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第51話
 二日後の正午。ディランたちはやっとエルールの村を後にした。
 出発が遅れた理由は、ルークの二日酔いだった。
 温泉復活を祝い、ディランたちのために大宴会を催してくれたのだが、その席でルークは大酒を食らい、その翌日は寝て過ごす羽目になってしまった。リビアがぐちぐちと文句を言いながら看病にあたっていたが、ルディアーナは心底彼を心配していたようだった。と言うのも、別れ際に彼女はディランたちには思いもよらないことを口にしたからだ。

「あ・・・あの・・・」

 すっかり二日酔いから立ち直ったルークに、村の外れまでついてきたルディアーナはおずおずと口を開いた。

「私・・・・ルークお兄ちゃんが好きです!」

 思わずディランやリビア、シャンヌ、そして見送りにきていたアラークやウィーガン村長まで、みな一斉にルークを見た。

「初めて逢ったときから・・・・好きでした。山の中で助けてくれたのも・・・・すっごく嬉しかったの」

「あ〜・・・・いやぁ〜・・・。あのな、ルディーちゃん。オレだってルディーちゃんのことはすごく好きだよ?けど、あ〜・・・なんつーか・・・」

 二日酔いではない頭の痛みにルークが悩んでいると、その脇腹をリビアがつついた。耳元で囁く。

「ほら!ちゃんと答えてあげなくちゃ!こんなに勇気のいることないんだからね?しっかりしなさい!」

「・・・だよなぁ〜・・・」

 ため息をつき、ルークはルディアーナを皆と少し離れたところに呼び寄せると「説得」に入った。その内容は他の5人には聞こえなかったが、最後に彼女が笑っていたところを見ると、ルークの「説得」がうまくいったということなのだろう。孫の初恋に、ウィーガン村長もほっと胸を撫で下ろしたに違いない。

(あいつ・・・どう答えたんだ?・・・まぁ俺には関係ないことだが・・・)

 前を歩くルークの赤い頭を見つめ思うディラン。その前方には<サウス・ファロフォーレスト>という名の森が広がっていた。この深い森を抜けるとシャンヌの故郷<ラミア国>がある。赤茶けた山々やエルールはもはや遥か後方に流れていた。ただ時折、空に赤い点が浮かんでいるのを目にするが・・・。

「はぁ〜。なんかあっという間だね」

 シャンヌの独り言に、誰もあえて口を開かなかった。

「お城に帰ったら・・・何しようかな。ディランのお兄さんでも雇ってみようかな」

 やけに明るくふるまうシャンヌ。そうでもしていないと泣きそうになってしまうほど、ディランたち3人との旅は彼女にとっては心地よいものだった。
 リビアの心情もまた複雑だった。あの夜以降、ディランとはあまり会話をしてはいない。それどころか、目を合わせてもくれない。ギクシャクしている・・・・と言うのではない。むしろ何事もなかったかのようにしたいのだ。

(あの時・・・・ルークたちがいなかったら・・・。ディランはどうしてたの?)

 まだ彼に触られた頬が暖かい気がする。ちらりとディランの後ろ姿を見る。彼は依頼主の少女と何か話していた。思わず漏れるため息。

「・・・どした?」

「別に」

 ルークに問われ、内心「あなたのせいよ!」と毒つきたいのを懸命にこらえる。ルークは彼女の心を知ってか知らずか、

「ディランさ。これ終わったらまたどっか行くみたいだぜ?」

 木々の間から見える青い空を見上げながら、半ば独り言のように言った。

「えっ・・・」

 驚くリビアに、ルークはため息をつく。

「やっぱ、何も聞いてなかったか・・・。あの廊下でのこともあったから、ちっとは進展したのかなぁ〜とは思ってたけど・・・。まだ何もなってねぇのか」

「ちょっと、ルーク!その話は今は関係ないでしょ?!」

 ぺしりと赤い後頭部を叩くリビア。ルークは苦笑した。

「あいつが、直接オレに言ったわけじゃねぇけどよ。これ、あいつの<依頼>だろ?シャンヌちゃんを無事に城に届けたら、あいつの任務も終わるってワケ」

「あ・・・・」

 リビアは言葉が出なかった。思わず前を行くディランを見つめる。ルークは続けた。

「だから・・・もし、あいつに何か言ってないこととかあったら・・・。早めに言っといた方がいいぜ?」

「・・・・うん。・・・ありがとルーク」

 それきり、リビアは黙りこんだ。ルークが再び重いため息をついたとき―――鳥たちが一斉に飛び立った。

『?!』

 突然のことに、4人は足を止めた。辺りの気配を伺う。風もないのに葉や草が揺れていた。

「・・・オーガーの群れね」

 腰のブーメランを抜きながら、リビアの澄んだ声が森に響く。ディランも長剣を抜き、身構えた。

「ルーク!シャンヌを守るぞ!」

「わぁ〜ってるって」

 右手をひらひらさせ、ディランに答える。それに頷くと、ディランはリビアを真正面から見た。思わず、リビアの胸が高鳴る。

「・・・離れるなよ」

「・・・分かってる」

 短いやり取り。その余韻を楽しむ暇もなく、オーガーの群れが木々の間から姿を現した。数にして十数体。

「行くぞっ!」

 まずディランが飛び出した。目の前に迫った2体を相手に、剣で威嚇して隙をついて切りつける。

「『爆破魔法ブレイス』」

 リビアの魔法がディランの背後に回ったオーガーの頭を粉砕した。どっと地面に倒れる。続けざまに放ったブーメランに、オーガー3体が動きを止めた。そこを見のがすルークではない。渾身の力を込めた一撃をその腹や顔に繰り出していった。
 リビアのアシストのおかげで、ディランやルークは楽な戦いをしていた。

「『雷電魔法ブリッツ』」

「はっ!!」

 リビアの声とディランの気合いの入った叫びはほとんど同時に発せられた。最後の2体が地に伏す。

「終わったな」

 ため息とともに、ディランは剣を一振りしてオーガーの血液を振り落とすと、そのまま鞘に収めた。リビアも愛用のブーメランを腰に戻そうとしたところで、ぞくりと背筋が寒くなった。慌てて振り向き―――

どぐっ

 軽く鳩尾に拳を入れられ、リビアの身体はゆっくりとその男の腕の中へ崩れ落ちた。

「リビアっ!!」

 ルークの叫び声とほとんど同時、ディランは振り返っていた。そして、憎々しげにその男の名を口にした。

「・・・・フォード!!」
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