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2-12:軽いジャブのつもりだった

 面倒くさそうなバカが増えたことで俺は大きくため息を吐く。無論相手によくわかるようにとの配慮から、だ。

 緑のバカは葵の部屋で剣を振り回すのは躊躇われるようで、頻りに俺に「外に出ろ」と言ってくる。が、これを無視。俺は葵に「何かわかったら連絡するから」と言って用件を終わらせようとする。

「はいはい…わかったからさっさと出て行ってー」

 もう相手にするのも疲れたから「帰れ」と言わんばかりにシッシと手を軽く振る。長居するのも迷惑だろうし帰ろうとするがバカが絡んでくる。

「何処へ行くつもりだ? 貴様は俺が裁くと言ったはずだ」

「なぁ、他にも何かあるだろ? もう一個くらいくれても罰は当たらないぜ?」

「この菓子もうないの?」

 緑のバカは俺に剣を向けたままだし、元祖バカは物乞いする。茶髪の男は茶菓子の入っていた皿に残った破片を食べておかわりを要求…って誰だよこいつ。

「あ、俺は『ハイロ』ね。『ハイロ・ド・ライロ』。勇者やってる」

 どこかで見たことあると思ったらパレードにいた勇者だった。似たような服装だがバカ二人とは随分毛色が違う。

「俺は『リョー・ホワイトロック』だ。元の世界に帰る方法を捜す手伝いをしている」

 俺の偽名を聞いて葵が鼻で笑う。安直で悪かったな。

 取り敢えず、菓子はもうないと告げると残念そうにする。やっぱりこっちの食べ物は他の世界の人らにも不味いのだろうか?

「ハイロ、この不審者を取り押さえる。協力してくれ。二人を物で懐柔する不届きものだ」

 勇者相手に二対一は避けたい。話を聞かない緑のバカは置いておくとして「ハイロ」と名乗った勇者は話が出来そうだ。お菓子はもう無いのでインスタントラーメン辺りで手を打ってくれると有難い。

「勇者全員招集がかかったから、そんな暇ないよ」

 その言葉に部屋にいた全員の視線がハイロに集中する。

「国境の砦を奪還したら、今度は魔族領土を取り返されたんだってさ」

 二箇所と戦争してたらそういうこともあるよな。

「勇者様方はお忙しいことですし、私はこれで失礼しますね」

 にこやかにそう言うと退散しようとする。だが、緑のバカではなくハイロにそれを止められた。

「いやいや、君も来るんだよ?」

 帰ろうとしたところで肩を掴まれる。

「だって君…ローレンタリアから来てるだろ?」

 いきなりのことに驚きを思いっきり顔に出してしまう。

 すると「国の情報網を甘く見すぎだ」と窘められた。確かに文明レベルから見て舐めていたかもしれない。これは要反省案件だ。

「君が何をしてるかは知らないけど、下手を打つ前に話くらいはしておいたほうがいいんじゃないかな?」

 敵と見做される前に対話をしておけということか。確かに言われてみればその通りかもしれない。もし豚王とその取り巻きみたいな連中だったら、有無を言わさず殺しにかかってきているはずだ。そう考えればそこまで悪い選択ではない。

「…仕方ないな」

 無視して逃げることも考えたが、そうなればやましいことがあるようで、それはそれで不本意である。よって本当に仕方なく付いて行くことにする。

 明らかに面倒事に巻き込まれる予感にオラわくわくしてきたぞ。




 道中、緑のバカが煩いことを除けば何もなかった。意外なことにもう一人のバカは俺とハイロが話しているからか、声をかけてくることはなかった。ちなみに葵は不機嫌そうに黙っていた。

 ハイロ曰く「王様は悪い人じゃないんだけどねぇ」とのことで、どうも周りの連中の腹が真っ黒のようだ。また葵も「嘘はついていない」と言っており、バカもそれに同意している。嘘を見抜ける能力者が二人もいるので嘘を吐くのは悪手である。向こうもそれくらいはわかっているはずだ。

