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2-9:出会い系王都

 川の近くに作られた露天風呂の湯につかる。「あ~」と声が自然に出るのは日本人故か、それとも人間ならば出てしまうものなのか。

 風呂は当初予定していたよりも少し大きくなってしまったが、この完成度には満足している。全身を思い切り伸ばすことが出来る大きさの風呂が毎日利用出来る。これは日本にいた時には出来ないささやかな贅沢だ。

 自然豊かな…と言うより自然しかない景色を眺めながら夜空を眺める。

 星が綺麗だ。

 大自然に囲まれたこの暮らしも存外悪くない。そう思っていると人影が視界を塞ぐ。

 長いストレートの銀髪に褐色の肌…細いながらも引き締まった体には不釣り合いの大きな乳房を下から眺める形となる。全裸の美女は俺の視線を気にすることなく湯に足をいれると、そのまま俺に覆いかぶさるように風呂につかる。

 神秘的なエメラルドグリーンの瞳がこちらを見つめている。手を尻に回し撫でてやると、美女は微笑み俺の首に腕を回し、その豊かな胸を押し付けてくる。


 たまらん。


 あの日から心行くまでこの体を味わっているが、俺に抱きついて胸を押し付けてくるこの美女の体は飽きとは無縁だった。

 何故ならば、彼女は特殊な技能を持ったスライムが人間に変身したものだからだ。




 あの貴族はストレートのブロンドの長い髪にエメラルドグリーンの瞳を持った美女だった。初めて目にした時は思わず固まってしまうほど美しかった。スラリとした体に雪のように白い肌。まさにこの世界の特権階級の証とも言えるその美貌は、今俺のために有効活用されている。

 顔を見ていなかった女騎士も、鍛えられて引き締まったスレンダーな体にブロンドのショートカットが似合う中々の美人だった。

 愛嬌のありそうな顔をしていた黒い髪にやや浅黒い肌をしたメイドは、百人いれば百人がまずそちらに目を向けるほど大きな胸をしていた。

 彼女らを喰らい、その姿に変身出来るようになったペットのライムでその体を貪った。しかしそこに至る過程は決して楽ではなかった。

 変身時間の短さを補うべく「魔力の源」を与え、周囲の魔物を倒して食わせる。それでも足りないと「交換」にまで手をだした。そう…魔力の源を、白金級のレアアイテムを交換したのだ。そのお値段、なんと二億ポイント。しかも二つ。後悔はしていない。

 そのおかげで変身時間は二時間を超え、今尚成長し続けた結果、現在は五時間以上の変身も可能としている。

 問題はまだまだあった。傷のない状態で食べさせた騎士はともかく、他二人は外傷があった。ライムの変身はその外傷を残したままのものだったのだ。

 吸収した状態のままでの変身に俺は疑問を感じた。最初に食わせた巨大蟻の変身は完璧だったからだ。この矯正には「才能の実」と「知性の実」を追加することで対処した。これにより変身の能力の上がったライムは人型を形成するにあたり、様々な修正を加えることが出来るようになった。さらに、異なる人の部位を組み合わせた人間に変身することも可能になった。結果、ライムは僅か三人の吸収で何十通りもの人の形を手に入れた。現在はさらに二人追加している。

 こちらは商人の若い姉妹である。賊に追われていたところを助けたところ、かなり真っ当な対応をされたので、殺さずに眠らせて型だけ取らせてもらった。人間の情報は揃っているので、全身をくまなく調べて型を取るだけで完璧に変身出来るようになっている。

 まさに飽きとは無縁のバリエーションで楽しめている。ちなみに褐色の肌は賊を食わせた時の肌色で、髪の色も同様である。

 そして最大の問題―それは、ライムの体温である。

 スライムはその特性上水のような冷たさがある。変身は姿形を変えるものであって、その機能までは得られない。体が人間そのものでも、肺で呼吸をしたりはしないし喋ることも出来ない。どれだけその手を弾く肉の弾力が人のものでも、暖かさがなければ気持ち良さも半減する。

