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4-13:願い叶わず

大変お待たせしました。

「残念だが、それは許可出来ない」

 こうして十分に考えた末に出した俺の提案はあっさりと却下された。態度から察するに当人もそれを考えたことはあるようで、本当に残念そうである。やはり継承争いで血が流れるのはこの世界でも常なのだろう。ハスタニルは俺の提案に一切の嫌悪を見せることなく話を最後まで聞いていたことからもそれが窺える。

「ダメか?」

「ああ…非常に大きな問題がある」

 結局、昨晩は何も思い浮かばず気づいた時には朝だった。どうやらいつの間にか眠ってしまったらしく、ベッドの上に寝かされていた。恐らくライムが運んでくれたのだろう。本当によく出来たペットである。

 そんな訳で自分の力だけでは例のカードのエフェクトの隠蔽を思いつかないのであれば、共犯者に協力を得ようと思いついた。この時俺は「厄介事を潰せる上に貸しも作れる。一石二鳥の素晴らしいアイデアだ」と自画自賛していた。

 手早く朝食を済ませた後、検索を使いハスタニルの居場所を突き止めると軽い足取りで彼のもとに向かったのだが…結果はこの通りである。

「理由を聞いても?」

 応接室でテーブルに肘を突き、何かの書類に目を通しながら部屋の中を歩き回るハスタニルを目で追いつつ尋ねる。ふとした拍子に護衛の美人さんが目に入るがやっぱり無愛想だ。ちなみにライムは俺が座る椅子の下でリュックの中に収まっている。最近また大きくなったせいでみっちりしている。もっと大きなものを買うべきだろう。

「…理由は二つだ」

「一つは想像が付く。対抗馬を暗殺することによる支持率の低下、と言ったところだろう?」

 出会って間もないが、こいつの性格は大体わかる。間違いなくこいつは目的の為なら手段は選ばない。そんな男が外聞なんぞで行動を制限されるはずがない。むしろそれを事件とするなり別の犯人を仕立て上げるなりして自分の支持をより一層強固なものとするくらいはするだろう。常識的な範疇で予測してみたが、答え次第では彼の評価を修正する。

「だが、それが理由になるとは思えない。問題は何だ?」

 ものによっては排除もしてやる、と例のカードの消費先をそれとなく探る。と言うか第三皇子で使えなければタイムオーバーのフラグが立つ。使いどころがないと困る。

「私としてはお前のその協力的な態度が気にかかる」

 この勘ぐりに一瞬ドキリとするがこの世界で鍛えられたポーカーフェイスは崩れない。

「…異世界人を一つに纏める。俺にとってこれは都合が悪い。仕方なかったとは言え、俺は異世界人のいる二国でお尋ね者だ。評判は悪いしあっちで『勇者』なんて持て囃されてるガキを二人ほど痛めつけている。正直言って結託されるのは勘弁して欲しい」

「なるほど」

 自業自得だな、という呟きを聞き逃さず「うるさい」とだけ返して話を続ける。

「それに…綺麗事ばかりを口にして中身が伴っていない権力者ってのは元の世界でも大勢いた。ま、要するにあいつが気に食わないんだろうな」

 そう締め括り「ガキだな俺も」と自嘲気味に呟く。半分くらいは演技だが、もう半分は本音だ。こっちはこっちで帰る方法を探しているんだから、余計な事をせずにただ協力するだけならこんな手段を考える必要もなかった。これで本人は本当に善意のつもりなのだから始末が悪い。

「それで…理由は二つあるそうだが、一つ目は正解か? それと二つ目だが、有り得ないと思うが血が繋がっているとかそういう理由じゃないだろうな?」

 俺の言葉にハスタニルが「ふむ」と呟き立ち止まると、テーブルに近づき俺の対面に座る。

「まず一つ目だが概ね正解だ。あの馬鹿が死ぬのはどうでもいいが、綺麗事に乗せられた民衆は多い。アレがどのような名目で死のうが扇動者は必ず現れると見ている。能無しとは言え皇族だ。それが死ねば不安というものは生まれる。それを利用する輩もな」

