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プロローグ
 故郷を離れて、早や7年の歳月が流れようとしていた。
 『傭兵になる』と母親に言い残して家を飛び出し、大陸を渡ったのが今から丁度7年前。

(もうそんなに経ったのか・・・)

 安い宿屋の硬いベッドの上で、ディラン=ハートフィールドはぼんやりと古い天井を見つめていた。部屋の窓からは心地よい風が流れ込み、天井にかかっている蜘蛛の巣を揺らしている。
 彼は、今やっと故郷<マトゥーラ>のある<ロライマ大陸>に帰って来ていた。
 7年前にこの大陸を離れ、行き着いたところがここと向かい合うように位置する<オーガスタ大陸>。そこの『聖都市』と呼ばれる<マグウェイ>で、彼は<剣士>の称号を得ていた。
 <マグウェイ>の<ウィック・チャック>という名の剣士訓練学校は、毎年何百人もの志望者が訪れ、その半数が途中で辞退していくという厳しい学校だった。ディランは12歳で入学し、ライバルたちと共にそれを5年で卒業した。そのときの卒業者数は数十人だった、とディランは記憶している。
 <剣士>になると、たとえ城の傭兵として働いても報酬が一般のそれとは桁が違う。また、個人で顧客を抱え『仕事』をすることも出来る。5〜6年間の学校で血の汗を流す努力をすると、その見返りはかなり大きいものとなっていた。

(これなら、もう少しオーガスタにいるんだったな。・・・・平和すぎる)

 寝返りを打つディラン。ロライマはオーガスタとは違い、平和で温和な大陸だった。かといって、オーガスタが常に戦争のある所なのではない。言ってみれば、そこは武術・魔道に富んだ先進国であった。

「・・・退屈だな」

 起き上がり、ベッドに腰掛ける。ここに来てまだ一度も『依頼』を受けてはいなかった。オーガスタでは信じられない事である。

「仕方ない。探してみるか」

 腰に長剣を下げ、頭に深い緑色のバンダナを鉢巻のように巻き、頭の横でしばると残りを垂らす。―これがディランのトレードマークのようなものだった。
 姿見で自分自身を映してみる。長めの黒髪にバンダナ。それと同色の少し切れ長の瞳。鎧などという重くて動きにくいものは身に着けておらず、左肩に大きなショルダーガードのついた土色のマントを羽織っている。ハイネックの緑色の袖なしのシャツからは浅黒い肌が覗いており、太い腕には長めのグローブ。黒いズボンを皮のベルトで止め、汚れた茶色のブーツを履いていた。

(・・・だいぶ筋肉がついたよな、俺も)

 鏡の自分を鼻で笑うと、ディランは自室の扉を開け、きしむ階段を下りて真っ直ぐに受付に行った。奥の食堂には普段と変わらず誰もいなかった。

「おっ、あんた。もう出発するのか?気が早いねぇ〜」

 宿屋の主人がディランを見て、元気に話しかけてくる。

「おととい来たばかりだってのに。まさか、彼女のトコにでも行く気かい?」

「・・・銅貨3枚、だったよな」

 主人の話をまるで無視し、ディランはカウンターの上に金を置く。そんなディランを主人はどう思ったのか、

「何を照れとる。若いうちはパーっと派手にやらんとな!わしもこの<コルピノ>に来てから宿
屋を開いたんだが、こんなに良いところは無いよ。うん」

(・・・客がほとんど来ないのにか?)

 思うディラン。しかし口には出さない。主人は金をカウンターの金入れにしまいつつ、尚も続ける。

「若いモンは良い。失敗しても取り返しがきく」

「・・・失敗、か・・・」

 呟き、ふと受付の壁に貼ってある張り紙を見つけた。入ってきたときには丁度死角になっていて見えなかったようだ。

(何だ?)

