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2-10:日本人勇者

「日本人…?」

 俺の呟きが聞こえたかのように、黒髪の少女が反応し目があった。一瞬驚いた表情を見せるも、すぐに顔を逸らす。

 向こうにも向こうの事情があるのだろう。勇者なんて面倒くさいものをやっているのならそれは仕方がない。

 取り敢えず「鑑定」で名前を確認する。


 篠瀬葵


 これは日本人で間違いないようだ。まさか並行世界の日本とかそんなことあったりしないよな?

 俺は篠瀬葵を見送るとパレードを見る人混みから離れていく。頃合を見て向こうにお邪魔してゆっくり話でもしよう。となるとしばらく時間を潰す必要があるわけだ。

 仕方がないのでアテもなく街をぶらつく事にする。パレードが終わると中央区にある市場で野菜を買い、屋台の店を少し回ったがどれも味は今一つだった。最近自炊が様になってきているので、こちらの食べ物ではもう満足出来ないのかもしれない。

 思わぬ自身の進歩に複雑な表情を浮かべ、適当な時間になるとライムに「遠話」を使って遅くなることを告げる。理由も教えておいたので、きちんと留守番していてくれるはずだ。後は日が暮れるまで何をするかが問題だ。




 結局、日が暮れるまで街を歩いていた。さっさと城に入ろうかとも思ったが、バカ勇者がこちらを探知するだろうから止めた。

「検索」を使い篠瀬葵の位置を確認し、その位置に「マーキング」を使用。影渡りで影の中を移動して城に入る。廊下で影から出ると「透明化」を使い姿を隠して部屋に向かう。ちなみにマーキングの効果は一週間程で消える。少し前に遠出したときに拠点で使っており、そのマーカーが今もあったりする。複数設置も出来ることがわかったが、今はどうでもいいな。

 そして何の問題もなくマーカーのある部屋の前に辿り着く。問題はあのバカ勇者がどう動くか、だが…帰還方法の件で協力関係みたいなものなので大丈夫と思いたい。というよりここで問題を起こすほど馬鹿でないことを信じたい。

 バカのことはもう祈るしかないので、なるべく早めに用件を済まそうとドアをノックしようとした時―

「開いてるから入ってきて」

 向こうから声をかけてきた。


 また探知能力持ちですか。


 俺は警戒度を少し引き上げ、ドアを開けて中に入ると「透明化」を解除する。俺が以前監禁されたような部屋とは大違いである。白を基調とした豪華な部屋で広い上に清潔、おまけにソファーやテーブルまである。

「初めまして…じゃないな、パレードぶり。俺は『白石亮』で君と同じ日本人でいいのかな?」

 そう自己紹介した俺に篠瀬葵が笑って返す。黒目黒髪の懐かしい顔つきに泣き黒子が連なるように二つと珍しい。

「ええ。私は『篠瀬葵』…日本人よ。まさかこんなに早く再会出来るなんて思ってなかったわ」

 こうして、俺は異世界で初めて同じ日本人と話をすることになる。



 

 自己紹介が終わると、椅子に座りテーブルを挟んでお互いの情報を交換することにする。尚、予想通り女子高生で二年生だった。

「待った、その前に…」

 俺は思い出したかのように「消音」のカードを発動させ、外部に会話を聞かれないようにしておく。

「へぇ…音を遮断…そんなことも出来るのね」

「怖い能力持ってるんだな」

 いきなり効果をズバリ言い当てられて警戒度がさらに上がる。一体どんな能力を持っているんだか。

「ああ、私は『神眼』って能力を持ってるの。そのおかげで色んなことがわかるのよ」


 いきなり能力ばらしてどうする。


 思わずツッコミかけた。流石日本人、危機管理がなってないぜ。

 俺が脱力したのに気がついたのか、すぐに葵がフォローに入る。

「あ、勘違いしないでね。私はあなたの持ってるギフトも見えてるの。私だけ一方的に知ってるのは不公平だから教えたのよ」

 警戒度が鰻昇りです。そしてこの平和ボケっぷり…大丈夫かこの娘?