 初めこそはその感触に感動こそしたものの、抱く度に奪われる体温には体が付いていかなかった。

 どうにかして体温を与えようと試行錯誤を繰り返した。お湯を飲ませたり暖かい場所を作りそこにいてもらったりと様々な実験を行い失敗した。失敗が続き、何かないかと鞄の中を引っくり返す勢いで中の物を出し続けた。

 その時、あるアイテムにライムは反応した。

 魔石だ。火、水、風、土の四種の属性の魔石にライムが反応を示した。欲しがったのは水と土。魔石を与えてみるとライムは体の中に取り込み吸収した。だが、火と風は吸収しようとしなかった。理由はわからない。スライム的な属性だろうか?

 その時、俺は閃いた。その理論なき閃きはまさに天啓だった。

「物理でダメなら魔法に頼ればいいじゃない」

 でも魔法とか魔力とかさっぱりわからないのでライムに任せることとなった。

 その結果、ライムは火の魔石を使うことで体温を得た。何をやってるかはさっぱりわからない。また、体内を皮膚よりも暖かくするという注文にも応えてくれた。これは「精神の実」を与えることでより精密になり、ライムとのスキンシップは人のものと変わらないものへと至った。

 ちなみにこの一件から火の魔石で風呂を沸かしている。それまでは「ファイアシールド」を使って俺の周囲を漂う火の粉で風呂の水を温めていた。

 こうした経緯があって、俺は風呂に入りながらも美女に変身したライムを堪能している。今の褐色肌のスタイルは、俺がリクエストしたダークエルフをイメージしたものだ。耳も尖らせている。

 最近はライムが俺の好みを把握し始め、自分で色々な組み合わせを作って俺に見せる。これが中々新鮮なのでこのところ任せっぱなしだったのだが、たまにこうして俺の注文で作ったパターンで迫ってくる。

 本当に可愛いやつである。

 もう一体くらい作ろうかと思ったが、これまでにかかったコストを考えると作る気が失せた。もっと余裕が出来た時に考慮しよう。

 それにたまに出てくる現代衣装もまだ数が全く足りていない。パンツなら幾らでもあるのだが、何故か他が出ない。サイズがちょっとあってなかったが、ブラジャーとパンツ、ガーターベルトとストッキングが黒で揃った時は感動した。一番大きいブラでもサイズが合わず、こぼれそうになっている胸は実にエロかった。白はあとストッキングとブラジャーで揃うので楽しみにしている。

 こんな調子で暇さえあればスキンシップを楽しんでいる。ライムも楽しんでいるようなので何の問題もない。


 ペットとのスキンシップは大事だからね。これは必要なことなんだ。


 風呂の中でたっぷりと楽しんだ後、拠点に戻り自作ベッドに倒れこむ。少しのぼせてしまったようだ。

 だが何の問題もない。

 ベッドに来たライムは元のスライムの姿に戻るとシーツの上にその体を広げる。ひんやりとしたウォーターベッドのような弾力が心地良い。最近はこうしてスライムの姿で一緒に寝ている。影の中に入らないのはベッドの組立が面倒になりだしたことと、ライムが見張ってくれる為危険はないからだ。

 まあ…問題がないわけではなく、どうも強くしすぎたようでこのところ狩りに行っても何も近づいてこなくなっている。結構距離があるのにこちらを感知して逃げるのだ。仕方がないので影の中から襲っていたら周囲に獲物がいなくなった。どんだけ警戒されているんだか。

 それにスライムは眠らないらしく、一晩中周囲を見張っているので安心だ。仮に何かあったところで、枕元に置いているカードホルダーからカードを使うように言っているので安全面に問題はない。

