表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/114

4-11:交渉決裂

お待たせしました。投稿予約が15日になっておりました。申し訳ありません。

1周間以上全く手を付ける事が出来ず、使おうとしていたネタの箇条書きの意味がわからず四苦八苦。おまけに妙に長くなってしまい分割を試みるも失敗。今まで一番gdgdになった執筆だった。要反省。

 一頻り楽しんだ俺が雪のように白い肌のエルフ系美人とベッドでまったりしていると、ドアが激しく叩かれる。その直後に返事をする間もなく鍵をかけているにも関わらず勢いよく開けられる。

「…お前またやってんのか」

 自然に鍵の掛けたドアを腕力で破壊しておきながら、呆れ顔を見せるゴリラに「ドアは弁償しとけよ」と言うと見せつけるように隣にいるライム胸に顔を埋め押し倒す。

「おっと、すまん…っておっぱじめんじゃねぇ」

 どうも壊すつもりはなかったらしく、そこは素直に謝る。ギフトで腕力が強化されているからだろうが、これが自然体なら肉体強化と言うのも考えものである。

「要件は?」

 仕方なく、といった風にライムから離れ体を起こす。

「どうやらあっちの馬車にドラブルがあったらしい。予定の時間より少し遅れるそうだ」

 壊したドアを首を傾げなら見るゼンタスに「それなら時間までここで楽しんでいるよ」と適当な返事をして部屋から追い出す。「探知」を使い行動を把握してみたが、その足で受付に向かっている。ドアを壊した報告だろう。

 どうやら殿下とやらは遅刻するらしい。時間が出来てしまったのでさっきの続きでもしようかと思ったが、時既に賢者モード。ヤるフリを見せて油断を誘ったが、上手く引っかかっているように見える。

 取り敢えず念には念を入れてもう一度、下準備のチェックを行う。相手の出方をシミュレートし、その応答を考え、襲いかかれた際の対処手順を入念に頭の中で繰り返す。次に手持ちのカードを見直す。

「本当にこれで良いか? もっと他に良い手はないか?」

 そう何度も自分に問いかける。こちらに来てからアドリブが上手くなったとは思うが、口八丁で生きていけるような人間ではない。俺は清く正しく誠実な極々一般的な日本人の鑑である。故に謀には弱く、不誠実な相手に対してはちょっとばかり過剰に反応してしまう。だからこそ、カードは吟味して使わなくてはならない。

(それにしても…)

 改めて自分の手札を見て考える。凄いラインナップである。覗き、時間停止に催眠。ロリとリョナがセットになっており触手や性転換まである。カード以外にも強力過ぎる精力剤もある。映像と音声を記録出来るなら凄いものが出来るかもしれない。

 ともあれ、この時間を有効活用すべくカードと相談して行動である。

 しばらくの思考末、俺が使ったのは「検索」のカード。検索するワードは「クロウラム」…そう殿下の名前だ。ちなみに人名や気になる単語はガチャから出たメモ帳に記録している。こういったコマメな事が後々大きく響いてくるのだ。

 では肝心の結果はどうか?

 すでに街の中だった。恐らく向こうも準備中なのだろう。となるとこの宿はフェイクと考えられる。もしも相手がこの宿以外の場所で会おうとするなら確定である。一応予想の範疇ではあったので特に驚きもせず現在の位置を確認する。

「ギリギリ一枚で行けるか…?」

 そう呟きつつ使用したカードは「マーキング」と「遠見」の二つ。視界を遠くに飛ばせると言うのは本当に便利である。そこで見たものは十人を超える明らかに一般人とは思えない体つきの男達とローブを羽織った五人の男女…そしてその中では明らかに場違いな優男が一人。この優男にマーカーがついている。

 彼が第三皇子「クロウラム・ロドル・ディバリトエス」であるようだ。見た目十代後半、身長は180cmくらいで痩せ型。肩口まであるやや癖のあるブロンドの髪が印象的な美青年である。

