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3-4:神の手

 前回のあらすじ。

 民を搾取し、逆らう者を弾圧する非道なる聖光教会と戦うため俺は立ち上がる。正義の鉄槌を下すべく、教団の拠点へと潜入を試みた俺を待ち受けていたものは、邪悪な儀式を行う教団のメンバー…果たして俺はここから無事抜け出すことが出来るのか?


 などと暇つぶしにナレーションを入れてみる。

 ライムを荷物番として宿に置いて、あっさり建物に侵入。その後「神の見えざる手」の効果を試すべく、一人でいる者を探したのだが、ほぼ全員が聖堂と思しき場所に集まっている。もう一つ集団があるのは「探知」で確認出来たが、孤立している者がいない。見張りにでも標的を変えようかとも思ったが、少々距離があるので都合が悪い。

 どうやら祈りの時間というものらしく、皆両膝を床につけ胸の前で手を合わせ、両手を広げているヴィーラの像に向い頭を垂れて祈りを捧げている。その数丁度二十人。奥の部屋にあと十二人ほどいる。皆一様に同じフードをかぶったローブ姿であり、教団員であることがわかる。

 効果も定かではないのに集団の中に乱入するほど無鉄砲ではない。まあ、カードがあればゴリ押しでいけるだろうが、ここは初使用のカードの実験も兼ねている。予定通りに事を進めよう。

 とは言え、影の中に潜んでいるのも退屈だ。先に金目の物でも物色しておこうかと考え聖堂を見渡す。高い位置にある窓とそこへ行くための階段と二階部分。どこか小学校の体育館を思わせる作りの聖堂には、木製のベンチが幾つかある以外は台座に乗せられたヴィーラ像くらいしかない。

 まあ、金目の物があるとしたら地下か隠し部屋とかだろう。灯りも僅かなので影での移動も問題ない。今のうちに建物内部を探索しようとしたところで、奥の部屋から人が出てきた。

 全部で十二人…これで外の見張りを除けば全員が一箇所に集まったということになる。奥から人が出てくると祈りを捧げていた者達が立ち上がり、一斉にフードを外すと着ているローブを脱ぎ捨てる。薄暗い聖堂に二十人の裸の女性が棒立ちになっている。奥から現れた十二人もローブを脱ぎ、弛んだ腹を曝け出して女達に近づくと、聖職者…もとい性職者達の乱交が始まった。




 しばし呆然と嬌声が上がる肉の蠢く光景を見下ろしていた。パナサの例があったので、予想の範疇ではあるが、目の当たりにすると思ったよりもインパクトが強い。醜い豚が腰を振ってる様は見るに耐えず、さっさと探索に移ることにする。

 特に美人はいなかったし、胸が大きいのは何人かいたが垂れていたりで興味も失せた。町で色々な女を見ていたが、やはりパナサは別格のようだ。ちなみに彼女の型は昨晩、眠っている時にライムが取っていた。言い忘れていたのにきっちりやってくれるとか本当に優秀である。

 まずは連中が出てきた奥の部屋に向かう。皆ハッスルしている真っ最中なので、扉を開けても気づかれることはないだろう。

 部屋に入り、影から出て周りを見る。銀製と思われる小物が幾つかあるが、あまり高価なものはなさそうだ。儀式にでも使いそうな銀の皿を手に取りポイントに変換する。案の定5万ポイントにしかならずため息をつく。他にも指輪や祭具と思しきものを変換してみるも、銀製品故かどれも金貨一枚分にも相当しなかった。

 どうやらここはハズレのようだ。

 さっさと次に向かおうとしたところで扉を開き、のそりと短剣を持った裸のオッサンが入ってきた。

「ねずみが…何処へ行く気だ?」

 短剣を手に持ってるだけで何故これほど強気に出られるかはわからないが、こちらとしても都合が良い。早速「神の見えざる手」を発動させ、その効果を…

「でかっ!?」

 思わず声を出してしまう。現れた神の手はどう見ても俺の身長ほどある大きさの手だった。見えざる手のはずが見えてるのは仕方ないとして、でかい手が宙に浮いている様は異様の一言に尽きる。これでビンタとか首がもげるのではないだろうか?


 あ、神の手さん、見えないからどいてください。


 どうやら「でかい」が自分のナニであると勘違いしたのか性職者がニヤニヤ笑っている。神の手には気づいていないようで、予想通り使用者以外には不可視のようだ。

 取り敢えず騒がれても面倒なので早速、神の手を操作して目の前の豚にビンタをお見舞いする。手の質量を考え、手加減気味にしたつもりだったのだが、小さく「バンッ」という破裂音と共に豚の首が270度ほど回転した。

 それと同時に豚が口から血の泡を吹く。恐らく即死だろうがまだ膝で立っている。ニヤケた表情のままなので軽くホラーである。

 取り敢えず公約通りに左の頬をぶったので右の頬を差し出させる。

 すると今度は加減を失敗したのか、ぶちんと首が取れてしまい回転して宙を舞う。それと同時に天井まで届くほど血が噴き出した。

 酷いオーバーキルである。いや、この場合は格闘ゲームで言うところの「死体蹴り」になるのか。

 ともあれ、この部屋にはもうめぼしい物はないので、カードの効果時間があるうちに聖堂の掃除を済ませてしまおう。隠し部屋の情報などあれば嬉しいが、それくらいなら「探知」のカードで探せば問題ないはずだ。