 そんな訳で今日も拠点で朝まで眠れる一日だった。




 朝目が覚めると初めて見る美女が俺を起こしてくれた。どうやら新しく作った組み合わせのようだ。目が少し垂れ気味でおっとりとした感じがよく出ている。これも中々良い。

 ライムに向かってグッドサインを出すと川の水で顔を洗い、朝食を摂りながらガチャを回す。特にこれといったものも出なかったのでペットとのスキンシップを楽しむ。

 もはやいつも通りと言って差し支えない朝である。

 さて、こんな怠惰な暮らしを一ヶ月もただ過ごしていたわけではない。

 ついに帰る手がかりを見つけたのだ。

 それはガチャから出た白金のアイテム「知識のオーブ」である。「交換」を手に入れた次の日に出たアイテムなのだが、世界の知識と呼ばれる情報集合体に接続し、この世に存在する全ての情報から正確な答えを導き出すアイテム。一つにつき一度だけ、どのような質問にも答えてくれるこのアイテムを、俺はスキルオーブと見間違い使ってしまったのだ。反応がなかった時に思わず「なんだこれ?」と思ったことでオーブが発動。このアイテムの正確な情報を得るに至った。まさに痛恨のミスである。

 その後「交換」を使って知識のオーブを獲得しようとしたがダメだった。ポイントが足りないのではなく、交換対象ではなかったのだ。まさかと思い、他に欲しい物を交換しようとしたが交換不可のものが幾つもあった。おかげで予定が大きく狂ったのは言うまでもない。

 それで再び知識のオーブが出るまでここで待っていただけである。決して今の暮らしが気に入りだしてどうでもよくなってきたわけではない。

 ペットとのスキンシップを終えて汗を拭うと狩りの支度をする。最近は賊すらいなくなったので少し遠出しなくてはならない。

 少し前に大勢の兵士が山に入っていたので、賊の大規模な討伐が行われたのが原因だろう。例え賊でもうちのペットの食料になるのだから、根こそぎ持っていくのは止めて欲しい。乱獲すれば収穫は減るのだ。山賊狩りも節度を持って行って頂きたい。そう思いながらペット育成の為、今日も山の魔物の乱獲に勤しもう。




 時刻は昼過ぎ。狩りを終え、拠点に戻った俺は昼食の準備をしていた。鍋でお湯を沸かしそこに出汁の素を入れ菜箸で軽くかき混ぜる。出来た出汁に味噌を溶き、味噌汁を作るとそこに適当な大きさに切った豆腐を投入。食料用の鞄からおにぎりとペットボトルの緑茶を取り出す。

 豆腐も熱くなった頃合でお椀に味噌汁を移し準備完了である。

 まずは味噌汁を啜り一息つく。少し濃い目に作った熱い味噌汁が喉を通る。

「っあ~…たまらん」

 次におにぎりを一口。中心の具に届かない程度に浅く齧り付く。そして米を味わいながら再び味噌汁を啜る。ご飯と味噌汁が口の中でハーモニーを奏でる。一時の至福に目を瞑り、日本人に生まれた幸せを噛みしめる。

 味噌は結構前から出ていたのだが、出汁の素が最近ようやく出てきてくれたおかげで味噌汁を作れるようになった。葱も欲しいが際限なく求めたらキリがない。機会があればこちらで探す程度で良いだろう。

 この一ヶ月で食に関してはかなり改善されたと思うが、同時に問題も出てきた。

 野菜がないのだ。

 調味料が揃っているので、魚を取って塩焼きにしてご飯と味噌汁というパターンが増えてきた。一度銀から和牛の霜降り肉が出ているので、その気になればポイントで肉も食える。だが野菜はない。豆腐は出たのにな。

 現在は野菜ジュースで補ってはいるが、やはり不安なのだ。

 ここは一度、街に行って野菜を買い込む必要がある。ずっと面倒事に巻き込まれたくない一心で寄り付かなかったが、今回ばかりは仕方がない。さっさと済ませてすぐに帰ってくれば大丈夫だろう。