「あー…出来れば俺の情報は他に漏らして欲しくないんだが…」

「わかってる。四つもギフト持ってるんだったら、利用されないか警戒するのは当然よね」


 あかん。マジで見えてはる、このお方。


 俺は大きくため息をついた。

「…どこまで見えている?」

 声のトーンを少し落とし、真剣な表情で聞く。

「大体全部かな。安心していいよ、敵に回ることなんてないし…何より私はこの国が好きじゃない」

 それよりも帰る方法について教えて欲しいと聞いてくる。それからしばらく情報を交換したが見事に希望がなかった。「知識のオーブ」のことは話していない。「交換」は出来ないし、次にいつ出るかわからない上に、期待させておきながら「方法がない」と答えた時の反応なぞ想像もしたくない。

「そっか…」

 明らかに落胆して葵が俯く。

「俺も帰りたいからな…こっちでも情報を探している。何かわかったら知らせるよ」

「うん、わかった…」

 その声に元気はない。

「で、話を少し戻したい。全部というのはどこまでだ?」

 だが、相手を気遣うほど俺にも余裕はない。聞くべきところはしっかり聞いておかなければならない。

「言葉通りだよ。『ガチャ』とか『交換』とか…『カードホルダー』とその中身も見えてるよ。いっぱいあるね。この『疫病』とか『即死』とかちょっと怖いよ。それに『蘇生』とか『コンテニュー』って…もしかして死んでも生き返ったり出来るの? それに回復魔法とかあるんだね。こっちのだと『神の奇跡』っていうらしいよ? 『千里眼』で透視出来るみたいだけど…見ちゃダメだからね、絶対。あとこの『ボッシュート』ってもしかしてあのボッシュート?」


 警戒度最大です。この能力は本気で不味い。


 現状俺が最も恐れることの一つは能力バレによる攻略法の確立である。一日で得られるカードの枚数には限度がある。そこを突いて戦力の逐次投入など行われれば、軍隊規模の兵士を捌くことなど不可能に近い。

 そして「カードホルダー」は新しく出た魔法の鞄系のアイテムで幾らでもカードが入る。これ一つで全部のカードが入るのでかなり有難いアイテムだが、これを奪われるとかなり不味い。当然相手に使われるのはもっと不味い。カードは俺でなくても使えるのだ。

 能力がバレ、カードのことがバレると俺は国家クラスの戦力に対抗する手段がなくなると言って良い。そうなれば俺は自由に動くことが出来ず、最悪は監禁され利用されるか召喚の生贄だろう。

 何せ俺はローレンタリアで召喚されたのだ。ここはロレンシアで敵国になる。どんな扱いを受けるかわかったものではない。今は魔族という共通の敵がいるから大丈夫だろうが、豚王の側近の発言からして仲が良くないのは明白だ。

 この一ヶ月で戦力は充実している。仮にここで葵を始末してもどうとでも出来る自信はある。それにいざという時も先ほどでた「コンテニュー」があるので一度だけなら大丈夫のはずだ。


 決断しなくてはならない。


 俺は葵を見る。

 葵もこちらを見る。その顔は悲しげだ。

「私は白石さんにとって危険なんだね」

「…どんだけわかるんだよ」

 葵はえへへと力なく笑い顔を伏せる。

「…私ね。いっぱい、人を殺しちゃったんだ…」

 突然始まった告白の内容を驚きもせず聞く。

「こんな世界だ。殺さないと殺されることだってあるさ」

 そこまで言って気がついた。彼女はまだ子供だ。

 こちらの感覚に染まりすぎていて忘れていた。平和に過ごしてきた子供がいきなり訳も分からず召喚されて、勇者だなんだと戦うことを余儀なくされる。それがどんなに常識からかけ離れているか。どれだけ辛かったか。考えればわかることだ。

「戦争だからね。人が死ぬのは仕方ないってわかる。でもね、私が『視た』結果で沢山の人が死んで…ううん、沢山私が殺したんだ。私があんなこと言うから…」

 その発言に少し引っかかった俺は葵の言葉を遮って質問する。

「ちょっと待ってくれ、この国は魔族と戦争してるんだよな?」

「そうだよ。それに『ローレンタリア』って名前の国とも戦争してる…」

 全然知らなかった。仲が悪いとは思っていたが、すでに戦争中だったか。まあ、隣国が他所と戦争してるならその隙を突いて攻めるよな。戦略シミュレーションゲームでも常套手段だ。