 俺は神の手で扉を開け、血を吹き出す肉塊を影を使って素通りして先ほどいた聖堂を見渡せる場所に戻る。性職者は何も気づいておらず、乱交を続けている。

 こういう時に今日手に入れた「触手」を使うべきかと思ったが、この分なら他にも機会がありそうだ。次回を待とう。

 配置に付き、影から顔だけ出してよく見える位置をキープ。神の手も連中が固まっている頭上に待機させる。しかし見える範囲でしか神の見えざる手を動かせないのはどうしたものか?

 それではこれより天罰を下す。

 神の見えざる手が教団員をなぎ払う。

 最初の一手で六人が宙を舞い、壁にぶつかった後、地面に落ちて動かなくなった。突然何が起こったのかわからず、誰もがその光景を呆然と見ている。女もまとめて飛ばしているが、こいつらも教団関係者だろうし、同罪でいいだろう。

 次に多人数プレイをお楽しみ中の豚をすくい上げるように放り投げる。一緒に三人ほど女が飛ぶが、手から滑り落ちたのでこちらは怪我はなし。豚は高く舞い上がり、腰から着地。地面に叩きつけられた際に派手な音を立てたのをきっかけに、全員が蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 そこで蠅でも払うかのように神の手をぶんぶん振り回す。

 どうも神の手は中々力があるらしく、手加減していても指に引っかかっただけで宙を舞う。

「なんだ!? 何が起こっている!?」

「誰か! 誰かおらんか!?」

「ぐふぇっ!」

「いやぁ! 助けてぇ!」

「見張りは何を…ぶほぉっ!」

 適当に手を振り回してるだけでこの阿鼻叫喚である。見えないというのは思った以上に人の恐怖心を煽るようだ。一度全力を出せばどれくらいの破壊力なのかと拳で床を殴ることにする。見た目が痛そうなので目をつむり、地面を全力で殴る。

 ドンッと振動が響き建物が揺れた気がした。恐る恐る目を開けると、そこには床を突き抜け、地面にはっきりとわかるほどの見事な拳の跡と流れる大量の血があった。

 どうやら逃げ出そうとした者が一人巻き込まれたようだ。グロ画像には多少免疫があるが、潰れた人間というのはちょっとくるものがある。

 軽く吐き気を覚えるが、始末出来るものは今のうちにしておこうと追撃する。潰れないように綺麗に始末したいので、逃げだした豚の首をつまんで捻ってみる。だが勢いがありすぎたのか首がちぎれ血が噴き出す。同時に女の叫び声が響く。

 どうも「神の見えざる手」は加減が難しいようだ。豚の一人が必死にブツブツと呟いている姿を確認する。神に祈っているようなので、救いの神の手を差し伸べるが如くデコピンで弾いてみた。ほぼ水平に吹っ飛んだ肉の塊が壁にぶつかると、ぐちゃりと音を立てて聖堂の壁を赤く彩る。

 再び悲鳴が上がり、体格の良い男が聖堂の門に向かって全力で走る。それを捕まえようとしたところで効果時間が過ぎたらしく、神の手が消えていく。一人が逃げ切ったのを皮切りに、残った信者が一斉に門へと走り出す。全裸で涙と鼻水と他、色々な液を垂らしながら全力疾走する光景はシュールだった。

 結局、逃がしたのは男三人に女は八人。生かしておく必要はなかったが、実験と考察にばかり気を取られていて逃がしてしまった。

 結論としては普通の人間相手には過剰な力。加減が難しく、見えないという利点を上手く使う必要があるカードと認識する。

 さて、取り敢えずこの惨状の後始末をしよう。

 まずはヴィーラの像をポイントに変換します。2万ポイントにしかならなかった。芸術的価値とか文化財的な価値はポイントに加算されないのだろうか?

 続いて持ってきている鞄を漁る。今回は全てポイントに変えるつもりだが、持ち帰りたい物があるかもしれないから念の為に持ってきている。

 今回はこのタロットカードをばら撒いて「悪魔を呼び出してしまい全滅」という筋書きにしてみよう。俺の姿を見た一人はきっちり始末しているので、どんな勘違いをしてくれるのか楽しみである。

 後始末はこれで良しとして次は探索だ。当然溜め込むものは溜め込んでいるのだろう?