 折角なので「盗聴」も使い情報を得ようとするが、役立つ情報は何もなかった。ただ皇子がテキパキと指示を出し、配下がそれに従い雑務をこなすという何もおかしなところがない情報しか手に入らなかった。

 しかし何という格差。皇族でイケメンなのに加え人望があってそこそこ有能っぽい。「何処の漫画の主人公だこいつ?」と思わずにはいられない。ここで俺を嵌める為の策を練っていたとかそんな情報を得られていれば面白いことになっていたのだが…甘いのか善人なのかはわからないがそう言った話は全くなかった。とんだ期待ハズレである。

 得られた情報から皇子は俺に会う気満々なのだが、部下は直接会うことを止めていることがわかった。その説得の為に俺が出した被害部分だけが妙に誇張されており、連中の言い分をまとめると俺は単騎で軍を滅ぼし、殺し、奪い、燃やし尽くした極悪非道の外道畜生らしい。


 あながち間違いではないな。


 しかし敢えて訂正するならば基本俺の行動は正当防衛である。先手はいつだって相手にあり、やられたから仕方なくやり返しているだけだ。多少被害が大きいのは「やられたら倍返しだ」という有名な台詞をリスペクトした結果に過ぎない。仮に「やられる前に倍返し」をしていようが、ゼロに何をかけてもゼロである。つまり被害者なんていなかった。何も問題はない。

 カードの効果が切れると俺はベッドに身を投げ出す。結局交渉を有利にするような情報は何も得られなかった。盗聴時間が短かったこともあるだろうが、この結果は少々残念である。

「…時間までどうするか?」

 相手がもっと色々と企んでいてくれたのなら色々と準備のしがいもあったのだが、こんな極普通に商談を行うような対応されていたのではやる気も失せる。とは言え手を抜くわけにはいかない。後悔しないように今出来ることを全て行うだけである。




 結局、あれ以降新たに用意したものはなかった。精々相手の行動を予測してライムがどう動くか決めたくらいで、後は「何分間揉み続けることが出来るか?」や「どれだけ顔埋めていられるか?」を計測するに終わった。

 途中から妙なテンションになり「目指せ、新記録!」と意気込んでいるところにドアがノックされ、現実に引き戻された俺が「何やってんだろう?」と時間を無駄にしたことを反省する。でも後悔はしていない。

 どこかの馬鹿がドアの鍵を壊してくれたおかげで時間稼ぎは出来ない。あのゴリラも地味に余計なことをしてくれたものである。俺はライムの変身を解かせ、リュックの中に入るよう指示を出す。それから中に隠れたことを確認してベッドに腰掛けると、外にいる人物に向かって「どうぞ」と短く声をかける。

 小さくドアが開く音が聞こえ、中に入ってきたのは短い黒髪の中年男性。レザーアーマーを身に付け、長剣を腰につけただけの武装からは到底騎士には見えない男だった。だが、俺は「遠見」を使った際に皇子の近くにいた人物であることを知っている。

「皇子の傍にいる時と比べて随分貧相な装備だな」

「騎士と言えど必要なら変装くらいはするさ。それとも重装備の道案内で目立ちたかったか?」

 取り敢えず牽制してみたがカウンターを入れられた。おまけに動じた様子が全くない。こちらが監視していたことは想定済みなのだろうか?

 それにしても「道案内」と言うことはそういうことなんだろう。例え皇子にその気がなくても、周囲がその気であることはこちらも想定済みである。

「さて、殿下がお待ちだ。付いてきてもらおう」

「断る。こちらから出向けば何が仕掛けられているかわからない場所での対談だ。話があるというのなら、そちらが来るのが筋だろう?」

 俺の言葉に使者が眉を顰める。残念だが、俺はこの世界の身分に縛られる気はあまりない。

「それとも何か? 『罠を仕掛けているので来てください』とでも言ってくれるのか?」

「…なるほど、聞いていた通り警戒心が強い」

 納得がいったというように二度頷いて見せると、今度は値踏みするかのごとくジロジロと俺を見る。ジャブ程度に挑発してみたが全く効果がない。それどころか向こうは何かしら確信を得たのか満足そうに頷いている。

