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第47話
 魔法の光に照らされて、レッドドラゴンの紅いうろこがてらてらと輝いている。ドラゴンはいきなり明るくなったことに別段興味はないのか、おいしそうに木の実を食べていた。

「・・・ドラゴンって・・・草食なんだ」

 ルークが思わず呟く。てっきり怖いイメージから肉食だとばかり思っていた。学校で習ったドラゴンについての一般知識――身体は鋼のような硬いうろこで覆われ、剣ではとうてい歯が立たない。また炎のブレスを吐き、近付けば鋭い爪で攻撃してくる――は、ものの見事に打ち砕かれた。

「・・・どうするの?ディラン」

 リビアが珍しくディランの服を引っ張った。どうやら少し怖いらしい。振り返るとわずかにおびえた栗色の瞳と目が合った。それにディランは少し微笑んでみせる。

「奥に森がある。きっと、そこに水があるんだろう」

「水って・・・・温泉?」

「おそらくな」

 ディランは頷く。ルークは腕を組んだ。

「つーことは・・・」

「ここを行くしかないってこと?ディランお兄ちゃん」

「そういうことになるな」

 かわいいルディアーナに尋ねられ、ディランは振り向くとそのおかっぱの頭を撫でてやった。不安そうに見上げる少女にディランは力強く言った。

「大丈夫だ」

「おうよっ!オレがぜってーに守ってやっからな!」

「私もいるしね」

「あ!私も私も!」

 年上の4人に励まされ、ルディアーナの顔はぱぁっっと明るくなった。それを見てディランが一歩前に踏み出す。じゃりっという小石を踏みしめる音。一瞬冷たいものがディランの背に流れたが、ドラゴンは気づく様子はなかった。

「行くぞ」

 ディランの後をリビアとシャンヌ。その後をルークとルディアーナの二人が続いた。
 ドラゴンはむしゃむしゃと木の実をおいしそうに食べていた。時折うっとりと眼を閉じている。

「・・・ドラゴンって・・・案外かわいいな」

 ぽつりと言うルークの言葉にも今なら頷ける。もしあのドラゴンが人間語をしゃべれるのなら、おそらく『あ〜。うめぇなぁ〜』とでも言っているに違いない。
 横目でそのドラゴンを見つつ、5人はなんとか森の中に入ることができた。ほっと胸をなでおろす一同。と、

