『アーシャ、お前は今幸せかのう?』
『……しあわせ? なに?』
『何ときたか……。ここに自分が生きているという事を、どう思うね?』
『……よくわかんない』
『ううむ……では、何か好きなものはあるかね? 大切なものは?』
『んと……じいちゃん。じいちゃんがすき。あと、もりもすき。どっちも、たいせ、つ?』
『そうか……』
『おっきくなったら、じいちゃんみたいにこのもりをまもるんだ。じいちゃんといっしょに』
『そうかそうか。うん、そりゃ楽しみじゃ。では、もうそろそろお休み。寝る子は育つと言うからのう……』
朝の光の中で鳴きかわす鳥の声がする。どの声も冬らしくごく控えめだ。
顔を照らす朝日が眩しくてアーシャはごろりと寝返りを打ち、毛布の中にもそもそと隠れた。
体温で温まった毛布がとても心地いい。
冬の空気の中で毛布にくるまって眠るのは至福の時間だと感じられて深く息を吐いた。
夢うつつの中で、こんな風に寝坊するのは随分久しぶりだとぼんやり思った。
最近ずっと忙しかったから睡眠時間が随分少ない日が続いていた。
こうして寝坊していると毛布のぬくもりがその疲れをゆっくりと癒してくれる気がする。
そう、最近ずっと忙しかったから……そこまで考えてアーシャはパチリと目を開いた。
「……あれ? 忙し……かった?」
自分の思考が行き着いた言葉に疑問を覚えて、アーシャは天井に向かって呟いた。
ゆっくりと半身を起こして辺りを見回して首を傾げる。
壁や天井が白く塗られた簡素で清潔そうな部屋は、どう見てもアーシャの家の寝室ではなかった。
白が基調のこの部屋を、つい最近見た記憶が少女にはあった。
「医務棟の……個室、かな?」
医務棟に入っていたライラスの様子を見に来た時に、ここと同じような部屋を見た気がした。
「でも何でだろ……昨日はあれからどうしたんだっけ……?」
自分の体を見下ろせば患者用の寝巻きを着ているのが目に入る。
少し不安になって体を捻ってあちこち見回したがどこにも異変はなかった。
アーシャは自分が何故こんな格好でここにいるのかわからず、昨日あった出来事を指折り数えながら思い返した。
「午前中は準決勝で、色々あって……午後に決勝したよね。で、足を怪我したけど後は……あっ」
昨日自分が何をどうしたのかを思い出してアーシャは思わず眉をしかめた。それから慌てて辺りを見回した。
ベッドの脇の机の上に衣服が入った籠が置いてある。これを着てそっと逃げるべきかと一瞬本気で考える。
「……絶対怒られる、よね」
ベッドから降りて裸足のままぺたぺたと窓際に寄ってカーテンを開いた。
「う……」
下を見下ろすと、残念ながらそこは三階だった。
カタン、と窓を開いて下を見下ろすと冷たい風が入り込んで思わず首をすくめた。
窓枠や樋を伝って降りられない事はなさそうだが、窓の外の木々はすっかり葉を落としている季節だ。きっと降りている途中で誰かに見つかるだろう。
ぐっと身を乗り出して下を見ると、窓の下は小さな道が一本あるだけで芝生の広場になっている。障害物は無さそうだった。
「これなら魔法使って飛び降りれば……」
「どこから飛び降りるんだ?」
後ろから響いた声に、窓から下を覗き込んだままのアーシャはカチリと凍りついた。
「ノックしても返事がないからまだ寝ているのかと思えば……飛び降りてどうするんだ全く」
逃亡する事ばかり考えてノックにも後ろに来たディーンの存在にも全く気付かなかった。最近自分は少し油断しすぎなのだろうかとアーシャは胸の奥で反省した。
それだけ彼らの近くにいることが当たり前になりつつあるということかもしれない。
アーシャが固まったままそんな思考に沈んでいると後ろからぐい、と引っ張られた。
「ひゃ」
「冷えるだろう」
ディーンはアーシャの首根っこを引っ張って部屋の中に引き戻すと窓をパタンと閉めた。
