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2-5:妥協の結果

 ロレンシア王国の王都「ロレスティア」は世界に名だたる大都市のうちの一つである。この大陸における五大都市の一つであり、最大の都市であるディバリトエス帝国の皇都「ディバリエスト」に唯一対抗出来る都市として知られる。

 だがそんな大都市と言えど、日本人の俺からすれば人が多いだけのド田舎である。とても平とは言えない石畳はまだ情緒が溢れると言えば済むが、計画なく建てられた石造りの家々が景観を破壊し、上下水のない街の衛生は壊滅的と言えた。

 一際酷かったのがローレンタスと同様にやたらでかいスラム街があったことだ。こちらでも同じようにスラムの悪臭が隣の区画まで届いており、スラムのある西側には足を運ぶ気さえ失せる始末である。

「観光すらしようと思わないな」

 悪態をつきながら露店で買った何かの肉の串焼きに齧り付く。タレはなく、ただ塩で味付けしただけのシンプルなものだ。豚に近い食感で肉自体の味は悪くないのだが、その硬さは現代人には少し辛い。調理次第で美味くなりそうだが、調理法などさっぱり思いつかない。やはり料理の出来る奴隷とか欲しくなる。ちなみに王都から北東にある港町から塩が手に入るので、値段の安さもあってか大体の味付けが塩になるらしい。肝臓に悪そうだ。

 ともあれ、食べ歩いてわかったことがある。

 この世界の料理は味付けが塩ばかりであるということだ。香辛料を使うものもあるが、こちらは貴族や大商人といった裕福層くらいではないと使えないとのこと。砂糖もあるようだが、高級品で菓子にふりかけて使うらしい。これを聞いたときは思わず噴きかけた。

 現状では食材を買って、ガチャからでた調味料でどうにかして食べるのが最善のようだ。食料調達は明日行うとして、王都を歩き回った目的である奴隷商のところへ行こう。どんな美女が俺を待っているのか、期待に胸が膨らむ。

 俺は食べ終えた串を投げ捨て、事前に調べておいた場所へ意気揚々と向かった。




 色々あって奴隷商の館から出た俺は肩を落とし、夜の街を歩いていた。

 結論から言おう。

 奴隷は買えた。但し、相当な妥協があった。

 奴隷の名前は「イラ」で年齢は22歳と、こちらではやや年増の部類に入る。赤い髪にEカップはある胸が特徴的だ。金貨三枚を支払い彼女を買った。無口ではあるが、料理は当然家事全般も一通りこなすらしい。あまり喋りはしないが愛想良く笑顔を向けてくる。その顔を見て「やはり早まったか」という思いに駆られる。

 そう、イラは美人ではない。と言うより美人からは程遠い。美的感覚は地球とそれほど違いはなく。俺の感覚でもこちらの感覚でも、彼女は「普通未満」という評価である。料理が出来るということと、胸があることで選んだが、早くも後悔し始めている。

 買った当時は「ガチャから化粧品とか出たら化けるんじゃないか?」などと思っていたが、そもそも出るかどうかすらわからない。返品は出来ないだろうなと思っていると、鬱陶しい営業スマイルの奴隷商の言葉が思い浮かぶ。

「旦那、そりゃ無茶な注文です。美人どころは皆貴族様が持って行ってしまいます。どこの村でも、美人になりそうな女がいたら、攫われるのは常識です」

 そう…この世界の美人は貴族が独占しており、美人になりそうな平民は見つかり次第貴族が攫っていくそうだ。だから美人の奴隷など取り扱うことなどなく。奴隷商本人も「この商売を継いで20年になりますが、親父の頃から美人と呼べる女を扱ったことなんてありませんよ」と、のたまっていた。

 これを聞いたとき、本気で貴族に殺意を覚えた。異世界チーレムの定番、美少女奴隷でハーレムの夢が早くも崩れたのである。いっそのこと「貴族の館を襲って攫ってくるか?」と考えたが、影の中に入れるのは俺一人である。俺の能力は人攫いには向いていない。

