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エルフ転生からのチート建国記  作者: 月夜 涙(るい)
第一章:エルシエ建国編
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第十一話:クロスボウ

「土よ。おまえ達のことを教えてくれ」


 土のマナに働きかけ、周囲の100mを地下まで含めて分析し、地質を調べ上げる。


「よし、上質の土だ。粘土と、石英は十分にあるな」


 求めていたものがあり、安堵の息を漏らした。

 二つとも、地上のどこにでも存在する物質だ。粘土なんて少し地面を掘れば出てくるし、石英はそこらの砂にすら、あたり前のように紛れ込んでいる。

 誰でも、砂場で白く濁った石を見たことがあるだろう。それが石英だ。


「【物質操作:粘土】」


 土のマナに働きかけ特定の物質を指定して誘導する魔術。

 不純物をそぎ落とした粘土が地面から吹き上がる。

 それはうねりながら俺を取り囲み、半径30mの円を描く。

 そして量を増やしながら天に向かって伸び、5mほど伸びたあとは円の中心に倒れ込み、頂点でぶつかった。

 今、俺は粘土で出来たドームの中に居る。

 そのドームに一片60cmの正方形に穴がいくつか空き、さらに、地面に面している一か所に高さ2mほどの穴が開く。

 俺はそれを通って外に出る。


「【物質操作:石英】」


 そして、正方形の小さい方の穴に石英を操作して、穴を塞ぐように配置する。

 工程が終わってから土のマナに呼びかけ、その場に固定するように呼びかける。


「今度は火だな。火のマナよ。力を借りるぞ。【獄炎】」


 火のマナに呼びかけ巨大な炎を起こす。

 相性値は80で、土よりは落ちるが、それでも十分すぎるほどの相性の良さだ。

 ドームを半径30mにしたのは、それが俺の火を操作できる限界だからだ。火のマナは扱いが非常に難しく、俺の技量と魔力でも、それ以上は無理だ。


 俺が呼び出した炎は粘土と石英で出来たドームを完全に呑み込んだ。

 火のマナと同調し、焼かれていくドームの様子を確認しながら微調整していく。

 少しずつ、粘土が赤褐色になり固くなって煉瓦となり、石英が溶けて赤い液体になる。

 この段階で土のマナと同調を開始、火と同時制御になりきついが、鉱石に愛されているクイーロならなんとかなるだろう。


 赤く燃える液体となった石英から不純物を取り除く。粘土と違い、石英はこの状態からではないと不純物が取り除けない。

 完全に、粘土が固まり、石英から不純物がなくなり整形が完了したことを確認した俺は魔術を切り替える。


「【冷却】」


 火の魔術は燃やすことに特化した属性魔術ではない。本質は熱量操作だ。熱を奪うことにもたけている。

 焼けた粘土から余熱を奪い、焼けて溶けた石英を冷やしていく。

 そうしていると、石英が透明になっていき、見事な石英ガラスとなった。石英で出来たガラスの透明度は普通のガラスと比較にならないほど高い。


「よし、完成だ。さすがドワーフ。煉瓦造りの工房を十分で作り上げるとは」


 我ながらほれぼれする腕前だ。

 粘土を焼くことで煉瓦にする。石英を集めて溶かしてガラスにする。どれも単純な工程だが、まともに行うにはかなりの設備とコストが居る。

 もっとも、それで家を作るとなると、単純な作業とは言えなくなる。粘土を焼いて煉瓦にすれば大きさが変化するし、石英から不純物を取り除けば小さくなる。

 焼く前の段階で、どう変化するかを勘と経験で読み切れてしまう。ドワーフの第六感こそが、クイーロの真骨頂だ。


「さて、鎧と剣を中に入れるか」


 俺は土のマナの力を借りた鉱石操作で鎧と剣を操り、ドアの形に開いたところから中に入れていく。

 やっぱり土魔術は便利だ。エルフの姿では、まともに扱えないのが口惜しい。


「今日は、組み立てまでいけるかな」


 俺は火魔法で鎧をドロドロにとかし、その上で土魔法で鉱石制御、流体になった金属を入口に向かわせる。それを冷やして簡易的な扉を作り、さらに、追加の部品を張り付け開閉可能にした。

