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迷い子は夜明けの歌を歌う
作:旭



23:二人の初戦


 魔法学部の北側には大小合わせて三つの楕円形の建物が設置されている。
 その一つの第三魔法競技場の客席は今日は多くの生徒や教授達で埋め尽くされていた。
 階段状に外側に行くほど高くなっている客席からは広い試合場を見下ろす事が出来、誰もがそこで行われている試合を夢中で観戦していた。
 観客達が熱心な視線を送る試合場もまた楕円形の形をしている。
 その地面は土がむき出しで、周囲をぐるりと細い堀が囲みそこには水が流れている。四隅には大きなかがり火が焚かれ、天井は無いので青い空が良く見えた。
 冬の入り口のこの季節、吹き抜けの競技場は寒くて長時間いられたものではない。
 けれどこの時ばかりは会場は熱気に包まれ、誰もが寒さを忘れていた。

 試合場には今、二組のチームが向かい合っていた。
 彼らはそれぞれ青と赤に色分けされた細いリボンを手首につけ、十分な距離を取って睨み合っている。
 やがて青チームの少年が先に動いた。

「炎よ踊れ! 赤き鳥舞い上がれ その翼で我が敵を焼き尽くせ!」

 唱えた呪文に反応するかのように、彼の立つ側にあった篝火がゴッと勢いを増した。
 高く燃え上がった炎から、その一部が分離する。
 大小六羽ほどの鳥のような形の火の塊は、チラチラと燃え上がりながら少年の指し示す方へ飛び立った。

「清らかなる流水よ! 我が前に来たりて川となれ! その清き水にて壁を成せ!」

 ザバァッ!

 大きな水音と共に堀を流れていた水が大きく盛り上がった。
 ザザザ、と音を立てて水は呪文を唱えた少女の下へと殺到する。
 そして彼女とその傍らに立つ少年を守るように二人の周りで渦を巻きながら壁のように立ち上がった。
 水で出来た壁に炎で出来た鳥が音を立てて次々にぶつかる。
 ジュワァ、と激しい音と共に大量の蒸気が立ち上る。
 水の壁を破る事が出来ず、炎の鳥達は次々に消えていく。
 形勢を見ていた青チームのもう一人の少女が杖を掲げて小さく何か呟いた。
 少女の周りに風が起こり、その風はまだ上空に残っていた炎の鳥へと向かう。
 炎を吹き消すのかと思われた風はそれをそっと取り巻き、弱弱しかった炎を再び激しく燃え上がらせた。
 青チームの二人はお互いを見て頷き合った。
 激しさを増した炎と、それを後追いする風が一斉に水の壁に襲い掛かる。
 形勢はまだわからないようだった。
 ワァァ、と高い歓声が上がった。






 試合場へと続く細い通路の中から、アーシャとジェイはその様子をそっと見ていた。

「へぇ、ペアってあんな感じなのか」
「ふぅん、予想はしてたけど、結構面白いね」

 シャルの試合しか見たことが無かったジェイと、一昨年は観戦せず家で寝ていた少女は自分達の前の試合を見て楽しそうに感想を述べた。
 その後ろでそんな二人を見ていたシャルとディーンは思わず頭を抱える。

「大丈夫なの、二人とも……」
「……頭が痛い」

 本当は競技参加者は同部門の他者の試合を見ることは禁止されている。
 だが怪我をしたライラスの代わりにジェイが出る事について許可を取りに行った時に、一緒に行ったシャルとディーンが一試合だけでも観戦できるよう交渉してくれたのだ。
 個人部門は純粋に両者の魔法を交互に掛け合って防御して、といった力比べのようになる事が多いがペアとなるとその戦い方が少し異なる。
 攻撃にも防御にも様々に連携が必要になるからだ。
 それなのに一度もペアの試合を見たことが無い二人がそのまま参加するのは危険だと、シャルもディーンも力説して運営にごり押してくれた。
 運営も最初は渋ったが、二人が魔具で戦うという前代未聞の戦い方だという事もあり、一試合だけ、という事で許可が下りた。
 ちなみにジェイが代理で出ることも運営は相当渋ったが、彼が生徒に拳を振るわないと誓った事と、最後には学園長が「面白いから良し」と言ってくれた事で許可が下りた。

