4-9:整頓
お待たせしました。
村へと戻る道中、思うところがあった俺は「検索」を使用し周囲にどれだけの人間がいるかを確認する。その結果に俺は目を細め思案していると前方の台車で運ばれているゴリラが喚きだした。
まだゴリラごと撃ったことを根に持っているらしく、ネチネチと実に煩い。いい加減相手をするのも面倒になったので、サンダーストームに巻き込んだ詫び代わりに巨乳がお好きということで硬質化させたライムの胸揉ませてやったところ「何処の世界に揉むと突き指する乳があるんだよ!」と逆切れされた。訴訟も辞さない。
その一件以外特にこれといったこともなく、夕暮れ時にギトの村に到着する。すぐに怪我人を宿のベッドに放り出すと喧しいオスゴリラをしばし放置することにして外に出る。
「ああ、そうそう…聞きたい事があるんだ」
宿の外に出るなりその言うとフュスに向かって手をかざす。アースソードの力を見た以上、それは銃を突き付けるより強力な脅しとなる。この世界に銃があるかどうかは知らないが、今の俺の行動に戦慄してくれればそれで良い。
「質問はわかったから。無闇に脅すようなことはしないで欲しいんだけどねぇ?」
俺は悪びれる様子もなく「悪い悪い」と適当な謝罪をしつつ、思い通りに俺の手に警戒していることに満足する。脅し半分で尋ねていることを理解してくれて何よりである。
「…で、だ。何処までシナリオ通りに事は進んだのかな?」
フュスは俺の言葉に意味がわからないという風に首を傾げる。演技が上手い奴なので真偽の程はさっぱりである。動じてすらいない辺りにこいつの有能さが窺える。もっともそれが何時まで続くかが楽しみでもあるのだが。
「とぼけるなよ。村からさほど離れていない距離にあんな強力な魔獣がいるか?」
「君がこっちの忠告を受ける間もなく先行した結果、縄張りに入ってしまいあんな大物を釣り上げたんだよ」
思わず納得しかけたが、それだと真っ直ぐに森を突っ切ればどの道遭遇することになる。こいつだけが知っていたということならば筋は通るが「森を突っ切る」ということに断固反対していなければおかしい。こいつは反対こそしたもののその理由を話していない。
(何かを知っていたが話さなかった…もしくは知っていたが遭遇するつもりだったか)
何を隠しているかはわからないが、何かを隠しているのは間違いなさそうである。よってこのまま脅迫を続行する。
「まあ、とぼけるならそれで構わんさ。要するに、帝国の僻地は魔獣が跋扈している危険地域でそこの村がいつ滅んでもおかしくない…ってのを確認出来ただけだ」
魔獣の仕業に見せかけた無差別テロを仄めかしつつ言質を取りに行く。探りを入れていることがバレバレだろうが、そんなことはお構いなしに続ける。
「ああ、無垢の民が魔獣の牙にかかり死んでいくのか…可愛そうだな。帝国が危険な魔獣を放置していた所為で、その近隣に住んでいる住民が家族を失い、友人を失い…住むべき場所を失うんだ。そして命からがら逃げることが出来た村人は―」
「わかったわかった。はあ…こっちも『確認をとるから指示通りにしろ』と言われて仕方なく、だよ。まさかあんなものを使うとは思わなかった」
下手をすればこっちも死んでいた、と俺の言葉を遮り不満そうに漏らす。
「そんなことだろうと思ったよ」
普通に考えれば村の近くに魔獣がいるのはおかしい。ゼンタスが本気だった所為で本当にイレギュラーかと思っていたが、よくよく考えればおかしな点が幾つもあった。先ほどの「検索」でもその裏付けはとれている。だからきっちり追撃をさせてもらう。舐めた真似をしでかしたお礼をして差し上げねばならない。
「おかしいと思ったよ。なんで戦っているのは『あいつ』だけなんだって…ギフトを考えれば当然と言えば当然だ。だがな、どうしてアレはお前を攻撃しなかったんだ? どうしてお前は戦いに参加しなかった?」
「それはまず君が標的になって…」
「偶然で片付けることは出来る。『勝目がなかった』と諦めていたでもな。ただな…お前が『ゼンタスを見捨てた』っていうのには少し違和感がある。そりゃそうだ。見捨てていたら逃げているはずだ。あの時、逃げることが出来たのはお前一人だけなんだから。しかし、お前は逃げなかった。戦闘に直接関わるギフトを持っていなくても、ゼンタスが稼いだ時間があれば十分参戦出来たのにもかかわらず、お前は戦わなかった」
フュスの弁明を遮り黙らせるように推測を一方的に捲し立てる。弁解は無駄と悟ったか神妙な顔つきになったフュスが俺を真っ直ぐに見据える。
「何が言いたい?」
「おいおい…口調が変わってるぞ? それともそっちが地か?」
冷静に返す様を茶化すように挑発するも、その顔色に変化はない。
