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第七話:努力の成果

 親睦会が始まる直前。

 エルシエの広場ではセッティングがほぼ完了していた。

 机と椅子がいくつも並べられ、机の上には山盛りのポテトチップスと、干しクランベリー、そして酒の瓶が置かれている。


 ステーキやフライドポテトは目の前で完成させて出来立てを食べてもらう。しかし、一度に調理できる数には限界があるので、ポテトチップスや干しクランベリーを摘まみながら酒を飲んで待ち時間を潰してもらうのだ。


 干しクランベリーには箸休めの効果も期待している。

 調理器具も準備万端だ。鉄板に火がともり、鍋の中の油は気泡を吐き始め、スープは湯気を立てており、調理担当の火狐達が材料を取り出しやすい位置に置いていた。


 エルフたちはみんな、仕事を切り上げて集まってくれており、火狐たちも料理の担当を時間で交代するように指示している。


 親睦会の間、ずっと料理をするばっかりで、楽しめなければ可哀相だから、ちゃんと皆が時間をわけて楽しめるようにした。


「みんな、固くなるのも無理はないけど、あんまり緊張しないで、悪い人はいないから」


 俺は、手持ち無沙汰になって椅子に座っている火狐たちが集まっている席に歩いて行き、声をかける。


 本当は、火狐同士で固まらず、ばらけてエルフ達の中に混じって欲しいが、無理強いしても仕方がないので、今はエルフどうし、火狐どうしで固まってもらっていた。もう少し場が温まったら席替えをしよう。