「もう……頼むわよ、二人とも」
「うん、がんばる」
「お前ら心配しすぎだって」
「お前が楽天的過ぎるんだ」

 ワァァ、とまた高く歓声が上がった。
 試合がそろそろ決まりそうらしい。
 シャルとディーンは後ろ髪を引かれながらも観客席に移動する事にした。

「じゃあ、そろそろ行くけど……ほんとに、無理しないでね!」
「気をつけて」

 アーシャはそれに笑顔で答えた。

「うん、見ててね二人とも」
「まかせとけって!」

 手を振る二人に見送られ、シャルとディーンは何度も振り返りながら観客席への通路へと去っていった。
 アーシャとジェイは顔を見合わせる。

「いよいよだな」
「うん。がんばろうね」
「最初の対戦相手は誰だっけ?」

 ジェイの言葉にアーシャはポケットから小さな手帳を出した。

「えーとね、最初はクラーク・バーニス組だって。クラークは攻撃、バーニスは防御や補助が得意で、二人とも資格は四から五級持ち。どちらも精霊は使わず。まぁ、普通な感じかな」

 ペア部門の参加者は個人の資格としては高い物を持たない事が多い。
 それを補い合う為にペアを組むのだから当然と言えば当然だ。

「了解。じゃあ、早めに決めような」
「うん」

 頷きあった瞬間、会場からの声が一際高く上がった。
 どうやら勝負が決まったらしい。
 どちらが勝ったのか二人には興味がなかった。
 ジェイは自分の体を見下ろし、いつもより仰々しいその姿を確かめて少し笑った。
 動きやすい服装のジェイに合わせてアーシャとライラスは、様々なアクセサリーの形の護符を大量に用意してくれた。
 首や腕、足を幾つものペンダントや輪が飾っている。
 その他に更に小さな符が沢山付いたベルトなどを巻いている。
 傍から見たらなんだか怪しく見えるに違いない。
 篭手もいつもと違う物を着けていた。

(聞こえる?)

 不意にジェイの頭の中に小さな声が響いた。

(ちょっと小さいかな?)
(わかった)

 今度の返事はさっきよりもはっきりと聞こえた。
 アーシャはジェイが頷いたのを確認すると、手に握っていた聖霊石から手を離した。
 それはいつものように腰ではなく、手首に着けた腕輪にぶら下がっている。
 アーシャはこの試合にジェイが出ることを決めた時、この石を使うことを決意したのだ。
 口に出さずに指示を出し合う事が出来ればそれは相当の強みになる。
 それによる弊害があることも予想できたが、アーシャはそれと向き合う覚悟だった。

 お互いの装備を確認し、静かになった通路の先に目を向ければ前の試合の後始末が丁度済んだ所らしい。
 次の試合を始めるという案内が聞こえる。

『赤、グラウル・イージェイ組!』

 二人の名を呼ぶ声が響いた。

「行こ」
「おう」

 眩しい光と歓声が誘う通路の先へ、二人は並んで歩き出した。






 ヒュゥ、と冷たい風がアーシャの頬を撫でた。
 冬の入り口の弱い日差しが、それでも眩しく目に刺さって思わず片手で顔を隠す。
 ワァァァァ、とまた高くなった歓声が耳障りだった。
 そのまま真っ直ぐに歩いて、真ん中よりも大分手前で二人は立ち止まった。
 やっと眼が慣れてきたアーシャは手を下ろし、周りを見回した。
 沢山の人達が自分達を見下ろし、声を上げている。
 どれも同じ顔に見えて、気持ち悪くて少しだけ眉を寄せた。

「アーシャ!」

 わんわんと耳に響く雑音の中にいるのに、耳はその声をちゃんと拾い上げた。
 ハッと顔を上げると前列に近い席でシャルが懸命に手を振っていた。
 ディーンは腕を組み、二人の方をじっと見つめている。
 ジェイも二人に気付いたのだろう。軽く手を振り返してすぐ隣に居るアーシャの頭を軽く撫でた。

(……大丈夫)

 アーシャは胸の奥で小さく呟いた。
 誰かが自分を見ているという事は、こんなにも心を強くする。
 少女は一つ頷くと、反対側から出てきた対戦相手の方を強い視線で見つめた。