 やはりというか排除する事自体には何の抵抗もないようだ。死んで後で起こるであろう結果に付け入る者が現れ、その結果面倒なことになると予測している為そういった手段に出ることが出来ないということだ。

(帝国も一枚岩ではない、ということか。それともスパイか反乱工作部隊にでも潜り込まれているのか)

 どちらにせよ俺にとっては悪くない情報である。敵がいるということは恩が売れる。状況によっては裏切ることも出来る。退路は常に用意しておくべきだ。

「もう一つは?」

「…姉上だ」

「は?」

 予想外の答えに俺は間の抜けた声を出す。

「姉上こそが最大の障害だ。それに比べればもう片方なぞ取るに足らん問題だ。いや。もう片方もそもそもは姉上が問題としたのだった」

「結局は姉弟の情が問題なのか?」

「アレに情などあるものか」

 呆れたように眉を顰めた俺にハスタニルが吐き捨てる。

「忠告…いや、警告しておく。姉上…第一皇女だけは絶対に敵に回すな」

 幾ら皇族とは言え女一人敵に回したところでどうなるというのかと思っていると、それが顔に出ていたのかその恐ろしさを語ってくれた。

 曰く「生まれながらの王。性格は苛烈そのもの。帝国史上最も女帝に近い女傑。反乱分子を掃除するために我が子すら犠牲にする冷血」だ、そうだ。

「五年前、姉上に待望の第一子が生まれ、それが男とわかるや否やそれを皇帝にするべく何人もの貴族が動いた。帝国史において『女帝』は何度か生まれかけた。だが生まれたことは一度もなかった。その才とカリスマ性がこれほど惜しまれた人物はいなかっただろう。私ですら姉上が男であったならばと考えるくらいだ。姉上が無理ならその息子に…そう考えるのは自然なことではある。実権を握るのが姉上のお飾りの皇帝ならば自分にも、とおこぼれを期待する馬鹿にはさぞかし魅力的に映ったことだろう。だが、自分に近づいてきた貴族どもに姉上は何をしたと思う?」

 取り敢えず何か答えようと反応した瞬間、ハスタニルは顔を近づけ俺の言葉を遮る。

「表向きは生まれたばかりの我が子を政争の道具とされ殺された皇女ということになっている。だが実際はこうだ。姉上は我が子を次期皇帝の座に就けようとする素振りを見せ、近づいてきた貴族を集めこう言った。『慣例として皇帝の座につくのは我が弟達の何れかと決まっている。故にお集まり頂いた諸君らを帝国の基礎を揺るがす不穏分子として処分する』こうして大貴族を含む十二人が殺された。姉上はことの顛末を父上に報告。その直後、自分の息子を『国の不安材料』と呼びその手で絞め殺した」

 ドン引きするような内容が語られているが、茶々を入れることが出来る空気ではない。話をしている間に顔が近づき過ぎたことに気づいたか、ハスタニルは椅子にもたれると横を向き続きを話す。

「姉上には才能があり過ぎた。その眩しすぎる光に集った虫を払うにはもっと別の手段があったはずだ。だが姉上はその手段を取った。何故そのような手段を取るに至ったかは今を以てわからん。だが、それからしばらくして姉上は我が子の死を公表し、二度と国が割れるような行動を起こさぬよう諸侯に呼びかけた…いや、あれは呼びかけではなく脅しだったな。その時の涙ながらに語る姉上の姿に民衆は心打たれ『我が子を失っても国を憂う皇女様』という偶像が出来上がった」

 そして今回の継承問題についても兄弟で争うことを禁じられた、とハスタニルは付け加え当時の光景を思い出し苦笑すると俺に向き直る。

「いいか、よく聞け。アレに人間としての感情を求めるな。決して関わろうとするな。私が何を言ったところで姉上は耳を貸さん。だが姉上の言葉に耳を傾ける者は『掃いて捨てるほど』いる。お前を脅威と見なせば、姉上の行動は早いぞ」