 火狐達は、まともにエルシエの中に入るのは、はじめて来たとき以来だし、そのときはロレウが怒鳴りつけていたので緊張しているのも無理はない。


 実際、みんな警戒心を隠しきれず、おどおどしている。


「大丈夫だよ。ひどいことを言われたり、何かされたら、俺が守ってあげる。だから安心していいよ。それとも、俺じゃ頼りないかな?」


 優しい言葉をかける。今の言葉は、ただの出まかせではなく、本気だ。


「頼りなくなんてないの。シリル様が守ってくれるなら……」

「うんうん、シリル様がそう言ってくれるなら怖くないかも」

「だよね。きっと大丈夫」


 少しは、表情が柔らかくなってくれたようだ。

 これなら、なんとかなるだろう。あとは、今日の主役の登場を待つだけだ。


 主役は火狐の代表であるクウだ。今日の出し物の打ち合わせをした後、とある目的でルシエと共に、村の長老達に預けてある。


「シリル、お待たせ。やっぱりクウちゃんは綺麗だから、何着ても似合うし、化粧のノリもいいね。スタイルもすごくて、ちょっと嫉妬しちゃう」

「そんなことないですよ。私だってルシエちゃんの妖精みたいな可憐さは羨ましいって思っちゃいます。肌だって、すっごくすべすべですし」


 ルシエとクウが現れた。二人とも昔からの友達だけあって仲が良さそうだ。

 ルシエのほうは、先日の舞のときに見せた。透明感のある薄い衣を幾重にも重ねたエルフの伝統衣装。クウは、赤を基調にした体のラインがでるドレスのような服を着ている。


 二人とも元がすごくいいので、化粧は控えめに、あくまで素材を活かすように施されている。村の長老連中に任せたが正解だった。さすがの俺も化粧まではサポート外だ。


「二人ともすごくいいね。ルシエは最高に可愛いし、クウは綺麗だ。そんな二人を見れて俺は幸せ者だよ」

「シリル、そういうの照れるよ」

「お世辞なのに、尻尾がぎゅーってなっちゃいます」


 ルシエとクウが照れて顔を赤くする。

 俺はお世辞なんて言ったつもりはない。ルシエは最高に可愛いし、クウは本当に綺麗だ。二人とも、質は違えど、最高の魅力を持っている。


「今日は頑張ろう。ルシエの出番はもう少しあとだけど、クウは最初に挨拶してもらう。もう、皆集まってくれたからね。クウ、心の準備はいいかな?」


 俺の問いにクウは、覚悟を込めた目で返事を返してくれた。

 ある意味、ここが正念場だ。彼女が与える印象がそのまま、火狐全体への印象へと直結する。


「もちろんです。私は火狐の族長になるってシリルくんに宣言しました。だから、これは私の戦いです」

「いい返事だ。なら、その戦いに勝とう。クウなら大丈夫だよ俺が保証する。クウが今まで頑張っているところを見てきたからわかるんだ」

「シリル、クウちゃんを口説いてるわけじゃないよね?」

「違うよ。戦友としての言葉だ。クウにはわかるだろ?」

「……もちろんですよ? 別に勘違いなんてしてませんから」


 さあ、気合は十分だ。クウの手を取り、出し物用に作ったステージにあがる。

 クウの手が少し震えている。確か、ルシエが初めてクロスボウを実演するとこもそうだったなと思いだし、少し微笑ましい気持ちになる。


「クウ」

「はっ、はい」


 緊張のせいか、クウはいきなり声をかけられてびくりとなった。


「そんなに緊張することないよ。火狐たちの前に居るときみたいに、クウが作った頼もしくて、優しい。包容力のあるクウ。その演技をすればいい。なんのことはない。いつものことだ」

「シリルくん、あれが演技だってわかってたんですか」

「もちろん。俺も、人前に出るときは演技しているからね。人がそうしているときにはわかっちゃうんだ」

「ずっと素だと思ってました」

「俺の素は、すごいよ。自分勝手な俺様キャラで、しかも甘えん坊だ。それを見せたらドン引きされちゃうよ。とてもじゃないけど見せられないな」


 俺はいつも優しくて、それでいて厳しい村長の仮面をつけている。皆が求める自分を演じているのだ。


「ルシエちゃんの前でもそうなんですか?」

「ルシエの前だとまた別の仮面だね。どうしても大好きな子の前だとカッコつけちゃうんだ。嫌われたくないしね」


 ルシエの前で素の自分を出すのは怖い。彼女は何よりも大事な人だから。


「エルシエのみんなの前で演技して、帰ってもルシエちゃんの前で演技して、それってすごく疲れません?」

「多少はね。でも慣れてくるよ。むしろ、演技している自分になるのが目標かな」

「そこまで思われているルシエちゃん、ちょっと羨ましいです。でも、いつか私には、ありのままのシリルくんを見せてほしいです。私なら、どんなシリルくんでも大丈夫ですから」

「本気でそう言ってくれたなら、クウには俺と対等の立場になって欲しいかな。ただ庇護されるエルシエの一人じゃなくて、火狐の代表として俺と一緒にエルシエを導くような。そしたら、俺もクウを頼れるし、甘えられる」


 火狐たちは俺に懐いてくれている。でも、俺がどんなに努力しても、憧れや尊敬を得られても、心の深いところにある共感は得られない。本当の意味で彼女たちを導けるのはクウしかいない。


「その返事は前もしましたよ。私は火狐の族長です。だけど、今の言葉で勇気が出ました。シリルくんの隣に立つなら、これぐらいのことで尻込みできないですね。……でも、ちょっとだけ手を握ってもらえますか」

「もちろん」


 クウがそっと俺の手を握ってくる。

 体温が高いはずの火狐なのに、手が冷たくて震えていた。少し痛いぐらいに強く握り返す。 

 すると、クウは微笑んで手の震えが止まった。


「では、いきましょう。エルシエの未来のために」

「いい言葉だ」


 俺は微笑した。クウは火狐の未来ではなく、エルシエの未来と言ってくれた。それは、火狐たちを導き、エルシエに貢献するように頑張ると言う覚悟の言葉だ。


 ◇


 ステージにあがる。もう、エルフ達はみんな席についていた。

 火狐達の調理班はいつでも、仕上げにかかれる状態だ。

 俺は深呼吸して口を開いた。


「エルシエの皆! 忙しい中、集まってくれてありがとう。今日は、新たに仲間に加わった火狐たちとの親睦会だ!」


 明るい声、心底嬉しそうな表情を意識して作る。

 俺が楽しそうにしないで、いったい誰が楽しめるというのか。


「親睦会とは言っても、そんなに堅苦しいものじゃない。ただ、美味しい飯と酒を飲んで一緒に笑いあう。それだけだ。ちなみに、今日の料理は全て火狐達が準備してくれたんだ。