 結局、俺は当面の処理要員としてイラを選んだわけだが…臭いがきつくて出来そうもない。今日は宿で一泊して、明日体を綺麗にしてから考えることにする。

 泊まる宿に関しては奴隷商人が日が暮れてから取れる宿なら、と場所を教えてもらっている。今はそこに向かって歩いているのだが、区画整理もやっていない石造りの家が乱立している入り組んだ地区にあるため、辿り着くのに一苦労しているのである。

 ここでイラが役に立った。場所を知っているらしく、彼女が先導したことで無事に宿へと到着出来た。受付で銀貨一枚を渡し、四日分をまとめて支払う。

 イラが夕食をまだ食べていなかったようで、宿で適当に見繕ってもらう。やることもないので今日は早めに寝ることにする。臭いが消えればやることもある。今晩は我慢だ。

 ベッドは大きめだが、臭いが付くのも嫌なので毛布を渡して床で寝かせる。影の中で寝たほうが安全だろうが、奴隷とは言えこの能力を見せるのは避けたい。宿で待たせて出かけるフリをして影の中で寝ようかとも思ったが、イラが逃げることも考えられる。今日のところは監視の意味も込めて影の外で寝ることにする。

 この時は当然起きているつもりだったのだが、いつの間にか眠っていたらしく、夜明け前に頭に鳴る警報で目を覚ますこととなる。




 これはどうなっている?

 自分の身に起こったことが理解出来ず、俺は胸の痛みと熱さでまともな思考が出来なくなっていた。

 いつの間にか眠ってしまったことは理解した。危機感知のお守りが頭の中で警報を鳴らし、それで慌てて飛び起きたら胸に激痛が走った。痛みはすぐに熱を伴い、焼き付くような痛みと熱さが俺を襲う。

 上着に赤い染みが広がっていく。胸に見慣れないものが付いている。

 これは何だ?

 赤い染みは尚も広がり、痛みと熱はどんどん大きくなっていく。胸に着いた棒状のものを恐る恐る手に取ると、俺はそれが何なのか理解した。

 俺が触れたのは短剣の柄。ようやく俺は刺されたことを理解した。

「ぐっあああぁぁああっ!」

 理解と同時に痛みが一気に襲いかかってくる。痛みに耐えかね叫び声を上げる。その直後、肺にまで突き刺さった刃が、俺に血を吐かせてゴボゴボという音に変わる。無意識に助けを求めて手を伸ばす。

 その先にはイラがいた。まるでくだらないものを見るかのように見下していた。

 その目を見て気づいた。この部屋には俺とイラ以外いない。つまり、俺を刺したのは彼女であるということを。

 その瞬間、死の恐怖が怒りで上書きされ殺意となった。

「こいつを殺す」と強く思ったとき、すぐに発動させアイスアローがイラの眉間を捉える。イラは全身をピクピクと痙攣させた後、声を上げることなく崩れ落ちた。

 荒く息を吐いた後、再び肺に溜まった血を吐き出すように咳き込む。ショック死しなかったのは幸いだった。とにかく今は死にたくない一心に「ヒール」を発動させる。光が俺の体を覆い、痛みが和らいだことで考える余裕が生まれる。

 胸を刺されたので止血は出来ない。何時までも短剣を胸に刺したままでもいられない。血液は今も尚流れ出ているのだ。すぐに決断しなければならない。

 俺は短剣の柄を握ると、一呼吸を置いて一気に引き抜く。それと同時に「ハイヒール」を発動させる。先程よりも強い光が俺を包み込み、傷を癒していく。光が消える頃には胸の傷が完全に塞がっており、刺された跡すら残っていなかった。

 だが、傷は消えても痛みは残っている。じくじくとした痛みが広がっていくような感覚に囚われる。体が全体が熱くなり、目眩と嘔吐に襲われる。

 ハイヒールだけでは完全に治っていない。いや、傷は癒えたはずである。となればと「解毒」を発動させる。すると先ほどまでの症状が嘘のように消えてなくなった。

「ふー…」

 大きな安堵の息が漏れる。ヒールはどの程度効果があるかは知っていたが、ハイヒールはいまいちよくわかっていなかったので少し心配だった。刺されても大丈夫と判明したのは怪我の功名か。これでハイヒールがなくなったが、命には代えられない。

 それにしてもいきなり買った奴隷に殺されかけるとは思わなかった。やはり影から出たのは無用心だったようだ。

 頭から血を流して横たわるイラの死体に近づくと、他に何かないか調べる。粗末な服一枚を手探りで探す。そのついでに胸もたっぷり揉んでみる。生きている時に揉みたかった。

 結局何も発見できず。証拠となりそうなものは見覚えのない短剣のみ。

 さて、これを渡した奴にどうやって報復してくれようか?

