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第四話:父が残したもの

「ひどいな」


 俺とクウは火狐の村から離れたところで木々に隠れながら様子を見ていた。

 火狐の村は悲惨な状況だった。

 原型を残している建物はなく、全て燃え尽き灰になるか粉々に吹き飛ばされていた。

 いや、建物どころか石や砂まで溶けて固まり硬質な光を放っている。


 そうなってしまった村に、帝国のテントがちらほらと建てられており、兵士たちが行き来していた。

 視力のいいエルフの目でも、まともに見えないほど遠い距離だが、ドワーフのクイーロのときに作ったガラスレンズ入りの双眼鏡を使っているのでクリアに見えている。

 これだけ離れていればまず向こうからは気付かれない。


 量産したいが、双眼鏡のガラスレンズは超精密に作らないといけないうえに、レンズの配置が職人芸の域に入っているので厳しい。


「クウ、ここにあったのは本当に火狐の村か?」


 念のためにクウに確認する。ここが火狐の村ではない可能性があった。こんなものが、村の跡地だと信じたくはない。

 ここは単に帝国兵が夜営に使った場所だと思い込みたかった。


「……間違いないです。ここが火狐の村です。私が、十四年間、ずっと、みんなと一緒に暮らしていた村」


 蚊の鳴くような声で、真っ青な顔をしてクウが言った。

 内心予想していたが、鉛のようなものが腹の中に落ちてくるのを感じる。

 俺ですらこうなのだ。クウにとっては悪夢そのものだろう。


「そうか、どうしてこうなったか聞きたいか? 状況を見れば予想はできる」

「私でも、わからないのにシリル様にはわかるんですね」

「こういうことには慣れているからな」


 前世の記憶の中に戦場で戦った記憶は星の数ほどある。

 その中には当然、敗戦の記憶や、逆に殲滅戦も行った記憶も入っている。


「聞かせてもらっていいですか」


 クウが真っ白になるほどに拳を握りしめながら聞いてくる。

 俺は、そんなクウに報いるために、変な脚色はせずに、そのまま俺の推測を伝えることにした。


「火狐の村に残った男たちは、平地では絶対に勝てないと考えたんだ」


 遠くからは無数の弓矢が降って来て、近付いても炎が風で吹き飛ばされる。

 見晴らしのいい場所ではどうあがいても勝てない。

 かと言って森で戦えば、山火事を引き起こしてしまう。


「だから、この村の中で戦うと決めたんだろう。ここなら遮蔽物はいくらでもある。矢は届かないし、出会い頭なら風で炎を散らす暇もない」


 本来、村の中に侵入された時点で負けだ。

 だが、あえてそうすることで一矢報いることを彼らは選んだ。

 兵士たちも、火狐の魔石を得るためには、不意打ちを受ける可能性があろうとも、村に入る必要がある。


「最初は、建物や物陰に隠れながらゲリラ的に戦っていただろう。ときには家ごと燃やしたりもした。それでも、限界はある。数が違いすぎる。一人焼いている間に後ろから斬りつけられてしまいだ」


 たしかに遮蔽物が多いが、逆に多方向から攻められる可能性も増えるし、燃えやすい建物に囲まれているせいで、すぐに生み出した炎が引火し、自身を縛る枷となる。

 炎そのものには耐えられても、発生する煙や、酸素不足による息苦しさなどは、火狐たちにも耐えられない。


「そんな袋小路の中で、どんどん村に帝国兵が入り込んでいき、ますます状況が悪くなっていく……だがそれこそが、火狐達の狙いだった」


 どんどん、抵抗する力を無くす火狐達、それを見て帝国は油断し、大胆に兵力を投入してくるだろう。

 村を帝国兵が覆い尽くす。それが火狐達の罠ともしらず。


「帝国兵を可能な限り村に集めた火狐達は最後の抵抗をする。死んだ仲間の魔石を集め、そして自分自身の魔石をも使い、魔力を暴走させ、大規模な爆炎を生み出す。数十人の火狐たちが魔石を使って引き起こす大爆炎。それは、村ごと消滅させ、中に居る帝国兵を全て殺してあまりある」