 俺たちに楽しんで欲しくて、今日は朝からずっと頑張ってくれた。

 俺はちょっとずるして摘まみ食いしたんだが、本当に美味しい料理だったよ。特にスープに入っている火狐の伝統料理、ソーセージって言うんだけどね。それがうまくて感動して、作ってくれた人のところに弟子入りしちゃった」


 俺がそう言うと、何人かが笑い声をあげた。

 重苦しい空気が少し軽くなる。よし、頃合いだ。


「では、火狐を代表して、族長のクウに挨拶してもらう」


 俺はクウにバトンを渡す。横目でクウを見るが、もう大丈夫そうだ。


「エルフの皆さん、こんにちは。火狐の族長、クウです。私たちをエルシエに迎え入れてくださってありがとうございます。火狐を代表して礼を言わせて頂きます」


 クウが頭を下げる。

 エルフ達も息をのむ。クウの動作の一つ一つが美しい。幼いころから躾られていたし、本人に気品がある。


 なにより、とびっきりの美人だ。身もふたもない言い方だが、見た目だけでかなり得をしている。人の前に立つものにとって、容姿はかなり重要なパラメーターだ。美しいというだけで好意的な印象を受けやすい。


「そして、今日このような場を設けて頂いたことに深く感謝を。さきほどシリル様がおっしゃた通り、本日の料理は、私たち火狐が、精一杯の気持ちを込めて作らせていただきましたので、是非ご賞味ください。今の私たちにできる最高の料理を用意させていただきました」


 クウがそう言って手を叩くと、お盆にスープを乗せた火狐達がエルフ達の席に向かって歩いていく。机はいくつかに別れており、一つの机につき一人の火狐が向かうようにしてある。


 ことこと煮込んだスープには、最後の仕上げに丁寧にひげを取り除いたもやしと、ソーセージが入っている。

 肌寒くなってきている今の季節、暖かい湯気をたてるスープは魅力的にうつる。

 配膳している火狐たちは綺麗でなるべく明るく幼い子たちを集めた。手が触れる距離でのファーストコンタクトだ。いい印象を与えておきたいし、子供に対しては警戒心が緩む。


「どうぞ」

「熱いので気を付けてね」

「すっごく美味しいよ」


 可憐で幼い火狐たちに配膳されてエルフの男のほうは、悪い気がしていないみたいだ。女性のほうは、ほとんどが微笑ましいものを見ているが、たまににやにやしている男を見ていやな顔をしている。……これは必要悪だと割り切ろう。


 火狐たちは、社交的にふるまってくれている。そうするようにクウが指示をしてあるが、ちゃんとこなせるかどうかは心配だった。だが、杞憂だったようだ。


 いくら、親交の場を設けても当人たちにその気持ちが無ければどうしようもない。

 スープを配り終った火狐達は、お酒をエルフたちのコップに注ぎ、全て注ぎ終わった後に自分のコップにお酒を注いでいく。


 何組かは、エルフ達が自分から配膳してくれた火狐に注いであげている。おもったより、ちゃんとコミュニケーションが取れていて一安心だ。


「今日の料理のように、私たちは与えられるだけの存在ではありません。エルシエの一員として、貢献していきたいと思っています。あまり、長い挨拶をしているとスープが冷めちゃうので、ここまでに……。

それでは、エルフと火狐の出会い、そしてエルシエの発展に乾杯をしたいと思います。シリル様」

「ああ」


 俺とクウは、ステージの横から渡されたコップを持つ。クウが視線で乾杯のあいさつをしろと言っている。

 今日の親睦会の開始は、火狐の代表であるクウがするのではなく、エルフも火狐も含めたエルシエの代表である俺がするべきだと。


「みんな、グラスを掲げて、新しい仲間と、これからに乾杯!」


 コップのぶつかる音が幾重にも響き渡る。

 そして、全員コップに口をつけた。


「それじゃ、後は各々で楽しんでもらうんだけど、今日の趣向を説明しようと思う、スープと今だしている料理、見慣れない薄いのはポテトチップスと言うんだけど、それが前菜だ」