「具合は?」
「だ、大丈夫……元気」
そうか、とディーンは頷いてアーシャを半ば引きずるようにしてベッドに戻した。
「裸足で歩くな。冷える」
「うん……あ、あの、ディーン……試合、は?」
ベッドに腰掛け、試合はどうなったのかとおずおずと尋ねるアーシャにディーンはため息を一つ吐いてから頷いた。
「君とジェイが勝った。カトゥラとコーネリアのリボンは切れていたから」
「そっか……良かったぁ」
だが、ほっと安堵の息を吐いた少女をディーンはきつく睨みつけた。
「良くない」
「うっ」
言われると思っていた事を言われてアーシャは思わず首をすくめる。
「勝った方がひどい傷を負って医務棟に運び込まれるなど前代未聞だ。しかも、ライラスに聞いたところでは君はああなると判っていたはずだと聞いた」
「ちょ、ちょっと冷たい思いするっていうだけの予定だったんだよ」
「ほう」
ひどく冷たい声音で静かに言われてアーシャは思わず白旗を揚げたい気持ちに駆られた。
「う……嘘……ごめん。どうなるかわかってたけど、でも、救護班もいるし、あれしか手がないと思ったから……」
しょんぼりとうなだれた少女に、ディーンはもう一度ため息を吐くと首を横に振った。
「君を助けたのは救護班じゃない。シャルと、カトゥラとコーネリアだ。後で礼を言っておくといい。そろそろ彼女らの試合も終わる頃だろうし」
「え、カトゥラとコーネリア? え、え? シャルの試合ってもう終わるの?」
アーシャは慌てて窓の外をもう一度振り返った。
弱い日差しを朝日だと思ったのだが、ではあれは夕日だったのか。
アーシャの疑問にディーンは頷いた。
「君は二日も寝ていたんだ。医者によれば積み重なった寝不足と疲労によるものだろうと言う事だったが……私の魔法が失敗したのかと心配した」
「二日……じゃあシャルの試合は……」
「今日一つ目の個人部門がもうそろそろ終わる頃だな」
そんなぁ、とアーシャは悲壮な声を上げた。
楽しみにしていたシャルの試合を見損ねてしまった事にがっくりと肩を落とす。
それを見てディーンは苦笑を浮かべた。
「まだ他の試合がある。そうがっかりしなくてもいい」
「うん……」
「それよりも、そろそろ来るから言い訳を考えた方が良い」
「え?」
その言葉が終わるか終わらないかの間に、バタバタと激しく廊下を走る音と、それを咎める女性の声、慌てて謝っているらしい少年の声が廊下から響いた。
「アーシャ!!」
ゴン、バン! と不可思議な音を立てて扉が突然開いた。
アーシャは驚いて顔を上げる間もなく、飛び込んできた何かにぎゅう、と絡みつかれて締め上げられた。
「ふぎゃ!?」
「もう! アーシャの馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿!」
音高く扉を叩き開け(ノックもしたつもりだったらしい)、部屋の中に飛び込んでアーシャを捕まえ抱きしめたのはもちろんシャルだった。
シャルは小柄な少女の体をぎゅうぎゅうと締め上げる勢いで抱きつき、しきりに馬鹿! と言い放つ。
アーシャは手荒い抱擁に目を白黒させてじたばたと手を振った。
「シャル、その辺にしてやれよ。アーシャが窒息するぞ」
後ろから聞こえた声にシャルはハッとし、力を緩めて身を起こした。
アーシャは既にぐったりとしている。
シャルは慌ててアーシャをがくがくと揺すった。
「アーシャ! しっかりして!」
「逆効果だろそれ……」
「トドメを刺してどうする」
数分後、息を吹き返したアーシャは三人の視線を浴びながら、ベッドの上にちょこんと座って小さくなっていた。
ベッドの脇に立った三人が浮かべた厳しい表情に、アーシャはとりあえず言うべきであろう言葉を呟いた。
「ご……ごめん?」
「ごめんじゃないの! もう!」
