ちょっと更新が遅れました(汗)
申し訳ございませんっ・・!!
第58話
「しまった!」
ディランがそう口に出したのは、北の棟の階段を降りてきたときだった。
「どうしたの?」
隣を走るリビアが不思議そうに首を傾げる。
フォードとの対決後、ディランは自分の長剣を回収するや否や、リビアを連れその部屋を後にしていたのだが・・・。
「忘れ物?」
「・・・シャンヌの居所、聞くの忘れてた・・・」
「それって・・・<依頼>のことよね?」
無言で頷く。リビアはため息をついた。
「あ〜あ、シャンヌかわいそ!今頃泣いてるんじゃないの?」
北の棟から中庭に続く通路。兵士が倒れ伏しているのを見る限り、ルークがここを通ったということなのだろうが、肝心のルークの姿はどこにもなかった。辺りを注意深く探りつつ、ディランは口を開く。
「そう言うんだったら、お前があいつに連れ去られなきゃ良かったんだ。何であいつなんかに・・・」
「その『あいつなんか』に負けてたのはどこのどいつさんよ?私がいなかったら今頃、肉の塊になってたかもしれないのに」
ディランの肩がわずかに動いた。立ち止まり、リビアを睨む。
「手を出すなって言うのに手を出すから叩かれる羽目になるんだろ!!」
「私がキスされても助けてもくれなかったはどこの誰よ!!」
「あの場合はしょうがないだろ!俺が動いたらお前の首が飛んでたんだぞ!」
「そんなの分かんないでしょ!フォードは私のこと大事に扱ってたもん!」
「大事にって・・・お前、他にもあいつに何か―――」
「されるわけないでしょ!ばか!」
「ばかって・・・・お前―――」
「・・・・・痴話喧嘩か?」
『うどわっ!!?』
いつの間にか、ルークとシャンヌ、そしてブロンドの少年が手に茶菓子を持って二人の様子を見守っていた。ルークはジト目でディランを睨む。
「ま、何でもいいけど。オレは。別に」
「ルーク、あ・・・・あのね、フォードがね・・・」
「ディランの頭の中って、リビアのことでいっぱいみたいね」
「あ・・・シャンヌ・・・。これにはワケが・・・・」
ディランとリビアが狼狽する中、一人のほほんと紅茶を飲む少年、ランディ。楽しそうに事の成り行きを見守っている。
「あ〜あ。リビアはオレの嫁さんにする予定だったのにな〜。大幅に狂っちまったぜ」
「あ〜あ。ディランは私のお抱え騎士様にするつもりだったのにな〜。シャンヌ、ショック〜〜」
ルークとシャンヌの嫌味。ディランはこめかみに手を当てた。
「あのな。俺たちは別にお前らが考えてるような関係じゃない!」
「オレらが考えてるような関係って・・・・どんな?」
「シャンヌお子様だからわかんな〜い!教えて教えて〜〜」
逆に質問され、ディランはたじろいだ。ちらりとリビアを見ると、彼女は「我関せず」とでも言うように知らんぷりを決め込んでいる。
「ね〜ね〜。ディラン君」
「どういう関係か教えてよぉ〜」
「うるさいな!」
そう叫んだ時、紅茶をすするランディと目が合った。ブロンドの少年は「どうも」と頭をぺこりと下げる。ディランもつられ、お辞儀をした。そして一言。
「・・・・あんた誰だ?」
「ああ。僕ですか?僕はランディと言って、シャンヌの幼馴染で婚約者で、事の発端の人物ですけど何か?」
しばしの沈黙。
今度はシャンヌがこめかみを押さえる番だった。
「ディラン、え〜っとね。このランディはね」
「・・・・だいたい分かったぞ」
言うとディランはため息を落した。
「お前、婚約がイヤで逃げ出したかなんかしたんだな?それでこいつ・・・ランディだっけ?が後を追ってきた。一人じゃ無理だから、それをフォードに頼んだはいいが、フォードが暴走した・・・・ってことか?」
「いや、お見事。さすがは<剣士>の称号を持ってるだけのことはあるね」
言うとランディはにこっと上品に笑い、紅茶を一口。何か言いかけるディランをさえぎり、ルークが口を開いた。
「オレもこいつがシャンヌちゃんを連れて走ってるの見てびびったよ。どう見てもシャンヌちゃんをかばってる戦い方してたし・・・つーか、兵士たちはひれ伏してたけどな」
「うん。あいつらは僕の言いなりだからね。でもここは叔父の都だから、あんまり派手なことしないでね」
「あ、フォードが北の棟に魔法で穴開けてたわよ」
「ああ、それ?それくらいならダイジョーブなんじゃない?」
「兵士たち全員伸びてるけどいいのか?」
「ま、何とかなるでしょ」
ずずずず・・・・
ランディのお茶をすする音が中庭に響く。
「ん?何か?」
きょとんとしているランディに、ルークは鼻の頭をぽりぽりと掻きつつ言った。
「・・・・あのよ」
「何でしょう?」
ルークはディランたちを見回した。皆同じような何とも言えない表情を浮かべている。
「お前、何も考えてねぇだろ」
「そうですか?僕はシャンヌさえ戻ってくればそれでいいんですけど?」
「・・・・はぁ、そうですか」
それ以降、誰も口を開かなかった。
分厚い雲は流れ、いつの間にか夕暮れが近づきつつあった。
ランディが用意していた馬車にディランたちは乗っていた。その幌の中でディランはフォードとの間に起こったことを話して聞かせた。
「つーことは、いずれまたフォードのヤツは来るってことだよな?」
「いずれな。今は大丈夫だと思う。あいつもリビアに命を助けられてるからな」