 エルフや火狐をはじめとした各属性の相性が90を超える種族は生きたまま心臓を抜き出せば、それが魔石に変わる。

 その使い方は二つ、相性値を引き上げる触媒にするか、暴走させ使い潰すことでありえない威力の魔術を使う。

 その気になれば、自分で生きたまま自分の心臓を抜き出すことで、本人がその魔石を使える。


 魔力の強い種族は、生命力も強く、心臓を抜き出しても数十秒は生きて居られる。その数十秒で、魔力を注ぎ込み、魔石を暴走させればいい。

 それを実行するにはとんでもない覚悟がいる。並みの精神ではできないだろう。

 信じられないことに、火狐達は数十人でそれを実施した。


 そうでなければ、地面が溶けだし、村の建物すべてが灰になるほどの炎の魔術は使えない。

 俺は、それをした火狐の男達に敬意を払う。理屈で考えれば必要なことだとわかる。怖かっただろう。逃げたしたかっただろう。それでも、勇気を振り絞って逃げた仲間のために実行した。その心の強さに感動を覚えた。


 おかげで、帝国兵も数十人しか生き残っておらず、火狐たちに勝ったはずなのに、表情が重く沈んでいる。


「なんですか、それ」


 俺の話を聞き終わった。クウは目から涙を流し、その場で女のこ座りになってへたり込んだ。

 地面に両手を叩きつける。


「お父様は言ったんです。最後まで戦うって、皆に逃げてもらうけど、頑張って帝国兵を追い払って、いつか呼び戻して、今までの生活を取り戻すって」

「……それは、きっと」

「お父様は嘘つきだ! こんなことしたってことは、初めから死ぬ気だったんじゃないですか! お父様たち、みんな死ぬのがわかっていたんです。なんでここまでするんですか! 一緒に逃げれば良かったのに、そしたら、今も一緒に笑っていて。命も、思い出も、なにもかも村ごと吹き飛ばしてまで、どうしてこんなことするんですか!」


 クウは割り切ったつもりでも、心の何処かで、火狐の村に残った男たちが生きていることを願っていたのだろう。

 それが完膚無きまでに打ち壊された上に、あまりにも凄惨な状況に取り乱している。


「お父様は馬鹿です、火狐の誇りとか言って、安いプライドに拘って、皆を巻き込んで、帝国兵を殺すために自分も死んで 時間稼ぎで十分だったのに。適当なところで切り上げて逃げれば良かったんです。それで私たちと合流すれば死なずに済んだ。こんなの無駄死にじゃないですか!」

「クウ、その言葉だけは許せない」


 俺はクウの頬をぶつ。

 もちろん手加減はしている。音は派手だがそれほど痛みはないはずだ。

 パチンといい音がして、クウの白い頬が赤く染まる。

 俺は無駄死にと言ったクウが許せなかった。これじゃ、なんのために火狐達が命を捨ててまで戦ったのかわからない。


「クウがただの女の子なら、そういう台詞を言うのはいい。だがクウはなんだ? 火狐の族長だろう? そのための教育も受けて来たし、考えるだけの頭もある。そのクウが思考を停止して、安いプライドだと決めつけて、無駄死にだと罵り、死者の尊厳を汚してどうする。それで誰が彼らの気持ちを汲んでやれる? それこそ、本当の無駄死にになってしまう」

「し、り、るくん?」


 クウが目を丸くして、熱を持ち始めた自分の頬に手を当てる。

 俺に殴られたことを信じられないようだ。


「クウ。旅慣れしていない女ばかりの火狐たちが、帝国兵から逃げられると思うか? ましてや、クウが言ったように、適当に切り上げて火狐の男たちが追いつけるような集団にだ」

「……思いません」

「もし、建物がまるまる無事で、帝国兵が村を接収して、ここがやつらの拠点になれば、逃げた火狐を効率よく追えたと思うが、クウはどう思う?」

「……私も同じ意見です」


 村がこの惨状なおかげで、もう夜営をするのとまったく変わらない状況だ。帝国の兵士はこの村を利用することはできないだろう。


「帝国の目的はなんだ?」

「魔石を得ることです」

「そうだ。だが、今回の襲撃で奴らは魔石を一つも得ていない。おまえの父親たちは帝国兵に、火狐が追い詰められたら、ここまですることを行動で示したんだ。間違いなく奴らは今後躊躇するだろう」