「撃退することを諦めているなら逃げるはずだ。親友と護送対象が戦闘を開始した時点で、お前は背後からの攻撃も可能だった。にも関わらずお前は最後まで事の推移を見守った。戦おうともせずにな」
何を言っても動じる様子はない。これ以上結論を先延ばしにしても俺が欲しい反応がないと判断しトドメを刺しに行くことにする。
「お前とゼンタス…受けてる命令違うだろ?」
「だとしたら?」
取り繕うことを止めたのか、フュスの鋭い目つきが俺を射抜く。
「おーおー…次男坊同士、似たような悩みを抱える帝国騎士で親友。そう思っていたのは一人だけか。ハハハ、悲しいねぇ?」
思いの外自然に笑うことが出来たことに自分でも少し驚きつつ、相手の反応を探りながら言葉を選ぶ。
「売ったのか? それとも『命令されたから仕方ないね』程度の関係だったか…まあ、出世の為だ。切り捨てることも重要だ。殿下の覚えを目立たくするには、親友の一人や二人は踏み台になってもらう必要があるのもわかっているさ。とは言え友人とてもとても大切なものだ」
一度言葉を区切り、わざとらしく頭を軽く振ると息を吐く。
「そう、友情は金で買うことは出来ない…但し、売ることは出来る。幾らで売れたんだ?」
身振り手振りを交え大仰に、挑発するようにそう続けたところでぶん殴られた。当然背後から伸びたライムという防衛機能がキッチリと拳をキャッチしており無傷である。
「大正解…と取るぜ?」
してやったりと言わんばかりに笑いかけてやるとフュスが忌々しそうに睨みつけてくる。
「さぁて…この一件でどれだけ殿下とやらが譲歩してくれるか楽しみだなー」
「お前は…何を考えている?」
怒りに震えるフュスは拳を固く握りそう吐き出す。歯を食いしばり、血が流れてきそうな程に握られた拳には力がこもっている。だが、それ以上にその顔には疑問が浮かんでいる。
大方「心象が悪くなればそれだけ自分の首を絞めることになるのに何故?」とでも思っているのだろう。それは正しいが間違っている。何せ俺はこの国の国庫に手を付けることを諦めていない。
ギフトという存在故に企みを完全に隠すことはまず出来ない。ならば信用を得る必要がない。信用されることはないとわかっているのだから心象なぞ気にするだけ無駄である。
何よりも、第三皇子が独自に動いている可能性が高い以上、馴れ合うことでその勢力に組みしていると思われることが最も拙い。
「鬱陶しいんだよ」
そして何よりも気に食わないのだ。
「こっちは別世界に拉致されて人生潰されるは騙されるはで綱渡りでたった一人生き存えてんだ。馴れ合いなんぞ出来ると思うか? それを目の前で友情ごっことは恐れ入る。あんたもそう思うだろう? これを聞いてる誰かさん」
俺の言葉にフュスが反応するが「一体何を言っているんだ?」という疑問を顔に出すだけである。
「おいおい。まさかこれまで会話を誰かに聞かれていることに気づいていないとでも思ってたか? 別の場所で聞かれていると自分達で一度ばらしているんだ。俺を監視しているのが二人だけのはずがないことくらい承知しているさ。まさか聞かされていなかったのか?」
なんなら何処にいるか当ててみせようか、と如何にも既に居場所を特定しているかのようにのたまう。当然そうするにはもう一度「検索」を使用することになるが、ここは切り時である。
「こっちは全部わかった上で同行を許していた…その結果がこれとはな」
俺はやれやれと大仰に顔を振ってみせると如何にも「失望した」と言った風にため息を吐く。さっきわかったことだが当然のごとく使わせてもらう。
「…何が望みだ」
「俺につけてる監視を全部外せ。次からは見つけ次第殺すぞ。こっちにもこっちの要件がある。殿下とやらには会ってやるからそこは安心しとけ」
この脅迫が効いたのか、フュスは「少し待て」と力ない返事をすると森の中へ消えていった。報告、連絡、相談は大切である。
しばらくして戻ってきたフュスが俺が泊まっている部屋に来ると監視が全て外れたことを告げる。ゼンタスとフュスの二人はこのまま護送という形で俺についてくることになるそうだ。護衛対象よりも弱い護衛とは一体何なのかと疑問に思ったが、形式的なもので主な任務は道案内ということだ。
部屋のドアを閉め、フュスが立ち去ったことを確認すると大方上手くいったことに安堵を息を漏らす。正直に言うと結構穴がある推測だったので、上手くいって本当に良かった。ぶちきれている振りをしてまでカマを掛けたのに外れていたら恥ずかしいなんてものではない。これは推測になるが、連中にとって俺のスキルは未知の部分が多い。その不明瞭の部分で余計な疑問を持ち、結果として俺に都合の良い解釈をしたのだろうと考える。
ともあれ、脅しが利いているうちにさっさとやりたいことをやってしまおう。ここしばらくずっと監視の目を気にしていたのでガチャ品を碌に整理していない。しっかり整理して明日に活かそう。