 石造りの城の廊下を歩き続け、王の間の扉の前で一同が立ち止まる。扉の前の兵士が「お待ちしておりました」とかしこまり、扉を開ける。俺を訝しげに見ていたが何も言わないようだ。扉を開けるだけの簡単なお仕事である。

 玉座へと続く赤い道を四人の勇者とおまけが歩く。その先にいるのは玉座に座った王と白髪の老人。

「お呼びと聞き参上しました」

 玉座のある段の前までくるなりそう言って片膝を突く緑。しかし他三人の勇者は立ったままである。こいつの立ち位置がますますもってよくわかった。

「よくぞ来た。勇者達よ」

 王様が大様に両手を広げて歓迎を表す。そして両手を元の膝へと戻すと緑も立ち上がる。四十過ぎの白髪まじりの髭が立派な王がやると様になっている。どこぞの豚とは大違いだ。

「さて、初見の者もおるのでな。まずは名乗らせてもらおう。余がロレンシア十二代目国王『アルカーン・ラドル・ロレンティア・ロレンシア』である。その方、ローレンタリアで召喚されし勇者『シライ・シリョー』で相違ないな?」

 王様が俺を真っ直ぐに見据える。


 何でこっちの連中は「シライ」で区切りたがるのか、俺は「白井」さんではないんですがね?

 あと葵、こそっと笑うな。


「…ええ、もうそれでいいです」

 訂正したところで特に意味もないので「もういいや」と肯定する。その態度に隣の白髪の老人が少し反応したが気にしない。

「では尋ねよう。シライ殿、そなたは何故ロレンシアに参った?」

 どうやら何があったかまでは調べることが出来なかったようだ。となると、牽制も含めて探りを入れておきたい。ローレンタリアの王とその側近は、俺の能力の名前と効果を正確ではないが知っている。その情報を握られているかどうかの確認も必要だ。

 軽く敵対意思がないことを伝えて終わりにするはずだったんだが、やっぱりそうはいかなくなった。行く先々で面倒事に巻き込まれるとか、まるでRPGの勇者である。

「ローレンタリアの王は召喚した私のギフトがお気に召さなかったらしく、私を監禁しました。ご存知の通り、勇者召喚にはギフト所持者を生贄にする必要があり、その為の監禁だったので逃げ出しました」

 この言葉に反応を示したのは二人…緑と王様だ。葵は「神眼」があるからわかるとしてハイロが反応しなかったのは予想外だった。そして、王様の反応を見てわかった。この王様、召喚は配下に任せて関わっていないようだ。一国の王としてそれはどうかと思う。

「…そして追っ手に追われて逃げた先が、ロレンシアだったという事です。何か用があって来たわけではありません」

 言うべきことを言い終えると、王様が隣の老人に小声で何か言っている。まあ、何を言っているか大体想像がつく。緑がぶつぶつ言ってるがこっちは無視。

「ここからは私が…私の名は『ポートラン・リ・ハウルナン』、この国の宰相をしております。まず問いますが、その情報をどうやって監禁された身の上で知り得たかをお聞きしたい」

 ここで隣の宰相にバトンタッチ。どこまで知っているか質問をしたかったのだが止められる。わかっててやってそうだな、この爺さん。

「それは私の能力に関わることなので答えかねます」

 その言葉に宰相の目がこちらを睨みつけるように細くなる。葵に目を向けるも葵は宰相を見ていない。「神眼」があれば色々と情報を手に入れられるだろうがアテが外れたな。

「ふむ…ならばその情報が与えられて泳がされたものだということも考えられる」

 嘘発見器が二つもある状態ではやはり断定は出来ない。生贄の件はやはり都合が悪いようだ。王様も知らなかったみたいだしな。だからここで畳み掛ける。どうも宰相は何か企んでいるように見える。なので叩かせてもらおう。

「ああ、それはないですね。何故なら、ローレンタリア王の前で見せたギフトと、情報を手にする際に使ったギフトは別物ですから」

 ギフトの複数所持をここで晒す。驚かなかったのは葵とハイロのみ。王様と宰相は声を出せずに固まっている。緑がこちらを見て驚愕に目を見開いている。リアクションでかいな。ハイロは興味がないようで「ふーん」と言った反応だった。バカが驚きながらも納得した様子である。「まさか話を理解しているのか?」と逆に俺が驚いた。