 これで、工房は完成だ。


 いよいよ武器作りのはじまりだ。

 集中し、魔術を発動させ、鎧と剣を全て溶かす。


「やはり帝国の製鉄技術はまだまだ未熟だ。不純物が多い」


 鉄鉱石はそのままであれば使用に耐えられる代物ではない。

 故に、不純物を取り除き鉄に変えるのだが、それには高出力の炉とある程度の知識と技術を要する。俺が溶かした剣や鎧はかなりお粗末だった。

 様々な金属が混ざり合っている状態の剣や鎧を溶かした塊を、それぞれの金属ごとによりわけ、インゴットにしていく。

 そうして出来たインゴッドをまた溶かして今度は意図的に不純物を混ぜていき鋼にする。

 純粋な鉄は素晴らしい。だが、不純物をあえて混ぜることでより目的に適した金属に変えられるのだ。


 今作っているのは、弓のリム。弦を張る部分だ。

 求めるのは、よくしなる板バネとしての性能だ。ドワーフの経験と勘で鉄をベースに周囲の金属を加えてリムに相応しい合金に仕上げる。


 鎧や剣から出た不純物はもとより周囲にある金属すら利用し、俺は最適な金属を作り上げた。

 そして、その塊を今度はリムの形に成形していく。

 サイズは50cm程度。弓のリムにしてはかなり小さめだがこれでいい。なにせ俺が作っているのはクロスボウの部品なのだから。


 それを予備を含めて五十個ほど作る。ドワーフの技巧で頭に描いたものと1mmのずれもなく五十個のリムを完成させる。


 さらに次は矢の発射台となるリール。続いて二分割されたトリガー部分、最後にクロスボウ特有の先端につける鉄のペダルをを次々と完成させる。


 それぞれの構造は単純なので部品単位に作ると単一成形が可能なので制御しやすい。さすがに金属を溶かして固めて、一気にクロスボウにすることは俺でも不可能だ。


「次は矢とネジとバネか」


 俺は鉄で矢とバネとネジを必要数以上に作り上げる。このあたりの部品は他でいくらでも使えるので多めに作る。

 クロスボウの矢は、ボルトと呼ばれる太く短い鉄の棒だ。貫通力を高めるために理想的な形状にしあげる。この工程で手を抜くと命中精度が激減する。


 クロスボウは作り慣れている。文明が中途半端に発達している国ではよく作ってきた。

 俺の知識と魔術制御能力、それにドワーフの火・地属性の適性があれば銃も作成可能だったが、あえてクロスボウにしている。


「火薬が手に入らないからな」


 そう、火薬を手に入れるには、硝石が必要になる。運よく硝石の鉱山なんてそうそう見つかるわけがない。硝石を排泄物から得る方法もあるにはある。

 あれは生成に五年かかる上に、エルフの村の人口では一年分の排泄物を全て使っても数回の戦闘で使い切る量しかとれないので現実的ではない。

 購入するにも硝石は希少品で高価だ。基本的に銃は金持ちの軍隊しか維持できない。


「しかもメンテもめんどうだし」


 火縄銃程度の単純な構造でもわずかな銃身のゆがみ、煤づまり、些細なことで使い勝手が悪くなる。効果的な運用にはある程度の知識を要する。

 その点、クロスボウは少しの訓練で使えるようになるし、構造が単純だ。


「あとは、めちゃくちゃ鉄を食うのも問題だ」


 付け加えて銃に使う鉄の使用量はクロスボウの比ではない。弾と合せれば、十分な数を用意できない。金属は貴重だ。武器以外にもさまざまな用途がある。入手法が帝国からの略奪しかないので、諦めるしかないのだ。