シャルは腕を組んだまま深いため息を吐いた。そのため息の深さにアーシャが思わず身を竦める。
「アーシャは、何で私が怒ってるかわかってるの!?」
「え、えと……危険な事したから、かな」
「それだけじゃないわ」
「え、じゃあ……えーと、シャルと組まなかったから? 勝手に申し込んだから、とか?」
「それもあるわね」
「まだあるの……? んと、じゃあ賭けの事かな」
「賭け?」
しまった、とアーシャは思わず口を押さえた。シャルはその話をまだ知らなかったらしい。
シャルがじろりとジェイを睨むと、ジェイは両手を挙げて降参の意思を示した。
「俺も良く知らないんだって。カトゥラが言ってただけだから……なんか、アーシャが負けたら俺達の班から抜けるって賭けをしたっていう話でさ」
「ついでに言うと負けたらもう我々に近づかないというのもあったらしいぞ」
アーシャは慌てて二人を遮ろうとしたが座ったままでは背の高い二人の口には手が届かない。仕方なく小さく身を縮めて次に落ちるであろう雷に備えた。
「アーシャ!」
「うっ」
「そういう大事な事をどうして言わないの! 苛められてた事も魔技科で揉めた事も言わないし、勝手に出場決めてそんな賭けをしちゃうし、自分の身を顧みず危険な魔具を使って、おまけに人を庇って自分は放っておいて怪我するなんて! そういうの全部、私は怒ってるの!」
シャルは一息で怒鳴るとぜぇぜぇと荒い息を吐いた。
ディーンもジェイも彼女の激情を止めようとはしなかった。
二人とも黙っているが同じ気持ちだったからだ。
アーシャはしょんぼりとうなだれて沈黙する。何から謝ればいいのかわからなかった。
黙ったままの少女に、シャルは寂しそうな声で言い募る。
「私は……私達は、アーシャのこと大事な仲間で、友達だって思ってる。
アーシャは、そうじゃないの? まだ私達のこと……信用できない?」
その言葉にアーシャは弾かれたように顔を上げた。
「違う! そんな事ない!」
ぶるぶると激しく首を横に振ってそうじゃない、と訴えた。
自分を真っ直ぐに見る三人の目がアーシャには痛い。
その視線を己もまた真っ直ぐに見返し、アーシャは懸命に伝えるべき言葉を探した。
「違う……私、いじめられてたとか、そういうのは気付かなかっただけだし、揉め事だってどうだって良かった。
言うほどの事じゃなかっただけ。勝手に一人で色々決めたのは……試したかったの」
「何を?」
アーシャは静かに問いかけたディーンを仰ぎ見た。
答えるかどうか迷うその目を静かな瞳が見つめ返した。
「……私に、大事なものができたのかどうか……戦ってでも守りたいって思えるものがあったとしたら、その為に一人でどこまでできるのか、試したかったの……」
でも、とアーシャは視線を外し俯いて呟いた。
「一人じゃなかったけどね……ライラスを誘ったのは、ほんとはただの成り行きだったけど……結局、わかったのは、一人じゃだめだって事だった」
そう言ってアーシャは俯いたまま少し笑った。
「ライラスにいっぱい手伝ってもらって、シャルとディーンは色んな情報集めてくれて、ジェイに一緒に出てもらって。
試合の時も……皆が見ててくれたから、戦えた。
怪我をしても、誰かが助けてくれるって思ったからきっと無茶もできた。結局わかったのは、一人じゃだめだってことだけ」
精霊にも結局、助けてもらっちゃったしね、とアーシャは肩を落として呟いた。
「……助けられたのは、迷惑だったか?」
アーシャはその言葉にパッと顔を上げて慌てて首を横に振った。
「違うよ、そうじゃない。そうじゃなくて……やっぱり、私は弱いって思って、ちょっと悔しいだけ。でも、嬉しいの」
「ああ、なんかわかる気がするなぁ。一人で出来ないことは悔しいけど、一人じゃない事は嬉しいんだろ? 助けてくれる奴がいるってのは、やっぱり嬉しいもんな」
ジェイの言葉にアーシャは深く頷いた。
