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金色のリボン~サンタクロースの弟子~

作者:文月ユタカ
はじめまして、文月ユタカと申します。初投稿です。冬が舞台の短いお話なので、残暑見舞いのつもりでお読みただけるとうれしいです。

雪の降りそうな夜だった。
白い息が暗闇の中で流れて消えた。
なんとなく家に帰るのが億劫になり、ふと思いついて誰もいない夜の公園でブランコに腰掛けてみた。
こうすれば、もしかしたら幸せだった子どもの頃に戻れるのではないかと、叶いもしない夢を見て。
子どもの頃は、今みたいに金のことを気にすることはなかった。
それだけでも幸せだったと言える気がする。
こんな暮らしが待っていたのなら、大人になんてなるのではなかった。
自分は大人になるやり方を間違えた。
うまく大人になる方法なんて、誰も教えてくれなかった。
うまく大人になれた大人がいなかったせいだろう。
誰もが生きることに必死だった。

公園の向こうに広がる街にふわりと金色のリボンがかけられたような気がした。
あれは靄?目の錯覚?
自分が疲れているから?
街にリボンがかけられるなんて。

今日も雪が降りそうなくらいに寒い夜。
いっそ雪でも降れば少しはうきうきした気持ちになれるかもしれない。
今日は金曜日、クリスマスイブ。
明日は休みだがこれといって予定もない。
それが悲しいわけでもない。
家に引きこもって一日中マンガでも読もう。
コンビニで買ったチョコレートがポケットに入っていたことを思い出して少しだけ明るい気持ちになった。
とてもお腹が空いていたから。
電車を待つ間にチョコレートを一粒頬張ると、口の中に甘さが広がってホッとした。
こんなことで喜べるうちはまだ大丈夫と自分に言い聞かせた。
毎日誰かの陰口を言い合っている同僚といかにして話をせずに過ごせるか、そればかりを考えるのにも疲れ果てていた。

電車の窓から目に映る街にふわりと金色のリボンがかけられたような気がした。
今のは霧?目の錯覚?
自分が疲れているから?
街にリボンがかけられるなんて。



この仕事は誰にも見られてはならない。
わたしは魔法使いではない。
わたしはサンタクロースの弟子。
サンタクロース一人ではとうてい配りきれないプレゼントを、あちらこちらの街へ配る手伝いをしている。
ある年のクリスマスイブの夜、サンタクロースを見かけた時に、スカウトされたのだ。

家の屋根を登っていく赤い服を着た白いひげの男を見た。
強盗?
それとも、まさか本物のサンタクロース?
視線に気づいた赤い服の男がこちらへやってきた。
白いひげはフェイクではなかった。
「わたしが見えるのかね?」
初めて聞くはずの声だというのに、どういうわけか懐かしい。
「ええ、見えます。あなたはサンタクロース?」
直球の質問を投げかけた。
「困ったな、正解だ。わたしの仕事は人に見られてはいけないというのに」
「見なかったことにしましょうか」
驚きを隠すように、大人の都合で言葉をつないだ。
「それはできない。それにわたしが見える人間は実はわたしと同じ特性を持っている、いわば仲間」
「特性?」
「わたしと同じタイミングで瞬きをしている人間だ。世界中を捜してもそうそうたくさんいるものではない」
「そんなに珍しいことですか」
「わたしは世界中の人が瞬きをしながらほんの一瞬目を閉じるときに、プレゼントを配っているのだよ」
「そんなことができるのですか」
「一所懸命やっていればね。一生懸命やってはいるが、なかなか配り終わらない。実に骨の折れる仕事だ」
「・・・・・・僕でよければお手伝いしましょうか」
思いもよらぬ言葉が勝手に口をついて出た。
「なんと助かるよ、ありがとう」
サンタクロースと握手をした。
こんなふうにして、サンタクロースの弟子になった。
あちらの街、こちらの街、そりに乗って街の家々を回を終えたら、その残像が街に金色のリボンをかけたように見えるのだとか。


駅について見なれた街を見上げたら、街に金色のリボンがかけられたような気がした。
今のは霧?目の錯覚?
自分が疲れているから?
街にリボンがかけられるなんて。

男はごしごしと目をこすった。
澄んだ冷たい空気。
雪が空に舞い始めた。
金色のリボンは夜空に溶けて消えてしまった。
うまく大人になれなかったけれど、少しずつ、少しでもいい方法がないかと探してみよう。
そんなふうに思えた。
今日はクリスマスイブ。
きっとこれからいいことがあるはずだ。
理由もないのに何やら幸せな気持ちになった男は、雪の舞う夜の家路へと歩き出した。



END




お読みいただきありがとうございました。次回はもう少し長めのお話に挑戦してみたいです。

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