表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/114

4-12:理想と現実

大変遅くなり申し訳ありません。

6月の中頃までは現状が続くと思われます。

 正直言ってこの状況は好ましくない。「どうせよくある王位継承とかの対立とかあるんだろ?」とか考えていたら本当にそれがあることを交渉前に知った。争っているのは第一皇子と第三皇子。第二は人望がなさ過ぎて既にリタイア状態らしい。こんな話を町民が当たり前のように話しているのだからこの国はどれだけ安定しているのかという話である。

 国の実権を握るであろう両者が対立状態だからこそ、片方なら敵に回して大丈夫という算段で強気に挑むことが出来た。それなのに―

「だから貴様には国を任せられんと言うのだ」

「兄上こそ、人の上に立つ身ならば民の心を知るべきだ!」


 何故この場にその二人がいるのか?

 そして何故俺は放ったらかしにされてこの兄弟はヒートアップしているのか?

 あとどうでもいいけど皇子さんよ、あんた口調変わってるよ?


 ふと周囲を見渡すと「まーた始まったよ」という具合に取り巻き達が首を振り、手に持てる範囲の調度品を遠ざける。多分掴んで投げることが出来そうなものを遠ざけているのだろう。いつ取っ組み合いが始まってもおかしくない雰囲気に俺は呆然としていた。


 何? 不幸が感染でもしてんの? エンガチョなの?


 いつの間にかびっくりするほど部外者状態である。攻撃が確認されてからの俺のターンかと思いきや有耶無耶にされる勢いで兄弟喧嘩が始まった。完全にタイミングを逃してしまった俺は取り敢えず一発ぶちかまして黙らせようとした。だがそれは足元に置いたリュックの中のライムに止められた。

 三度叩く合図…意味は「ヤバイのがいる」だ。

 該当するのは第一皇子の護衛の女。皇子がそうという可能性も無くはないが、たった一人の護衛であることからこの女と考えるのが自然だ。しかし感情を理解していないライムですら笑顔は作れるというのに何という無表情アンド無愛想。美人が台無しである。

 ここは冷静になり現状で取れる選択肢を並べてみよう。


1:ことの推移を見守り落ち着くのを待つ。

2:声をかけて直ぐ様介入。

3:攻撃を仕掛けられているので無視して攻撃。


 何というか一番はあまりに普通だ。では二番はどうか?

 顔を上げ、論争を繰り広げる二人を見る。

「人の善意を信じるのは勝手だが、その善意に縋りつくな。鬱陶しい。国を背負う以上必要な覚悟が貴様にはない。もはや切り捨てる以外に道がないことを…」

「罪なき民を見捨てる国家が何処にある!?」

 口を挟む余地がない。残る三番だが…無表情の美人護衛が剣の柄に手を当てじっとこちらを凝視している。強敵相手ならば、と問題のカードを思い浮かべるがあれは出現までにかなりのタイムラグがあった。今使うにはリスクが大きい。この茶番を聞くしかないのか?

「先人達の遺産を食い潰した我らの末路だ。この事態を予想しながら何もしてこなかった…いや、何の成果も出せなかった。この現実を受け止めろ。それだから貴様は為政者に相応しくないのだ」

「だが、まだ可能性が全て潰えた訳ではない! タリニスの研究成果は兄上もよく知っているはずだ。長年に渡り伸び悩んだ穀物の収穫量の改善に兆しが見えた。『魔法が持つ無限の可能性こそが国難を乗り越える力となる』ロジェス導師の言葉だ。彼はまだ諦めていない。私も、諦めるつもりは毛頭ない!」

「土地の養分を吸い上げ収穫量を無理矢理増やすことの何処に解決を見出す気だ。魔法が持つ無限の可能性? そんなものが何処にある? 何処にあった!? 予算欲しさに大風呂敷を広げ、時間を徒らに費やし、選択肢が失われた要因である馬鹿共の言葉をまだ信じるか!」

 はっきり言って内容がチンプンカンプンである。辛うじて「穀物の収穫量」という言葉から食糧問題を抱えていることはわかったが、この言い争いから判断して深刻な状況なのだろう。