「あいつだろ、噂の魔技科のってさ」
「ほんとに出てきたんだね。嘘だと思ってたよ。しかも武術学部生と一緒だなんてさ」

 対戦相手は少年二人の組だった。
 魔法学部の二人は黒いローブに身を包み、杖をぶらぶらと揺らしながら面白そうにアーシャとジェイを眺め回した。

「イージェイが魔法使えるなんて話聞かないよな?」
「殴ったら失格だから、なんか考えてるんだろうけど……せいぜい符とかじゃねぇの? 楽勝だろ」

 クラークもバーニスも自分達の有利を確信して笑顔を浮かべていた。
 挨拶を、という審判の声に従って二組は中央に向かって簡単に頭を下げる。
 審判はそれを見て頷くと二組に向かって声を張り上げた。

「試合時間は三十分、物理攻撃は禁止。それ以外は制限なし!
 一チームの二人共が戦闘不能の場合、どちらかが降参した場合、その腕のリボンが二人共千切れた場合を負けとする!」

 二組はそれぞれ青と赤の細いリボンを手首に巻いている。
 小さな石が一つ通されているそれは簡単ではあるが魔具の一種だ。
 これはある一定の限度を越えた強さの攻撃を生身で受けた場合、そのダメージを一度だけ肩代わりしてくれるのだ。
 その一度の役割を果たすとリボンが千切れるようになっている。
 試合とはいえ強力な魔法を直接その身に受ければ当然ひどい怪我や死の危険も出てくる。
 この石はそれを防ぎ、同時に明確な勝敗の基準となる。
 だが、決められた限度以下のダメージは無効化してくれない為、弱い魔法でも回数を重ねて受けて負傷したり、眠りの魔法を防げなかったりすれば当然戦闘不能になる事もある。
 倒れなくても痛みの為に集中力が続かなくなれば魔法は成功しなくなるから、そういった場合は降参を宣言する者も多かった。

 審判がそれらを説明している間にジェイはアーシャに問いかけた。

「なぁ、アーシャ、あの篝火とか堀ってのは何の為にあるんだ?」
「んーと、低学年であんまり魔法が上手く使えないうちはあれを補助に使うんだよ。
 全く何もないところに火や水を呼び出したりするよりも、既にあるものを動かす方が楽だから。
 だから魔法の競技場には大抵光と闇以外の四属性を示すものが用意されてるんだって。ここだって、土はむき出しだし、空が見えて風が吹いてるでしょ」
「あー、なるほど。そうすると光と闇以外はあれを使う奴が多いってことか」
「うん。でもそれを使うと逆に攻撃を読まれがちになるから良し悪しなの。あんまり威力の強いのは使えないしね」

 オホン、と咳払いの声が聞こえ、審判が余所見をして話し込んでいた二人の注意を引いた。
 どうやら前置きが終わったらしい。

 正々堂々と戦うようになどと色々言っていたが、二人はほとんど聞いていなかった。
 審判はもう一度咳払いすると両者に配置につくようにと促した。
 中央より少し下がったところで二組は向かい合う。
 青チームの少年二人は面白そうな顔でニヤニヤしていた。
 こちらを馬鹿にしているのが一目でわかるような顔つきだ。

「……腹立つ顔だから速攻で行こうぜ」
「うん」

『始め!』

 開始の合図と共に、青チームのクラークが杖を持った手を上げた。アーシャはそれに目を凝らした。
 その隣ではバーニスも魔力を高め魔法の準備をしているのが見える。
 アーシャはその二人の魔力の色から、彼らが行おうとしている行動を予測し、ジェイに伝えた。
 それが見える事もアーシャの大きな強みだ。

(右のは風属性攻撃、その後左が水の結界を展開予定。初弾は防御するね)

 了解、とジェイから返事が来たと同時にクラークの詠唱が響き渡った。

「風よ唸れ! その鋭き牙にて 敵を切り裂き噛み砕け!」

 高い音を立てて不可視の刃が解き放たれた。風は真っ直ぐにアーシャとジェイの方に向かう。
 風の刃はその速度と目には見えないところが強みだ。
 だがアーシャは少しも慌てず、クラークの呪文の詠唱が終わる前に、ポケットから取り出した魔法陣が描かれた茶色の札を手に持って魔力を込めた。
 そして相手の詠唱が終わると同時にそれを、パン、と前方の地面に叩き付けた。
 ゴゴンッと重い音を立てて二人の目の前の地面が瞬時に高く盛り上がる。

