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第60話
 ディランは目を覚ました。
 淡いオレンジ色が部屋中に広がっている。太陽は西に傾き、心地よい風が少し開いた窓から流れてきていた。

(もう・・・夕方か・・・?)

 ゆっくりと上体を起こすと、自分がまだ昨日の姿のままであったと気付いた。剣まで腰につるしている。

(確か、宴・・・とか言ってたよな)

 剣を置き、シャワールームに入る。戦いの記憶を全て洗い流し終えたとき、コンコンと扉を叩く音が聞こえた。
 ガウンを着て、扉を開ける。そこには召使の女性が手に着替えを持って立っていた。

「ディラン様、おはようございます。よくお休みになられましたか?」

「ああ、少し寝過ぎたかもな」

 自嘲気味に笑うと、その女性は優しくほほ笑んで、言った。

「それほどお疲れになっていたのでしょう。大変な旅だったとお嬢様がおっしゃっておりましたし・・・」

 お嬢様とはもちろんシャンヌのことであろう。決して<お嬢様>と呼べるようなタイプではないのだが。

「こちらがお召し物でございます。お一人で着られますでしょうか?」

「ああ、大丈夫だ」

「では」と言い、召使は部屋を後にした。ベッドに着替えを広げてみる。白い絹の生地に青い刺繍が所々に縫い込まれていた。金の糸も見える。

(・・・これにバンダナはさすがに格好わるいよな)

 着替えを終え、鏡で自分の姿をチェックした後、ディランは王の間へと足を運んだ。



「こんなに頂いて・・・。どうもありがとうございます」

 ディランは王に深々と頭を下げた。コブロフ王は白い髭を揺らす。

「一人金貨200枚・・・ちと少ない気もするが・・・?のう、シャンヌ」

「うん、もっとあげてもいいのに」

 王座の肘置きにちょこんと座っているシャンヌ。汚れたワンピースを脱ぎ棄て、今は淡い水色のフリルのついたドレスに身を包んでいた。ブロンドの長い髪も束ねられ、宝石の飾りで止められていた。

「これだけあれば、十分でございます」

「ほっほ。謙虚な男だ。ランディにも見習って欲しいものだな」

「ほんとよね、あのバカランディ」

 当のランディはここにはいなかった。が、今頃くしゃみをしているに違いなかった。

「あの、王様―――」

「ああ、ディラン。宴はもうすぐに始まる。係りの者が呼びに行くまで、部屋で待っていてくれ。すまんな」

「いいえ、とんでもございません」

 再び頭を下げると、ディランは自室へと踵を返した。「ディラン、後でね〜」というシャンヌの声。彼女に手を上げると、王の間を出て行った。



 部屋の広いベッドに腰掛け、ディランは何とはなしに、今まで起こったことを振り返っていた。
 ただの退屈しのぎが、王女の護衛をするという結果になってしまった。そのトーナメントでの思わぬフォードとの再会。シャンヌの我儘からディランの故郷<マトゥーラ>に向かう羽目になり、そこで幼馴染のリビアとルークに出会った。

(7年か・・・) 

 ベッドに仰向けに倒れる。闇が段々と部屋を侵食していった。
 ディランは瞳を閉じた。
 カジノ<ラゼルム>でなぜか父親とも再会。その後は田植祭の真っ最中の<ディヤルバルク>へ。リビアの白い衣装が未だに脳裏に焼き付いている。
 温泉地<エルール>では温泉を復活させてやった。しかもレッド・ドラゴンも見ることができた。これは剣士冥利に尽きると言える。そして、サウス・ファロフォーレストを抜ける途中でフォードがリビアとシャンヌを連れて行った。あれほど屈辱的なことは今までの人生で一度もなかった。そして傭兵都市<ゾーグ>へ。

「おーい、ディラン。起きてっか?」

 ルークの声と共に、どんどんと扉を激しく叩く音。「うるさいな」と言うと、ディランは扉
を開けた。

「パーティーの準備ができたってよ。オレ、係りのモンね」

 笑うルークも正装だった。白い絹の生地に柿色の刺繍が施されている。ディランとまったくの色違いなのだが、ルークは王子様というよりは大道芸人のように見えた。
 ディランの視線に気づき、ルークは頭を掻く。

「なぁ〜んか、恥ずかしくねぇか?首も苦しいし、この腰に巻いてあるコレ、取ってもいいかな?」

「バカ。正装だぞ。変でも着てろ」

 後ろ手に扉を閉めると、ディランとルークは連れだって宴が開かれている大ホールへと向かった。
 長い廊下を南へと進む。大ホールは別棟にあった。そこに近づいて行くにつれ、徐々に音楽も二人の耳にはっきりと聞こえてくるようになる。

「あれ?ダンスでもやってるのかな?」

「みたいだな」

 分厚い扉を開けると眩しいほどの室内に、煌びやかに着飾った大勢の人間がひしめいていた。楽団・ダンサー・食事係などなど・・・その数合わせて数百人。城中の者たちがここに集まっているようだった。

「うわ・・・すっげ・・・」

 ルークの口から感嘆が漏れる。それはディランとて同じだった。と、

「あ!ディラン!ルーク!!」

 明るい声と共に、フリルのついた真っ赤なドレスに身を包んだシャンヌが走ってやってきた。来るなりディランの腕を取る。

「ね、ね、ダンスしよ?」

「・・・・ルーク、お前がしろよ」

「え〜?オレ、できねーよ」

「ほら。ね?ディラン」

 腕を揺すられ、ディランは肩をすくめた。

「仕方ないな」

 シャンヌに手を引かれ、ルークに見送られながらディランは踊りの輪の中に加わった。踊り
始める二人。

「へぇ〜。ディランってダンスもできるんだな。うまいもんだ」

 二人の踊りを見ていたルークがそう呟いたとき、コツコツと澄んだ靴音が聞こえてきた。振り向き、ルークは目と口を大きく開けた。
 そこには、薄い桃色のドレスに身を包んだリビアが立っていた。髪を上にあげ、真珠のついた飾りで止めている。イヤリングもネックレスにも小さな真珠がついていた。

「お・・・・おま・・・それ・・・どうしたんだ?!」

 金縛りから解放されたルークが一気にリビアに詰め寄った。リビアは「そうかな?」と苦笑し、

「ちょっとイマイチじゃない?ドレスがね〜、もう少し大人っぽかったらな〜って」

「そうか?十分女らしいぜ?」

「じゃあ、なに?今まで女らしくなかったっての?」

 笑いながら抗議をするリビア。ルークは笑って言った。

「そんなことより、オレと踊らねぇ?」

「・・・ステップ分かるの?」

 リビアに差し出された手を見つめ、ルークに問う。彼はにかっと笑って答えた。

「ずっと見てたから覚えた」

「なるほど」

 ルークの手に自分の手を重ねる。リビアは隣を歩く男を見上げた。

「実は私、ダンスなんてできないんだ。足、踏んだらごめんね?」

「気にすんなって。よーするに動いてりゃいいんだろーが!」

「二人だけ違う動きしてたりしてね」

 笑うリビア。そして、彼女たちも踊りの輪の中に入って行った。 
もうすぐ終わりです。
最後までお付き合いくださいませ。
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