それから三時間かけてカードと鞄の整理が完了する。その結果、不要なカードの大半を変換したことで十分なGPが手に入る。銅のカードは省略するとして、銀のカードは以下のようになった。
各種属性攻撃カード:平均35枚(エアハンマー含む)累計1000枚以上
治癒系二種:各30枚累計60枚
探査系四種:平均25枚計100枚
その他:斬撃×19 遠話×16 消音×11 障壁×11 転送×12
驚く程のスッキリっぷりである。使い道がなさそうなカードは粗方GPに変換し、レベルアップに使用した。ちなみに「魅惑的なバナナの皮」は村人に使ってみたら漫画のように滑っていた。本当にそれだけだった。
次に金のカードはこうなった。
各種属性攻撃カード:平均14枚累計250枚ほど
治癒系二種:累計20枚
状態異常系八種:即死以外各5枚(即死0枚)累計35枚
防御系二種:各5枚
その他:透明化×6 開錠×8 千里眼×7 転移×2 召喚×5 ボッシュート×2 緑の獣 赤の獣
不要な物が少なかったせいでこちらは変換で数をあまり減らしていない。特筆すべきは獣シリーズが再び揃ったことで数の暴力に対する手札が増えた。
加えてわかったことがある。状態異常系…それと防御系と区分した「抵抗」と「反射」だが、六枚目が随分長いこと出ていない。もしやと思い「交換」を試みたところ所持限界枚数に達しており交換不能であった。
そしてこの「所持限界枚数」で無視出来ない問題が発生した。それは白金のカードの所持限界が驚く程少なかったということだ。「ハイヒール」は五枚で限界。再生、蘇生に至っては三枚である。属性攻撃カードは五枚以上の所持が確認出来たが、他のカードの限界を考えれば十枚あたりと推測される。
中には「交換」が可能なものもあるので、使った先から補充を行えばある程度の数は補える。強力なものは大体交換対象ではない為、少し問題はあるが出来るものがあるだけマシと考えよう。
つまりこれは切り札を大量に保持することが出来ないことを意味する。俺が最も懸念すべき人海戦術に対してまた一つ不安材料が積もる。
この不安を除く為の鍵となるのが現状最強の手札である白金のカード。残念ながら黒は攻撃手段がない。かと言って核攻撃でもしようものなら人類の敵一直線。異世界人すら敵に回りそうな行為は流石に控えたい。やはり現実的に考えれば、白金のカードが俺の最強の攻撃手段である。
白金の属性攻撃である「バースト」系の威力がどれほどのものかわかっていればよかったのだが…今更試し撃ちは何処に目があるかわからないので出来ない。こちらの攻撃能力を知られれば対策を立てられることは想像に難くない。今更だが二枚目を入手した時点で使っておくべきだったと後悔する。
その肝心の白金のカードの所持数がこんな感じに整頓された。
各種属性攻撃カード:累計22枚
治癒系:ハイヒール×5 再生×3 蘇生×3
補助系二種:各1枚(連結、拡張)
その他:消去×2 圧縮×2 疫病×2 剣聖化 変☆身 変・身 触手 リヴァイアたん
黒のカードは増減なし。「フルヒール」「コンテニュー」に「祝福」が各一枚ずつである。そろそろ次が来てくれても良い頃合いなので、最近のガチャには結構期待していたりする。
最後に、現在のガチャのステータスはこうなっている。
ガチャ
Lv61
122036500000P
116GP
少々「交換」で高レアリティカードを交換しすぎたせいでポイントが多めに減ってしまったが、ガチャレベルが一気に15上がり60を超えたので良しとする。これだけ増えればさぞかし新アイテムも盛りだくさんだろうと明日のガチャが楽しみになる。
新しいマジックアイテムにしても使えそうな物は取っておくつもりだが、中々出ないのは如何ともし難い。個人的には情報収集が出来る物か嘘発見器、精神干渉を無効化もしくは妨害可能なアイテムが欲しい。手が届かないところまでカバーしてくれる多様性は魅力的だが、痒いところにピンポイントで届かないと言うのはどうしたことか。
取り敢えず現状抱えている問題点を一つずつでも改善していくしかない。生き残ることを第一に、目的を達成する為に懸念材料は確実に潰していく。差し当たっては最大の懸念材料であるこれをどうにかすることを考えなくてはならない。
俺は一枚のカードを手に取り、絵に書かれた数字を確認する。そこには「44」と書かれておりガラの悪そうな少女が描かれている。一日に一ずつの下がるカウントダウンと思いきや、いつの間にか数値の減少速度があがっており、今では日に三回も数字が減っている。
ほんとどうっすかなー…これ。
所持カードを管理していたファイル「新しいテキストドキュメント」を誤って上書き…名前はちゃんとつけよう。