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5-15:選択した道

「尻が痛い」と言うと「お相手は誰ですか?」と聞かれ

手術の結果を尋ねられ「穴が開いた」と端的に言うと「や ○ い 穴 実 装」と返ってくる


この国はもうダメかもわからんね

「無理だ。すまない」

 俺は差し出された手をしばし見つめ、伸ばした手を引っ込めるとディバルの誘いを断った。怒りはまだ燻っているが冷静さは戻ってきている。

「そう、か…」

「本当にすまない。協力は出来る。しかし、あんたの目的と俺の目的にはその意識に大きなズレがある。俺はただ自由気ままに楽が出来ればそれで良い程度だ。長年抱え込んで積もりに積もらせた怨念返しには付き合えない」

 戻した手を見つめ、自分の考えを整理しつつ目指すべき場所の違いをはっきりさせる。

「なにより、俺自身がこの世界に対して答えを出していない。あんたの言ってることが正しいとして、俺が『世界』に消されるというのであれば、自分が助かる為の協力もするがあんたの目的に沿って動くわけじゃない」

 ディバルに協力するデメリット…それは狂気にも近い憎しみを持つが故に、目的遂行の為の駒とされること。つまりは致し方ない犠牲と切られる恐れがある。だからと言って協力しないという選択肢はない。何故ならば、共通の敵となる「世界」があり、それが俺の存在を脅かすからだ。

「とは言え、俺の状況がすこぶる悪いってのは理解している。一人で『世界』と戦うようなことになれば…まあ、命はないんだろうな。そもそもそうならないよう全力を尽くすのが今後の方針になるからそうとも言い切れない、のか?」

 どのような選択をしたところで不安材料が山盛りである事実には変わりはなく、最悪命だけは、と考えればやはりこれ以外に道はない。

「正直ぶっ壊したいっていう想いは多分強い。『このふざけた時代にようこそ』をマジでやってくれやがった連中にもきっちり仕返しがしたい。でもそれには相当の危険が伴う。多分一人じゃ無理だ…いや、出来るだろうけど後が怖い。だからさ、共闘といかないか?」

 そう言って俺はディバルに手を差し出す。その手を見つめディバルは笑ったかのように見えた。

「あー…どう言えばいいんだ? つまりだ。仲間にはなれない。だけど協力はする。恐らくだが、あんたは『世界』から干渉されない手札を必要としているんじゃないか?」

 俺の言葉に「どうしてそう思うのか?」とディバルは口元を釣り上げる。

「あんた以外には厄災はいる。だったら何故もう一人の厄災はここにいないのか疑問に思ったんだ。別々に行動しているだけかとも思ったんだが、あんたの話を聞く限り、去った後に再会しているようには聞こえなかった。どんな理由があったかは知らないが、不自然過ぎる。あんたの目的達成の執念を考えれば『出来なかった』と考える方が自然だ。となればもう一人の厄災とあんたを繋ぐ為の何かが必要となる。そしてそれはこの世界で生まれたものでは不可能に思える」

 何か理由があって別々に動いているのかどうかはわからないが、初代の厄災と二代目の厄災には繋がりがない。目的を同じとした仲間と離れて、同じ目的の為にバラバラに動く必要が何処にあるのか? その疑問を持った時、これまでの話からこの考えが頭に浮かんだ。

「…察しの通りだ。我々は彼とは共に行動していない。それどころか、彼と連絡を取る手段すらない」

 何処まで察していたかは互いの認識にズレがありそうだが、予想は当たっていた。と言うより連絡手段すらないという斜め上と来た。

「となると、俺がやるべきことはあんたと『彼』のつなぎ役か…しかしこう言っちゃ何だが、相当時間があったはずなのに連絡手段一つないってのはどういうことだ?」

 当然の疑問をディバルにぶつけるとバツが悪そうに苦笑する。

「痛いところを突いてくれるな。我々は皆、彼に負い目があった。『同胞殺し』の責を背負わせてしまったという負い目が、な。それに…」

 言葉を区切りディバルは俺から目を逸らすと天井を見上げる。

「彼の力は我々の及ぶところにはない。ただのお荷物にすらなりかねなかった。だから誰も、彼を探そうとは言えなかった。言い訳にしかならんがな。怖かったのさ…皆、彼に拒絶されることがな。身勝手なことだ。たった一人の背に全て背負い込ませておきながら、な」

 昔を思い出すように遠い目で部屋の中にあるモニターをディバルは見る。何も映らない真っ黒なモニターを見るディバルの横顔からは後悔が滲み出ているように思える。

「それについてちょっと疑問があるんだが」

 話を戻そうとしたディバルに、俺は軽く手を上げ待ったをかける。

「200人近く異世界人は生き残っていた。そして異世界人にはそれぞれ強力なスキルがある」

 確認するように言葉にするとディバルは頷き肯定する。

「そんだけいても力にすらなれないってのはちょっと想像がつかないんだが…」

 一体どんなスキル、魔力を持てばそんなことが出来るのか? さらに隷属からの解放からの戦闘では300人以上いたと思われる。多種多様なスキルに対応出来たのは能力によるものか、それとも魔力もしくは本人の実力か?

「ああ、それは彼が厄災となった時に構築したスキルによるところが大きい」

 スキルを構築…またわからないことになってきた。ちょっと一度に入ってくる情報量が多すぎる。

「名は『反逆者』…『世界』に反旗を翻した者の固有スキル。それは即ち『世界』の影響への干渉能力。その力は、スキルそのものへの干渉―つまり、スキルの無力化とその効力の無効化だ」


 …やべぇ、ガチでヤバイのが出て来た。


(天敵どころか対処法すら無い奴が出て来たぞ。どうすんだこれ? 協力とか早まったか?)

