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番外編:エルシエと、シリルたちのその後

シリルくんたちのその後を書いた物語です


「父様! おかえりなさい」

「ただいま、クーナ」


 小さなキツネ耳の女の子が駆け寄ってくる。

 俺の末娘であるクーナだ。

 彼女はクウの娘で、クウ譲りの綺麗な金色の髪と金色のキツネ尻尾が生えている。


「父様、父様!」


 器用に俺の足にしがみついたと思ったらするすると身体を登っていく。気がつけば俺の首の後ろに居て両足で首を挟んで座っていた。


 まだ、三歳だというのに凄まじい身体能力だ。魔術の適性も凄まじい。この子は見よう見まねで俺の魔術を使うことすらある。クーナにはいつも驚かされる。


 彼女は、素質だけならどの兄弟より……いや、俺すらも軽く凌駕する。正真正銘の天才、末恐ろしいとすら思える。


「クーナ、危ないぞ」

「父様がしっかり足をもってれば落ちない。いこ、父様」


 はしゃぎながら、家のほうを指差すクーナ。

 俺は苦笑して娘の両足をしっかりと掴んで歩き出す。


 すると、家のほうからエルフの少女がやってきた。年の頃は十代半ば。

 金色の髪をセミロングにしたエルフ耳の少女。

 彼女も俺の娘でルシエとの間に出来た娘だ。


「あっ、クーナ、急に飛び出したと思ったら!」

「父さんの足音がしたから」


 きっと、俺の肩の上でクーナは自慢のキツネ耳をぴくぴくと動かしているだろう。


「お父さん、あんまりクーナを甘やかしたらだめだよ! この子、ほんとうに言うこと聞かないんだから!」


 ルーシェがお姉さん風を吹かせて頬をふくらませる。

 だが、その言葉に説得力がないことを俺がよく知っている。


「そんなことを言うルーシェが一番、クーナを甘やかしているだろう。今日クーナが着ている服だって、ルーシェの新作だしね」


 クーナは、ふりふりのピンクのワンピースを着ていた。

 可愛らしいデザインだ。そのデザインの癖をみれば、ルーシェが作ったものだということがわかる。


 彼女は昔から服作りが好きで、その道を進んでいる。

 三年ほど、ルシエとクウのウエディングドレスを作ってくれた商業都市エリンの親方のところで下働きをしながら学び、免許皆伝を受けてエルシエに戻ってきた。


 こちらに戻って来て以来、服飾屋を営みながら、クーナを着せ替え人間にしながら溺愛している。


「……べっ、別にクーナを喜ばせるために作っているわけじゃないから、ただ、子供服のモデルにしてるだけだし」

「ルーシェお姉ちゃんの服、可愛くて好き」


 クーナがそう言うと、目をとろんとさせてこちらによってきて俺の肩に乗っていたクーナを取り上げ抱きしめる。

 クーナが苦しそうに手足をばたばた動かしているが、気づいていない。

 うん、間違いなくルーシェが一番クーナを甘やかしている。


 ◇


「戻ったよ」


 結局、あのあとクーナはルーシェに拉致られてしまった。おそらく彼女の工房で、また着せ替え人形にされているのだろう。


 クーナが必死に小さな手をこちらに伸ばして、助けてと目でも声でも訴えかけてきたが、見てみぬふりをした。

 あそこで余計なことをすると、ルーシェが怖い。


「おかえり、シリル」

「おかえりなさい、シリルくん」


 ルシエとクウが出迎える。

 昔はルシエとクウ、それぞれのために家を用意して、日毎にどちらかに泊まるかを決めていた。それは、お互いに気を使わせない配慮だったが、それぞれに子供が出来て、子供同士が仲良くなってくると逆に不自然になり、大きな家を建てて一緒に住むことにしていた。


「シリル、怪我がなくてよかった」

「はい、この前なんか死にかけて戻って来ましたから、本当に心配だったんです」

「……この前はちょっと、溜めすぎたね。失敗した」


 エルナの封印が解かれ、シュジナたちの犠牲のもとに再封印をして以来適度にガス抜きをしていた。


 溜めに溜めたエルナが溢れ出せば、おそらく二度と俺は防げない。

 だからこそ、エルナを小刻みに処理する仕組みを作った。


 迷宮のような構造の建物の最下層にエルナを引き寄せる装置を作り、集めるだけ集めて、溜め込まずに魔物化させてしまう。それを定期的に倒すことで封印の破綻を無くすというものだ。


