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エルフ転生からのチート建国記  作者: 月夜 涙(るい)
第一章:エルシエ建国編
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第十三話:弓と自由と

 時間に間に合うようにルシエと二人で家を出た。

 村の大広間に、兵士の鎧が一つ置かれていた。用意されているのは、隊長が着ていた一番固いものだ。これが選ばれているのは偶然ではないだろう。


「さあ、シリル。今すぐこの分厚い鎧を貫いて見せてくれ」


 村長の尊大な声が響く。

 この場には、村人のほとんどが集まっていて、不安と、好奇心が入り混じった表情を浮かべている。


 隣に居るルシエが緊張で縮こまりながら肩を震わせていた。

 そんな中、俺は傲岸不遜な表情を浮かべながら、村人ひとりひとりと目を合わせる。

 大丈夫だ。やれる。その気持ちを視線で伝えた。


 そして、ルシエの肩には優しく手を乗せる。

 少しだけだが彼女の震えが止まった。


「やってみせよう。実演の前に、この鎧を貫く武器の紹介を、俺が用意したのは新型の弓。その名をクロスボウと言う」


 俺は鉄と木で出来たクロスボウを高く掲げる。

 すると、周りの村人の目が落胆に変わり、村長とその取り巻きは、表情を緩めた。

 予想通りの反応だ。


「正気か!? シリル。おまえの父の大弓でも貫けない鎧をそんな、おもちゃみたいな弓で?」

「どうみても無理だろう、あんな小さい弓」

「ルシエに使わせるって言ってただろ? きっと女子供用の弓なんだよ」


 あたりに響く村長と取り巻きの罵声。

 俺は笑みを張り付けたままで口を開く。

 少しだけ、場を盛り上げる余興を今からする。


「かつてエルフの戦士は無敵だった! 風と弓の力を持って幾度もの侵略を跳ね除けてきた!」


 それは、今ではお伽噺になった過去の栄光。

 エルフの魔石は何百年も前から人間に目を付けられていた。侵略を受けた回数は数えきれない。それでも、金属の鎧を奴らが導入するまでは勝ち続けていた。


「風を従えるエルフの戦士に、敵の矢は届かず、我らの矢は、どこまでも届いた」


 エルフの戦士たちは風を操る。

 戦場では敵の弓兵は常に逆風の中での矢を放つことを強いられ、逆にエルフの放つ矢は風よけの加護を受け、周りの空気が矢を避けることで空気抵抗すら受けず、信じられない射程を誇った。

 それにより、長距離戦では一方的に蹂躪できていたのだ。


「だが五年前、帝国の製鉄技術があがり、金属の鎧が出回り、我らの矢が敵を貫けなくなったとき、矢と一緒に我らの誇りは砕かれ、エルフの屈強な戦士たちは次々と倒れ、やがて侵略を許した」


 そんな戦場を一変させたのが、金属鎧の普及。製鉄技術の向上により帝国は、矢が貫けない鎧を作ってしまった。

 どれだけ遠くから矢をあてても鎧にはじかれ、いずれは接近を許し、一人、二人と、熟練の弓兵たちは殺されていき、エルフは抵抗する力を失った。


「我らの栄光は弓と常にともにあった。誇りを取り戻すことを願うのであれば、強き弓を作り、帝国の威信である鉄の鎧を貫くほかない! それが出来て初めて、我らは次の一歩を踏み出せる」