 俺は期待に胸を膨らませて「探知」のカードを発動させると、軽やかな足取りで建物の探索を開始した。




 探索を終え、隠し部屋も見つけて金になりそうなものを全てポイントに変換して宿に戻った俺はベッドに倒れこむ。

「はあ~」

 大きくため息をつく。まさか全部で3000万ポイントにすら届かないとは思わなかった。これなら適当に商会でも襲った方がマシだろう。だが、既に金持ちは逃げだした後だと聞く上に、下手に物流を破壊すればその皺寄せが俺にも来る。交換やガチャで食料は手に入ると言っても、栄養バランスや変換効率を考えれば買うほうが断然良い。大量に奪っても保存は出来ず、保存食も不味い。

 何が起こるかわからない以上、この国から出て行く算段がつくまでは、商人を襲うのは避けておいたほうが良いだろう。

 今回の収穫は今ひとつだったが、次に期待すれば良い。なので予定通り、夜中のうちに町を出て次の町へ向かおう。荷物をまとめ、ライム入りリュックを背負うと部屋から出る。

 酒場の主人に礼を言って出立することを伝えると「そうか」とだけ言うと見送ってくれた。何も聞かない辺り本当に渋いマスターである。

 少々肌寒いが、今夜のうちにある程度この町とは離れておきたい。明日の朝には騒ぎが広まるだろうからな。町をしばらく歩き、人通りがない場所まで来ると影の中に潜り移動する。何の問題もなく防壁に登り、町を見下ろすと教団の建物の付近に灯りが幾つも見える。夜の闇を照らす光の動きを見ていると、随分慌ただしく感じる。

 住民が騒動に紛れて動きやすいように少し兵を削っておくべきかとも思ったが、そこまでしてやる必要はないと考え直す。下手に兵士が減ることになれば大量の増援も有り得る。話を聞く限りではいつ決起してもおかしくない状態だ。それなら準備もしているだろう。

 騒ぎの結果、教団が住民を弾圧すれば俺の情報が出るかもしれないが、パナサとの繋がりがある以上下手なことは口にしないだろう。仮に彼女に何かしようものなら、反抗勢力が決起することも考えられる。

 流石にそんな悪手を教団側が取るとも思えない。彼女の存在がどう言ったものかを知った上で、教団はパナサを生かしているはずだ。でなければ彼女はとっくに殺されている。

 教団からすれば彼女は国民の「ガス抜き」の役割を持つ。今では殺すには大きすぎる存在になっている為、下手に手を出すことは出来ない。当然、求心力はあるので反抗勢力を育てることにもなりかねないが、彼女にそんな能力はない。「踊り子」である彼女にはそんな力はない。精々利用されるくらいだ。そしてパナサを利用することを連中はきっと由としない。

 なので俺としては、ここで教団が住民を弾圧するだけで終わるもよし、この機会に住民が決起してもよしとなる。

 どの道、この件で俺に辿り着くことはまずないだろう。あとは防壁を降りて夜の闇に紛れて消えてしまえば良い。

「お宝狙いなんだから、怪盗プレイも良かったかもしれないな」

 そう呟くと影を使って防壁から降り、魔法の鞄から折り畳み自転車を取り出すと籠を取り付ける。リュックを籠に入れ、大きな鞄を背負うと自転車に乗って夜の荒地を走っていった。




 翌朝、テントからのそのそと這い出ると水に濡らしたタオルで顔を拭く。荒地のおかげで砂埃が酷く、昨夜は寝る前に顔を拭いただけでタオルが黒くなった。流石にテントの中にまで入ってこないので、タオルは白いままだ。

 まずはお湯を沸かして朝食の準備に取り掛かる。ライムは変身を解いてリュックの中に体を滑り込ませている。自転車で町から距離をとった後は、ライムに馬に変身してもらい全力疾走してもらった。

 これで変身時間をかなり使ったので、寝る前のスキンシップはお預けである。スライムなので疲れないのは何よりだが、こっちの尻が痛い。部分的に変身してもらおうと思ったのだが、どうも別の種族を掛け合わせる変身は難しいらしく、ライムにしては珍しく難色を示した。

 密かに考えていた「ライムのキメラ化計画」はひっそりと幕を閉じることになった。

 さて、コンソメスープの素を溶かし野菜を煮こんだスープと硬い黒パンで朝食を取りつつガチャを回す。結果、新しいものはなかったが、久しぶりに出てきたものがある。前回詳しい鑑定をしていなかったのでやってみる。


 プレゼントボックス

 欲しい物がランダムで手に入る。

 箱を開けた人の欲しい物がランダムで出てくる。


 なるほど、欲しいものがランダムで手に入るから前回は米が出てきた訳だ。

 となれば今欲しい「知識のオーブ」なども対象なのだろうか?

 前回出てきた物が物だけにあまり期待するのは良くない。欲しい物が確実に出るということは役に立つ物が出るということだ。ならば後は運を天に任せるだけである。俺は意を決してプレゼントボックスを開け、その中身を確認した。

「…栄養ドリンク?」

 箱から出てきたのは栄養ドリンクらしき瓶が一ダース。相変わらず出てくる物にラベルがあっても、何も書かれていないのでわからない。念の為に鑑定を二枚使って効果も調べておく。


 精力剤

 謎の成分で凄い効き目のある精力剤。勃起不全にも対応。


 うん、使えるのはわかった。

 どうせこんな結果になるのもわかってた。

 たまにはご都合主義と言われても良いものを引きたい。

今週乗り切れば楽になる…

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