「偉い人が言ってた。『聖剣を我が国に盗まれたなど言いがかりだ。宣戦布告の建前に過ぎない』って」

 その言葉を聞いて固まる。


 どうみても俺の所為です。本当にありがとうございました。


「王様は戦争なんてしたくなかったんだけどね。一ヶ月くらい前に、王女様が一人行方不明になってるの…その犯人がローレンタリアじゃないかって噂されて…それで戦争になっちゃったんだって…」

 確かに権力者が身内を攫われたりしようものなら報復するだろうが、何か根拠でもあったのだろうか? でなければ幾らなんでも軽率すぎる。それに二正面戦争ともなれば、この国も長くないかもしれない。

「最初はね、助けてあげられるなら助けてあげたいって思ってたの。でもね、この世界の人達は皆嘘ばっかり…」

 この言葉に共感を覚える。俺もここに来た当時は漫画やアニメみたいだと少し浮かれてもいた。

「守れるなら守りたいって気持ちも、もう多分擦り切れて無くなってる。『勇者』だ『英雄』だってもてはやしているけどね、皆都合の良い道具としか見ていない」

 世界は違っても大人の汚さは変わらない。俺はそれを知っていたし、体験もしていた。だからどんな理不尽にも理解は出来た。こんな世界なんだと納得出来た。

「何より嫌だったのが、そんな汚い世界に少しずつ適応してる自分。もうね…何も感じないの。騙されても、人が死んでも、人を殺しても…」

 だが目の前の少女は頭では理解出来ても心が納得しなかった。それもそのはず…彼女はまだ子供だ。日本で生まれ育った「篠瀬葵」にはこの世界の現実は許容しがたいものがある。

「こんな世界に慣れてしまうくらいならいっそのこと…」

 大人の俺でさえ吐き気すら催す世界で、少女は懸命に生きた。

 欺瞞に満ちた環境、血に塗れた光景、特権階級のエゴの醜悪さを目の当たりにした少女はこの世界をどう見ただろうか?

 俺は彼女ではないからわからない。だが、おおよその見当は付く。

「ねぇ、白石さん…もし、私が『殺して』って言ったら殺してくれる?」

 顔を伏せたまま葵は続ける。これがきっと答えなのだろう。

 顔を上げて見られていたら、多分何かに気づかれたかもしれないと、少しでも「顔を上げてくれるな」と願っていた自分を恥じる。

 彼女はもう限界だった。電気もガスも水道もない世界に放り出された現代人…これだけでも相当な負担だっただろう。

 両親も友人も知り合いもいない世界。

 訳も分からず戦争へ参加させられる不条理。

 命を奪うことを忌避する日本において、何の覚悟も持たない子供が戦場に放り込まれ、穢れのない手を血に染める。一体どれほどの苦痛であったか。

 彼女はそんな世界で生きることを諦めつつあった。

 だから俺は一人の大人として、今出来ることする。こんな腐った世界でも人助けぐらいしたくなる。同じ日本人なんだから、こればっかりは仕方ない。




 この世界にきて、初めて同じ日本人に会えたことで緊張が崩れたのだろう。一人には大きすぎる部屋に少女の嗚咽が響く。

 止めとなったのは葵が持つおにぎり。日本食に飢えていることは予測していた、これで少しでも元気になればと思い、おにぎりとインスタント味噌汁にペットボトルのお茶を差し出したら食べながら泣かれた。

「会いたい…会いたいよ。お父さん、お母さん…よっちゃんにも、ゆうちゃんにも、カズ君にも…」

 泣きながらおにぎりを頬張る葵を優しく撫でる。

「そう、だな…家族や友達には会いたいよな」

 泣きじゃくる葵を見ていたらこちらも感傷に浸ってしまう。どうしているだろうかと思う対象が、親ではなく実家の猫や友人が真っ先に来る辺り、うちの親も良い性格をしていたと思い出す。

「だったら、死ぬわけにはいかないよな」

 そう言って両手を膝にソファーから勢いよく立ち上がる。

「取り敢えず、今渡せるものを渡そう」

 カードに頼るようになってから全く使っていないポーション類を取り出す。銅と銀はもはやGP行きになっているが、金だけは残している。どこかで使うかもしれないので少し残しておくとして、一先ず十本テーブルに出す。