「なっ!?」

 バン、と破裂するような音を立てて風の刃は土壁にぶつかった。
 その表面に幾筋もの傷跡を残して風はあっさりと消え去る。
 土の壁は揺るぎもせずその場に立っていた。

「チッ、魔具かよ!」

 クラークは小さく舌打ちをした。
 手の内がわからないもの同士の戦闘だから完璧な防御はできないだろうと思っていたのに、今のは完全に防がれてしまった。
 魔法科の者同士ならある程度相手の得意な魔法などの情報も入るので、手の内の予想がつき、対抗できる魔法を展開しやすい。
 けれど今回は相手が魔技科と拳闘科ということで全く予測がつかず、クラークはとりあえずの様子見のつもりで今の魔法を使った。
 だが手の内の予測がつかないのは向こうも同じ事で、そういう場合は相手が魔法を詠唱し始めると同時に自分が一番得意な結界を張るのが授業でも習う常套手段だ。
 相手の魔法発動の速度などもわからないのでその詠唱を聞いてから用意しても遅いかもしれないからだ。

 だから、様子見の魔法でも運が良ければ多少のダメージが与えられるし、相手の得意な結界の種類も判るとクラークは楽観的に考えていたのだ。
 しかし魔具を用意しているならその予想は当てはまらない。こちらの詠唱を聞いてから対抗する事は比較的容易なはずだからだ。
 大きな声で魔法を詠唱するのは魔力を高める意味で有効な事なのだが、相手に攻撃を読まれてしまうという欠点もある。

「魔技科にしちゃやるじゃねーか!」

 クラークは壁を崩そうと立て続けに風の刃を放った。
 だがそれらもアーシャがそれに合わせて投げる札の前にあっさりと阻まれてしまう。

「だめだな、補助するぞ!」
 
 それを見ていたバーニスは風の威力を増す為の補助魔法をかけようと杖を持ち上げた。
 だがその時、効力が切れぼこぼこと崩れる土壁の向こうにアーシャの姿が見えた。
 アーシャは、その手に札ではない魔具を握って構えていた。複雑な模様が描かれた細い筒状の物だ。
 クラークはそれに気付き手を上げてバーニスを制した。

「攻撃か!? バーニス、くるぞ!」
「オッケー!」

 バーニスは杖を強く握ると補助を止め、防御の為に高らかに呪文を唱えた。

「清らかなる水よ! その清き御手を広げ 我が前にて壁を成せ!」

 ザバァ、と音を立てて堀から水が持ち上がり、彼らの周りに渦を巻いて流れてくる。
 立ち上がった水は膜を作り、半球を描いてすっぽりと少年二人を包み込んだ。
 それを見たアーシャはにこりと笑顔を浮かべた。

「えい」

 ポン、と音を立ててアーシャの手の中の筒のふたが外された。
 アーシャはそれをぽいと前に向かって投げ、筒はコロコロと試合場の中央付近に転がった。
 開いたままの筒の口から奇妙な白い光がちらちらと漏れる。
 そして次の瞬間―

 ボシュウゥゥゥッ

「えっ!?」

 おかしな音を立てて筒から激しい煙が噴出した。
 煙は見る見る量を増やして辺りに立ち上り、試合場に広がっていく。
 奇妙な煙は試合場に吹く風にも飛ばず、その中心にわだかまりあっという間に辺りを煙で包んだ。

(ジェイ)

 声に出さない声がジェイの脳裏に響く。
 ジェイは姿が見えないアーシャに一つ頷くとそっと足を踏み出した。

「くっそ、なんだよこれ! 魔法の不発か!?」
「これじゃ前が見えないぞ!」

 水の結界に守られた二人は視界を奪われ困惑していた。
 少女の攻撃が不発に終わったならこちらも攻撃に転じたいのに、これでは相手の姿すら確認できない。
 いつの間にか周り全てが煙に覆われ、高い所にある観客席すら確認する事は不可能になりつつある。
 あの小さな筒に入っていたとは思えない程の煙の量だった。

「バーニス、結界を解け! 俺が風で吹き飛ばす!」
「わかった!」

 対魔法結界の欠点は、その中に居る間は中からも魔法攻撃が出来ない事だ。
 その制限のない魔法もあるにはあるが相当高度なものになってしまう。三年で使うのは到底無理なレベルだ。
 だから魔法攻撃をするには一度結界を解くしかないのだが、それでも強い風魔法を使えばもし敵が攻撃してきてもそれをある程度相殺する事も可能だろうとクラークは判断した。

「水よ、散じよ!」

 その言葉に従い水は力を失って周囲へと弾けた。
 それを受けてクラークがすぐに詠唱に入る。

「よし! 自由なる風よ、その――」

 周囲を包む煙を吹き飛ばそうと呪文を唱えたクラークは、それを最後まで果たす事は出来なかった。
 結界に入るために近い距離に立っていた二人の首にスッと何かが触れた、と思った瞬間―

「二!」

 バチン!