「ねえ、シリル、その目、ちゃんと見えてる?」

「大丈夫だよ。ルシエ、見えている。五年かけてようやく馴染んだ。むしろ前よりいろんなものが見えているぐらいだね」


 俺の目は生まれ持った青い目ではなく翡翠色の目に変わっていた。


「シリルくんの目、偽物だとは思えないぐらい自然に見えます」


 クウの感想に、俺は薄く微笑む。

 これはハイエルフの象徴たる翡翠眼だ。


 アシュノは、シュジナの研究を引き継ぎホムンクルスを作ろうとした。肉体は作れたが魂を作れずに挫折している。

 その技術を応用して魔物との戦いで失った俺の眼の代わりに翡翠眼を用意してくれた。

 普通の眼でも良かったが、二度と抉られない強さを得るためには、翡翠眼のほうがいいと押し付けられた。それが五年前。


 おかげで、五年前に翡翠眼を移植してからというもの、徐々にハイ・エルフに変化していき、今では完全にハイ・エルフになってしまっている。

 それが少し怖い。

 クーナが生まれたのが三年前。クーナは唯一、俺がハイ・エルフになってから生まれた子供だ。


 そのことが変な影響を与えていないことを祈るしか無い。

 ……いや、現実逃避はダメだ。影響は確実に受けている。異常な素質もそうだし、クウの話ではクーナは火狐族に伝わる先祖返りの特徴を色濃く持っているらしい。尻尾の色も、同じ金でもクウの金とはまた違う絢爛の金であり、炎にも朱金が混じる。


 エルフがハイ・エルフになるように、火狐たちには伝説の九尾の火狐というものが存在する。クーナはそこに至る可能性があるとクウは話していた。

 俺は、同時にそうなることすらアシュノが狙っていたのかもしれないとすら疑っている。まだ、あいつは俺に話していないことがある。


「二人共、そんなに心配しなくていいよ。どんどん強くなっているからね」


 世界に起きた大きな変化として、アシュノが世界そのもののルールを変えてしまったことがある。

 魔術とは、基本法則とは異なる新たなルールを一時的に構築する力。

 アシュノの場合は、ルールを作るのではなく既存のルールそのものを歪める力を作ってしまった。


 おかげで、この世界の人のあり方そのものが変わり、【加護】と【格】というものが産まれている。


 ガス抜きと称して定期的に地下迷宮に出向くたびに魔物を虐殺している俺は、限りなく強くなっている。


「ねえ、シリル。やっぱり一人じゃ危ないよ」

「そうですね、私達もお手伝いしたいです」


 二人の申し出は嬉しいが首を振る。

 地下迷宮では、俺が【世界を滅ぼした破滅の銀龍】を呼び出さないといけない状況に追い込まれることも多く、二人を守り切れる自信がない。


「大丈夫だよ。そろそろ俺もお役ごめんになるしね。今、コリーネ王国のアシュノたちが、いろいろと手回しをやってくれている。もうすぐ誰もが地下迷宮に挑む時代になる。そうなれば、奥までいかなくても少しづつ表面を削ればいいさ」


 そうなることを信じて、技術協力は惜しんでいない。

 もう一年もすれば形になるだろう。


「そういえば、ソラとライナはどうした?」

 

 俺は、クウとの間に生まれた双子の娘と息子の行方を問いかける。


「たしか、ソラちゃんは和平交渉をしに出かけて、ライナくんがイラクサを率いて護衛をする感じだったと思うよ」

「あの二人が実質、エルシエを仕切っていますからね。最近は本当に忙しくしています」


 ソラは政治や統治に興味をもち、幼い頃から徹底的に俺が教育した甲斐もあって、今ではエルシエの長の代理となって俺が不在時には長の仕事を務め上げている。

 ライナのほうは、ひたすら強さに憧れて今ではイラクサのリーダーだ。

 ……妙にロレウに懐いて、変な影響を受けているが、真っ直ぐに育ってくれた。真っ直ぐ過ぎて頭を使わないのはたまにキズだが。


「そうか、二人が。エルシエは俺が居なくても大丈夫かもな」


 子どもたちも幼いクーナ以外はみんな自分の道を見つけて歩んでいる。

 少し寂しいと感じた。

 最後に残した、エルナの封印絡みの仕事も終わりは見えている。


「シリル、別にいいじゃない。私たちはもう隠居決めちゃうよ」

「それもいいかもしれませんね。子どもたちにみんな任せて、私たちは残りの人生を楽しみましょう」


 俺は微苦笑する。

 それもありかもしれない。俺達はエルフと火狐の特性のおかげで死ぬ瞬間まで、若い姿と体力を保てる。楽しもうと思えば、死ぬ直前まで楽しめるのだ。


「今度、旅行にでも行こうか。外交とか、そんなのを一切考えない、本当の遊び。そろそろ結婚記念日だしね」


 俺がそう言った瞬間二人が思いの外喜ぶ。

 そうか、こんな簡単なことで喜んでくれるのか。どうして今までやらなかったのだろう。

 俺は今まで外交で各国を回った知識を活かして、二人のために最高の旅行プランを考え始めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ルーシェちゃんの方が早く生まれたってこと?よく分からん
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