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番外編:ある日のシリルの休日。妹狐と水飴

「ねえ、シリル。何作ってるの?」

「ちょっと、お菓子をね」


 今日は久しぶりに時間が出来たので、せっせと趣味の料理を作っていた。

 俺はジャガイモをせっせとすりおろす。乳白色の液状の物が出来てきた。


「用意している材料、ジャガイモと人参だけだよね。それでお菓子なんてできるんだ」

「うん、とびっきり甘いお菓子をこの二つで作れるんだよ」

「甘くないジャガイモと人参で、甘いお菓子ができるなんて魔法みたい!」


 後ろから、興味深そうにルシエが覗き込んでくる。頬にルシエの髪があたって少しくすぐったい。


「魔法か、確かに魔法みたいなものだね。出来上がるのは、ちょっと不思議なお菓子だよ」


 俺は調理をすすめる。目の細かい布ですりおろしたジャガイモを包み込み。ぎゅっと絞る。すると茶褐色の液体が出来上がる。


「この絞り汁をしばらく置いとかないといけないから。少しお茶にしようか」


 俺は微笑み、乾燥させていたヨモギを使ったよもぎ茶を淹れる。

 ヨモギのいい香りが当たりに広がる。

 自分と、ルシエの分をコップに注ぎ、さらに来客用のコップを三つほど出して置く。


「シリル、誰かお客様が来るの?」

「うん、可愛らしいお客様だ。今日はユキノがクロネとケミンを連れて遊びに来る。ちょっとした仕事を頼んでいてね、その仕事をがんばってくれたから、ご褒美をあげるって約束していたんだ」

「ああ、あの子たちね」

「ダメだった?」

「ううん、むしろ嬉しいかな。小さい子って好きだし。ユキノちゃんも可愛いけど、ケミンちゃんとクロネちゃんも可愛いしね。みんな尻尾がもふもふだし、一度触ってみたいなー」

「それは止めておいたほうがいいかな。火狐って尻尾を触られるとすっごく怒るから」


 なにせ、尻尾を握っていいのは、家族と旦那様だけだ。

 たとえ、同性でも怒るだろう。


「残念、シリルだったら触らせてくれるかもね」

「そんなわけないじゃないか」


 ユキノの尻尾はよく握っているなんてことは言えない。

 言ったらいろいと大変な事になる気がする。


 そんなことを考えていると、トントンと扉を叩く音がした。


「シリル兄様、お招き頂きありがとうございます」


 緊張した様子でガチガチになった黄色の火狐のケミンが礼儀正しく挨拶する。


「来たのー、シリル兄様。クロ、シリル兄様のお料理楽しみなの!」


 天真爛漫な笑顔で、無邪気に笑う黒い火狐のクロネは元気に挨拶。


「ユキノも楽しみにしてた。シリル兄様の作るもの、全部楽しみ」


 銀色の火狐のユキノは、一見感情の起伏が少ないように見えるが、一番甘えん坊なのがこの子だ。さっそく俺の胸に飛び込んできて顔をうずめながら尻尾を振っている。


「あっ、みんなシリルから話を聞いてるよ。入って」


 そこにルシエがやってきて三人を家の中に案内する。


「「「お邪魔します」」」


 三人が俺たちに挨拶して家に入ってきた。


「俺はお菓子の仕上げに入るから、みんなはお茶でも飲みながら、話でもしてくれ」


 最後の仕上げにとりかかっている間、ルシエに三人の相手をしてもらうことにした。

 あの三人がルシエを質問攻めにしているのだが、その話題が俺のことばかりでこそばゆい。俺から直接聞けないことをこれ幸いと聞いているのだろう。


 そんな彼女たちを尻目に調理を続ける。

 さきほど、布で濾したジャガイモの汁を見ると、上の方は茶色の液体、下のほうが白い液体となっている。慎重に上の茶色い部分だけ捨てる。


 そうすると、デンプンの塊になるのだ。さらにを加熱すると、とろとろと粘り気が出てくる。

 そこに人参の絞り汁を加える。この絞り汁がデンプンを分解して糖に変えてくれる。


 しばらく、水分を飛ばしながらアク取りをする。どんどん粘度をましていく。ようやく目的のものが出来た。粘度の高い黄金色の水飴。少し冷ましてから指を入れて舐める。

 うん、ちゃんと甘い。

 簡単だけど、これで出来上がり。


「みんな、出来たよ」


 俺は鍋を持って居間に向かう。


「うわぁ、シリル兄様これなんですか」

「クロ、こんなの初めてみた」

「甘い匂いがする。ユキノ、はやく食べたい!」


 小さな三人が身を乗り出して鍋を覗き込む。期待のせいか、キツネ耳がピクピク動き、尻尾が揺れている。


「水飴ってお菓子だよ。もう食べていい。この二つの木の棒に水飴を絡ませて食べるんだ」


 俺はまず三人と妹分とルシエに木の棒をくばり、まず自分が木の棒二つに水飴をまとわりつかせて、くるくると練り上げる。その様子を三人は目を輝かせてみていた。水飴はシンプルなお菓子だが、砂糖が貴重でみんなが甘味に飢えているこの時代には最高の贅沢だ。


 メープルシロップの在庫が尽きかけているので、こういうものを用意してみたのだ。口に合えばいいのだが。


 そして、三人はおのおの、木の棒で水飴を練って遊んだあと、水飴を口に含む。


「「「あまーい」」」


 頬を抑えながら、とびっきりの笑顔を見せてくれる三人。ここまで喜んでくれると兄貴分として嬉しくなる。たまにはこういう日もいい。そう考えているとルシエと目があった。同じことを考えていたようだ。こうして、ゆっくりと俺の休日は過ぎていく。


 明日から、また頑張っていこう。


エルフ転生の三巻が3/30発売だよ! 第三章 二十三対四千五百の戦争 がメインになっています! 今回の表紙はユキノちゃん。ちょっとえっちぃけど素敵な表紙だ

http://www.futabasha.co.jp/monster/#checktitle


新作を始めたから、そっちも読んでくれると嬉しいかも


お菓子職人の成り上がり~天才パティシエの領地経営~


お菓子職人が異世界で甘いお菓子を作ってみんなを幸せにする話です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 挨拶できて偉い
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