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パート07

　動きが止まっているミノタウロスに右手で斬りつけたけど、易々と後ろへとバックステップされて避けられてしまう。

　僕はその距離を一気に詰めて、再び今度は左の真っ白な剣で斬りつける。

　右の方は全てを切り裂く、という設定を付けているからよほど堅い物じゃない限り切れない物は無い。けれど左の真っ白な剣は防御力を重視した設定になっている。

　ようは、切れ味はまったく無いってことだ。それでも牽制攻撃にはなるし、斬れなくても衝撃を与える事が出来る。

「やりおるな、小僧！」

　二本の斧を使い分けて、身を守ると同時に攻撃を仕掛けてくるミノタウロス。

　僕も右の剣で攻撃し、左の剣で身を守る。

　一見してみると、この戦闘は長引くと思うだろう。けれど僕とミノタウロスじゃあ、決定的に違いがある。

　まず一つは体格の違いだ。ミノタウロスは体が大きいから俊敏な動きが出来ても小回りは利かない。その点だと僕の方が有利だ。

　ミノタウロスの攻撃を、相手の股をくぐる事によって避け、そのガラ空きの背中に斬りつける。

「ぬうっ！」

　そしてもう一つは、スピードの差だ。

　確かにこのミノタウロスは僕が思っているよりも早い。それでも設定を使って身体能力が上がった僕の方が数倍だ。

　だからこの戦い……勝てる！

「喰らえっ！」

　横に回り込んで腕を斬り落そうとしたけど、ミノタウロスはわざと斧を落として腕を軽くして逆に殴りかかってきた。なんとか左で受け止めたけど、今度は吹き飛ばされてしまった。

「く、これも空白の設定だって言うのか……」

　さっき斧を防いだ時は吹き飛ばされなかったのに、今の打撃は吹き飛ばされてしまった。多分、この僕が考えた設定『武器の攻撃は全て吹き飛ばされず、押し負ける事がけして無い』と考えたのがいけなかった。

　これはつまり、武器以外での攻撃は全て通用されてしまうという事だ。

　これだけ僕の方が有利だっていうのにまだ決着がつかないのは、僕が未だに自分の空白の設定を理解しきれてない事と、ミノタウロスが熟練の戦士だからだ。

　いくら凄腕の戦士の魂をまとった所で、まだ初めてだからか体がついていけてない。このままだと先に体力が尽きる可能性がある。

「……ああもう、力技で倒すのはあんまり好きじゃないんだけどな」

　このさい仕方ないだろう。

　僕は吹き飛ばされた位置から大きく上に跳躍した。

「どうした小僧！　もっと攻めてこい！」

「ああ分かったよ――」

　そして左の剣を大きくミノタウロスに向かって振り下ろした。

「――お望み通り、攻めてやるよ！」

　さっきまで僕の腕ぐらいしか無かった剣が、一気に巨大トラック並みに大きくなって振り落とされた。

「なんだとっ！？」

　予想してなかった攻撃に、さすがのミノタウロスも驚いていた。慌ててその攻撃を二本の斧で防ぐ。

　けれどそんなのにもお構いなしに、僕は力を込め続ける。

「うおおおおおおっ！」

　今この真っ白な剣は、見た目通りにとてつもない重さがある。僕も持っているだけでものすごい力を使っている。

「ぬうううううううっ！」

　お互いそのまま動けないままだったが、とうとうミノタウロスの斧が両方耐えきれずに砕け散った。

「くっ！」

　けれどミノタウロスはその隙に横に回避して、なんとか押しつぶされる事はなかった。

　……でも、それが僕の本当の狙いだった。

「はあああっ！」

　すでに僕は地面に着地して、ミノタウロスに斬りかかっていた。回避した後だからこの攻撃をかわす事が出来ないはず。

「喰らえ――一風殺刀（いっぷうさっとう）！」

　風のようにミノタウロスの体を横切った後、ミノタウロスの胴体に大きな傷が出来て血がそこからあふれ出した。

「はあ、はあ……」

「ぐ、うう……い、いつの間に俺との距離を詰めておった、小僧……」

「はあ……さっきの、僕が剣を大きくさせて振り下ろした時ですよ……」

　そう。確かにさっき真っ白な剣を大きくさせて振り下ろした後、その時にすでに僕は剣を捨てていた。いかにもまだいるかのように力を加えて、あとは重さに任せただけだ。

　そして武器が壊れて動く前に近づいて、隙をうかがっていたわけだ。

「なるほど、な……。人間の割に、頭が働く奴だ……」

「そりゃどうも……」

　息を整えて、倒れたミノタウロスの近くによる。一応不意打ちを受けないように警戒はしたままだ。

「そう身構えるな……俺はもう小僧を襲えんぞ」

「僕は意外と用心深い性格だからね。こうでもしないと落ち着かないんだよ」

「ふん……」

　ミノタウロスは腰にあった袋から小さな球を取りだすと、それを僕に渡してきた。

「これは……？」

「持って行け。いずれなんらかの役に立つだろうからな……。最後に、小僧みたい奴と戦えて、俺は、満足だ……」

　遺言のように呟いて、ミノタウロスは死んだ。もうこの場には僕以外に立っている敵はいない。

　ようやく一息つけた僕は戦士の魂を解除した。

「これで終わりか……って、あれ……？」

　一気に疲労感や痛みが体を波のようにやってきて、僕はそのまま気を失った。