 取り敢えずこの状況を宿の主人に報告するとして、その前にガチャを回しておこう。




 本日の成果。


 銀:カード×16

 金:カード×7 


 あまりパッとしない結果だが、鑑定が二枚出たのは大きい。さらに新カードが三枚もある。銀が二種類で金が一種類だ。

 まずは銀の新カードから見てみよう。


「複製」


 複製…つまりコピーである。すごく高性能に思えるのだが、本当に銀で良いのだろうか?

 どうせ鑑定のときのように名前だけとか、同じようながっかり仕様が仕込まれているんだろう?

 期待はほどほどにしておく。では次だ。


「斬撃」


 魔法じゃないだろ。

 そう思わずにツッコミを入れてしまった。まあ、絵柄は斬撃を飛ばしてるっぽく見えるので、そういうものだと理解しておく。

 そして次は金の新カードだ。


「毒」


 すごくシンプルです。どんな毒かはわからない。状態異常系だからあるだろうとは思っていた。人が喉を抑えて苦しんでいる絵柄なので、死に至るものだとは思う。

 不用品もGPに変えたところで現在のガチャステータス。


 ガチャ

 Lv31

 4811400000P

 332GP


 銀の出そのものが良くなかったので、GPはあまり増えず。こればっかりは運だから仕方ない。

 さて、ガチャも回したことだし、着替えたら影から出て宿の主人と話をしてくるか。




 話はすんなりと済んだ。金貨一枚でな。

 イラが持っていた短剣に関してはさっぱりわからないと言っていた。短剣に関しては知らないようだが、他に何か知ってそうなので詰め寄る。だが意外なことに口が固かった。仕方がないので金貨をもう一枚渡してやったらあっさり吐いた。

 宿の主人が言うには「たまにヤザレの奴隷商会から奴隷買った人がうちを紹介されて泊まるが、奴隷に殺されることがよくある」だそうである。これは黒確定か。

 ちなみに刺されたことは言ってない。

 騒ぎになるのも面倒なので、主人を殺して金と荷物と奪おうとした奴隷が逆に殺された。という話にしてもらった。これなら大丈夫だろう。

 なんやかんやで日が昇り、不味い朝食を終えると、俺は昨日イラを買った奴隷商…ヤザレとかいう奴隷商会の元へ向かう。

 少し迷うかと思ったが、思いのほかあっさりと奴隷商会へ辿り着く。奴隷商会の建物が大きく、わかりやすかったのが助かった。

 建物の中に入り、昨日俺にイラを売った奴隷商を探す。商会の建物の中には奴隷商は常時何人かいて、客の注文に応じて奴隷の元へ案内する仕組みになっている。奴隷は一箇所に集められているのではなく、ある程度カテゴリーに分けられてまとめられている。俺が買ったのは下働きと夜の相手が出来るという分類の奴隷である。

 数人の奴隷商が客の注文を聞いている。その中に昨日の奴はいない。

 仕方がないので少し待つことにする。時間がかかるかと思われたが、すぐに奴はやってきた。しかもこっちに向かって真っ直ぐに、だ。

「これはこれは…何かご不満な点でもありましたか?」

 よくもまあこんな台詞が出るものだと、面の皮の厚さに感心する。だが、こいつがただの販売員である可能性もある。なるべく、事を荒立てないように話を進めよう。

「不満と言うより…買ったその日に短剣で襲われてな。少しばかり教育がなっていないようだと苦情を言いに来た」

 周りの客にもはっきり聞こえるくらいの声で言う。


 うん、明らかに空気が変わったね。


「ははは…ご冗談を」

「冗談だったらよかったんだがなぁ…あ、これがその短剣な」

 奴隷商の言葉を遮り、予め血を拭き取ったおいた短剣を出して奴隷商に向かってぽんと放り投げる。奴隷商はそれを受け取らず慌てて回避する。短剣が木造の床に音を立てて転がる。

