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62話 第三形態

「ご主人様! ご無事です……か……」


 魔王の間にアリーシャたちが駆け込んできた。

 だが、その声は尻すぼみになっていく。


 理由は舞夜の様子がおかしいことに気づいたからだ。

 体は強張り、目は驚愕に見開かれている。


 本来であれば、アリーシャたちが無事だったことを喜び、今すぐ駆け寄って抱きしめたいところ。だが、目の前の存在——第三形態へと変身したマモンがそうさせない。


 マモンの姿は巨大なドラゴニュート形態から、形も大きさも人間へと変化した。

 だが、右腕はドラゴンの顎門、左腕はドラゴンの尻尾の形を成した異形だ。


 しかし、問題はそこではない。

 問題はその両腕の間にある、胴と頭だ。


『アハハハハァッ! この顔……。忘れてないわよねぇ? ずっと、ぼうやの死体とエッチがしたかったのよぉ? 十六夜の魔法使いちゃん……』


 高笑いし、意味深なセリフを吐くマモン。


 ——嘘だろ、どうしてコイツ(・・・)がここに……!?


 返り血に染まった純白の修道服。

 舞夜の死体と交わりたいという言葉。

 そして、狂ったかの様な笑みを浮かべた女の顔——。


 見間違えるはずもない。

 魔王マモンの正体……それは、あの日、地球で舞夜を殺し、その体を貪ろうとした者。武装宗教組織、“聖教会”の女信者だった——。


「しっかりしろ舞夜! どうしたんだ!?」


 自分を殺した聖教会の女が、この異界の魔王の1人だった……。そのありえない事態に、ひどく狼狽する舞夜へジュリウス皇子が喝を入れる。


「ジュリウス……。あいつは、魔王マモンは地球でぼくを殺し、この世界に来る原因を作った聖教会という狂った組織の一員なんです……!」


「「「ッ——!?」」」


 舞夜の言葉に驚愕の声を漏らす一同。

 皆、舞夜が地球人ということは知っていたが、この世界に来ることになった詳細を知らずにいたので驚きを隠せない。ましてや、その原因が魔王だったとあっては当然だ。


「お前、なんでこの世界に……魔王なんかになってるんだ!」


『ンフフ、いいわぁ教えてあ・げ・る。あの日、ぼうやの死体とクチュクチュしようとしたところでねぇ、声が聞こえたのぉ。私たち聖教会が信仰する神、“イルミナス”様のお声が……。そして、私に言ったの“我の糧……魔王になれ”ってねぇ……』


 その次の瞬間には、この世界にいた。

 そして体はドラゴン……すなわち魔王マモンの体に成り代わっていたと女が言う。


「イルミナス、それに成り代わっていた……なるほど、“依代蘇生”か。わかったぞ舞夜、お前がこの世界に来た原因が!」


「ッ! 本当ですかジュリウス!?」


「ああ、おそらく、あの女は魔王の親玉、“魔神イルミナス”が封印されたマモンを蘇らせる為の依代とする為にこの世界に召喚したんだろう。そしてお前はその召喚に巻き込まれたんだ」


「な——ッ!?」


 巻き添えで召喚——。

 そんな予想を口にするジュリウス皇子。


 だが、舞夜が驚いたのはそこだけではない。


 女——魔王マモンが口にしたイルミナスという名。

 それはマモンが先ほど女が言ったとおり、聖教会が神と崇める存在の名だ。


 そんな存在が、魔王の親玉であるという魔神が同じ名を冠し、さらにはその魔神が魔王の復活の為に聖教会の女を選んだ……。


 イルミナスと魔神イルミナス。

 そしてあまりにも不可解な共通点。

 聖教会とこの世界には間違いなく、深い関係がありそうだ。


『サァ、いくわよぉ! 早くぼうやを死体にして、エッチがしたくてたまらないのぉッ!!』


 右腕の顎門を構え、左腕の竜尾をバシバシと地面に打ちつけながらマモンが嗤う。


 気になることが山ほどある舞夜だが、どうやらこれ以上の問答は許されないようだ。


「《聖剣・砲》ッ!!」


『遅いわよぉ!!』


 お喋りはここまでと、ジュリウス皇子が神聖属性の光弾を放つ。


 が、マモンは第三形態になったことで、スピードが格段にアップしているらしい、やすやすと躱されてしまう。


 そして回避と同時、強靭な尻尾と化した左腕を振るい、ジュリウス皇子に叩きつける。


「させるか!」


 そこへサクラが割り込み、ギガントシールドで迎え撃つ。

 だが——


「「ぐぁぁぁぁぁぁ——!?」」


 鳴り響く絶叫。

 そして衝撃音。


 なんと、サクラはスキル《鉄壁》を発動しているにも関わらず、2人一緒に吹き飛ばされたのだ。


 勢いのまま、2人は壁に叩きつけられてしまう。


「《ブースト》——ッ!」


 アリーシャの姿が声とともに掻き消えた。

 レヴィを圧倒した《剣聖ノ加護》、《ブースト》機能、そして先ほど会得した瞬歩の合わせ技を使ったのだ。


 今までにないアリーシャの速さに、舞夜は目を疑う。


 もらった——!