「嘘だ! そんな奴が、ギフトを二つも持つなんて有り得ない!」

 さっきまでぶつぶつ言っていた緑が声を荒げる。

 だが、葵とデビットの両名から「嘘は言っていない」と断定される。

「二人は、こいつに懐柔されているんだ!」

 噛み付かんばかりの緑を見かねたのか葵が割って入る。

「だったら宰相さん、彼に『質問して』あげてください」

 葵が「質問して」の部分を僅かに強調して宰相に話を振る。その時にこちらに目をやっているので意図はわかった。こいつも嘘発見器かよ。

「では問います…貴殿はギフトを複数所持していますか?」

 軽く咳払いをして宰相が俺に質問する。

「ええ、複数所持しております」

 にこやかに俺が笑うと、わかりやすいほど宰相の顔色が悪くなる。ギフトを複数持っていることに何か意味があるのかね?

「さて…私がローレンタリアの密偵でも関係者でもないことをご理解頂けましたか?」

 止めを刺してもいいが、ここは助け舟を出す。生贄の件を追及すれば勇者と国との不和は確実。その結果どうなるかは予測は困難で、どう転んでも逆恨みされることは確実だろう。ただでさえ、俺は余計なことを言っているのだ。

「あ、ああ…よくわかりました」

 まだ少し宰相の顔色が悪い。だが王様はそうでもない。複数所持していることに驚いてはいるものの、宰相ほど大きな反応ではない。そして何故か妙に反応が大きい緑…これ宰相に何か吹き込まれてるとかないだろうな?

「私は元の世界へ帰る手段を探し、世界を回るつもりです。この国と敵対する意思はありません」

 ともあれ厄介事になる前に退散したい。流れはこちらが掴んでいるので、さっさと切り上げて拠点に帰ろう。

「ふむ…それならば我が国にしばし滞在すると良い」

 ここで黙っていた王様が口を開く。危うく忘れるところだった。

「調べによると、魔王が生まれたことによる世界の歪みが、召喚陣の送還術を阻害しておるとのことだ。ならばその原因を絶つため、ここにいる四人の勇者と共に魔王を討ち滅ぼしてはくれぬか?」

 チラリと葵を見ると目を瞑り息を吐いた。ハイロが言っていた「王様は悪い人じゃない」とはこのことか。

 要するに配下の言葉を信じて鵜呑みしての発言である。「嘘はついていない」な、確かに。

「申し訳ありませんが…私は魔王が討伐されても無事に帰ることが出来る確証がない以上、自ら帰還方法を探すつもりです」

 角が立たないように言葉を選びながら話す。まさか「角が立たないように言葉を選ぶ」なんてことをするとは思わなかった。恐るべし、無知の善意。

「さようか…ならば無理強いはできまい」

 残念そうに髭を撫でながら王様が唸る。何故か常識人のはずなのにおかしく思えてくる。

「とは言え、すぐにこの国を立つ訳ではありますまい。宜しければこちらで滞在する間、屋敷を提供いたしますが?」

 宰相が隙を見て口を挟んできた。機会があれば何かで釣って協力させることも出来るという腹積もりだろう。残念ながら飯も金も女も、今の俺には交渉材料にならない。土地や爵位は論外である。

「いや、結構。山に拠点を作ったのでね」

「山…ですか?」

 何か引っかかるのか、宰相が考え込むように少し俯き顎に手を当てる。

「幾つかお伺いしても?」

 特に聞かれて困るようなこともないので「どうぞ」と短く返す。

「山というのは『イエン山』…ああ、王都から最も近い東の山です。そちらのことですか?」

「ええ、そうです」

「いつ頃からそこに?」

「一ヶ月ほど前からでしょうか」

 その言葉で宰相だけでなくハイロを除く全員の顔色が変わる。こいつブレないな。いや、それよりも一ヶ月前と言うと何かあったか?

「では、貴族が乗るような馬車を見かけませんでしたか?」

 貴族が乗るような馬車と言えば…あの馬車のことだろうか?