 クロスボウの場合、今作った部品を支える土台を木で補えるのが大きい。

 ただ、木の細工だけはどうしても手作業が必要になる。

 部品が一通り出来たので、俺はため息をついて手作業での木の加工を始める。


 俺は昨日のうちに木の板を適度な厚さに切ってあるので、

 まずは適切な大きさに切り出す。ナイフに魔力を通して切れ味を強化。まるで熱したバターのように木が切れていく。


 土台になる基礎が出来れば、リムを通す穴、グリップを取り付ける穴、そしてペダルを入れる穴を掘り、土台の完成。

 ドワーフの器用さと、図面を頭に起こす力があればこその職人芸だ。


「よし、これで部品は揃った」


 そして、リムを本体の前方につき刺し、トリガーと一体になったグリップを底に取り付け、作っておいたネジで木に固定。さらに、トリガー部の巻き戻し用にバネを取り付ける。

 さらにリールを上部に乗せ、鉄製のわっかを先端部に取り付けた。

 これでクロスボウは完成。あとは弦を張れば完成だ。


「普通の糸だと、耐え切れないし、今回もアレを作るか」


 俺は最後の工程に入る。木の板の一枚を低温で焼いて、炭を作る。さらにその組成を土魔法で弄り炭化した部分を、炭素の糸カーボンファイバーにしてしまう。

 カーボンファイバーはこれは地球上でもっとも強靭な糸の一つ。それを幾重にもより合わせて太い糸にし、さらに強度を上げる。


 その糸をリムの間に張り巡らせた。

 これで完成。

 一応、トリガーを引いてみると、リールに飛び出ている出っ張りが引っ込み、トリガーを離すと、バネによってもとの位置に戻る。


「一度引いてみるか」


 俺は強化した筋力で弦を引き、そしてリールの上の出っ張りに弦をひっかける。その際に弓力を確かめることも忘れない。


「弓力は、89kgだな。父さんの長弓の二倍だな」


 強靭な板バネと、カーボンファイバーにより、50cmのリムでも、木製の弓の二倍の弓力を発揮する。

 もちろん、こんなものは普通は手で引くことはできない。だが、それを解決する機能もクロスボウには備わっており、魔力による強化がなくても、ルシエみたいな女性でも扱うことができる。


「バーン!」


 口でそう言いながら引き金を弾くと、弦を留めていた出っ張りが沈み込み、弦が解き放たれ、強烈な勢いで跳ねる。

 本当は矢が乗っていない状態でこれをするとクロスボウを痛めるので推奨されない。


「最後は試射だな」


 魔力による肉体強化を切る。

 そして、先端についた輪を地面に押し付け、その輪に右足を入れて固定。

 両手を弦に這わせ、両手と背筋で引き上げる。


 そう、片手で引くから弓は、45kgの弓力が人間に扱える限界だと言われている。しかし、背筋と両手で引けるなら、もっと楽だ。なにせ日本人女子の高校生の背筋測定の全国平均が100kg。89kgの弦が弾けないはずがない。


 俺はやすやすと弦を引いて出っ張りに弦にひっかけることができた。

 今度は、きちんと撃つので矢をリールの上に乗せる。リールの上には矢を安定させるためにくぼみが出来ていて矢がきれいにのった。

 よし、鉄でつくった矢……ボルトの精度も申し分ない。


 俺はわざと溶かさずに残していた比較的、上質な鎧にクロスボウを向ける。


「さあ、貫けるかな?」


 引き金を弾く。

 クロスボウの矢は、初速102m/sで飛び出し、上質な鎧をあっさりと貫通した。


「さあ、これで課題はクリア。あとは五日でどれだけ数をそろえられるかだな」


 武器というのは、数が揃って初めて意味を成す。

 たった一つ、やつらに抵抗できる武器があっても意味はない。

 組織で運用することが前提の存在だ。


 そんなことを考えているうちに時間切れが来た。

 俺の姿がシリルに戻る。それと同時に全身を倦怠感が襲っていた。


「ふう、ここからは時間の戦いだ」


 部品は大量に用意したが、問題は木の削りだし作業だ。

 鉄の消費を抑えるために、本体を木にしたが、その工程に一つ15分ほどかかる。

 クイーロで居られる時間は122分なので、頑張って8つが限界。

 シリルに戻った俺でも切りだしは可能だが、それで性能にばらつきが出るのが怖い。


 ここはおとなしく、地道にクイーロでこつこつ作ろう。

 そう決めて、俺は今日の作業を終了させた。

 クロスボウをお披露目する日は近いだろう。


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