63話 紅き瞳の進化
ゴウッ! ゴウッ!! 轟——ッ!!!!
マモンの右腕の顎門から火球が連続で放たれる。
2発がジュリウス。残り1発が舞夜に向け猛り飛ぶ。
第三形態——。
人型となった事により攻撃方法に柔軟性が出てきた。
だというのに、放たれる攻撃の威力は第二形態の時のままと、非常に厄介だ。
「《黒ノ魔槍》!!」
「《聖剣・断罪》ぃぃぃぃッ!!」
舞夜が水の魔力を付与した《融合魔槍》で火球を迎撃。
2つのエネルギーよって生じた小爆発の間を縫うように、ジュリウス皇子が突貫。その身に秘めた神聖属性と勇者スキルが織り成す光り輝く剛剣技を叩きつける。
『ぎぃぃぃッ!? 痛いわねぇぇぇッ!!!!』
捨て身覚悟の特攻でマモンの右腕に傷をつけることに成功。
しかし、敵も黙ってやられてるわけではない。
反撃に左腕の竜尾を振り上げてくる。
——させるか!
舞夜は、自分の足元に向け、《黒ノ魔弾》を発動。ロケットのように飛び出し、ジュリウス皇子とマモンの間に割り込む。
「《黒キ祓ウ者》——ッ!!」
そして、盾に込められた絶対防御のカウンター魔法の名を叫ぶ。
しかし——
『ぐ……! 曲がれぇぇぇぇぇ!!』
マモンは振り抜いた竜尾の軌道をずらした。
それと同時、後方へ大きく飛び退くことで、盾への接触を回避してしまった。
舞夜は魔導士の力、魔素を可視化することでマモンの動きを予測していた。にも関わらず、ギリギリのところで対応されてしまったのだ。
「《黒滅閃》!!」
避けられてしまうならば、それを上回ればいい。
漆黒の破壊光線魔法が、右腕の傷めがけて飛んでいく。
「《ドラゴニック・フォース》ッッ!!」
マモンが叫ぶ。
次の瞬間、その体を紫色の瘴気のようなものが覆う。
その瘴気に触れた途端、舞夜の魔法は霧散してしまった。
「くそ! 《ドラゴニック・フォース》まで使えるのか!? 気をつけろ舞夜! あの瘴気がある限り、魔法は一切効かんぞ!」
ジュリウス皇子の言うとおり、《ドラゴニック・フォース》は魔法無効化の力を持つ、超級魔法スキルだ。
魔法無効化のドラゴンスキンを持つマモンだが、体内はその限りではない。だからこそ舞夜は傷口を狙ったのだが、これによりその手も封じられてしまう。
「《黒次元ノ黒匣》……!」
であればこれしかない。
舞夜は収納魔法で、夜のゴロツキ退治に使っている刀と弓を取り出した。
矢をつがえ、さらに防具に施した《飛翔》を発動。
マモンの上空へ飛び立ち矢を射る。
そして時折急降下し、刀による斬撃を浴びせ翻弄する。
大したダメージには至らないが、援護の効果は絶大だ。
舞夜に気を散らされることで、ジュリウス皇子に対し攻めあぐねいている。
『ああ! 鬱陶しいッ!!』
耐えかねたマモンが舞夜に向け火球を放つ。
だが、そのどれもが《黒ノ魔槍》によって迎撃されていく。
「《聖剣・八閃》ッ!」
隙をついてジュリウス皇子がスキルを発動。
高速の踏み込みでマモンに接近。
すれ違いざまに八つの神聖斬を浴びせる。
一見、舞夜たちが圧倒しているように見えるが、実はそうでもない。
未だに決定打を与えることが出来ないでいるし、見ればジュリウス皇子の息が少々上がってきている。
——交代、すべきかな。
舞夜は自分が前衛に出ることを思案。
そして、その隙にジュリウス皇子にポーションを飲んでもらい、体力を回復してもらおうと。
だが、その時——
『アハハハハハハァ! 変身ッ!!』
マモンが笑い、叫ぶ。
するとその姿は二足歩行の巨大な竜人……第二形態ドラゴニュートへ変わったではないか。
そして、その大きな拳の前には——
ドゴォォォォォン!!
飛行していた舞夜が殴り飛ばされる。
そして「がぁぁぁぁッ!?」という叫びとともに壁へ叩きつけられる。
魔導士の力で魔素の揺らぎは見えていた。
だが、退化変身という事象を見るのが初めてだったので、予測することが出来なかったのだ。
意識が揺れる。
視界が真っ赤に染まる。
頭を打ちつけ出血してしまったのだ。
そんな舞夜の視界の端で何かが飛んでいく。
ジュリウス皇子だ。
彼は舞夜が拳を喰らうのと同時、尻尾による強撃を受けたのだ。
「ぐ……ッ、クソッ……!」
彼もまたダメージが大きすぎたようだ。
立とうとするがその度に崩れ落ちてしまう。
『アハハァ……。ぼうやはメインディッシュよぉ。最後にゆっくり犯してあげるから、そこでおとなしく見てるんでちゅよ〜?』
マモンが第三形態に戻りニタニタ笑いながら、舞夜を見下ろす。
そして、右腕の顎門をアリーシャたちへと向ける。
だが、アリーシャたちは動かない。
ドラゴンブレスを放とうとするマモンを静かに見据えるだけだ。
アリーシャたちは信じているのだ。
任せろという、愛すべき舞夜の言葉を。
——ああ、それでいい……。
恋人たちが自分をここまで信じてくれている——。
その事実だけで舞夜はいくらでも戦うことができる。
舞夜は自分の体に魔弾を放った。
爆風でアリーシャたちの前に割り込んで盾を構える。
轟——ッ!!!!