ディランは腹部に触った。先ほど、リビアに傷を治してもらったばかりだった。その当人は今はぐっすりと眠っている。どうやら魔法は体力を激しく消耗するらしい。
「んじゃもうこのまま<ラミア国>でいいんだな?」
御者台にいるルークは振り向いた。全員が頷く。
「でも、何でランディもいるのよ?来ることなかったのに」
「だって、久しぶりにコブロフ王にお会いできるんだよ?未来の僕の花嫁のお父様だよ!」
『はいはい』
ルークとシャンヌが同時に軽く受け流す。と、前方に赤い点が生まれ出た。一番星の明るさではない。
「ん?」
目を凝らす。その点は数を増やし、どうやらこちらに近付いてくるようだった。徐々に形が、長い翼と尾がはっきりしてくる。
「おいっ!フレイム・バードだ!!」
「ルーク、馬を放せ!馬車を降りるぞ!!」
慌てて馬を止めると、ルークはつないでいた縄をほどいた。尻を叩くと、馬2頭はそれぞれ走って逃げていく。
「ランディ、シャンヌを頼んだぞ!」
ランディは頷くと、シャンヌの手を握った。一瞬、困った顔をディランに向けたシャンヌだったが、すぐに気を取り直すと、馬車を降りて行った。
「おい、リビア!起きろ!」
眠っているリビアの肩を揺する。彼女は熟睡しているのか、「むぅ〜・・・」と唸っただけだった。
「ディラン!早くリビアを連れて出て来い!!もう来てるぞ!!」
ルークの声が聞こえる。
(仕方ないな・・・)
ため息をつくと、ディランはリビアを抱き上げた。
「うぅ〜〜ん・・・」
何故かディランの首に腕をからめてくる。すり寄られ、ディランは顔を赤らめた。
「お・・・おいっ・・・リビア!」
「う〜ん・・・・まだ寝かせてよ・・・」
寝ぼけているらしい。ディランは「仕方ないな」と呟くとそのまま馬車を降りた。
「おせぇぞ!何やって・・・・っておい!!」
ディランの抱えているものに気付いたのか、ルークが冷やかな視線を向けた。ディランはそれをひしと受け止める。
「仕方無いだろ。こいつが起きないんだから」
「仕方無い・・・けどな。なんつーか・・・羨ましいというか・・・・。でもこれ戦えねぇよな・・・」
しばしの沈黙。ディランはランディとシャンヌを見た。彼らは手を取り合い、フレイム・バードの様子を伺っている。
「あいつらに頼むか。・・・それ、取れるか?」
そうルークが聞いてきたのはリビアの腕のことだった。ディランの首にしっかりと巻きついている。ディランは苦笑した。
「何とかやってみる」
ディランが頷いたその時、馬車が燃え上がった。短く上がるシャンヌの悲鳴。フレイム・バードが吐き出した炎は幌馬車を炎上させていた。
「ルーク !」
「分かってる!」
言うが早いが、ルークは道端に落ちているげんこつほどの石を拾い上げた。それをフレイム・バードめがけて投げる。
「てめぇ!降りてきやがれっ!!」
ルークは至近距離を得意としている。飛行物体にはモノを投げつけることしかできなかった。
「シャンヌ、リビアを見といてくれ」
「う・・・うん。分かった」
こくりと頷く王女をにディランも頷きで返し、長剣を抜いた。
剣を引き、力をためる。
「ディラン!そっち行ったぞ!」
近付くフレイム・バード。大きく口を開けると、炎の舌をのぞかせた。十分にひきつけ、ディランは気を発する。
「はっ!!」
大きく一振り。斬撃でそれは縦半分に割れ、地に落ちる。
「ルーク!その調子だ!」
「つーか、もう石がねーよ!」
石を投げ続けるルーク。それによって地に落とされた2羽の鳥。確かに、ルークの周りにはめぼしい石が無くなっていた。
「僕が見つけてくる!」
ランディが走り出す。その後に続く2羽のフレイム・バード。
「させるかっ!」
ディランは剣を降った。巨大な翼を傷つけられたそれは大きくバランスを崩し、ランディの上へと落ちてくる。
「ランディ!!危ないっ!!」
「よけろ!!」
シャンヌの悲鳴。そのとき、それは起こった。
「うるさいなぁ。『爆破魔法』」
寝ぼけ眼で魔法を発動するリビア。狙った先はランディの上に落ちようとしていた巨大な鳥。
ばしゅっ
嫌な音をたて、それは粉々に砕け散る。
「げぎゃぎゃぎゃ」
不気味な鳴き声を発し、残りのフレイム・バードが一斉にリビアの方へ向かった。慌ててディランも剣を振る。リビアは半開きの眼で立ち上がると、飛んでくる赤い鳥をじっと見つめ、
「あんたたちがうるさいのね!成敗してくれるわっ!」
夢でも見ているのだろうか。何かに変身するポーズを取ったかと思うと、早口で魔法を唱え始めた。そして完成する『氷結魔法』。
びがぎぎぎぃぃぃん・・・・
氷の粒を全身に受けたそれらは、ものの見事に氷漬けになり、地面に落ちると砕け散った。両手をパンパンと叩き、リビアは満足げに一人で頷く。
「恐れ入ったか!小童め!!」
もはや悪党のセリフを口にする。ひとしきり笑った後、リビアは再び横になるとすやすやと気持ち良さそうに眠ってしまった。
「・・・・・何なんだよ」
ぽかんと口を開けたルークが呟く。ディランも剣を鞘に戻しつつ、小さな声で言った。
「・・・本人には内緒にしといてやろう」
これに他の3人が無言で頷いたのは言うまでもない。
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