 内心冷や汗をかきながらもしもの時のことを考えていると更なる爆弾が投下される。

「そして条件を満たすことで相手のスキルを奪うことも出来る能力を持つ」

「ちょっと待て」

 手でストップをかけつつ先程の言葉を頭の中で噛み砕きつつ理解に努める。

「『もう全部そいつ一人で良いんじゃないかな?』って台詞がナチュラルに出かけたぞ。無効化チートに強奪チートってアホか。やりたい放題にも程があるぞ」

 とここまで言ってあることに気が付いた。

「ん? 待て待て。そんな規格外のスキルがあって何故犠牲者が…あ、もしかして『神炎』の接続権限とやらか?」

「勿論それもある。理由は定かではないが『神』と付くスキルには何らかの保護があるのかもしれん。それに帝国とて馬鹿ではない。スキルが使えないなら別のものを使えば良い」

「別のもの…」

 呟くと同時に何を使ったかを察した俺に、正解だと言うようにディバルは頷く。

「そう、魔力だよ。異世界人には高い魔力が宿る。それを利用した」

 俺を見ながら「まあ、例外はあるがな」と苦笑し続ける。

「帝国が彼に対抗する策として用いたのは魔力の暴走。つまり、自爆だ」

「うわぉ」と絞るような声が出る。同時にこの世界の支配層ならやりそうなことだと、自分を召喚した豚王を思い浮かべる。焼豚を作るのは一体何時になるのやら。

「さて、話すべきことは大体話し終えた。仲間にはなれないが共に戦ってくれるというのあればそれ以上は求めるべきではないだろう。こちらから聞きたいことはたくさんあるが、それは我々を信用出来るようになってからで構わない」

 ディバルの譲歩に俺は感謝とだけ短く言う。

「では、これからの方針を話そう」

 そう言ってディバルは左腕を横に伸ばすと何もない宙から何かを取り出し、それを俺に向けて差し出す。

「まずはこれを彼の元に届けて欲しい」

 手渡されたのは何の変哲もない小ぶりの宝石が一つ付いただけの指輪。

「これは?」

 手にした指輪を眺めつつ、どんな効果のマジックアイテムだろうかと想像を働かせる。

「神器だ」

 この短い言葉で価値を理解するには十分な代物をぽんと渡される。

「神器とは『世界』の領域を用いた鍵…まあ、強力なマジックアイテムという認識で構わない。重要なものなので決して紛失しないでくれ」

 思わず両手で包み込むように持ってしまう。

「それを彼の元へ届けて欲しい。それと…出来るなら我々がまだ戦っていると伝えて欲しい。勝手なことを言っているのはわかっているが…」

「ストップ。そっち側の要件には俺はノータッチだ。再会した時にでもゆっくりやってくれ」

 ディバルは「そうだったな」と苦笑する。

「ところで、この『神器』ってのは他にどんなものがあるんだ? あと俺でも使えるのか?」

 強力なもののようなので可能であれば使いたいが「世界」が関わっている為、使って良いものなのかどうかさえわからない。

「そうだな…その指輪―『境界の指輪』というのだが、我々の手元にあるものはそれ一つだ。だが確認している限りあと十個は間違いなくある」

 ディバルが指を折りながら数を数えつつ「君の特殊性を考えると使わないほうが良いだろう」と確実なことは言えないことを謝る。

「それと同じ指輪型が二つ。腕輪、アミュレットが一つずつ。ああ、鏡も一つあったな。あとは槍と剣だが…聖槍や聖剣といえば馴染みがあるか?」

「聖剣…」

 思いっきり心当たりがある。

「我々も色々と研究したのだがな。神器を模倣しようとしたのだが出来た物はどれもまがい物。『世界』へと届く物は作ることが出来なかった。すぐに方針を転換し、集めることに力を注げば何か変わっていたかもしれん…まあ、過ぎたことを言っても仕方がないな」

「その過程で出来たのが人造聖剣、か…」

 俺の言葉にディバルは頷く。

「破壊してしまったが、大丈夫か?」

 恐る恐る聞くと「壊してしまったのか」と残念そうな声が返ってきた。やはり仲間が作った物のようで思うところがあるようだ。

「ああ、そう言えばローレンタリアの聖剣は君が持っているんだったか?」

「…いや、持ってない」

「そうか…あれも神器だ。可能であれば取ってきて欲しい。神器の数だけ干渉出来る『世界』の領域が増える。それは確実に目的の為となる」

 続くディバルの話を話半分に聞きながら情報を整理する。


・聖剣は神器と呼ばれる「世界」の領域とやら用いた「世界」と関わる道具である。

・俺は聖剣アスカロンをポイントに変換している。


 以上二点より最悪のケースを考える―


 やべぇ、詰んでる可能性がある。

 

二つに分ける必要がなかった気がする短さ。

では皆様、良いお年を。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] でも聖剣をポイントにする前から世界の領域の切り取り(スキルオーブ)が出来たし、ポイント変換はあんまり関係無さそうなんだよな これが意味する事とは…?
[一言] 前話から引き続き情報量が多いなぁ。 そもそもディバルが語る内容は全てが真実なのか? 「聖剣をポイントに変換している」事で既に『世界』からロックオンされてておかしくない?(これはヤバイ)
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