その瞬間、舞夜の予測どおり、マモンはドラゴンブレスを放った。
それに舞夜は勝利を確信する。
魔導士の力が見せる魔素の世界が、マモンを覆う《ドラゴニック・フォース》よりも、今放たれたドラゴンブレスのエネルギー量が上回っていると示している。
対し、舞夜は《黒キ祓ウ者》で迎撃するつもりだ。
これでマモンの《ドラゴニック・フォース》は消え失せ、魔法攻撃が通用することになる。
そして激突の瞬間——
「させるかぁぁ!! 《聖光守護障壁》!!」
声とともに、舞夜の目の前に一つの影が躍り出る。
ジュリウス皇子……いや違う。
勇大だ。
気絶していたはずの勇大がアーティファクトであるブロードソードを構え、輝くマジックシールドを展開し、舞夜を攻撃から庇ったのだ。
「勇大! 俺の力も使え!」
「おうッ!」
その隣に剛也が寄り添う。
そして勇大の肩に手を当て、光の奔流を注ぎ込んでいく。
此処一番に復活し、仲間の為に盾となる姿。
それはまさしく勇者のものだった。
そんな2人の姿に舞夜は自然と笑みを漏らす。
だが、それと同時、頭の中を激しい怒りが埋め尽くす。
アリーシャたちの前でカッコつけたにも関わらず苦戦。勝てる戦いではあったが、カッコよく勝つ……と言うにはほど遠い立ち回りだった。
おまけに最後の見せ場まで勇者見習いによって、奪われる……。
羞恥や劣等感、様々な感情が不甲斐ない自分に対する怒りとなって、舞夜の体を支配する。
体が熱くなる。
痛みが引いていく。
そして彼の体を“漆黒のオーラ”が包み込み。
——いくぞ……!
『あぎゃぁぁぁ——!? なに……なんなのよぉ! この槍はぁぁぁぁぁぁッッ!?』
ブレスが止むと同時。
マモンが絶叫する。
見れば右腕の顎門を魔槍が貫いている。
「へへっ、後は……」
「頼んだぜ? 舞夜……」
舞夜を守る為に力を使い果たした勇大と剛也が崩れ落ちる。
——ああ、まかせろ。
漆黒のオーラの中、舞夜が小さく頷く。
「《黒滅閃》……!」
マモンのすぐ側から漆黒の閃光が飛び出す。
ズルッ——。
腕から真横にマモンの体が真っ二つに割れ、上半身が滑り落ちていく。
『あ、ありえない……。私は……私は《ドラゴニック・フォース》を発動していたのよぉ!? なんでこんなぁ……ッ!』
「こういうことだ」
上半身だけになったマモンが虚ろな目で喚く。
それに対し、舞夜が再び《黒滅閃》を発動。
《ドラゴニック・フォース》の内側から、開いたマモンの口から脳天までを撃ち貫いた。
「ご主人様ぁぁぁ!!」
「むぐぅ!?」
舞夜がマモンにトドメを刺したのを確認した直後。アリーシャが勢いよく飛び出し、彼に熱い抱擁を見舞う。
勢いのあまり、舞夜の顔が彼女の豊満な果実の間に、すぽんっ! と埋まってしまった。
「……むぅぅ、また先を越された」
「ずるいですの!」
リリアとシエラもそこへ加わり、舞夜はさらに揉みくちゃにされるのだった。
「舞夜、お前どうやってマモンの《ドラゴニック・フォース》を突破したんだ? それにその黒いオーラはいったい……」
凛と桃花の施した治癒魔法で復活した、ジュリウス皇子が尋ねる。
舞夜は説明する。
自分が目覚めた新たな力のことを——。
「おそらく、魔導士の力が“進化”したんだと思います……」
黒いオーラに包まれた瞬間、魔導士の力に目覚めた時同様に、舞夜の体の傷が治った。
そして気づいたのだ。
自分が大気中の魔素を操れるようになっていることに。
舞夜はその力を利用し、《ドラゴニック・フォース》の内側で魔法を構築。マモンの傷口を狙って攻撃をしたのだ。
「め、滅茶苦茶な力だな……!」
「さすが、ご主人様です!」
「……驚愕」
「天井知らずですの! ちょっと漏れましたの!」
舞夜の説明を聞き、渇いた笑いを漏らすジュリウス皇子。
アリーシャとリリアが感嘆を、シエラはそのままの意味で漏らした。
そんな中……
「あ、黒いオーラが消えました」
舞夜を覆うオーラが消えたことにアリーシャが気づく。
どうやら、通常の魔導士モードよりも、このモードは発動時間が短いらしい。そもそもまた発動できるのかどうかもわからないのだ。いろいろ試してみる必要があるだろう。
「はぅん! すごかったぞ、舞夜ちゃん!」
「ちょっ、サクラさん鎧脱いで抱きつかないでくださいよ!」
「えへへ〜。カッコよかったよ、舞くん〜」
「東堂さんまで!?」
次は私の番だとばかりに、舞夜に抱きつく2人。
それを見て嫉妬に狂った、勇大に決闘を挑まれたりしたりしなかったり……。
それはさておき。
あの状況では、魔王マモン——聖教会の女を殺さないわけにはいかず、魔神イルミナスと地球のイルミナスの関わりを知ることは出来ずじまい。疑問の残る幕引きとなった。
だが、迷宮都市リューインは魔王の魔の手から脱することはできた。
今はその喜びを噛みしめることとするのだった。
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