「一臣下として主に出向くよう言うことは憚られる」

 不快な視線を送る男からは実に無難な返答が来る。これはつつくだけ無駄だと判断しさっさと話を進める。

「へぇ…俺が何か仕組むとでも思ってる訳だ」

「殿下をお守りする為に最善を尽くしているだけだ」

 本当に無難な返答しかしてくれない。こういう人物かと納得するがこちらからすれば面倒な相手である。忠誠心がある頑固で慎重な人物。それが正しく、かつ能力があるのであればなお厄介である。俺が何かしら用意していることを警戒し、間違いなく別の場所に移動することになる。

 こちらの準備が少し無駄になるが、これも織り込み済みである。予定調和であることを悟られぬように気を遣いながら用意した台詞で事を運ぶ。

「両者の指定する場所ではお互い信じられない。ならばどうやって場所を決める?」

 男は「ふむ」と顎を手にやり考える素振りを見せる。

「だからこちらから提案しよう」

 そう言って取り出しのは観光用であろうこの街の見所や名所が書かれた案内図とダイスが一つ。

「これで決めようじゃないか」

 広げた地図の上にペンを投げると俺は不敵に笑って見せた。




 つくづく賄賂が通用しない国だと憤る。ダイスで決められた場所での会合となった訳だが、そこで問題が起きた。決まった商館の主が場所を貸すことを渋ったのだ。金をちらつかせも無駄だった。「権力でどうにかしろ」と言いたかったが、表だって使うわけにもいかないらしい。

 結局、連絡受けた皇子が到着してようやく場所を借りることが出来た。下見をする時間がないというのは少々不安である。商人なら金で動いてもらいたいものだ。

 ちなみに場所を決めた時のやり取りはこのようになっており、この一件が関係していると思われる。

 順番にお互いの候補地を地図上に印を付けていく。最後にサイコロを投げて決定だったのだが、当然イカサマを疑われたので気の済むまで確認させてやった。逆の立場でも確かにそれは警戒する。俺は公正性があることを認めさせる為にそれを当然の権利と言い、尚且つ場所の数値を好きに入れ替えて良いとまで言った。


 ダイスには何も仕込まれていないことはこの命にかけて誓おう。ダイスにはな。

 

 ということで使用したカードはこちら「不運」。使い道が今ひとつ思いつかなかったので一度全てGPに変換したのだが、やっぱりまた出てきた。それがこんなところで役に立つのだからわからないものである。そんな訳で、このおっさんには今日一日不運に過ごしてもらうことになった。

 恐らくは問題発生はこれが原因だろう。道中に何度も足を踏まれたり変な奴に絡まれていたことから可能性は十分ある。これも目的遂行の為の致し方ない損失と割り切るべきだろう。

 しばらく建物内部を歩き、商会の主に案内された部屋に俺は一番に入ると窓から外が見える位置に壁を背にしてもたれ掛かる。俺の行動に何か言いたいことがあるのか、商会主が金魚のように口をパクパクさせていたが無視。皇子とその護衛達もゾロゾロと続く。

「おい、何人入れる気だ?」

 十人目の護衛が部屋に入ろうとしたところで横槍を入れる。俺の発言に皇子が頷くと、入ろうとしていた護衛がこちらを睨みつけ舌打ちすると合図を送る。さらに二人部屋から出ていき護衛八人と皇子、俺に商会主の十一人となる。

 残る邪魔者は向こうがどうにかしてくれた。

 借り受けた部屋はそこそこの規模の商会にしては随分と立派だと護衛の一人がポツリと漏らす。曰く「見栄を張る為のものです」ということだが、不正な蓄財を疑われまいと内心は穏やかではなかっただろう。

 そこに優しい言葉をかけ退室を促す。回りくどいことをすると呆れるが、権力でどうこうする気はないということをアピールしているつもりなのだろうと適当に納得しておく。

「さて…まずは自己紹介からいこうか」

 場が整い皇子の声が始まりを告げる。周囲の護衛も俺の挙動を見逃すまいと神経を集中させている。

「私が『クロウラム・ロドル・ディバリトエス』…長々しい肩書きは既に聞いていると思いますので省略します。早速ですが、この場において精神干渉を始めとする敵対行為を行わないことを私の名に賭けて約束します」

 自己紹介と同時に敵対する意思がないことを伝える。周囲にその気があるかどうかは知らないが、この皇子様はわかっていないのだろうか?