 近づいて見てみると、そこにはこう書かれていた。―『傭兵募集!!ロルカ王国』と。

(珍しいな。・・・行ってみるか)

 学校を卒業して1年間はオーガスタ大陸で『仕事』をしたため、このようなポスターは至る所に貼ってあったのだが、ここロライマで『傭兵募集』のポスターを見たのは久しぶりのことだった。

「おやじ、ロルカ王国はここから南だな?」

「お?ああ。そうだそうだ」

 今まで独り言のように話をしていた主人は、ディランの言葉に二度首を大きく縦に振った。それにディランも頷きで返す。

「あんた、ロルカ王国へ行くつもりかい?」

 ちらりとポスターを見ながら、主人は口を開いた。戸口にいるディランは「ああ」とだけ答える。主人はそのポスターを指差しながら、

「これ、受付が明後日の正午だから急いだほうがいいぞ、坊主」

「・・・・どーも」

 『坊主』の一言にややムッとしながらも、ディランはコルピノの町を出ると、南のロルカ王国へと歩を進めた。




 ―ロルカ王国―
 船の出入りが激しいこの地は、ロライマ大陸随一の商業国として栄えていた。中央にはロルカ城がそびえ立ち、その周りを城下町が大きく取り囲んでいる。その城下町は今は『傭兵』で溢れかえっていた。

「おっと、ごめんよぉ」

 街を歩くディランの肩に誰かがぶつかってきては、何か言って通り過ぎていく。その人々も種々様々であった。どこかの店の主人らしき男、どこから見ても買い物客風のおばさん。見るからに『傭兵』をしたことのありそうな戦士に剣士・魔法使いに武道家・・・。
 店の掛け声や笑い声、遠くの汽笛の音等が混じり合い、街は騒然としていた。
(・・・すごい人だな)
 思わず漏れるため息。そのディランの耳に馬の蹄の音が聞こえてきた。それは徐々に近づいてくる。

「え〜〜〜。只今より傭兵のテストを行いま〜〜す。至急、城門前広場にお集まりくださ〜〜い」

(伝令か・・・)

 馬の蹄と城の使いの声が遠のいていく。ここから城門前までは一本道だった。

(・・・急ぐか)

 ディランは他の『傭兵』共々、広場へと続く人の波に乗り、押し合いへし合いしつつなんとか目的地に着くことが出来た。
 城門前には城の関係者らしき人物が数人集まっている。どうやら予測していた以上に『傭兵』が集まりすぎたらしい。しきりに人数を数えては眉根を寄せている。

(城の傭兵ともなると、報酬がかなり違うからな。そのせいだろう)

 ディランも金目当てで来ていたうちの一人であった。
 昔はモンスターを倒すと、その中から宝石が出てきたりもしていたようだが、今は違う。
 <ローズ戦争>を境に、どういうわけかモンスターからは宝石も原石も出てこなくなった。その代わりに地面から出てきたもの・・・。それが<イーガス>と呼ばれるエネルギー。
 この<イーガス>をくみ上げたイーガス=ウィーガ博士は、それで動くテレビや電話・バギーカー等を順じ発明していく。そのおかげで、オーガスタ大陸の中心地<セレンテ>は飛躍的な発展を遂げる。
 発展はオーガスタ大陸を潤し、次第に全世界を潤していったのだが――大陸によってはまだ文明が行き届いて無い所もある。現に、ここロルカ国ではまだ馬が使われているし、宿にはテレビも無かった。それをディランは『時代遅れ』とは思ってはいない。「あったら便利だが、無くても別に不自由はしない」と思っているからだ。

(どっかの姫の家出が世界を変えたなんて・・・。変な話だよな)

 などと思っていると、城の使いが声を張り上げた。

「これより、傭兵テストを執り行う!形式はトーナメント制!勝ち残った者、一名のみ採用される!!」

 男はここで大きく息を吸い込むと、

「尚、人数が多いので同時に四試合ずつ行うこととするっ!」

 言うや、『傭兵』たちを適当に四分割していく。

(トーナメント制か・・・面倒くさいな)

 準備はちゃくちゃくと進んでいった。一人ひとりに数字が書いてある紙が手渡され、ディランはそのグループの第三試合目だった。

「全員、ふだを受け取ったか?」

 野太い男の声が集まった全員に降りかかった。

「今から判定の説明をする。勝敗は相手が気絶するか、降参するまで。相手を殺してしまった場合は即、逮捕となる。心して戦うように!以上!」
 
 そして、『傭兵トーナメント』は始まった。
『君となら』の数十年後の話です。
別に『君となら』を読んでいなくても分かりますが、読んでいたほうがちょっと分かりやすい部分もあるかと思います(いい加減)
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