「うん、そう……嬉しかった」
アーシャはそう言って自分を覗き込む三人の顔を順番に大切そうに見つめた。
「私……大切なものが出来てた。その為に戦った。それを確かめたから、だから、それは謝らない。
でも……黙ってた事は、色々ごめんね。それと……助けてくれて、ありがとう」
少女の言葉を黙って聞いていたシャルは、すっと無言で手を伸ばした。
アーシャは目の前に差し出された手に一瞬戸惑い、それからそっとその手を握った。
ぎゅ、と固く交わした握手の上にジェイの手が伸び、そして更にディーンの手が重なった。
「アーシャ、お疲れ様。でも、次はちゃんと何でも言ってね?」
「お疲れ様。面白かったから、またやろうな!」
「お疲れ様。次は面白そうだから私も参加させてもらいたい」
「……うん……ありがとう」
アーシャはもう片方の手を伸ばしてディーンの手の上に重ねた。
嬉しいような泣きたいようなおかしな気持ちをその手に込め、ぎゅっと握った。
アーシャは胸を張って顔を上げた。
他の誰でもなく、自分自身に胸を張り、少女は小さく微笑んだ。
「ごめん」
訪ねてきたライラスに会って、最初にアーシャが言った言葉はそれだった。
検査を済ませないと退院させないと言い張る医者に引き止められ、アーシャはもう一晩をここで過ごす事になり退屈していた。
そこにライラスが訪ねてきたのだ。
アーシャの言葉を恐らく予想してたのだろうライラスも苦笑しながらため息を吐いた。
「こっちこそ、ごめんな。やっぱり調整しきれてなかったな」
「ううん、かなり抑えられてたよ。結局無茶な使い方したのは私だし。だから私のせい」
氷結の魔具を使う際の注意をライラスは何度も繰り返していたのだ。それを承知で使ったのはアーシャだ。
「リスクを承知で使ったんだから、自業自得。ライラスこそ、心配させてごめん」
「いや……もういいよ。次はどんな石の力もちゃんと制御できるもんが作れるように、俺も頑張るさ」
「次?」
アーシャが首を傾げるとライラスは笑って頷いた。
「まだ知らないんだな。なんかな、今回のお前らの試合がかなりの反響でさ。魔技科の生徒がかなり参加したいって言ってるらしいんだ。
次の魔法競技会から、そういう部門が新設されたり、授業の内容も少し変化するかもっていう話が出てるんだ」
「へぇ……じゃあ、ちょっとは役に立ったのかな」
「ちょっとなんてもんじゃないさ。魔技科はどの学年でも、もうずっと試合の話で持ちきりなんだぜ? なんか、皆嘘みたいに活き活きしてるよ」
そう、とだけ言うとアーシャは口を噤んだ。
あまり嬉しそうではないその様子にライラスは首を傾げた。
「どうした? 嫌なのか?」
ライラスの問いにアーシャは小さく唸った。
「嫌っていうか……心配。自分で魔具で戦ってみて、力のある道具は諸刃の剣だって、本当にそう思ったから。
魔具に限らず、魔法でも剣でも、力って言うのはきっとそうなんだって。
使っておいてこんな事言えた義理じゃないけど、自分が考えた魔具が……身を守るのを越えた争いに使われるの、本当は嫌だな」
「そっか……それは確かになぁ」
「まだそうなると決まった訳ではあるまい?」
不意に聞こえた第三者の声に二人は驚いて振り返った。
なんと、半分空いたままだった病室のドアから学園長がひょっこりと顔を出して手を振っていた。
「学園長!」
「なっ、なんでここに……!」
「驚かせてすまんのう。ドアが開いていたものじゃから、聞こえてしまったんじゃよ。入っても?」
「どうぞ……」
学園長は紫がかった黒のローブと、真っ白な長い髭を重たげに揺らしながら部屋の中に入ってきた。
アーシャの座るベッドの脇に立ち、懐から何かを取り出した。
「学年優勝おめでとう。これを返しておこうと思っての」
それは彼が預かっていたアーシャの扇だった。アーシャは少し困った顔でそれを受け取った。