 音もなくマモンの背後に回り込んだアリーシャが、そう確信する。


『だから遅いのよぉぉぉぉ!!』


「きゃぁぁぁぁ!?」


 だが、それさえもマモンには通じなかった。

 竜尾の一撃によってアリーシャが悲鳴とともに後方へと弾き飛ばされる。


 幸いにも《剣聖ノ加護》で強化した身体能力と、《ブースト》を駆使ししたため、アリーシャは怪我を免れた。


 さすがアリーシャ。

 だが、このままでは……。


「ジュリウス! 何かいい手はありませんか? 別の魔王を倒したことがあるのですよね?」


 秘策があれば或いは——。


 吹き飛ばされたダメージから回復したのを見計らって、舞夜がジュリウス皇子に問う。


「ああ、正確には封印だ。だが、前回は帝国勇者団の主要メンバーが全員で挑んだんだ。封印には神聖属性を持つ者が2人以上必要なんだ……」


「そうですか……」


 ジュリウス皇子の言うとおり、先の戦いには対魔王特化の人員が潤沢にいた。そのうえ、豊富な援護を受けて封印を成し遂げたのだ。


 しかし、今回はそれがない。


 本来であれば、復活したてのマモンを、見習い4人がジュリウス皇子や舞夜の援護を受け、楽々封印する手はずだった。


 だが、復活したてだという偽の神託を信じてしまったがために、4人は速攻で戦闘不能に。封印という手は閉ざされてしまった。


 こうなっては純粋なぶつかり合いで倒しきるしかない。

 だというのに、ここまで圧倒されてしまっている……。


 この圧倒的に不利な状況に舞夜は——


「ジュリウス、2人でいきましょう」


 そんな無謀な発言をする。


「なんだと……?」


「ご主人様!?」


「……そんなマネ許さない」


「そうですの!」


 ジュリウス皇子は疑問の。

 アリーシャたちは、抗議の声をあげる。


 だが、舞夜は思う。

 これ以上、アリーシャたちを戦わせてはならいない。

 マモンは強すぎる。このまま戦わせては誰かが犠牲になってしまうと。


 だからこそ——


「ぼくが信じられないかい?」


 そのセリフとともに、舞夜の瞳が紅く染まる。

 魔導士の力を発動したのだ。


「あぅ、そんなのずるいです……」


「……ご主人様を信じないわけがない」


「ですの……」


 紅く染まる瞳に絶対の自信を感じさせる舞夜。

 そんな彼の姿にアリーシャたちは頬を赤くし、黙り込んでしまう。


 舞夜はその反応に満足げに頷き、彼女たちのもとへ歩み寄る。


「アリーシャ、顔を」


「は、はい! ご主人様ぁ……」


 従順に顔を差し出すアリーシャ。

 そんな彼女の唇に舞夜は小さく口づけ、そして軽い愛撫をプレゼントする。


「さぁ、リリア、シエラも」


「「はい(ですの)!!」」


 同様の行為を2人も行い、骨抜きに——。

 そのまま階層の隅……比較的安全な場所へと3人を誘導する。


「ま、舞夜ちゃん……」


 物欲しそうな顔でモジモジと太ももを擦り合わせるサクラ。


 ——まぁ、仕方ないかな?


 そう判断し舞夜は背伸びし、頬に軽く口づけを。


「ひゃう〜……」


 途端にしおらしくなるサクラ。

 彼女もまた、アリーシャたちと同じ場所へと移動させる。


 ——これでいい。本当の命懸けは男だけで十分だ。


「なるほどな……。舞夜、この戦いが終わったら、“男のあり方”について飲み交わすぞ!」


 舞夜の意図の気づいたジュリウス皇子が不敵に笑い、そんなことを言う。


 それに舞夜は「喜んで」と応えるのだった。


『アハハハハハハァッ!! なにそれぇ!? この状況で舐めた真似してくれちゃってぇ! 絶対に後悔させてあげるぅぅぅぅぅぅ!!』


 自分を侮ったかの様な行動。

 そして、貪りたくて堪らない舞夜に、他の女とイチャつく様を見せつけられたことで、魔王マモンが怒りの咆哮を上げる。


「援護を頼むぞ舞夜!」


「任せてください、ジュリウス!」


 咆哮に負けじと、声を張り上げ駆け出すジュリウス皇子と舞夜。


 男の意地をかけた第三局面が始まる——。

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