「随分慌てて避けるんだな。まるでその短剣に毒が塗られているのを知っているみたいだったよ」

 この言葉で奴隷商の顔が真っ赤になる。やばい、ちょっと楽しくなってきた。

「そう言えば、俺この短剣に見覚えないんだよね。宿の方で聞いても誰も知らないみたいだったし…あいつは一体どこでこれを手に入れたのかな?」

 あと毒はどこで入手したのだろうか、と挑発するように大げさな身振り手振りも一緒に付け加える。

「おい、あんた。まるでうちが売った奴隷をけしかけてるみたいに言うじゃねぇか。証拠はあるんだろうな?」

 おおっと、ここで奴隷商の口調が変わりました。ここで脅しにかかるようでは三流だな。

「そうだねぇ、証拠はないねぇ」

 俺は嬉しそうに証拠がないと開き直る。

「は! 証拠もなしに言いがかりか! 濡れ衣着せて金でもせしめるつもりだったんだろ!?」

 勝ったと言わんばかりに奴隷商がまくし立てる。品のない三流だな。

「ああ、何か勘違いしてるようだけど…」

 やれやれと首を振り言葉を続ける。

「苦情を入れに来ただけだよ? 次に買いに来たときは、ちゃんと教育された奴隷を売って欲しいからね」

 何を言ってるのかわからないのか、奴隷商が「え?」という顔をしている。まあ、危うく死にかけたのに同じところで同じものを買うとか普通はないよな。

 そんな奴隷商を無視してざわめく客を尻目に商会を去る。他の奴隷商が何か言おうとしていたが、結局何も言わずに俺を見送った。

 翌日、俺に奴隷を売ったあの奴隷商人が死体で発見された。殺害方法は毒と推定されるが、それが一体何の毒なのかさっぱりわからなかったそうだ。

 さらに商会の資金が全て奪われていたが、犯人に繋がる手がかりは何一つ見つからず、この一件で俺は衛兵から取り調べを受けることになったが、知らぬ存ぜぬで通した。何せ、俺はずっと酒場にいたことになっているんだからな。

 それに、証拠がないんだ。仕方ないね。


カード

銅カード×47

着火×9 流水×5 送風×10 石突×7 消毒×7 応急処置×5 念動×4


銀カード×373 

エアハンマー×15 治癒×11 解毒×7 鑑定×2 探知×9 遠見×4 検索×9 マーキング×3 複製×1 斬撃×1

火属性:アロー×12 ボルト×10 ショット×13 ボール×12 シールド×9 

水属性:アロー×14 ボルト×9 ショット×6 ボール×10 シールド×12 

風属性:アロー×8 ボルト×9 ショット×9 ボール×9 シールド×6

土属性:アロー×14 ボルト×11 ショット×16 ボール×12 シールド×8 

氷属性:アロー×9 ボルト×11 ショット×12 ボール×8 シールド×8 

雷属性:アロー×13 ボルト×9 ショット×9 ボール×14 シールド×6 


金カード×80

ヒール×3 透明化×2 開錠×2 千里眼×2 ボッシュート×2 麻痺×3 睡眠×2 抵抗×2 見えざる神の手×1 緑の獣×1 赤い獣×1

火属性:ストーム×4 ランス×5 ソード×5

水属性:ストーム×2 ランス×3 ソード×4

風属性:ストーム×3 ランス×3 ソード×2

土属性:ストーム×1 ランス×5 ソード×3

氷属性:ストーム×3 ランス×5 ソード×1

雷属性:ストーム×3 ランス×3 ソード×4


白金カード×5

再生×1 蘇生×1 アイスバースト×2 リヴァイアたん×1


装備品

武器:カース(クロスボウ) 祝福されたミスリルナイフ 未鑑定の剣

防具:なし

装飾品:危機感知のお守り

(以下未鑑定)指輪×2 腕輪×1 イヤリング×2 ネックレス×1

 

重要品

魔法の鞄×2 


魔力の源×1 剛力の実×1 才能の実×2 知恵の実×4

未鑑定の果物らしきもの5種類全部で8つ




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[一言] ハイヒールで毒も解毒できたのか。 めもめも。
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