 帝国兵の目的は、火狐の村を征服することでも、火狐を根絶やしにすることでもない。

 ただ、火の魔石が欲しいだけだ。

 それなのに、火狐はあろうことか、追い詰められれば自らそれを使って自爆テロを平然としてくるような種族だとわかってしまった。

 襲っても魔石が手に入らず完全に割に合わない。


 今回の戦いは、戦場だけ見れば帝国の勝利だが、帝国は、遠征に多大な資金を使い、多数の兵士を失い、それでも得るものが一つもなかった。広い視点でみれば、火狐は帝国に勝ったのだ。


「クウのお父さんは、わずかな人数で帝国の兵士の数を限界まで減らし、拠点を潰して、その上で今後の襲撃の意味さえ無くそうとした。死の恐怖と戦って、残った仲間のために勇気を振り絞って。それがどれだけ苦しい決断かわかるか!?

 クウは、少し考えればわかるはずなのに目を逸らして、思い込みでその気持ちを踏みにじったんだ」


 クウは顔を上げ、若干の敵意を込めて俺をにらみつける。


「お父様は何も言ってくれなかった! そんなの、焼けた村を見ただけで、わかるはずないじゃないですか!? 故郷が、無くなって、全部灰になって、悲しいのが、いっぱいで、頭がぐちゃぐちゃなんです」


 クウが自分の弱さを曝け出す。年齢以上に大人びていた彼女が、急に小さな子供のようになってしまった。


「それに、お父様のしたことが必要なことだったってわかりました。だけど、それでも、私は……みんなと一緒に居たかった。逃げて欲しかった。いつか、また会えるって思いたかった。それが悪いことなんですか!」


 涙がぼろぼろとこぼれる。

 クウの言っていることはもっともだ。この村の誰もが、ずっと一緒に笑い合って暮らしたかっただろう。

 死にたくなかったはずだ。離れ離れになるなんて嫌なはずだ。

 だけど、それは許されない。


「ああ、悪い。今のクウは、五十人の命を預かっているんだ。感情で物事を考えるな。冷静に状況を分析しろ。仮に、そんな甘えたことをクウの父親が考えていたら、逃げた火狐達も残らず掴まって、帝国のおもちゃにされていた。感情を押し殺して最善を求めたから、今のクウたちが居る」

「私は、そんなふうに割り切れないです……シリルくんにはそれができるんですか?」


 さっきから俺を呼ぶながシリル様からシリルくんに変わっている。

 打ちひしがれ、取り繕う余裕もなくなっている。

 クウの問いは至ってシンプルだ。

 俺は迷わず答えよう。


「できる。だから、俺はエルシエの長になったし、火狐の族長にもそうすることを求める。そして、今の族長はクウだ」

「私は……私には……」


 クウが懇願するような目で俺を見てくる。

 背中を押してほしいのだろう。


「クウ、俺はクウが決めたことを手伝ってやることはできる。だけど、自分が何をしたいかまで俺に委ねるな。迷うならやめてもいい。族長なんて放り出して、ただの火狐の一員になるというならそれもいいだろう」

「でも、私が居なくなれば、みんな」

「俺が全員面倒をみてやる」


 それは、最終手段だ。


「エルシエにエルフと対等に迎え入れようとするから難しい。火狐たちをエルフのための道具として割り切るなら簡単だ。仕方ないだろ? 自分達で考えることもできないなら、道具として使ってやるしかない。代表がいない、統率も取れない連中なんてただの難民だ。それ相応の扱いをしてやる」


 何も考えず、口を開けて待っているだけなら、それはそれで有効な利用方法があるのだ。


「もう、クウも他の火狐も何も考えなくていい、仕事は一から十まで全部指示してやる。帝国との戦いのときも、うまく使ってやろう。それで最低限の報酬はくれてやる。それに、火狐の血が絶えないようにもしてやろうか?

 火狐達を尊重して、エルフとの仲を取り持つための方法を考えていたが、めんどくさい。娼館を作ってやる。最低限の報酬と言ったがやめだ。客のエルフに抱かせる代わりに、食料を恵んでもらうっていうのはどうだ?