「『白石亮』だ。始める前に確認をしておきたい。そちらは俺についてどの程度把握しているか、だ。内容によっては協力する価値なしと判断させてもらうのでそのつもりでいてくれ」

 俺の言葉に皇子が難しい顔をする。これで自分の予想が外れていたら小っ恥ずかしい。

「簡単なことだ。俺について随分色々と調べてくれたようだが…正確な情報すら握れないようなら手を組む意味がない。そちらの要求が異世界人絡みなのは察しがつく。しかし手にした情報が不正確であった場合、身の安全に不安を覚える」

 俺の説明に皇子は目を瞑りしばし考えるような仕草をする。それから「わかりました」とだけ呟くと護衛の一人に頷いてみせる。その護衛が語ったのは俺が異世界に来てからの軌跡そのものだった。流石に洞窟で一ヶ月過ごしていたことはわかっていないようだが、俺の行動についてはほぼ正解である。

 次に俺の能力についてだが、こちらを聞いた時にポーカーフェイスが崩れかけた。

「ギフトの名前は『ガチャ』…能力はお金を対価にアイテムを取り出すというもので、レアリティという等級によってアイテムの質が変化する。手に入るアイテムはランダムであり、ハズレもある。レアリティが高いものほど強力かつ希少なものだが出現率が下がる傾向にある」

 その内容に声を出すところだった。俺が人前でやったガチャは一度だけである。にも関わらずこの情報量は明らかにおかしい。そして「レアリティという等級」という言葉に若干違和感を覚える。レアリティ=等級 など説明されなくてもわかることだ。

(まるで受けた説明をそのまましているようだな)

 そう考えると他の勇者からの情報という可能性が出てくる。この場合、フジイ・トワと思われる。もう一人の日本人とは協力関係にある。こちらの能力をばらす様な真似はしないはずである。

(となると既に接触している。同郷という情報で釣ったと見るべきか否か…)

「そして特筆すべき点として…ほとんど魔力を持たない」

 俺が考え事をしている間に話は進み、いつの間にか俺の特徴について話をしていた。話をするのもいつの間にか皇子に変わっている。これはいかんと一先ず話に集中する。

「微々たる魔力では如何にマジックアイテムと言えど自由には使えません。ではどうやって取り出したマジックアイテムを使っているのか?」

 そう言えばこの世界にあるマジックアイテムは使用者の魔力を用いて扱うものが一般的らしい。俺の所持品には魔力がなくても使えるものがあるので、この辺りに意識の差がある。少し注意しなければならない。

「一つは使い捨てのマジックアイテムという説…ですがこれは無理があります。魔力を失ったマジックアイテムの処分には特殊な処理を必要とします。その技術を貴方が持っているとは思えません。処理をする道具があるのでは? とも考えましたが『それを動かす魔力は?』となります。つまり現実味がありません…ですが、何かしらの手段を手に入れた可能性もあります」

 魔力を失ったマジックアイテムがどうなるかなんて知らないのだが、聞くわけにはいかない。今はただポーカーフェイスを維持するだけである。

「そしてもう一つが、外部に蓄えた魔力を用いている。つまり魔力そのものをアイテムとして取り出しているという説…」

「魔力そのもの」という言葉に一瞬ドキッとするが、よくよく考えればこれはカードではなく「魔石」がそれに当たる。とすればこの部分は間違ってはいない。

「我々が出した結論は後者。その後押しとなったのが、異常な魔力を持つスライム…その異常な魔力には皆首を傾げました。ですが、こう考えればその存在に納得がいきます。その異常な魔力は貴方が使う為のものです」