 声を張り上げ、情感を込め、高らかに歌い上げるように叫ぶ。


「では、我らの誇りを取り戻す一矢を、これよりご覧いれましょう」


 俺は恭しく礼をし、弦を引き、矢をセットしたクロスボウをルシエに手渡す。

 しかし、直前になってそれをやめた。

 彼女の手が震えていたからだ。

 よく見ると、表情もガチガチで青ざめている。

 こんな調子ではうまくいくものもうまくいかない。

 俺はルシエにだけ聞こえる小声でつぶやく。


「緊張してるから御まじないをかけよう。ほら、手を合わせて見て」

「うっ、うん」

「それじゃ、少し痛いから我慢してね」

「えっ?」


 ルシエの茫然とした顔を見ながら、そのルシエの合わせた手を挟むようにして俺が拍手の動作をする。

 パンッといい音がなった。


「痛いよ。シリル」


 ルシエは突然のことにびっくりして目を丸くしたあと、小声で文句を言う。その表情は、さきほどより柔らかくなっている。


「でも、震えは止まっただろ。難しく考える必要はないよ。昨日練習した通りやればいいさ。10mもない。この距離なら目を閉じても当たるだろう?」

「でも、でも、私、ここで失敗したら」

「そのときは、おしりぺんぺんでもしようか? もちろん生で」

「こんなときに冗談言って」

「こんなときだからだよ。ほら、みんなの度胆を抜いてやれ」

「シリルはいつもどおりなんだね。緊張してる私が馬鹿らしくなってきた」


 ルシエは薄く、本当に薄くだが微笑んだ。これなら大丈夫だろう。

 ルシエの細い手に握られたクロスボウが鎧に向けられ、無造作に引き金が引かれた。


 パンッと、乾いた音を鳴らしながら矢は、鎧をやすやすと貫き地面に突き刺さった。

 俺はルシエの頭に手を置き乱暴に撫ぜた。


「うそだ!」

「信じられない」

「ルシエみたいな女の子が放った矢が鎧を貫いた?」

「あんな小さい弓で?」


 周りがどよめく、興奮が収まらない。

 俺が作ったクロスボウの弓力は、大弓の二倍近い89kgあり、初速は102m/sを誇る。時速にすれば約360km/h。これくらいの鎧貫いて当然だ。


「みんな、見てくれたか。この弓は非力な女子供で使えて、どんなものでも貫く、これさえあれば、だれでも帝国と戦える弓兵となるんだ!」


 その興奮をさらに盛り上げる。

 しかし、


「騙されるな、確かに鎧を貫いたが、あらかじめ弦は引かれていた。こんな強力な弓の弦がルシエにひけるわけがない!」


 村長のちゃちゃが入る。


「なら、ルシエ、昨日教えたとおりやってみて」

「うん、わかった」


 無事うまく鎧に矢が当たって安堵と喜びに包まれたルシエは、クロスボウの先端についている輪を地面に押し当て、その中につま先を通して踏みつけ固定。

 さらに、昨日渡した弦にひっかけるS字の道具を二つ取りつけて、両手と背筋で弦を引き、出っ張りにひっかけて固定する。

 片手では到底89kgの弓力の弦なんて引けないが、両手と背筋で引くなら100kgぐらいは女の子でも引けてしまう。


「それじゃ、もう一発撃つね」

「頼むよルシエ」


 俺がそう言うと、ルシエは矢をレールのくぼみにセットし、トリガーを弾く。すると、再び矢が鎧を貫いた。


「見ての通り、ルシエでもこの弓は引ける。しかも、普通の弓と違って弦を引いたまま動ける」

「確かにルシエでも引けたな。だが、普通の弓と違って毎回地面に先端をつけていれば連射ができないだろう」

「そんなもの、少しの訓練と運用次第でどうにでもなる。それに、俺たちエルフに連射の必要があるのか? 一撃で仕留めればいいだけだ」


 俺はそう言うと、ルシエに渡したものとは別のクロスボウを手に取り、鎧からどんどん離れていき、200mほど離れたところで足を止める。


「俺たちエルフは目がいいし、距離感にすぐれ、風に愛されている」


 それこそがエルフが弓士としてすぐれている所以だ。

 遠くまで物が見え、動体視力がすぐれ、抜群の距離感。全て弓の扱いに必要なものだ。


「魂を込めて放つ矢は外れない」


 風よけの魔術を矢にかけて放つ。

 風の影響を受けない矢は、重力以外で狂わない。

 それに、何度か試したが、この世界ではコリオリ力……地球の自転による影響がない。


 だから、自由落下の計算だけをすれば、狙った通りの軌道で矢は飛んでいく。

 本来、クロスボウの弱点として、構造上矢を短くしないといけない上に、長い矢羽がつけれないせいで、慣性の力と揚力を受けにくいせいで直進性が劣り、矢がぶれたり射程が落ちたりするが、エルフにとってその弱点は無視できる。

 

「ほら、見てのとおりだ」


 秒速104m/sの矢は1.9秒後に届く、そこから計算した自由落下距離は18.1m。俺はその距離の分だけ鎧の中心から上を狙って矢を放った。

 それだけで吸い込まれるように矢は鎧にあたり貫通した。

 風の加護のおかげで空気抵抗がないので、矢の威力が減衰しないのだ。


 そして、風の加護はエルフなら、真っ先に習得し誰でも使える簡易的な魔術でもある。

 そう、この場に居る全員が当てることはともかく200m先から致命的な威力を持つ矢を放てるのだ。

 俺の長距離射撃を見てさらに会場が沸く。

 それを確認しながら再び鎧の近くに移動。


「今みたいな長距離射撃まではできなくても、俺たちエルフならちょっとした訓練で100m以下での必中射撃はできるだろう。帝国の兵士が斬りかかってくるまでに皆殺しにできる」

「馬鹿な、弓の訓練なんて、年単位でかかるだろう。五年前の戦いで、一流の弓使いはみんな死んだ。弓なんて論外だ」


 村長の悪あがきは続く。

 実際、弓は扱いが難しい。構え、引き手の角度、離すタイミング。どれも熟練の技を要する。一流の弓兵になるまでは数年が必要だ。


「ただの弓ならな。だけど、クロスボウは引き金を引くだけだ。なら試してみよう。誰でもいい、この弓を引いてみたい奴はおりてこい」


 そう言うと我先にと、何人かが下りて来たので、俺とルシエのクロスボウを渡して撃たせる。

 村人たちは、簡単なレクチャーで弦を引き、矢をつがえ、20m先の鎧に矢をあて貫通させてみせた。


 これもまたクロスボウの魅力だ。たとえ弓兵に必要な資質を持ったエルフでも訓練なしに弓は扱えない。村長の言うとおり、弓の名手のほとんどが先の戦いで死に。今では猟に行くことがある数人しかまともに弓を扱えない。