 しかし「切り捨てる」ということは餓死者が出る計算になっていることか。それもかなりの規模らしい。なら俺がガチャで出したところで焼け石に水。この件にはノータッチで行こう。

「例え一時凌ぎであったとしても、そうやって得た猶予ならば各国はその意味を理解出来るはずだ。この危機的状況だからこそ、千載一遇の好機でもあるのだ。今こそ、国家という枠を越えての協力が必要だ。帝国だけでは成せぬのなら、この大陸の全ての国家で成せばいい!」

「そんな理想論を語るくらいなら…」

「一つ聞こう兄上。兄上は何故この時期に再び異世界人がこの世界に呼び出されたと思う?」

 鼻で笑う兄の言葉を遮りクロウラムが質問する。そして何も答えない兄に語りかける。

「私はこう思う。『この危機で全ての国家が手を取り合うことが出来る。彼らはその後押しとなる』と、ね。その為に、彼らは今この世界にいる。兄上がこの大陸を統一しようとしているのは知っている。だが…それは本当に必要なことなのか? 今、目の前にある危機を乗り越える為に、手を取り合うことで流れる血も、涙も怨嗟の声も無くすことが出来るのではないか? 他にやりようはないのか? いや、あるはずだ」

 少なくとも俺がこの世界に来たのは豚の欲絡みであって、世界の危機云々ではない。どうもこの皇子様は運命とか信じてしまうタイプのようだ。「占い師でも侍らせているのでは?」と邪推してしまう。権力者と占い師…古今東西あまり良い組み合わせではないのでこの皇子の言動に不安が隠せない。

「まだ他にやりようがある? そのような寝言を吐く時期はとっくの昔に過ぎ去った。時間はもう残されていない。理解しろ。貴様が可能性を貪っている間にも、死者は積み上げられていく。もはや我々に出来るのは他国を食らってでも生き残ることだけだ」

 こちらも持論は一切揺るがない。

「仮に異世界人の協力が得られたとしよう。だが所詮は与えられただけの知識と道具だ。理解も出来ず、模倣も出来ず、それがいつ壊れるとも知れずに使い続け、そうと知りながらも進み続けた。どれだけの歳月を費やしたかすらわからぬ程に時間をかけた。だが何も得ることが出来なかった程の明確な差…今ある問題はこの現実を受け止めようとしなかった末路だ」

 お前はそれを繰り返そうとしているだけだ、と締めくくると第一皇子が俺を見る。

「さて、異世界人『シライ・シリョー』よ」

 話は平行線で終わり、第一皇子がこちらに向き直ると俺に呼びかける。最近本名で呼ばれていたがまた白井さん呼ばわりである。もう俺の偽名「ホワイトロック」さんが息してないよ。

「私がディバリトエス帝国第一皇子『ハスタニル・ロドル・ディバリトエス』だ。早速だが取引をしよう。ローレンタリアにいる異世界人はお前の同郷なのだろう? そいつをどうにかして欲しい」

 この直球に思わず笑いが漏れる。しかも同郷であることがバレているということは第三皇子のところから情報が漏れているということである。

(完全に役者が違うな)

 やはり兄より優れた弟などいないのだろうか? とある有名な台詞が頭を過る。

「タダ働きは御免だな」

「そうだな。報酬は…ローレンタリア王都『ローレンタス』だ」

 提示された報酬を俺は鼻で笑う。爵位や土地をもらっても法に縛られるだけでメリットよりもデメリットが目立つ。この皇子、意外と抜けているようだ。俺の立場を理解していないのかもしれない。

「安心しろ。帝国は一切干渉はしない。好きにしろ」

 この言葉に俺は首を傾げる。

「そのままの意味だ。『好きにして』いいぞ」

「つまり…ローレンタリア王都を『俺個人』での支配権を認めるということか」

「お前は元の世界に帰るのだろう? ならば何も問題はない」

 国でも作ってみるか? と茶化すハスタニルを前に俺は顎に手をやり考える。

「正気か兄上!?」

 兄より優れていない弟が食って掛かっているが、そちらを見ることなく思考に没頭する。「帝国はお前の統治に一切干渉しない」と言う言葉を信じるとして、そこにどんなメリットがある? 何が目的だ?