 正解から遠ざかったことで俺は安心して聞き入る。それにしてもよく考えるものだと感心する。

「貴方は何かしらの手段を用いてスライムを従魔とし、強化することで自身の魔力不足を補っている。その証拠に貴方は常にそのスライムを自らの傍に置いている。スライムという選択も、不定形という特性が都合が良かったからでしょう」

 彼らの出した結論を聞き終え、ゆっくりと天を仰ぎ目を瞑る。


 いいね、その設定。有り難く頂こう。


 こんなにしっかり考えてくれたものを無碍にしてよいのだろうか? いや、だめだ。こんなにも自信満々の解答に無慈悲に×を付けることなど心優しき俺には出来ない。

 俺は大きく息を吐き皇子を真っ直ぐに見据える。この仕草に自分達の推論が当たっていることでも確信したのだろう、周囲の護衛の何人かがドヤ顔でいる。

「そこまでわかったから何だと言う?」

 ここは負け惜しみに聞こえるように強がってみせる。

「こちらは十二分にそちらの情報を手に入れています。勿論その対処法も十分な程議論し尽くしました」

 争いたくはない、そう締めくくると皇子は本題に入る。

「私は異世界人である貴方に依頼したい。依頼内容はローレンタリアにいる異世界人『フジイ・トワ』の説得。可能であれば帝国に連れてきて欲しい」

「なるほど…異世界人を囲い込もうというわけだ」

 予想通りの内容につまらなさそうに答える。おまけに既に接触済みという可能性があるとなれば、もはや疑うなという方が無理である。

(同郷…日本人という餌を使い情報を得る。その情報で俺を釣り上げ、俺で藤井を釣る)

 そう考えるなら中々強かな皇子だと少し感心もするが、これは予定を変更する必要があるかもしれない。

「それは違う。我々は無為に力を振るって欲しくないだけだ。君たちの力は大きすぎる。それこそ世界の有り様すら歪める程に…だから我が国で客分として静かに暮らして欲しい」

 皇子に変わって後ろに控える護衛が否定する。何を言ったところで既に利用されている可能性がある以上信じることなど出来やしない。

「貴方が理不尽にもこの世界に召喚されたことは重々承知している。それでも敢えて言おう。元の世界に戻る方法は我々が必ず見つける。それまでの間…」

「はは、ふざけんな」

 護衛の話を遮り突然怒りの声をあげた俺に部屋にいる全員が戸惑いを見せる。

「てめぇらの勝手な都合で呼び出され、気に食わないと殺されかけ…俺の世界じゃ拉致監禁に殺人未遂だ。それどころかたった一人、この身一つで呼び出されたってことはな、持っていた物、積み上げてきたもの、全部奪われたってことなんだよ。家族、友人、恋人も全部だ。全てを奪い尽くされた上で最後に残った命さえ奪われかけた。それを『なかったことにする』なんて選択肢は俺にはないぞ?」

 優位な立場に立ったところから交渉をスタートさせる。悪くはないが、それは錯覚である。一秒たりとも彼らの優位には傾いていない。彼らが集めた情報の中に、俺のスキル数はなかった。俺の戦闘力を正確に把握出来ていないことは確定。つまり、俺を止める手段を彼らは持ち得ない。

「この際だからはっきり言っておいてやる。『お前らが俺が元の世界に帰れるよう全力を尽くす』ってのは俺が交渉のテーブルにつくための条件だ。要件があるなら対価を用意しろ」

「お前は自分が置かれた状況を理解しているのか?」

 護衛の一人が俺を押さえ込めると思っているのか強気に出る。その情報に不備があるとも知らずいい気なものである。

「お前らこそ、状況を全く理解していないようだな」

 この台詞で察しの良い奴は俺に関する情報で何か重大な漏れがあったことに気付くだろう。優位に立ったと思っていたが、俺がそれを意に介していないことに疑問を持ち、それがブラフであるかどうかで悩むだろう。