 俺がそう言うと、何人かのエルフが調理器具の前に立っている火狐に目を向ける。


「メインディッシュは他にある。出来立てが一番うまいから目の前で仕上げてもらう。だけど、一度に作れる量には限界があるから、一テーブルずつ声をかけさせてもらう。声をかけられたテーブルに座っているエルフから順番に並んでくれ。

 それまでは、ポテトチップスと酒、干しクランベリーを楽しんでくれ。もっとも、前菜も十分すぎるほどうまいよ。それじゃ、まずは右端のテーブルからだ」


 俺の指示で、エルフ達が立ち上がり、鍋の前に並ぶ。

 すると、火狐の女の子が、ポテトを油に放り込み、クランベリーの果汁に浸かっていたステーキ肉を鉄板に乗せた。


 クランベリーの甘酸っぱい香りと、イノシシの焼ける香ばしい香りがあたりに広がった。

 それだけで食欲を刺激する。

 あっという間にポテトが揚がり、肉が焼きあがる。

 それを一枚の皿に盛りつけ、肉にはたっぷりの肉汁入り特製クランベリーソースをかけ、一つまみの塩を皿に盛る。


 ポテトをクランベリーソースにつけてもいいし、塩で食べてもいいようにする配慮。ステーキのほうも塩気が足りなければソースに塩を足せばいい。

 鉄鍋も鉄板も大きいので一度にかなりの人数分を用意できる。これなら、全員に行き渡るまで一時間もかからないだろう。


「すっげぇ、うまそう」

「この匂いたまらないわ」


 目の前で焼けていく肉は、最高に料理への期待値を引きあげる。実際、鉄板の前でエルフたちはいい大人も子供のように目を輝かせていた。


 大火力が出せ、火力調整が巧みな火狐だからこそ、一瞬で最高の焼き加減のステーキを作り上げることができるのだ。

 薪と石竈だと、こうも手際よくできないだろう。

 テーブルのほうに視線を戻すと、エルフ達がポテトチップスとスープを楽しんでいた。


「このポテトチップスっていうのいいな、塩気とサクサクした食感がたまらないよ。酒がすすむ、すすむ」

「このスープもすっごくいい味、シカってこんなに美味しいお出汁でるんだ」

「この野菜なんだろうね? シャクシャクして癖になりそう」

「それよりも、このソーセージっていうのがすごいよ。噛むとぷつんって、いい食感だし、肉汁が飛び出て、しかもすっごくコクがあるんだ。すっげえよ。これ火狐の伝統料理なんだろ! あいつらこんなうまいものずっと食ってたのかよ」

「さっき、スープくれた火狐の子に聞いたんだけど、このソーセージ保存食で、あとで皆に配ってくれるんだって」

「ほんとか!? 今日はスープだけど、焼いてパンにはさむとうめえだろうな。そんないいものをくれるなんて火狐たちに感謝だ」


 予想通り、大好評。

 ポテトチップスの脂質+塩分+炭水化物のコンボは、酒と最高の相性なのは科学的に証明されている。

 それに、ソーセージはラードを練り込んだことで肉汁のように、最高にうまいイノシシの脂が飛び出るし、シカのレバーが甘味とコクを与えている。


 そんなものを食べ続ければ、すぐに胃がもたれてしまうはずだが、丁寧に骨とスネ肉を煮込み、アクを徹底的に取り除いた透明なスープは、肉のうまみを出しつつもあっさりしていて、口に溜まった油を洗い流してくれているのだ。

 スープの中に入れてある一本一本ひげを取り除いたもやしの貢献も大きい。スープのうまみをたっぷり吸っているし、最高の食感を出してくれて口をリフレッシュさせる効果がある。


