第45話
「お疲れ様」
剣を鞘におさめたディランにシャンヌが微笑んだ。ディランはそれに頷いてみせる。
「お兄ちゃん達・・・すっごい強いんだねっ!!」
「まぁな。ど〜んなもんでぇ〜い!!」
無邪気にはしゃぐルディアーナにルークは胸を張って答えた。
「オレたちにかかりゃあ、どんなモンスターが出てきてもいちころよっ!!」
「イチコロ!イチコロ!!」
キャッキャと笑うと、ルディアーナはルークに抱きついた。そして大きな瞳を輝かせ、ルークの青い瞳を下からまっすぐに見つめた。
「あたしを守ってね。お兄ちゃん」
「おうっ!任せとけ!」
栗色の髪をやさしく撫で、ルークは大きく頷いた。その後ろをディランたちが過ぎていく。
「・・・本当に守れるのか?」
「ルークって結構口だけだったりするのよね」
「命がけで守る自信あるのぉ〜?」
肩を震わせ、ルークは首を後ろにぎぎぎっと回した。
「お・・・お前らなぁ〜!」
怒鳴るルークとは対照的にルディアーナはくすくすと笑っている。
空は高く、温泉源までの道のりはまだまだ長く険しかった。
あれからどれほどの時が経ったのだろうか・・・。
頭上付近にあったはずの太陽は、今やもう地平線へと沈もうとしている。あのひどい暑さも、心地よい程度にまで涼しくなってきていた。
誰もが言葉少なく、ただひたすらに危うい足元を見つめ歩いている――ただ一人を除いては。
「行くぞっ!行くぞっ!温泉源!モンスターなんか怖くないっ!」
背中に疲れ果てたルディアーナを背負いながらも、ルークは大声で歌っている。しかも、身振り手振りまで入るのだ。背中にいるルディアーナのみならず、ディランたちも皆一様に眉を寄せ、それも黙認していた。
「・・・ルーク・・・元気ね」
「ああ・・・。元気すぎる」
「どこに、あんな、体力、あるの」
口々に言う3人。シャンヌはディランに手を引かれてはいるものの、息は切れぎれだった。し
かしディラン本人は別段疲れてはいないようだった。
「ディラン・・・もしかして私たちに合わせてる?」
リビアの問いにディランは「まぁな」と答えた。
「ルークのバカは知らないが・・・一応シャンヌの護衛だからな。何かあったら大変だろ?ヤツのこともあるし」
「やっぱ、男の子は、違うんだね。はぁはぁ」
シャンヌが肩で息をしている。ディランは肩をすくめた。
「そっちが旅慣れてないだけだろ?ダイジョーブか?」
思わず足を止め、シャンヌの表情を伺う。少女はかなりつらそうだった。
「ちょ・・・ちょっと休憩」
「シャンヌ、ダイジョーブ?ちょっとこっち向いて」
言うとリビアはシャンヌの額に掌を当てた。そして口の中で呪文を唱える。
「『回復魔法』」
手のひらから淡く白い光が溢れ、それはシャンヌの身体をやさしく包み込んだ。そして音も
なく溶け消える。
「・・・何をした?」
「初歩の回復魔法。シャンヌ、だいぶつらそうだったから・・・。これでちょっとは楽かな?」
シャンヌは思わず閉じていた瞳を開けた。リビアの顔を見て大きくコクンと頷く。
「ありがと、リビア。すっごく楽になった!」
可愛らしい笑顔に、リビアも自然と笑みがこぼれる。
「それじゃ、私は先に行くから。ルークのアホがだいぶ先に行っちゃったみたいだし・・・」
ルークの変な歌声は聞こえるが、その姿まではもはや見えない。薄暗くなった山道には、赤茶けた岩肌しかなかった。
「あのバカ、迷子にでもなったらどうするんだ?」
「ディランたちはゆっくり来てて。私、探してくる。矢印を岩に書いとくから、それを辿って来てね。あ!あと何かあったら魔法で知らせるから」
言うや、ディランの制止を無視し彼女は大股で歩き出した。
「まったく・・・」
小さく舌打ちをする。言い出したらきかない性格なのは分かっていたが、これで彼女がルークと合流できなかったら元も子もない。ディランが溜め息をついたとき、
「今、リビアのこと考えてたでしょ?」
唐突な、しかし的を得た質問。あまりのことに、ディランは何も言い返せなかった。シャンヌはくすりと笑う。
「そんなに心配なら、私たちも行こ?もう元気だし。私ならダイジョーブ!」
元気にガッツポーズを作るシャンヌに、ディランは頷いた。リビアを心配はしているつもりはなかったが、気にならないと言えば嘘になる。
(案外弱いからな、あいつ)
ディランはふっと笑うと、目の前の少女に手を差し出した。
「行くか?」
「うん!」
シャンヌは大きく頷くと、差し出された大きな手をぎゅっと握った。
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