「ああ、豪華な馬車を一度見ました。賊に襲われており、一人の馬に乗った騎士が必死に追い払おうとしていたのを…」

「本当か! 本当に見たのか!?」

 話の途中で王様が食いついてきた。

 もしかして重要人物だったなのだろうか?

「ええ、確かに見ました。賊は五人おり、全員が馬に乗っていました。それを一人で相手取る騎士がいるのを目撃しました」 

「それで…それでセリスはどうなったのだ!?」

 王様がかぶりつく様に俺に詰め寄る。セリスってどちら様ですか?

「申し訳ありませんが、そこから先は…」

 言葉を濁すことで嘘発見器を回避する。「何かムカついたんでぶっ殺しちゃいました」とか言ったら卒倒しそうだ。真実はいつだって残酷だからね。隠すことは優しさなんだよ。

「セイリアス様の行方はご存知ない、と?」

「ええ、残念ながら…」

 話から察するに王女と思われるが、殺した貴族の名前なんて知らないからな。セリスだかセイリアスだか知らんが、そのような人物に心当たりはあっても知らない人なので知りません。

「捜索出来なかった箇所にまだいるやもしれません。念の為にシライ殿には後で詳しい話をお聞きしたい。よろしいかな?」

 よろしい訳がない。この爺が一瞬口元釣り上げて笑うのを見逃していたらついて行くところだった。しかも目が合うと勝ち誇ったかのように目が笑ってやがる。間違いなく何らかの関与があることに勘付かれた。となれば王女殺害を見逃す代わりに、俺に何らかの要求をしてくると見ていい。恐らくは戦力として使うつもりだろう。

 お断りである。そっちがその気ならこっちにも考えがある。

「ああ、思い出した。賊に追われて待ち伏せしている場所まで追い立てられて、転倒した馬車…確かに貴族らしい服装をした女性がいました。もしかしてその女性の護衛の騎士も女性でしたか?」

「『ラニーズ』のことか! そうだとも、セリスの護衛には女性がよかろうと腕の立つ女騎士を付けたのだ!」

 娘の手がかりを掴み興奮気味の国王。いい年なんだから落ち着きなさい。

「でしたら間違いありません。その方なら間一髪のところで救助しております」

 その言葉を聞いて王様が泣き崩れんばかりの喜色に染まる。爺はこちらの意図がわからず困惑気味。いい顔だ。もっと見たくなるね。

「ではセリスは生きておるのだな!?」

「いえ、死にました」

 これまでの話の流れから生きているとばかり思っていた王様が「え?」っという顔をする。死んだとばかり思っていた娘が実は生きていた、なんて希望を抱いていた笑顔が一転する。爺に至っては呆然としている。

「騎士の女性もなんですが、間一髪のところで助けはしたのですが…近づいたところで『平民風情が』と切りかかられ、咄嗟に反撃をしてしまい殺してしまいました。私もまさか助けた相手に殺されかけるとは思っておらず、加減が出来ませんでした」

 王様が掴んでいた俺の肩を離して両膝を床に突く。何か呟いていたが聞き取れなかった。

「そうだ…亡骸は?」

「あ、腐ると迷惑になりそうなのでスライムに食わせました」

「ぐふぉぅぅぅっ!」

 止めが刺さったが、尚も俺は王女と気づかないフリをして続ける。

「いやー、まさか俺も助けた相手に殺されかけるとは思わなくてね。つい反撃してやっちゃったんだ。そうかー、セイリアスちゃんって言うのか…後で凄い美人だとわかって後悔したよ。はっはっは」

 いつの間にか口調も元に戻っている。

 葵がドン引きしてデビットですら引き気味である。宰相は固まっていて王様はなんかプルプル震えている。緑のバカはまだぶつぶつ言ってる。危ない奴め。ハイロは我関せずと言わんばかりに欠伸をしている。

 これくらいやれば爺に利用されることはないな。そう満足していると、ゆらりと王様が立ち上がり俺に指を突きつけた。

「この男を…この男を殺せぇぇぇぇぇっ!」


 あらやだ。王様、激怒げきおこのご様子です。

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