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第34話
「あ・・・ありがと。助けてくれて」

「・・・大丈夫か?」

「うん・・・何とかね」

 何故か気まずい沈黙がディランとリビアの二人を包んだ。ディランはフォードが立っていた地面をしばし見つめていたが、剣を腰の鞘に収めると、

「ルークが・・・心配してた」

「・・・うん」

 嘘を言った。ルークは『リビアは強いからダイジョーブ』と楽観的に見ていた。むしろ、心配していたのはディラン本人だった。しかし、それを彼女に伝えたくはない。
 役人の足音が近づいてきていた。何事か叫んでいる。

「・・・行くぞ」

「・・・どこに?」

 ディランは半歩出していた足を止めた。そしてしばし考える。

「・・・向こうで、ルークたちが待ってる」

 言い、後ろのリビアに振り向きもせずに歩き出す。リビアは少しためらった後、ゆっくりとついてきていた。が、

「あっ・・・つっ・・・・」

 リビアが小さく声を上げた。そして、足も止まる。

「リビア、早く行く―――」

 振り返ったディランが見たものは、今にも脱げそうになっている白い布を必死で押さえるリビアの姿だった。布の間から時々覗く美しい肌に、ディランは思わず目を釘付けにしていた。
 そのディランの視線に気づくと、リビアはパッとその場にしゃがみ込んで言った。

「ちょ・・・!こっち見ないでよ!エッチ!」

「エッチって・・・お前なぁ・・・」

 ディランは愚痴りながらもくるりと後ろを向いた。

「何やってんだよ」

「何って・・・。歩き出したら布がずり落ちて来ちゃったんだもん。それに・・・足の裏も痛いし・・・。しょーがないでしょ?!」

 半ば逆ギレの彼女に、ディランは深々とため息をついた。

(しょうがないって・・・まったく)

 腰に手をやり、左右に首を振る。役人の足音はもうすぐそこまで来ていた。役人に事情を説明しても分かってもらえないだろう。シャンヌのことを伏せたままで説明できるとも思えない。

「体はちゃんと布で巻き付けてるか?」

「え?それは・・・もちろん・・・」

「分かった」

 言うと、ディランはまっすぐにしゃがみ込んだままのリビアに近づき―――

「ちょ・・・ちょっと?!」

 ひょいと彼女を抱きかかえた。シースネイルに噛まれた時と同様の、お姫様抱っこ。

「ディラン!!」

「これなら布が取れる心配もないし・・・足も痛くないだろ?」

「そ・・・そうだけど・・・」

 フォードと闘っていた時は裸足ということを全く気にも留めていなかったというのに、今になって、足の裏がずきずきと痛みだした。山車の木の破片や石にでも切ったのかもしれない。

「でも・・・恥ずかしいよ」

 カァァッとリビアの顔は見る間に赤くなった。ディランは自分の腕に抱かれているリビアに一瞬だけ視線を落とすと、

「・・・・行くぞ」

 ぽつりと呟き、そのまま駈け出した。
 先程の炎や爆煙を見ようと集まった人々が、すれ違うディランたちに好奇の視線を投げかける。その度にリビアの頬はますます熱を帯びていくようだった。

「ね・・・ねぇ、ディラン。このままでルークたちに会うのって、ヤバくない?」

 リビアの言葉にディランは少々動揺した。

(こんな格好じゃ、あの二人はきっと誤解する。そうなればどう弁解してもあいつらには通用しないぞ・・・)

 走るスピードを緩め、ディランはリビアに問うた。

「リビア。これ・・・どこで着替えた?」

「え〜っと・・・あ!あそこ。<本部>って小さい看板がある家よ」

 彼女が指さすその先には、<本部>と書かれた小さい家があった。

「あそこ・・・か?」

「そう、あそこ」

 訝しげに眉を寄せるディランだったが、そこへ歩みを進め、木製の扉をコンコンと叩いた。

「あの・・・すみません」

 ディランの声に、扉はぎぎぎ・・・と軋んだ音をたて内側へと開いた。そして現れる30後半の男。『運営委員』の腕章がきらりと輝いていた。
 その男はディランと彼の腕の中にいる女性を交互に見つめ、

「おーおーおー。近頃の若いもんはうらやましいねぇ〜〜。だが、すまんね。ここは宿じゃない」

「ちっ・・・・ちがっ・・!!」

 ディランとリビアの顔が、音を立てるかのように瞬時に真っ赤に染まった。そこにさらに言葉は降りかかる。

「あら、まぁ。いいわねぇ。こんな素敵な殿方と一夜を共にすることができるなんて」

 『運営委員』の隣からひょいと顔をのぞかせた小太りのおばさん。彼女はディランとリビアを見るなりそういうと、リビアの肩をばしばしと叩いた。その右腕には『会計』の腕章。

「あの・・・!こいつの・・・リビアを着替えさせてやってくれませんか?ここで頼まれて<生贄>をやったみたいなんですが・・・」

「着替えさせてもらえないでしょうか?この服・・・もう脱げそうで・・・困ってるんです」

 ディランとリビアはそう言うと『運営委員』と『会計』の二人を見つめた。男はやおら思い出したように手をぽんと打ち、

「ああっ!<生贄>の娘か!いやぁ〜、見たことあるべっぴんさんだなぁ〜とは思ってたんだ」

「まぁ、入りなさい。服は奥の部屋で着替えるといいよ。そこのソファに畳んであるから。なんならあんたも一緒に入るかい?」

 言うと、ディランをニヤニヤと見つめる。
 ディランは思わず叫んでいた。

「入るかっ!!」


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