 昼食後のペットとのスキンシップがお預けだが、さっさと済ませて帰れば夜には戻れるはずだ。昼の分まで夜楽しめば良い。そう自分を納得させ、ライムに留守番をお願いする。

 何かあれば「遠話」で指示を出せばいい。俺は着替えを済ませると森の中で影に入って木の上へ駆け上る。木の上からの景色を楽しみながらも場所を探す。すぐに目的の場所は見つかり、俺はその場所に意識を集中させ―

「転移」

 その短い言葉を言い終えた時には、その場所に転移していた。

 金のカード「転移」である。目に見える範囲なら転移可能な便利カードだ。ちなみに「転移」なんて言わなくても飛べる。ただの気分だ。

 再び影の中に入り移動を開始、森に近い東門が見える位置に来ると影から出る。そして「透明化」のカードを使用し、門に近づくと入る人もまばらな東門をあっさりくぐり抜ける。

 さあ、久しぶりの王都「ロレスティア」である。

 まずは人目のつかない場所にいき「透明化」を解除。少し身なりが良く見える程度の銀の刺繍のある紺色のローブを風に揺らしながら、早歩きで商業地区へ向かう。約一ヶ月ぶりのおかげでどこなのかわからず、実は適当に歩いているのはご愛嬌だ。

 取り敢えず人の流れに逆らわず流れてみよう。皆一様に南の方へ向かっているようだし、そこにきっと市場があるはずだ。

 人と長らく話をしていないせいか、どうも道を尋ねるのも億劫だ。コミュ障ではないと思いたいが自信がない。困ったものだ。多少時間のロスがあっても、帰りにも「転移」を使えば済む話ではある。少々勿体無いので出来れば使わずに帰りたい。

 そうして人ごみに揉まれながら南の地区へとたどり着くと、そこは熱気に溢れていた。


 王城へと続く大通りを四列に整列した兵士達が行進している。

 馬に乗った騎士達が声援を送る民衆に手を振っている。

 音楽が鳴り、歓声が上がり周囲の興奮が伝わってくる。

 

 これは何だ?

 これは…そう、パレードだ。


 南門から王城に続く大通りの傍は人で埋め尽くされ、整列した兵士が行進し、騎士が手を振り歓声に応えている。パレードは長く、門の向こうまでも続いていた。


 そう言えば、この国は魔族と戦争してたんだったか。


 これはその戦勝パレードと言ったところか。

 それならばこの熱狂にも納得出来る。

 しかしそうなると野菜を売ってる場合ではないわけだ。どうやら王都に来るタイミングが悪かったようだ。野菜を諦めて拠点に戻ろうかとも思ったが、パレードを見るのは某ネズミの夢の国でのことくらいなものだ。折角なので少し見ていくことにする。

 しばらく代わり映えしない兵士の列と騎士を眺めていると歓声が一際大きくなった。

 何事かと門の方を向くと、戦車チャリオットのような天井のない馬車に乗った四人の男女が手を振っているのが見えた。その中の一人に見覚えが有る。

「デビット・ジ・ローセン」ことバカ勇者だ。と言うことはあの四人は勇者だろうか?

 四人も勇者がいるのかと嫌気が差したが、その顔くらいは覚えておいたほうがいいだろうと四人を眺める。流石に距離があったためわからなかった。仕方がないので目立たないようにして待つ事にする。そして馬車が横を通り過ぎる位に近づいた頃に勇者の顔を拝見する。

 バカは省くとして、少し暗い雰囲気の俺と同じくらいの年の男性。こちらは少しだらしない感じがする。それに緑の髪をした背の高いイケメンの青年と地味目な黒髪の少女…

 その少女を間近に見て俺の目は釘付けになった。

 長い黒髪に黒い瞳。まるで学校の制服を着たアジア系の顔つきの少女の姿に、俺は目を離せなかった。

「日本人…?」

 無意識に呟いていた。

 この喧騒の中、その声が聞こえたのだろうか?

 黒髪の少女は「日本人」という単語に反応するように、勢いよくこちらに振り返り―目があった。


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