「あ!」

「どうしたんだ、リビ――」

 ディランはそこで口をつぐみ、声を上げたリビアを見た。森の中心からはもくもくと湯気が出ている。そこに群がる真紅の塊たち。それを彼女は凝視していた。

「レッドドラゴンの・・・・群れ・・・・」

 思わずつぶやくディラン。リビアは彼の横に来ると、すっと人差し指をドラゴンの方に向けた。

「ねぇ、あれ、さっきの子じゃない?」

「・・・あぁ。そうみたいだな」

 頷くディラン。その子ドラゴンは倒れている大きなレッドドラゴンに寄り添っていた。キュワキュワと鼻を鳴らしている。

「うん?あれってもしかして・・・・もしかしなくても、あそこが源泉か?あいつが倒れてるからそれが塞がっちまってるってワケか?」

「たぶん・・・・」

 ひょいと首を伸ばして言うルークにリビアが頷いた。

「どうするの?ディラン」

「どうするって言われても・・・」

 シャンヌに問われ、ディランは頭を掻いた。思わずリビアのほうを見る。と、その彼女と目が合った。

「分かった。なんとか説得してみる」

『はぁ?』

 ディランとルークの声が見事に重なった。リビアは意を決したように、力強く頷いてみせる。

「ダイジョーブ!!あのドラゴンはきっとどこかケガしてるのよ。それを治してあげればあの
場所を退いてくれると思うし・・・・。やってみる!」

「おま・・・・。それ、かなり無理じゃねーか?第一、あそこに着く前に他のドラゴンに狙わ
れるじゃねーか」

「ルーク。そこは、ほら。あなたたちがどーにかするってことで」

「どーにかって・・・・」

「つまり、囮ってワケだな?」

 ディランの言葉にリビアは笑顔で頷くと

「そ。正解」

 言い、人差し指でディランとルークの鼻をつんとつつき、ウインク一つ。

「んじゃ、そーゆーことで」

 言うや否や、彼女はずんずんとドラゴンがのほほんと湯に浸かっているところへ近づいて行く。

「おいおいおい!」

「・・・全く」

 慌てるルークと舌打ちをするディラン。男二人の気持ちを完全に無視し、リビアは温泉の淵までたどり着いていた。ギロリと近くのドラゴンがリビアを睨む。

「ますいっ!ルーク、行くぞ!!」

 ディランの呼びかけにルークは反射的に走り出していた。そして、未だリビアを凝視しているドラゴンの傍まで行き、

「やーい!ドラゴン!こっち向けぇ〜!」

 ルークのバカでかい声に、温泉に浸かっている他のドラゴンも一斉にルークとその傍でぽかんと佇むディランを睨んだ。鋭いおよそ30もの眼光が二人を射抜く。

「おわっ・・・・」

「・・・バカはお前だ」

 ため息と同時に言葉を吐き、ディランはすらりと剣を抜いた。ちらりとリビアを見ると、ケガを負っているらしいドラゴンの元へとゆっくりと近づいている。温泉は意外と深いのか、リビアの胸辺りまであった。

「んで?ディラン。これ、どーするんだ?」

「襲ってこないようなら、このまましばらく様子を――」

ぼぼぼぼっ

 炎の帯がディランとルークの間を通過していった。後に残るのは少し縮れた髪の毛と、後ろの木々が燃えているという現実。

「っだぁぁぁぁ!!!襲ってきたじゃねーかよっ!」

「とにかく逃げろっ!二手に分かれるぞ!」

ぼぼぼぼっ

 炎を吐くドラゴンと逃げ惑うディランとルーク。
 単発な炎の塊が二人の脇や頭上をひゅんひゅんと越えていく。二人の周りはすでに炎の海を化していた。

(・・・おかしいな・・・)

 炎をよけながらディランは思う。

(俺たちに当たらないようにしているとしか思えない)

 ドラゴンはまるでディランたちと遊んでいるかのように、リズミカルに炎を吐いていた。特
にルークに向かって。彼は素早い動きでちょこまかと動くため、ドラゴンにとってもおもしろ
いのかもしれない。逃げているほうは命がけなのだろうが・・・。

「ちょっ・・・・。ディランっ!なんで、オレばっかり・・?」

「かまわず動け。リビアが狙われるぞ?」

「つーか、お前、ラクしてんじゃん!」

「ドラゴンに好かれて良かったな」

「よくねーっつーのっ!!」

ぼぼぼっ

 飛んできた火の玉をぴょんと飛び越える。ドラゴンは嬉しそうにグワッと声を出した。そして炎を吐く。
 今や、完全にドラゴンはルークと遊んでいた。大きくてもまだ子供なのかもしれない。いつの間にかディランの隣に来ていたシャンヌとルディアーナは、ルークに声援を送っている。

「っだーーー!!お前ら、うるせー!」

 遠くで上がるルークの悲鳴。それとは対照的に、リビアは大きなドラゴンの後ろ脚の方に回っていた。そこでゆっくりと手をかざす。見る見るうちに手の中に白い光が集まり、リビアの身体全体を包んだ。そして―

「ぎゅわ」

 そのドラゴンがすっくと立ち上がった。ゆっくりとリビアを見下ろし、首を上下に振る。

「良かったね。治って」

 リビアに甘えるように子ドラゴンが鼻を鳴らしている。その鼻を撫でた丁度その時、リビアは異変に気付いた。

(温泉のお湯が・・・・増えてるっ?!)

 リビアの胸まであったはずの湯が、いつの間にか肩までになっていた。しかもみるみるうちにそれは増えていっている。

(どういうこと?!なんで・・・いきなり―――)

 もはや、足が底に着かなくなってしまった。立ち泳ぎを始めたリビアに、傷の治ったドラゴンはゆっくりと近づき、彼女をそっと鼻で押す。

「えっ?どうするの?どこかに連れてってくれるの?」

 視界の端にディランたちが見える。温泉のお湯は彼らの元までいっているようだ。もしかすると、ドラゴンたちが密集している辺り全体が温泉になるのかもしれない。さっきまではただ枯れていただけで、あのドラゴンが源泉を塞いでいたのだとしたら、いきなり増えた湯も納得できる。
 ドラゴンはリビアを上手に運んでいた。彼女はドラゴンのなすがままになっている。

「ディラーン!!」

 彼の名を呼んだ時、視界が湯に遮られた。ごぼごぼという水の音に混じって、ディランの声がリビアには聞こえたような気がした。
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