 その答えには予想以上に早く辿り着いた。

「面白いじゃないか。俺が幾ら非道なことをしようがあんたらには関係ない。むしろ俺が去った後の復興を考えるなら俺が非道であった方が都合の良い部分がある。もしかしてインフラを整備する為に一度徹底的に破壊する予定でもあったか?」

「貴方は…罪無き民に手をかけるというのか!」

「ほう? 報告で聞いていたよりずっと賢しいな」

 俺を睨みつけるクロウラムを無視して値踏みするように見るハスタニルに笑いかける。意図が完璧に読めた…なら良いのだが、先ほどの論争から何となく正しい気はする。折角なのでこの高評価を維持する為にも答え合わせと行こう。

「なるほど…そういうことか。俺が力を持った非道な領主であれば、俺が去った後の処理は都合が良い。俺が居なくなればその理由を如何様にもでっち上げることが出来るからな。民心掌握にも実に都合がいい…掛かる費用なんざ手に入る土地を考えれば微々たるものか。大陸中央という立地に価値はあるが、王都と言っても帝国から見れば住民が多いだけのバカデカイスラムを抱えた汚い街だ。これを面倒抜きで一掃出来ること考えればお釣りが来るな」

 俺の帰還方法にしても、帰るのが早くなればそれだけ土地が手に入るのが早くなる。決して手を抜くことなく調べてくれるはずだ。もっとも、俺には「知識のオーブ」という反則技に近いものがあるのでそちらには然程期待していない。どちらかと言えば保険の意味合いが強い。

 ただ、知識のオーブで質問出来るのは一つ。その為何度も質問する可能性を考慮に入れなくてはならず、どれだけ時間がかかるかわからない。人手が必要な場面がある可能性も考えれば、この取引は決して悪いものではない。問題があるとすれば―

(これがどこまで守られるか、ということか)

 向こうにとって俺は用が済めば邪魔者なのだ。都合の良い時に「帰還方法が見つかりました」と呼び寄せ亡き者にせんと企むくらいはやりそうだ。帰る為に必要な経費なども関わってくる為、この件は不確定要素が多すぎる。

「条件を追加して欲しい」

 俺の言葉に信じられないと言った表情を見せる弟と「言ってみろ」と顎で返事をする兄。

「元の世界に帰る手段は俺や他の異世界人も探している。だから帰還手段が見つかった際、その実行に協力することを加えてくれ」

 この要求に「良いだろう」と即答で返す。予想していたのだろうが即決である。

「では、交渉成立だ」

 もはやここには用はないと言わんばかりに弟には目もくれずハスタニルは部屋から出る。護衛の女が俺についてくるよう合図を送るとそれに続く。俺も続いて部屋を出ようとしたところで呼び止められる。

「待ってくれ! 貴方は兄の企みを見抜いた上で応じるのか!?」

 取り繕う余裕もなくなったのか、口調が変わったままである。いや、こちらが地なのだろう。

「そうだが?」

 俺のあっさりとした返答に唖然とするクロウラム。

「言ったよな? この世界の人間がどうなろうと知ったことじゃない、と」

 取り巻きが主人を守ろうと俺とクロウラムの間に入る。完全に第一皇子側と認識されたようだ。俺は項垂れる第三皇子を一瞥すると先に行ったハスタニルを追いかけた。

 少し早歩きで廊下を歩くとすぐに二人に追いついた。しばらく無言のまま隣を歩き、外に出ると待っていた馬車に乗るよう指示される。「宿まで送ってやる」とのことで、詳しいことは明日話すとのことだ。 

「安心しろ。お前が危惧しているようなことは考えていない。確かに殺すという手段は最も楽だろう。だが、今後異世界人が召喚されないという保証もない」

 しばらく馬車に揺られているとハスタニルが俺の危惧をズバリ言い当ててくる。だがその言葉で俺も何を言いたいのかを察した。

「なるほどね。『帰還手段を持っている』…これほど異世界人に利く交渉材料はないな」

 どうやらこの皇子様は本気で俺に街一つを好きにさせるつもりらしい。


 これはつまり「いやー、流石第一皇子様は話がわかる」ということか?