 今回武器を作るにあたって、数日で誰もが使えるようになる。それが最低条件だと俺は考えていたのだ。

 エルフの村では、戦いの専門家を作る余裕がない。農業の片手間に一般人が戦えてはじめて意味がある。


「これでもまだ文句があるのか?」

「ああ、ある。たった二本の弓で何ができるんだ! 兵士が一度に何人来ると思っている」


 予定通りの反論。その言葉を待っていた。


「誰が二本だけと言った?」


 俺は【輪廻回帰】の部分開放を行い、ディートの【アイテムボックス】を起動、昨日までに作った50丁のクロスボウを全て取り出す。

 圧倒的な破壊力をもつクロスボウが並ぶ、その光景には魂が魅入られてしまうほどの異様な雰囲気があった。


「足りなけれがまだまだ用意しよう。見ている皆、見ての通り、弓はたくさんある。撃ちたい奴は、どんどん撃ってくれ」


 その言葉で遠巻きに見ていた村人が集まってくる。

 次々に矢を放ち、鎧はもはや穴だらけになっていた。

 それは、ただの村人が一瞬にして、屈強な兵士の鎧を貫く弓兵に変わった瞬間だ。


「これでわかっただろう? もはや、帝国の鎧なぞ恐れる必要はない。ただの鈍重な的だ!」


 帝国兵士の基本戦術。勝てない遠距離戦を捨て、無敵の鎧を以て突撃し切り伏せる。

 その根幹を根元から破壊する。


「俺たちは勝てる! もう、誰も奪わせない。自由を取り戻すんだ!」


 今までは誰も信じなかった甘い言葉。それをクロスボウの威力が信じさせる。

 クロスボウを撃てばわかる。自分たちは帝国の兵士を殺せる。実際に自らの手で憎い帝国の鎧を貫いてしまえば、感情に歯止めが効くはずなんてない。


「うおおおおおおおおおおおおおおおお」

「勝てる! 勝てる!」

「母ちゃんの仇をとってやる!」


 今までの恐怖による抑圧。大事な人を奪われた怒りがはじけ飛ぶ。

 こうなれば後は成り行きに任せればいい。


「落ち着け、落ち着くんだ皆の衆。確かに、シリルは帝国に勝てるかもしれない武器を作った。だが、負けるかもしれん! 戦えば大勢死ぬ! いいじゃないか、今のままで、おとなしく帝国に従えば、死ぬのは毎年たった十人で済むんだぞ」

「村長、俺は十人をたったとは思わない」

「だが、戦えばきっと、もっと死ぬ」

「俺がそうはさせない。クロスボウなんて、数ある武器の一つだ。俺がこの村の皆を死なせない方法をいくつも用意してみせる」


 堂々と言い切る。今までの俺の行動がその言葉に説得力を持たせる。


「だっ、だが」

「逆に聞こう。どうして、そこまで戦いたくないんだ?」

「何度も言っているだう。少しでも犠牲を減らすためだ!」

「本当に?」


 まっすぐ目を見て俺は問いかける。


「村長は、今の生活に満足しているからそう言っているだけじゃないのか?」

「なっ、何を言っているんだ!? そんなことあるわけないじゃないか!」

「そうか、なら良かった。俺は思うんだ。この村の未来を決めるのは、村人自身だって。だから、みんなの声を聞かせてほしい」


 周りに居る村人たち一人一人を見回していく。


「このまま、自由と尊厳を奪われ搾取されながら、怯えて暮らすのがいいか! 自由と誇り、そして何よりも大事な人たちの命を守るために戦うのかいいか! この場で選んでくれ」


 俺の言葉を聞いて、あたりに緊張感が生まれる。


「まず、今の暮らしを望むものは拍手をしてくれ!」


 俺がそう言うと、村長と、その子飼いの連中が思い切り拍手をする。全体の一割にも見たない人数だ。


「次に、戦い、自由を取り戻すことを選ぶものは拍手をしてくれ」


 拍手喝采。ほとんどのエルフ達が、力いっぱいの拍手をする。そう、誰もこんな今を変えたいと思っているんだ。


「見ての通りだ村長。村人たちは、戦うことを選んでいる。この想いを無視するのか!」

「うるさい! みんな熱気に当てられただけだ! こんな重要なことをこの場で決められるか! わしは帰らせてもらう」


 そう言い捨て村長は消えていった。

 そうすると、村のエルフ達が俺のところに集まってきた。


「シリル、すごいな。本当に鎧を貫く武器を作るなんて! こんな材料どこにあったんだ」

「それは食料を盗むときに鎧とか剣も一緒にちょろまかしてね。それを溶かして使ったんだ。あとはカエデの木だね。木の部分のほうが大きいから数を揃えられたんだ」

「この弓の他にも、用意があるって本当?」

「ああ、もちろん。俺は、皆を死なせないために色々準備をしてるし、もし怪我しても俺が治す。だから、一緒に戦ってほしい」


 俺はそう言って頭を下げる。

 すると、一緒に戦うとみんなが言ってくれた。

 村人たちの気持ちは固まった。後は村長をどうにかするだけだ。


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