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第10話
 窓から差し込む朝の眩しい光に、ディランは目を覚ました。「う〜ん」と唸り、伸びをする。そして、上半身を起こすと寝ぼけた目で部屋を見回した。

(・・俺の部屋か・・・)

 髪をかき上げ、2階にもある洗面所へと向かう。

(久し振りにぐっすり眠れたな・・・)
 
 夕飯を腹一杯に食べ、ゆっくりと風呂に入り、ベッドに入るとすぐに睡魔が襲ってきた。やはり久し振りの実家に安心していたのかと、ディランは鏡の中の自分を見つめる。
 顔を洗っていると階下からシャンヌの笑い声が聞こえてきた。それに混じってリビアやルークの声もする。

(・・・あいつら、また来てるのか?)

 服を着替え、身支度を整える。マントと剣はそのままに、ディランはバンダナを身につけると、朝食の匂いのする1階へと下りていった。

「あ。やっと起きて来た。おっそ〜〜い!!」

「・・・そっちが早いだけだろ?」

 朝から元気なシャンヌを見る。彼女はにっこりとディランに笑いかけると、トーストをかじった。

「おっす。ディラン。良く寝れたか?」

「・・・お前のバカでかい声に起こされるまではな」

 ルークはポテトサラダを自分の皿に取り分け、それを突きつつ頬を膨らませた。

「シャンヌちゃんがどうしてもオレに会いたいって言うから来てやったんだぜ?」

「っていうか、ルークがシャンヌに会いたかっただけなんだけどね」

 クスリと笑い、リビアが続ける。ルークは恥じる様子も無く「バレた?」とおどけて笑った。

(・・・ほんとに朝から元気な奴らだ・・・)

 ぼんやりと考えていると、「何にするんだい?」と母親が声を掛けてきた。少し考え、出した答えが

「コーヒー」

 ディランはいつも朝食は取らなかった。

「あれ?イチゴじゃないの?」

 シャンヌはびっくりしたようにディランを見つめている。それからリビアを振り返った。

「ねぇ、ディランの好物はイチゴだったよね?」

「うん・・・でも、小さい頃の話だし・・。そうだったよね?ディラン」

 話を振られ、ディランは小さく頷く。

「・・・かもな」

「うわっ!なんかキザな言い方っ!『かもな』だって!」

 ルークがディランの口真似をした。シャンヌとリビアが大笑いする。ディランが口を開こうとした瞬間、

「はい、コーヒーとリビアちゃんのイチゴ」

 母親に手渡しでそれを渡され、ディランはルークに文句を言うタイミングを逃してしまった。
仕方なくコーヒーをすする。

「おっ、これリビアんとこで獲れたやつだろ?いっただき〜」

「あっ!ずる〜い!!私も〜〜!」

 ディランの皿からイチゴが二つなくなった。ルークとシャンヌは幸せそうにイチゴをかみ締めている。

「うっめ〜〜!!生き返った!」

「・・・今まで死んでたのに、あんなにバカだったのか?」

 ディランの静かなツッコミにリビアが噴き出した。ルークはムッとしてディランを睨む。しかし、ディランは相手にせずに再びコーヒーを口に運んだ。

「ねぇ、ディランとシャンヌはいつまでここにいられるの?」

 食器を片付けながら、リビアが訊いてきた。シャンヌは困ったような顔でディランを見つめる。彼女に代わりディランは口を開いた。

「食べたら行くつもりだ」

「え〜〜〜〜?!うっそ!!はやっ!!!」

 テーブルに手を突き、立ち上がるルーク。彼はシャンヌとディランを交互に見つめ、

「もう行っちゃうのかよ・・・・シャンヌちゃん」

 最後にシャンヌを名残惜しそうに見つめる。少女は淋しそうに長い睫毛を下に向けた。

「うん・・・だって、ラミア国ってちょっと遠いし・・・」

「そっかぁ・・・・」

 椅子に座りなおしたルークだったが、窓の外を眺めるディランの横顔に思い切って思いついたことを言った。

「な!オレも行っていいか?!」

「ダメだ。足手まといだ」

 即答され、一瞬ひるんだルークであったが、気を取り直すと、大きく息を吸い込む。

「絶対に足手まといにはならねー!!ほらっ!!シャンヌちゃんも!リビアもなんか言えよっ!」

 テーブルを拭くリビアにルークは助け舟を出した。彼女は仕事の手を休めぬままに、

「ディランがダメって言ってるんだから、ダメなんでしょ?諦めなさい」

 無表情に言うリビア。その声はどことなく冷たかった。

「・・・リビアのケチ」

「なっ!なんで私がケチなのよっ!ケチなのはディランでしょ?!」

「はぁ?!」

 いきなりなリビアの攻撃に、ディランはマヌケな声を出していた。そして、彼女をじっと見る。

「なんだよ。どうして俺がケチなんだ?」

「だーーってそうでしょ?いつも一人でどっか行っちゃうし。あんまり話してもくれないし」

「ケチとは関係ないだろう!」

「だったら!ルークでもなんでも連れてってあげなさいよっ!」

 いつの間にか、ディランとリビアの変な喧嘩になっていた。シャンヌとルークはぽかんとしてことの成り行きを見守っている。

「俺は足手まといになるから嫌なだけだ!第一、シャンヌ一人でもお守りが大変なのに、ルークの面倒までみてられるかっ!」 

「あ〜〜〜!!ディラン、ひっど〜〜い!」

 『お守り』発言にシャンヌは頬を膨らませた。ディランはそれに構わずに続ける。

「それに、この村はどうするんだ?モンスター退治をやってるんだろ?」

「う・・・そりゃ・・・まぁ・・」

 リビアも言葉に詰まった。村の近くまで来たモンスターを彼女とルークが主にやっつけていたのだ。ルークがいなくなってしまったら、負担はリビアにかかってくる。

「ほら、な?だから、ダ――」

「いいよ。二人とも」

 ディランの『ダメ』はシャンヌの声に掻き消された。驚きシャンヌを見るディランとリビア。ルークはすでに顔を輝かせていた。

「ルークもリビアも私の護衛、お願いします」

「おいっ!シャンヌ!」

「私の命令です!」

 そう言われるとディランは頷くしかない。「分かったよ」とため息混じりに言うと、リビアとルークにポツリとこぼした。

「・・・どうなっても知らないからな」

「やった!さんきゅ!シャンヌちゃん!!」

 喜ぶルークとは反対に、リビアは戸惑った表情でシャンヌを見つめている。

「シャンヌ・・・私も?」

「うん。一緒に来て欲しいんだけど・・・ダメ?」

「ダメじゃないけど・・・」

 リビアはちらりとコーヒーを飲んでいるディランを見た。それからキッチンの彼の母親を見る。

「色々準備とかしないと・・・。村の警護のこととか・・・」

「うん。出発はそれからでいいから。ダイジョーブだよ」

「・・・うん」

 ディランのそばにいられるというのに、なぜか彼女の心は曇っていた。
 
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