 抱かれた奴だけが腹いっぱい飯が食える。そうじゃない奴も死なない程度には食事をさせてやろう。 

 火狐もエルフなみに美人が多いからな。エルフはみんな貞操観念が強いし、手軽に抱ける女が欲しい連中も多いから需要はあるだろう。俺も通ってやる。

 孕んで出来た子供は、エルフの手を煩わせないために、火狐達の皆が共同で育てることにする。妊娠すれば、その間仕事はできないから、妊婦の食事は増やす。クウなんてすぐに人気がでると思うから次々に子供が産めるさ。良かったな。これで火狐は安泰だ」

「そんなのただのエルフの奴隷じゃないですか!」


 クウが怒りを込めて俺を怒鳴りつける。

 確かにそうだ。これは、奴隷の扱いであって、エルシエの一員に対する扱いではない。


「思考を放棄して委ねるっていうのはそういうことだ。嫌なら、何ができるのか考えろ。自分達を守るためにどうすればいいか悩み抜け。そして、それをエルシエの長である俺に示して見せろ。

 俺が言ったプランよりも、エルシエにメリットがあるなら受け入れる。それが対等な立場になるということだ。

 それに、クウ一人で考える必要はない、火狐の皆に意見を聞けばいい。第一、クウが頑張ろうとするなら、俺も手を貸す」

「シリルくん、どうして、そんな、ひどいこと言うんですか」

「ひどいことを言っているわけじゃない。俺が言ったのはただの常識だ。それに、俺はクウに出来ると思っているから言っている。もう一度聞く、クウはここで投げ出すのか?」


 クウは涙をゴシゴシと拭う。

 そして、赤くなった目を俺に向けた。


「私は、火狐の族長です。皆を守ります」

「そうか、なら今のことは全部忘れてくれ。火狐のことを尊重した上で動くよ」

「……シリルくんって、お父様に似てます」 


 クウは、まだ立ち直っていないが、少しだけ目線が柔かくなっていた。

 そんなクウが少し拗ねた口調で口を開く。


「頑固で、偏屈で、厳しくて、高圧的で」


 そう言われると辛い。

 熱くなって色々と説教くさいことを言ってしまった。


「だけど、正しくて、思慮深くて、本当は優しい。根本的なところはお人よし、そんなところがそっくりです」

「長だからね。ある意味みんなのお父さんだ」


 そう言うとクウがくすりと笑った。


「私は、もう思考を止めません。感情に流されないです。でも、それで辛くなったら、支えてくれませんか?」

「いいよ。クウが頑張るなら、応援する」

「それはエルシエのためですか?」

「もちろん、それとクウの友達として」

「私には感情で動くなっていったのに、ずるいです」

「感情で判断を曇らせるなとは言ったけど、感情を無視しろとは言ってないさ。人の気持ちを考えられないなら指導者失格だからね。感情と理性の方向が一緒なら、気持ちよく仕事をできる。むしろ全力で突き進め!」