 激しい衝撃と痛みに二人の意識は一瞬で闇に飲まれた。
 自分達に何が起こったのかを考える暇もなく。




 試合場を取り巻く観客席はざわめいていた。
 試合場が突然の煙に包まれたっきり何も見えなくなったのだ。
 観客席は結界で保護されているため煙は観客の所までは来ないが、中で何が起こっているのかは全くわからない。
 審判用の退避所に居た審判も困惑し、試合場に入ってみるべきかと考えていた。
 するとその時、一陣の風が審判の髪を揺らした。
 ざわ、と周囲の声が大きくなる。
 観客らが見守る前で、試合場を包んでいた煙がゆるりと動く。
試合場の中央から起こった風が、辺りを埋め尽くしていた煙をゆっくりと吹き散らしているのだ。
 だが良く見ればそれは吹き散らしているというよりも、風が煙を集めていると言った方が正しいような動きだった。
 やがて煙は徐々に薄くなり、ぼんやりと試合場が見えてきた。
 それが目に入った時、観客席からはどよめきが起こった。
 試合場の中央には先ほどまでと変わらない様子の一組の少年少女が立ち、その前方には地面に倒れ付したまま動かない少年二人の姿が見えたのだ。

 少女は自分の投げた筒を手に持って上に向けている。煙はその筒の中にしゅるしゅると吸い込まれていた。
 少年はそれを眺めながら大きく伸びをする。
 その場違いに呑気な二人に会場には困惑の空気が流れた。
 審判は慌てて倒れた少年二人に駆け寄った。
 傍によって確かめるとクラークもバーニスも完全に気絶していた。
 審判は彼らの体を簡単に魔法で調べた。
 倒れた時の状況がわからなかったので、ルール違反の物理的攻撃が加えられたのではと疑った為だ。
 だが彼らの体からはそういった反応は出なかった。どうやら魔法による電撃で気絶したらしい、と審判は判断した。
 審判席とは反対側の待避所に居る救護班に目で合図を送り、救護班が担架を持って駆け寄るのを横目で見ながら審判は中央の二人に近づいた。

「何をしたのかね?」

 アーシャとジェイはその質問に顔を見合わせた。

「何をしたか言わなくちゃいけないの?」
「君達が物理攻撃を加えていないことは確かめたが、審判としては知っておく義務がある。心配しなくても他言はしない」

 その言葉にアーシャは頷くと、さっき拾った二枚の札を見せた。

「この筒で煙幕を張った後、ジェイが彼らの後ろにそっと回って二人が攻撃の為に結界を解くのを待ったの。
 それから、二人にちょっとだけ触って光の精霊魔法で電撃を送ったの。それだけだよ」

 なるほど、と審判は頷きながらも内心はかなり驚いていた。
 敵に近づかない事が基本の魔法戦ではありえないような戦い方だ。

「魔法科の人は魔道士の戦い方しか知らないから、相手がすぐ近くに来るなんて思いもしないんだってね」

 審判は深く頷いた。
 アーシャとジェイのした事は、五、六年になってから学ぶ実戦を想定した魔道士と戦士のチーム戦の授業のような戦い方だった。
 魔法競技会の試合としては実に型破りではあるが、今までにない面白さがある、と審判は感じた。

「その煙は何だね?」
「ん、と……霧みたいなもの。害はないよ」
「俺が使ったのは暫くの間体が痺れて動けなくなるくらいの強さの電撃だ。大した事ないと思う」
「判った。君たちにルール違反はないと認めよう」

 審判は頷くと手に持っていた赤い旗を高く掲げた。

『勝者、グラウル・イージェイ組! ルール違反はなしとする!』

 ワァァァ、と高い歓声が上がる。
 歓声には他の試合の時よりも幾分戸惑いが混じっていたが、それでも勝者が決まった事には変わりはない。
 二人は審判に礼をすると、仲間に手を振って出口へと向かった。
 
 これが二人の初戦となった。







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