「別に構わんのだぞ? この世界を力の限り破壊しても」

 その一言で周囲が騒然となる。

「この世界の人間を、持てる力の全てを使い虐殺しても」

 中にはこちらを睨みつけ、腰の剣に手をやった者もいるが相手にしない。皇子の宣言で手が出せないのだから扱いも雑になる。

「お前は、人の命を盾に取る気か!? 人の命を一体何だと…」

「阿呆が。くだらない理由で全て奪い尽くされる犠牲者がこれ以上出ないように、この世界を終わらせる…一体何処に問題がある?」

 取り巻きの言葉を遮り鼻で笑い罵倒する。

「俺はこの世界の人間じゃない。だからこの世界に責任を持たない。この世界がどうなろうと知ったことじゃないんだよ。責任を果たすべき者が何もしなかった。過去に大量の異世界人がこの世界に召喚され、その結果どうなった? それを知りながらお前達は同じ過ちを繰り返したんだよ。これは当然の結果だ。責任を負うべき者が、何一つ成すべき事をしなかったんだからな」

 この脅しに皇子と取り巻き連中は唖然とする。そんな彼らを気にすることなく俺は続ける。

「『それは他国のやったことだ』なんて馬鹿な言い訳はするなよ? この世界の人間は、その手段を放棄しなかったんだからな」

 クレーマーの言い分に近いものがあるが、個人で世界に影響を与えうる「勇者」なんてものを異世界から召喚するそのリスクをきっちりと理解してもらわねばならない。そしてそのリスクを「召喚元に行くように仕向ける」よう誘導させることが出来れば成功である。

 今の俺の計画は、道中の安全の為に「俺」という脅威を他国に擦り付けようとさせることにある。条件次第では協力を本気で考えても良かったが、正直言ってこいつは論外である。俺のメリットが何も提示されていない。よって予め用意していた別のプランに変更した。

 こちらは今までとは違い、俺を手出し出来ない程の「危険人物」として他国に擦り付けるようにさせることで道中の安全を確保。その後、ローレンタリアに入るまでの道中にある帝都で賠償請求を実力行使。ローレンタリアにすぐさま移動するというものである。

 幸いこの二カ国は絶賛戦争中である。追撃はどうとでもなるだろうし、逃げ込んだ先には同郷もいる。協力を得るアテもあるので戦力的な不安もない。後は目の前で少し調子乗った連中を黙らせてやれば溜飲も下がるというものだ。

 俺に言わせれば「この世界の人間が異世界人を元の世界に返す為に全力を尽くす」など交渉材料にすらならない。火を点けておいて消火することを報酬にして怒りを買わないとでも思っているのだろうか?

「お前は皇族なのだろう? 責任ある立場として聞こう。この世界の負債を、お前はどうやって返済する? それ以前にお前に出来ることとは何だ?」

 ここまで言えば誰かがキレて襲ってくるかと思ったのだが、誰しも俺を睨みつけるばかりで動こうとしない。よく訓練された犬どもだ。これでは正当防衛という名の脅しが出来ないではないか。

 静寂が訪れる。しばし俯いていた皇子が意を決したか顔を上げ、何かを口にしようとしたその時―

「その男の言う通りだ」

 ドアが開かれ一人の男が部屋に入ってくる。

「この世界に責任を持たぬ者に、この世界を憂う必要はない。同様にこの世界を語る道理もない」

「兄上!?」

 全員が突然の訪問者に意識を奪われている中、俺はそれに気づいた。

 お守りのお札が壊れたのだ。

「交渉決裂、だな」

 周囲に聞こえるようそう呟くと「抵抗」を五枚全て使う。少々勿体無いがここは切り時なので仕方がない。

「たった今、そちらの攻撃を確認した。各々方…覚悟は出来ているだろうな?」

 そう言って俺が壁から背を離すと部屋にいる第三皇子と護衛達に緊張が走る。兄上と呼ばれた男は片手を上げると一人の美人がその傍に立つ。彼女が護衛なのだろう。腰に差した剣をいつでも抜けるように射抜くように鋭い視線を感じる。

 突然の乱入に混乱している第三皇子勢力…当然俺もこの事態は全く予想しておらず気が気でない。まさかとは思うがこれも「不運」の効果ではないだろうな?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