「さっきのシリルくんの火狐の扱い、感情面を完全に無視しているように聞こえましたよ」

「実際にやるとなったら、表面上は人道的に見えるようにやるさ」


 そこで話は終わりだ。

 偵察の目的は果たせた。

 火狐の村に来た兵士たちは壊滅状態な上に、村が拠点として利用されることも考え辛い。

 このままエルシエに攻め込むことは不可能だし、仮に無理をして攻めて来ても、この少人数なら簡単に対処できる。


「クウ、ここに居る帝国兵をどうするべきだと思う? この程度の人数なら、俺一人で皆殺しに出来る」


 俺の問いを必死にクウは考える。

 そして、唇を噛みしめてから口を開いた。


「放置します。……彼らには、どれだけ火狐が危険か帝国に伝えてもらわないと駄目です」


 本当は仇を討って欲しいだろうに、クウは見逃せと言った。

 それは、一時の感情ではなく火狐の未来を考えての決断だ。


「俺も同じ意見だ。クウ、頑張ったな」


 俺はクウの頭を撫でる。狐耳の感触が心地よい。


「私は族長ですから」


 クウは泣き笑いの表情を浮かべながらそう言った。


 ◇


 その後、火狐の村の近くにある塩湖で可能な限りの岩塩をリュックに詰めた。

 70ℓの大容量が入るバッグなので、今回持ち帰った分で、村全体の数か月分の塩になる。

 場所は覚えたので、俺なら二時間もかからないし定期的に来ることにしよう。


 来たときと同じようにクウをお姫様抱っこする。

 クウとリュックの重みを合わせると、100kgを軽く超えるので、身体強化をしても、なお苦しい。

 だが、それを表情や仕草には出さない。それが男の子の意地だ。


「クウ、さっきは殴って悪かった。どうしても、命をかけて死んでいったクウのお父さんたちをひどく言われたのが許せなかった。あとで殴り返してくれて構わない」


 誰かのために命をかけて戦う姿に過去の自分を重ねてしまったのもあり、感情が高ぶってしまった。

 怒るにしても、手を出すべきじゃなかった。これは完全に俺の過失だ。

 ロレウあたりなら、パロスペシャルを決めても問題ないが、クウは女の子だ。


「いいです。シリルくんが怒ってくれなかったら、お父様たちが私たちのために頑張ってくれたことに気付けなかったです。そっちのほうがずっと怖い。私はエルシエに戻ったら、残った人たちがどれだけ私たちを愛して、勇気のある行動をとったかを火狐の皆に伝えるつもりです」