「見ればわかると思うが、こいつは『上級ポーション』だ。正確な回復量はわからないが、結構な効果だ」

 おにぎりを食べ終わり、味噌汁を啜りながら真っ赤な目で葵がポーションと俺を交互に見る。

「ああ、もってけ。出来ればカードも渡したいが、これがバレると俺がピンチなんでな。これで我慢してくれ」

 出し終わって気がついたが、これを常時持たせるのは色々と問題がある。それなら丁度良いものがあると、腰についたポーチを取る。

「で、これが『マジックポーチ』だ。詳しい説明はしなくてもいいよな?」

 ポーチを手渡し葵に笑いかける。何か入れていたような気がするが、重要なものは粗方鞄に入っている。それくらいならあげてもいいだろう。

 葵は泣きはらした目をこすりながら鼻を啜る。それから興味深いのか葵が何気なくマジックポーチに手を入れる。何かを掴んだらしく葵がポーチから女性の下着を引っ張り出した。しかも間の悪いことに出てきたのは局部に穴の空いたエロ下着である。

 葵は取り出したパンツを呆然と見ている。それから手にした穴空きパンツを見て赤くなり俺を睨みつける。

 思い出した。ポーチはパンツ入れにしていたんだった。

「…ちゃうねん」

 両手を軽く挙げて制止しつつ、誤解である事を告げる。

「セクハラ禁止!」

 俺の弁明虚しく、顔を赤くした葵の強烈な平手打ちの音が部屋に響いた。


カード紹介。少しバレを含みます。他持ち物は次回。

銅カード×95

着火×15 流水×14 送風×17 石突×18 消毒×14 応急処置×9 念動×8


銀カード×963

エアハンマー×39 治癒×28 解毒×19 鑑定×3 探知×21 遠見×16 検索×18 マーキング×9 複製×4 斬撃×10 遠話×7 読心×4 消音×5 障壁×7 転送×6 発勁×3 ビット×2

火属性:アロー×27 ボルト×26 ショット×27 ボール×25 シールド×25  

水属性:アロー×27 ボルト×24 ショット×21 ボール×25 シールド×27  

風属性:アロー×22 ボルト×24 ショット×24 ボール×23 シールド×21

土属性:アロー×27 ボルト×25 ショット×30 ボール×29 シールド×25

氷属性:アロー×25 ボルト×24 ショット×28 ボール×24 シールド×32

雷属性:アロー×31 ボルト×26 ショット×24 ボール×30 シールド×29

進む:一×0 二×3 三×2 四×1 五×3 六×2

戻る:一×2 二×1 三×2 四×3 五×2 六×2 


金カード×212

ヒール×8 治す×2 透明化×4 開錠×5 千里眼×5 転移×2 召喚×3 不運×2 反射×3 抵抗×4 神の見えざる手×1 ボッシュート×3 緑の獣×1 赤い獣×1 

火属性:ストーム×10 ランス×9 ソード×9

水属性:ストーム×6 ランス×7 ソード×8

風属性:ストーム×8 ランス×8 ソード×7

土属性:ストーム×6 ランス×10 ソード×6

氷属性:ストーム×8 ランス×10 ソード×7

雷属性:ストーム×8 ランス×8 ソード×9

状態異常:毒×3 麻痺×5 睡眠×5 混乱×3 石化×2 凍結×3 催眠×2 即死×1


白金カード×29

消去×2 ハイヒール×1 再生×2 蘇生×1 連結×1 拡張×1 複製×1 圧縮×2 剣聖化×1 リヴァイアたん×1 疫病×1 変☆身×1 変・身×1

火属性:バースト×2

水属性:バースト×2

風属性:バースト×1

土属性:バースト×1

氷属性:バースト×4

雷属性:バースト×3 


黒カード×2

フルヒール×1 コンテニュー×1

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― 新着の感想 ―
[一言] 色々貴重なアイテムもらってるのに、穴あきパンツ出て来ただけで平手打ちとか作者の書き方が浅はか過ぎる。 そんな女性現代でもいないでしょう。 それにこのJK,女性用のノーマル下着一杯あるのにそ…
[良い点] この女早く殺せようざいわ
[良い点] 「偉い人が言ってた。『聖剣を我が国に盗まれたなど言いがかりだ。宣戦布告の建前に過ぎない』って」 「王様は戦争なんてしたくなかったんだけどね。一ヶ月くらい前に、王女様が一人行方不明になってる…
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