 言葉の一部を強調して話したことでその部分について考える。

「それはつまりこういう事か? もしも俺の存在がその姉に知られた場合、文字通り死を恐れないような連中が玉砕覚悟で無尽蔵に湧いて命を狙ってくるということか?」

「それだけならまだいいがな…」

 そう言って諦めた様子で目を反らす第一皇子に「お前、次期皇帝がそれでいいのか?」と口にする。

「才でも人望でも負けているのは承知の上だ。だからこそ姉上には軍事最高責任者としての地位を約束している。何より、『聖杯』が姉上のもとにある以上どうにもならん」

「聖杯?」

 俺の疑問にハスタニルは一瞬口ごもる。熱くなりすぎて余計な情報を俺に与えてしまったようだ。

「ともあれ、姉上の宣言のおかげで手は出せんということだ」

「…というかそんな役職につけて大丈夫なのか?」

「姉上がその気ならクーデターなど起こさずとも国は乗っ取れる。ならばその才能を十分に使わせてもらうまでだ」


 本当にこんな皇帝で大丈夫か?


 むしろこの思い切りのよさが良いところなのだろう。少々怖い情報も手に入ったが、使う機会がこないだろうと思っていたカードに思わぬ使い道が出来た。予定とは大分違うが十分な収穫があったはずだ。

(それにしても…予想通りにことが運ばない。もうちょっと思い通りになってくれても罰は当たらないと思うんだがなぁ)

 異世界に来てからこっち、どうにも俺が予測した通りに都合良く事が運ぶことが少ない。日頃の行いは悪くはないはずなので、帝国に来てから顕著なこの傾向は納得しがたい。

「想像力が足りてないのかねぇ」

 ポツリとそう漏らすと軽く別れの言葉を口にして応接室から出る。それから真っ直ぐに宿に帰ったのだが、既に日は高く昼飯時を少し過ぎていた。外に出て食べる気も起きず、今から宿に飯を頼んでも時間がかかるだろうとカップ麺を取り出してお湯だけ貰うことにする。

 お湯を入れて待つこと三分。考えることは幾らでもある。三分などあっという間に過ぎ去りズルズルと味噌味のラーメンをすする。食事は直ぐに終わった。考え事をしながらの作業のような食事に味がわからなかったのはそれだけ余裕がないということだろう。

 いよいよ以てタイムオーバーが現実味を帯びてきた。謎の数字がついに一桁となった。徐々に数字の減少速度が上がることからタイムリミットは四十八時間を切ったということだ。いっそのことライムの強化も兼ねて竜が住む山で使うか?

 知識のオーブに使う質問も考える必要もあるが、そちらは後回しにしてでもタイムリミットがある問題を先に済ませなければならない。最も都合が良いのが第三皇子勢力にぶつけることなのだが、話を聞く限り手を出すのは得策ではない。この友愛すべき案件に手が出せないとは何とも歯がゆいが、こればかりは仕方ない。

 とは言え、第三皇子の狙いが何処にあろうと彼の思惑通りに事が運ぶのはよくない。何かしら釘を刺しておく必要があるだろう。女では皇帝となれないということを考えればこちらに使うのも良いと思ったが、それでは異世界人を集めることの阻止には繋がらない。

 やはりドラゴン狩りが一番現実的だろうか?

 どう考えてもファンタジーなのに現実的とはこれ如何に?

 そんなコントを一人でやりつつ問題は一つずつ解決していけばいいとこの時の俺は楽観していた。




 その日の夕方、宿の一室で久しぶりに「消音」のカードを使い俺の声が外に漏れないようにする。オーブの存在は知られたくないので打つ手は打っておく。窓から日の光が思いっきり差し込む為、影の中が狭すぎたのだ。カーテンは転移で逃げる際に邪魔になるのでキツめに留めておいたところ解けなくなったのが原因である。

