちゃん、よくそれを受け入れたね」


 ルシエは押し黙って、色々と考えてからゆっくりと口を開いた。


「私の理性はね、シリルのお父さんも、前の村長も、三人もお嫁さんが居て、血を残すためにはそういうことが必要で、長ってそういうものだし、男の人ってたくさんの女の人を愛す生き物だって言っているの」


 ルシエは絞り出すようにそう言った。


「でもね、私の感情はね。悲しくて、苦しくて、辛いって言ってる。だけど、それでも、シリルが好きだから、離れたくないの」


 俺は、申し訳ない気持ちでいっぱいになってくる。


「許してくれるのか」

「一晩、考えさせて、急に、そんなこと言うから、もうぐちゃぐちゃだよ」


 ルシエはそう言って食卓を後にする。

 そして、部屋に入ると荷物をまとめて現れた。


「ごめん、シリルの居ないところで、考えたいの。コンナのところに泊まるから、今日は留守にするね」


 ルシエはその言葉を残して去ろうとするがその手を取る。


「シリル、止めないで」

「一人になるのはいい。だけど、ここはルシエの家だよ。出て行くとしたら俺のほうだ。ごめん、明日の朝、また来るから。そのときに、一晩考えた結果を教えて欲しい。それとね、何度も言うけど、俺はルシエのことが世界で一番好きだから」

「私も、シリルの言葉を信じたい」

「ルシエ、愛してるから」


 最後に、心からの言葉を伝えて、俺は家を出た。


 ◇


 あれから、買い出しでエルシエを留守にするので、そのための根回しを終わらせた。

 その後、火狐に貸している新工房のほうに顔を出してクウに予定通り、明日から買い出しに行くことを伝えたあと、旧工房に戻り横になる。


 明日の買い出しにクウは必須だ。

 火狐の服を買うのだが、俺には女の子の服なんて選べないし、なにより、火狐には尻尾があり、服を選ぶ基準が異なる。彼女たちの代表であるクウに選んでもらうほかない。


 ルシエに声をかけたのはクウの護衛と、彼女の手伝いだ。

 滞在できる日数は一日ほどしかない。その間に家畜の選定と、食料の買い出しをするので、俺は服を選ぶクウに付き添うことができない。


 かと言ってクウを一人にするのは危険だ。戦闘力があって、なおかつ服選びに協力できる女性。そういう条件に当てはまるのはルシエしかいない。

 クウは俺の態度から何かを感じ取り、別れ際に、「ごめんなさい。頑張って」と言ってくれた。

 彼女が負い目を感じる必要はない。全て俺の責任だ。


「ルシエは許してくれるのかな」


 俺は甘かった、きっとルシエなら許してくれると楽観的に捕らえてクウを受け入れた。ここまで悲しむとは思わなかった。

 あんなルシエは初めてみる。

 もし知っていれば、あの状況でクウの手を取らずにいたか?


「きっと、変わらないだろうな」

 

 そう呟いて意識を閉ざした。


 ◇


 翌日の朝、身支度を済ませて俺とルシエの家の前に来ていた。

 クウも旅支度をして隣に居る。

 しばらく待っていると、ルシエが現れた。きちんと遠出をする準備はしてくれている。

 だが、彼女の場合、どんな返事をしても、昨日頼んだ仕事はこなすだろう。不安はまだぬぐえない。


「ルシエ、返事を聞かせてくれないか」


 恐る恐る俺は声をかけた。


「シリル、私は、やっぱりシリルのことが好き。だけどね、約束してほしいことがあるの」

「言ってくれ」

「もう、こんな辛くて、悲しい想いはしたくないの。だから、これ以上、他の女の子に手を出さないで、いくらシリルのことが大好きでも、二回目ははきっと許せないと思う」

「もちろん、そんなことはしない」


 なにせ、クウにまで言われている。ルシエとクウの二人を裏切ってまで、他の女に手を出そうとは思わない。


「あと、私を安心させて、春になったら結婚してほしいの。それ以上、もう待てないよ。シリルと本当の意味で一緒になりたい」

「そうだね。俺も早くルシエと一緒になりたい。春には色々、片が付く、雪が解けて二月以内に結婚するって約束する」

「うん、絶対だよ」

「ああ、約束だ」


 そう言って俺のルシエは手のひらを前に突き出し、手の平をそっと合わせて指を絡める。

 こっちの世界の指切りげんまん。

 これで最大の懸念が消えた。

 クウは、俺とルシエの仲が元通りになって、嬉しそうな顔をしている。でも、どこか、うらやましそうな顔をした。それから意を決して口を開く。


「ルシエちゃん、ごめんなさい。私、ルシエちゃんの気持ち知ってたのに、シリルくんのこと好きになって」

「いいよ。全然、怒ってないの。私もその気持ちはわかるから……ううん、嘘は駄目だね。本当言うと、最初はいっぱいクウちゃんのこと恨んだの。どうして、シリルに好きなんて言ったの? って、でもね、クウちゃんは友達だし、決めたのはシリルだから、納得しようって。だから、クウちゃん、これからもよろしく」

「ルシエちゃん、ありがとう」

 

 ルシエが右手を差出し、クウがその手をとり、握手した。

 クウは空いたほうの手で涙の滲んだ目をこする。


「さて行こうか」


 俺はルシエとクウに微笑みかける。

 エルシエを二日空けるが、留守の間の根回しは十分した。そして俺が居なくなることで、内通者は積極的に動くだろうから、信頼できる何人かに疑わしい連中をマークさせている。俺の留守という絶好の機会。それが餌だと気付かずに捕らえられるだろう。


「シリル、馬車の用意がないよ」

「そんな、遅いものを使えるわけがないだろう」


 なにせ、もういつ雪が降り始めてもおかしくない。商業都市エリンまでの道のりはひどい悪路で馬車で走れば、五日はかかってしまう。


「まさか、火狐の村に行ったときのあれをやるんですか」

「もちろん、その改良版だ」

「でも、荷物をまったく持つ気がないですよね」

「買ったものを全部保管する魔術があるからそれは気にしなくていい」

「本当にシリルくんってなんでもありですよね」


 俺は、まずクウをおんぶし、用意した紐と布でクウを固定しつつ、重みが分散してかかるようにする。

 さらにルシエはお姫様抱っこし、三百枚の金貨(1800万相当)を入れた麻袋をルシエに持たせた。金貨は重いので必要以上にもっていけない。三百枚の時点で12kgもあるのだ。

 そして、いつも通り【身体強化】と、風の魔術を併用した高速移動をする。

 だが、今日はいつもより快適だった。


「シリルくん、もう少し温めます?」

「いや、いいよ」

「シリル、息苦しくない?」

「これぐらいでちょうどいいかな」


 クウが火の魔術で周りをあたため、ルシエが風の魔術で向かい風を軽減させている。

 それにより、ほぼ無風状態かつ、暖かい旅を満喫できている。そして、それ以上に密着した二人の柔らかさと体温、そして匂いが俺にやる気を出させる。

 このペースなら120km程度しか離れていないエリンには二時間程度でつくだろう。

 そうすれば、楽しい買い物がはじまる。


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