「本当に好きにやってもいいんだな?」

「構わん。敢えて注文を付けるとするなら…そうだな、半数は減らしてくれ」

 さらっと間引きを注文する皇族に戦慄する。俺は「お、おう」と若干気圧されて返事をする。国が違うだけで命の価値は異なる。世界が違えばこうも変わるのかと納得しておいた。




「あー…疲れたー」

 宿の部屋に戻るなり荷物を適当に下ろすとベッドに腰掛ける。先ほどの馬車での会話を思い出し、住む世界の違いを実感する。どうやらハスタニルは契約通り事が進めばそれで終わりだと思っているようだが、俺は終わらせる気は全くない。当然ながら帰る際には帝国の宝物庫にお邪魔するつもりである。

 先ほど言ったように、俺はこの世界の人間がどうなろうと知ったことではない。だから立つ鳥後を濁しまくっていようが俺の心は全く傷まない。

 むしろハスタニルの思惑通り、異世界人が支配し荒廃した土地を立て直すのだから領民からは殺意を向けられるくらいが丁度良い。そして当然ながらそういったアフターサービスとなる部分は最初の交渉部分に入っていない。

 つまり最初の交渉は場所代だ。次にお酒が来たりツマミが来たり綺麗なお姉ちゃんが来たりして、八千円ポッキリがウン十万という額に跳ね上がるのと一緒だ。

 なんということだ。俺が帝国の国庫から料金を頂くのは正当なものだったようだ。労働の意欲が沸いてきた。ジャパニーズサラリーマンの力を見せる時だ。まさに追い風である。誰かが不幸になっているせいだろうか?

 とは言え、全てが順風満帆という訳ではない。

 現状この第三皇子とか言う「お花畑ちゃん」は俺にとって邪魔者になる可能性が高い。下手に異世界人を囲い込まれれば、孤立する俺に危険が及ばないとも限らない。

 彼の言いたいことはわからないでもないが、人は綺麗事では救えない。世界は正しさで回っている訳ではない。

 恨みはない…が、その思想は後々邪魔になる可能性がある。不穏の芽は摘ませてもらう。丁度謎の数字もあと数日で限界である。情報という一面でまだ利用価値はあるだろうが、彼が生きていることのリスクと天秤にかければ致し方ない。兄弟で競って情報を集めてくれるのが理想的ではあったが、彼の思想は危険なのだから仕方ない。

 そう言えば俺を攻撃したのは結局どっちだったんだろうか?

 今となってはどっちでも良いことをふと思い出し、俺はベッドへと体を投げた。




 日が変わる。薄暗い宿の一室の影の中、俺は手に入れたアイテムを眺め満足気に笑う。俺の手にあるアイテムの名は「知識のオーブ」。これで彼は用済みと言って良い。憂いなく排除が出来る。

 後は召喚されるところを見られなければ良い。となればあのファンシーなエフェクトをどうするか…である。今夜は眠れるだろうか?



おまけ


概要

・大陸統一したロレル帝国が大量の召喚した異世界人に色んな物を作らせるよ!(スキル込)

・異世界人が反乱起こしてロレル帝国がぶっ潰れて異世界人が国を興したよ!大体七百年前。

・異世界人が寿命でどんどん減っていくけど遺産で国でっかくなって人がモリモリ増えるよ!(世界中で)大体六百年前。

・異世界人いなきゃ道具や技術が…魔法使い<研究は任せろー(バリバリ)五百年くらい前。

・時は流れて遺産がなくなり出す。研究成果まだー?三百年前くらい。

・研究員<何も分かりませんでした(テヘペロ)。人口減少開始。二百年前。

・国<あかん、蓄えが尽きて他の国侵略でもせんと食ってけん…大陸中で戦争が起こり出す。大陸の人口減少本格化。百年前。

・第三<研究成果出た。これで助かる!

 第一<どう見ても収穫の前借りです。本当にありがとうございました。あかん、もう猶予ないやん…。大体現在。

・第一<相当数が助からん…けど少しでも民助ける為に侵略するで。他の国?んな余裕あるか。

 第三<他の国も辛いねん!皆で協力すればいけるやん!?異世界人もおんねんからいけるって!現在

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 交渉中に主人公に攻撃しお守りを破壊したのは誰だろう? 第一王子の護衛の女?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