 準備が整い俺は鞄から知識のオーブを取り出す。

 結局、質問は「帰還手順」にするか「帰還方法」にするかで迷ったが、知らない単語を連発されて長々しい説明をされても困るので「帰還方法」にする。これまでの経験から知識オーブで得られる答えは頭の中に文章として流れると、少しの間留まって消える。それと気のせいかもしれないが、初回と比べて文章量の多い二回目の使用では文章が流れる速度が速かったような気もする。ここは欲を出さずに堅実に行く。

 まず何を目的とするか、これを明確にして何を調べるべきかをはっきりさせる。それから知識のオーブと合わせて進めていけば確実のはずだ。一度に多くの情報を得ようとして逆に時間がかかる羽目に陥るというリスクは避けていく。

 とは言え、今回の使用ですぐに答えに辿り着く可能性もある。帰還事業は安全確実に一歩ずつ進めていく。上手くやれば元の世界で豪遊の人生である。余裕があればライムが俺の世界で生きて行けるかも調べておきたい。

 満を持してオーブを手に質問を口にする。

「俺が元の世界、地球の日本に帰る方法を教えてくれ」

 俺がそう口にすると琥珀色のオーブが少し間をおいて光を放つ。光を放っているオーブを手に頭に情報が流れるのを待つも何も起こらない。俺が「ん?」と首を傾げた直後、頭に響くように言葉が流れ込む。

 検索結果―最初に流れて来た文にグー○ルならもっと早く検索結果を出すぞと心の中で苦笑し次の言葉を待つ。


 該当なし。使用者「白石亮」が元の世界、地球・日本に帰る方法は存在せず。


 知識のオーブが手の上で光となって消え去り、この文章が頭の中に流れ焼き付くように残る。その意味がわからないと言った風に何度も何度も読み返す。頭の中から剥がれ落ちるように文章が消えた後、俺はようやく口を開く。

「…は?」

 絞り出した声は酷く間の抜けた声だった。

 そしてしばらくの間呆然としていると俺の頭はこの状況を理解し始める。

「いやいやいやいや…有り得ないだろ。こっちに来る手段はあるのになんで戻る手段がないんだよ、有り得ないだろ。一方通行とかそんな訳ないだろ」

 無意識に、必死に目の前に突きつけられた現実を否定する。世界の知識の中に元の世界に帰る手段は存在しない。その言葉が頭を過り、すぐにその存在を思い出し鞄を勢いよく漁る。それを取り出し俺は笑い声を上げる。

「ははは、つまりこういうことだろ? この『世界』の知識の中にないものが答えなんだろ!?」

 願いのオーブを手に誰に対してかわからない勝利宣言をする。

「答えは『願いのオーブ』だ! これは『世界』の行使し得る権限の範囲内で願い事を叶える…つまり、これは世界の知識の中にないものだ!」

 勝ち誇ったようにオーブを掲げ滅茶苦茶な理論を展開する。

「さあ、願いのオーブよ! 俺を元の世界に返してくれ!」

 俺が願いを叫ぶと同時に手の中にあるオーブが淡く光を放ち―砕け散った。

「…え?」

 光の粒となって周囲に拡散するオーブを必死に掻き集めるように手が宙をかく。オーブの破片が消え去り、無駄な足掻きを終え呆然と両の手を見る。そうやってしばらく両手を眺め、そこに何もないことがわかるまでそうしていた。

「嘘だ…」

 不意にポツリとそう呟くと、それまでの静寂をかき消すかのごとく堰を切ったように言葉が溢れ出す。

「嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ! 嘘だ!」

 消音のカードが効果を発揮している室内に響き渡る俺の叫びは、誰に聞かれることもなく消えていく。

「そんなはず…ないだろ…」

 崩れるように膝が床に付く。

「そんなの…ないだろ…」

 両手が床に付く。流れ落ちた涙が手の甲に落ちる。



 どれだけ時間が経っただろう?

 どれだけの間、そうしていただろう?