「いらないのかね?」
「そうじゃないけど……いえ、ありがとう」
「後悔しておるのかね?」
学園長の言葉にアーシャは一瞬迷って、それから頷いた。
「私……全然何にも解ってなかった。戦うって言う事がどういうことかとか、自分が作る道具の意味とか。
解ってるつもりになってただけだった。こんなひどい物を作って……おまけに最後は結局、精霊に頼っちゃったし」
「それも、君の持つ力じゃろう? そうじゃないなどと言ったら精霊達が悲しむ」
アーシャはその言葉にこくりと頷いた。けれどその顔は一向に晴れない。
少女は首を横に振り、手にした扇をじっと見つめた。
「……魔具で戦うって偉そうに言ったけど、本当は皆に沢山助けてもらって、全然目標を達成したって言えない気がして……魔技科の人達になんか、悪いみたいだし」
「そんな事ないって! 俺は、少なくともお前に沢山教えられたよ。
もちろん、自分達の作る物が危険をもたらすかもしれないって事も含めてさ。
そういうの全部ひっくるめても、俺は、魔技師を目指してる事が誇らしかった」
「ライラス……」
「彼の言う通りじゃと、わしも思うよ。君達があの二日間でしたのはただの試合ではない。縮こまった心に灯りをもたらしたのじゃよ。それは、誇って良い事じゃ」
学園長は扇を握ったままのアーシャの手に、自分の皺だらけの手を優しく重ねた。
「かつてのう、戦争に魔法技巧術を使おうとした時代が歴史の中には確かにあったのじゃよ。けれど、結局は武具の強化や補助用の護符以上の発展を遂げなかった」
「……何故?」
「何故じゃろうのう? 正確なところはもう今は解らぬ。
ただ、恐らくは、人の劣等感が足を引っ張ったのではないかとわしは思うておる」
「劣等感? それって、一体どういう事なんですか?」
首を傾げたライラスに学園長は頷いた。
「人はいつの時代も、長命種からもたらされた魔法という力を尊んできた。
それらをより発展させ、洗練させ、いずれは長命種をも超えるのだと人々は躍起になってきた。
それはもはや目標というよりも、劣等感に裏打ちされた卑屈な執念のように。
だからこそその代わりに、人の作った道具と魔法を組み合わせた魔法技巧術を蔑んだのかもしれぬ」
「……変なの」
アーシャの感想に学園長は小さく吹き出し、面白そうにくすくすと笑った。
「確かに、全くおかしな話じゃよ。じゃが、その心は今もって人々を縛り付けておるのも事実じゃ」
ライラスは思わず目を伏せた。
卑屈になっていたのは彼自身に他ならない。学園長は俯いたライラスの頭に手を伸ばし、優しく撫でた。
ライラスは少し恥ずかしそうな顔をしたが、黙ってそれを受け入れていた。
「人は、そろそろ長命種への劣等感を捨て去っても良い時代を迎えておる。人にしかできない事を、もっと尊んで良い時代に。
君らが、己が投げた石の立てる波を恐れる気持ちは良くわかる。
けれど、ここから先の舵取りは、しばらくは我ら大人達の仕事じゃ。君達がいつか大人になり、その役目を交代する時まで、な」
アーシャとライラスは真っ直ぐな目を学園長に向けた。
彼らの真っ直ぐな目とは違う、底知れぬ深さを感じさせる優しい青灰色の瞳がそれを迎える。
「だから、君らは思うように生きなさい。恐れずに、真っ直ぐに。自分の作った物を愛する気持ちを持って。
先頭を歩くというのは、いつだって恐ろしい。
けれど、その君らの後を、多くの人が歩くじゃろう」
厳かにそう告げると、学園長は途端にパチリと悪戯っぽく片目を閉じた。
「わしが現役のうちは、魔具で争いなど起こさせぬよ」
すっかり日の落ちた病室に明るい笑い声が響く。
アーシャもライラスも、その胸に明るい灯火が宿ったような気がしていた。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。