「やっと、メインにありつけたな」

「そうね、食べる前から匂いでくらくらしちゃう」


 そうしているうちに、料理を取りに行っていた第一陣が帰ってきた。

 ステーキの香ばしい匂いは周りの視線を集める。


「でも、切るものがないわ。イノシシ肉は硬いからこのままじゃきついわよ」


 エルフの女性がきょろきょろと辺りを見回す。イノシシ肉が硬いというのはエルフの共通認識でもあるのだ。


「大丈夫だよ。簡単に噛み切れるからかぶりついちゃって」


 そこに、火狐族の女の子、ケミンが助け舟をだす。

 言われた女性はもちろん、周りのエルフ達も怪訝な顔をする。


「本当に柔らかい魔法のステーキだから、ほらほら」


 その強い押しに押されて、しぶしぶといった様子で、ステーキをエルフの女性は口に含む。そして、一噛みすると簡単に肉が切れた。


「うそっ、イノシシ肉なのにすっごく柔らかい、それにジューシー。こんなのはじめて! イノシシ肉ってこんなに美味しかったの!? それにこのソース、お肉の味がするのに、甘酸っぱくてサッパリしていくらでも食べられそう」


 筋を徹底的にきり、クランベリーの酵素でタンパク質をアミノ酸に分解したステーキは信じられない柔らかさになっているし、甘酸っぱいソースがしつこさを緩和させている。

 若干残った脂っぽさも、スープを啜れば解消され、すぐに次が食べたくなるのだ。


「本当? なら私も、あ、ほんとうだ。口の中で溶けるみたい」

「イノシシは煮込むしかないと思ってたけど、こんな食い方もあるんだ」

「こっちのフライドポテトもすげえな。ほくほくして、ポテトチップスと同じ材料で出来ているとは思えないぜ」

「おいおい、このソースにつけてフライドポテトを食ってみろよ。肉の味がぐっとしみて、ああ、もうなくなっちまった。お替りはないのか?」


 第一陣の反応を見て、周りの目の色が変わる。いつ自分の番が来るのかとエルフ達がそわそわしだした。

 いい反応だ。そういった期待と、焦れは料理の味を何倍にも引き上げる。


「大成功だよ。クウ、とりあえず、火狐の料理は気に入ってもらえた。食事が落ち着いてきたら、固まってる火狐たちの席を変えて、色々と話をさせてみよう。たぶん、料理のことを根ほり葉ほり聞かれるから話題には困らないだろう」


 そして、それこそが今回料理を作らせた裏の理由だ。

 いきなり、懇親会だ。さあ仲良く話せと言っても、なかなか話題に困り会話がはずまない。

 料理で場の空気をあたためつつ、料理そのものを、話題にしてしまう。


 エルフたちは、今日の料理の詳細を知りたいから質問攻めにするだろうし、今日の功労者の火狐達も、自分達の成果を話したいだろう。


「いったい、シリルくんはどこまで先まで考えているんですか……」

「割と行き当たりばったりだよ」

「シリルくんで行き当たりばったりだと、私はどうなるんですか。でも、ありがとうございます。懇親会うまくいきそうです。全部シリルくんのおかげですね。場所を用意して、エルフの皆さんを説得して、材料を揃えて、料理のことまで、本当に、何度もお礼を言っても足りません」

「それは違うよクウ。今日の成功は火狐の皆が頑張ったからだ」


 そこは訂正しないといけない。じゃないと頑張ってくれたみんながかわいそうだ。


「確かに俺は今回の場を用意して、美味しい料理の作り方を教えたけどね。今日の料理は、全部手間をかけて美味しくする料理ばっかりなんだ。少しでも手を抜いたら、ひどいものが出来上がっていたよ。みんなに楽しんで欲しい。エルシエの仲間になりたい、そう思って本気で火狐の皆が努力してくれたから、うまくいっているんだ」

「確かにその通りです。あの子たちが頑張ってくれたおかげですね。でも、シリルくんの頑張りはすごく大きいです。そこは譲りません」

「クウのそういうところ、わりと好きだよ。それに、特別頑張ってくれたのはクウも一緒だ。クウ、お疲れ様。それから、ありがとう」


 クウみたいに人を素直に褒める。それは、意外と難しい。

 そんなクウだからこっちも褒めてあげたくなる。

 感謝の言葉を微笑みと一緒に伝えた。

 すると、クウは少し顔を赤くして逸らした。まずい、手を出すつもりはないのに、思わせぶりなことを言ってしまった。


「それじゃ、俺たちの仕事をしよう。皆の頑張りを無駄にしないために」

「ええ、もちろん」


 そう言って二人でステージから降りた。

 さあ、楽しい楽しい挨拶周り、それが終われば今日のメインイベントだ。




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