 陽は落ち、窓から差し込む光は月の光と街の灯りとなり部屋は薄暗くなっていた。

 全部が無駄だった。何もかもが無意味になった。「一体俺は何をしていたのか?」と自嘲する。

 考えないようにしていた。意図的に考えることを避けてきた結果がこれである。

「…ははっ」

 笑うしかなかった。笑い声しか出なかった。ただ狂ったように笑い声を上げ続けた。

「ははははははははははははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 消音のカードの効果はとっくに切れている。俺が笑い続けていると「うるさい!」と激しくドア叩く音が聞こえてきた。

「…もういい」

 そう呟くとカードを一枚使用する。使ったカードは「圧縮」…ドアを中心に半径三メートルにあるあらゆる物質がその中心に向かう。ドアの前にいた男は巻き込まれ周囲の床や壁と一緒にバスケットボールくらいのサイズに圧縮され、一階の床に音を立てて落ちる。床を転がる球体の何かからは徐々に赤い液体が滲み周囲を染めていく。

 騒然とする周囲をよそに俺は窓の外を見る。「転移」を使い遠くに移動する瞬間、背後から何かが覆いかぶさってきたが気にせず転移する。 

 街の外れの上空に転移すると再び転移する。

 草原の上に転移し、また転移する。森の上空に転移し、また森の上に転移する。転移を繰り返し、カードが切れ、森の中に落ちる。高所から落下し、怪我をするはずだったが俺を包み込む何かが無事に地面に俺を下ろす。

「ああ、お前か…」

 転移の瞬間に俺に抱きついて来たのはライムだったようだ。そんな事もわからないほど俺は呆然としていたようだ。しかもライムはしっかりと俺の鞄を持ってきている。それに気付くと「いい子だ」と呟きライムのひんやりとした体を撫でる。

 空を見上げる。綺麗な夜空がある。日本にいれば田舎にでも行かない限り見ることはなかったかもしれない。だがもう見飽きた。今の俺には忌々しいものとすら映る。しばらくライムを撫でながら空を見上げていると、圧倒的な虚無感が終わりを告げ怒りがこみ上げてくる。

 俺を呼んだのは誰だ?

 俺をこんな目に合わせたのはどいつだ?

 俺は怒りのぶつけ先を探す。そして理解した。

「ああ…こういう事か」

 以前俺はこう呼ばれたことがある。「厄災の勇者」と―

 つまり、俺はこれから厄災となってこの世界に怒りをぶつける訳だ。そしてこの大陸の人間の半数を死に至らしめる。

「…った…か」

 怒りのあまり言葉にならずボソボソと小さな呟きになった。その言葉をもう一度はっきりと口にする。

「たった半分か!」

 頭をかきむしり自分の不甲斐なさに怒りすら湧き起こる。

「たった、それだけで…!」

 そう口にしながらも「仕方がないんだ」と頭で理解する。カードの力に頼るしか能がない俺に出来ることなど高が知れている。未来を予測するような力も見る能力もない。予言を回避するように動いても、何を避ければいいかもわからない。

 どうしようもない―そう諦めかけた時、思い出した。

「…未来を見る?」

 ライムが持ってきた鞄を手に取る。そして、それはすぐに見つかった。




 目を開ける。

 そこには夢で見た未来と同じ顔があった。

「目が覚めたな?」

 思考する事もままならないぼうっとする頭でゆっくりと頷いてみせる。

「…そういうことか。この未来も、見えていたんだな」

 吐き捨てるように彼はそう言うとこちらを睨みつける。

「まあいい。理解しているなら話は早い。いいか、逃げても無駄だ。自殺は無意味だ。わかったら俺のためにその力を使え」

 夢の中で見る未来と一言一句変わらぬ言葉を聞き、またゆっくりと頷く。彼もまた、この世界の不条理を知ったのだろう。背中を向け歩き出した彼を見て、周囲を見渡すとその光景も見覚えのあるものだった。夜空に輝く星の位置も、森の木々も、あの日、あの時見たそのままのものだった。

「ああ、やっぱり―」

 囁くようなか細い声は不意に吹いた風にかき消される。


―未来は変わらなかった―


という具合に4章終了です。

次回は幕間、設定資料でその次に本編5章となります。

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