 クウは友達モードで話してくれている。

 こっちのほうが気楽に話が出来ていい。


「それで、落ち込んだりしないか」

「落ち込むとは思います。でも、彼らの気持ちを伝えたいんです」


 クウの声に迷いはない。

 きっと、一時は悲しむだろう。だけど、その行動の裏にある愛に気付き、いつかは立ち直ってくれる。

 いや、クウが立ち直らせてくれるだろう。


「……頑張れよ」

「はい、まだまだですけど、いずれ、お父様やシリルくんみたいな立派な族長になりますから」


 クウの目は俺ではなく遠くを見ていた。

 きっと、亡き父親に向けた言葉だ。


「そこはまだ、お父様みたいなでいいよ。俺も偉そうなことを言ってるが駆け出しだ」

「でも、やっぱり、お父様やシリルくんみたいな族長が、私の憧れです」


 クウが落ちないように首に回している手に力を込めてくる。

 来るときもしてくれたが、クウなりの信愛表現なのだろう。


「それと、シリルくん。さっき、娼館の話したときに言ってましたよね。俺も通うって」

「そんなこと言ったかな? まるで記憶にない」


 本当はばっちり覚えている。だけど、素に戻った後にこういう話は照れくさいものがある。


「言ってました。もしかして、シリルくん溜まってるんですか?」

「ちょっ、クウ!」


 あまりにも直接的な表現で驚き、思わずクウを落としそうになった。

 来るときよりも重量でスピードが落ちているとはいえ、60km/h以上は出ているので非常に危険だ。


「それで、どうですか? 溜まってるんですか? もしかして、ルシエちゃん、やらせてくれなくて、夫婦でセックスレスなんですか?」

「ルシエとは、まだ結婚してないよ」


 痛い所をつかれて、思わずどもってしまった。


「意外です。昔から仲良かったからとっくに結婚してると思っていました。確か、エルフって婚前交渉しないんでしたよね?」

「古いタイプのエルフだけね。気にしない連中も居る。ただ、ルシエは巫女の家系だし、お祖母ちゃんがかなり厳しい人だから、そういうのきっちりしているんだ」


 ああ見えてルシエは割と性欲が強くて、俺が寝ているとなりでこそこそと、自慰をしているが、お祖母ちゃんのこともあり、絶対にさせてはくれない。


 結婚すれば問題なくできるだろうが、村が安定するまで、俺は結婚しないと決めている。

 こんな状況で俺が浮かれていると周りに示しがつかない。

 なので、お互い手が出せないでいる。


「そうですか。なら私と子作りしませんか? シリルくんならいいです」

「クッ、クウ、落ち着け、村のことは辛かったけど自暴自棄になるな、自分を大切にしろ」

「私は冷静ですよ。シリルくんのこと昔から割と好きでしたし、再会してからもすごく頼もしいし、優しいです」


 顔が赤くなってくる。

 クウはとびっきりの美少女だ。

 俺はルシエのほうが上だと思っているが、それは好みの問題であり、人によってはクウのほうが上だと言うだろう。

 ルシエと比較できるほどの美少女は、クウ以外見たことがない。


「いつか、エルフの誰かとそういうことするなら、シリルくんが良いなってそう思うんです。それに、エルフと火狐の将来のために、長同士の子供ってありだと思うんです」

「そういう、打算的なものを持ち込むのは好きじゃない」

「シリルくんが言ったんです。理性と感情が同じ方向を向いているなら突き進めって、私的には、今理性と感情の両方が、ゴーサインだしています」


 よく聞くと、クウの声にも照れが入っている。

 恥ずかしくないわけじゃないみたいだ。それに気付いて少し余裕が出来た。


「ダメだ。クウとはしないよ」

「もしかして性病とか心配してます? 私は経験がないので、そういうのとは無縁だと思いますよ」

「そういうことを言っているんじゃない!」


 とは言っても、クウの経験がないことを聞いて少し安心している自分がいて驚いている。


「私、魅力ないですか? こう見えて、火狐の村では一番モテてたんですよ」

「クウは魅力的だよ」


 いい匂いがするし、柔らかいし、可愛いし、胸も大き目だ。個人的には揉んだときに少し肉がはみ出るぐらいが理想のサイズだと思っている。

 クウの胸はその条件にぴったりだ。ルシエのだと少し足りない。


「ですよね。特に尻尾がエロくて、むらむらするってよくお兄様が言ってました。私の尻尾は百年に一度現れるかどうかってほどの、すごい尻尾ってお父様も太鼓判をおしてくれてます」

「それはわからないし、クウの兄が怖いよ!」


 思わず突っ込む。

 種族によってエロさを感じるポイントが違うが、さすがに尻尾は共感できない。

 確かに黄金色で先端が白く、ふさふさして毛並みがいいクウの尻尾は可愛いと思うけど、そこに欲情はしない。


「そうですか……尻尾には自信があるんですけど。触ってみます?」

「そこまで言うならお言葉に甘えて」


 そう言うと、クウがお尻の尻尾をパタパタと振る。

 少し、お姫様抱っこで抱えているクウの体をずらして、その尻尾をぎゅっと握って、軽くしごいてみる。

 ふさふさの毛に手が沈み込み柔らかく包み込んでくるし、しごいたときの毛のなめらかな質感は確かにすごい。

 芯にある尻尾の肉も力を込めると押し返してきて癖になりそうだ。


「しゅごいです。シリルくん、うまい、でも、そんな、強くしないでください」

 

 そうして尻尾で遊んでいるとクウが艶っぽい声を出すせいで、変な気持になってくる。


「悪かった。火狐の尻尾ってすごいんだね」

「すごいんです。でも、他の子の尻尾を触っちゃだめですよ。女の子の尻尾に触っていいのは、両親と夫だけって決まっているんです。無理に触るのはレイプと一緒ですよ」

「クウ、ちょっと待て、なんでそれを俺に触らせて」

「シリルくんだからですよ。それと、シリルくんなら、してもいいって言うの本気ですから、気が変わったら声をかけてくださいね」


 クウがそう言い終ると、掴んだままの尻尾がするりと手からすり抜けていった。

 ひどく名残惜しく感じる。

 男としての本能は、クウの提案を受け入れたい。尻尾をもっと触っていたいと叫んでいる。

 だけど、ルシエの笑顔が頭に浮かんだ。


「俺はルシエ一筋だから、ルシエを裏切るようなことはしたくないんだ」


 それが答えだ。

 やらせてくれないから、他の女に走るなんてかっこ悪すぎる。


「紳士で一途なんですね。シリルくんのそういうところ、私好きですよ。尻尾を触ったこと、ルシエちゃんには秘密にしておいてあげますから安心してください」

「いや、それは別に話してもいい」


 そんなふうにクウといろいろ話しながら、俺たちは村に戻った。

 

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