第五十四話 学校へ
昼時の商店街は込んでいて、昼食を食べるために飲食店に出入りする人たちの波が絶えなかった。行列のできる店などもあり、その店にはちょうどテレビ局の取材が来ていた。行列の最後尾には、「ここから先三時間待ち」と書いたプラカードを持った店員が立っている。
クライドは、三時間並んだりしてまで流行の店で食べたいものなのだろうかと疑問に思った。別に、どこで食べても同じような気がするのだが。
「制服で行かないと注目を浴びるだろうなあ、俺達」
そういって、空を仰ぎ見るグレン。確かに、私服だとかなり注目を浴びるだろう。クライドもグレンも、思いっきりカジュアルな服装なのだ。グレンは原色を多用したトップスにインディゴブルーの穴あきジーンズだし、自分だって人のことはいえない。ズボンは緑がかった黒のスキニーだし、白をベースにしたトップスの柄は明らかに制服になど溶け込まない。
サラの学校は、女子の制服がセーラー服だということが解っている。男子の制服はどうだろう。昨日の夕方に下校している生徒たちを何人も見ているが、制服は大体三種類ぐらいあった。
どれも、シャツにネクタイという一般的なスタイルだ。夏服だということもあってか、どこも似たり寄ったりである。
ちなみにクライドたちの通う学校も、そんなごく一般的な制服だ。ということは、着て行くなら母校のアンシェント学園の制服が望ましい。
「アンシェント学園の制服持って来てるか?」
訊ねてみると、グレンはにっこり笑って頷いた。そして、自信満々に答えた。
「あるぜ」
頷き、クライドも自分のバッグを指差す。実はこの中に入っている。一年間も学校にいけなくなると思ったら、急に寂しさを感じたのでバッグに放り込んできたのだ。ネクタイとシャツ、そしてズボン。冬服である上着は、置いてきた。季節柄必要ないと判断したのだが、クライドは今更それを悔いている。
この旅は長くなりそうだ。持ってきた方が良かったと思う。
「どこで着替えようか」
そこまで会話したところで、グレンが荷物を失ったことに気づく。本人もそれに気づき、あっと声を上げた。二人で苦笑し、行き先を変更する。
こういうときに気が合うと、やはり親友だと実感できるとクライドは思った。二人が向かったのは制服を取り扱っているようなブティックではなく、昨日のビルだ。
あのビルがあった辺りには、人があまりいなかった。犬と散歩中の中年の女性と、携帯電話で話をしながら通り過ぎていく若者、そしてのんびりと散歩を楽しんでいる老人以外には誰もいない。
三人が通り過ぎるのを待ち、クライドとグレンはするりとビルの中に入った。一階部分が中途半端に吹き抜けになってしまったビルの中は、昨夜と変わらず荒れ果てていた。日の光が差す現在は、足元が良く確認できる。
背の部分に何かの社名が書かれたパイプ椅子が、いくつも壊れていた。曲がった鉄骨が突き出したコンクリートが、何だか人間の死体のように思える。鉄骨が骨で、コンクリートは肉の塊だ。
「あったか?」
前を歩くグレンに訊ねてみる。辺りを見回すと、昨日誰かが流した血がまだコンクリートに残っていた。アンソニーの血だろうか。背筋がぞくっとした。
「いいや、どこだろう」
いつもどおりのグレンの声が聞こえた。この血には気づかなかったのだろうか? それとも、血を見慣れてしまったのだろうか。
クライドは、血を見て驚けなくなる自分を想像して怖くなった。そんな状況が普通になってしまったら、自分が自分ではなくなるような気がする。
この光景を見ていると、また自己嫌悪の渦が復活してくる。アンソニーを助けられなかった自分、放心して魔法を使うことさえできなかった自分。
自分がどうしようもなく愚かしく思えた。どうして助けなかったのかとか、如何して魔法さえ使えなかったのかと自分を責めた。そして今は何より、初めて魔法を使ったときの自分を良く思い出す。昨夜見た、目のないジャスパーが頭をよぎる。
取り返しのつかない過ちを犯したのに、どうして平然としていられる? ジャスパーの世界から光を奪ったのは、他の誰でもない自分なのに。
「あ、ノエルの荷物だ」
グレンが急に立ち止まり、屈んで瓦礫の山を崩し始めた。クライドは、頭の中から自己嫌悪を振り払うことが出来てグレンに感謝した。このままだと、永遠に考え続けてしまいそうだった。
隣から手を出して、瓦礫の山を崩すのを手伝う。そうすることで、膨れ上がって行くばかりの後悔や自責、羞恥心を無理矢理抑えた。
ノエルのキャリーカートは、コンクリートや鉄骨、ガラスの破片などのせいでかなり損傷していた。だが、中身は奇跡的に無事だ。中身だけ、クライドとグレンが折半してもつ事にする。
暫く探し続けていると、グレンの荷物も見つかった。だが、中に入っている拳銃は壊れていたし、家から持ってきた短剣とイノセントから奪った短剣は両方とも使い物にならなくなっていた。それらは、瓦礫の下に埋めていくことにする。同じように使い物にならなくなった、ノエルのキャリーカートもだ。
グレンの提案で、ここで着替えていくことにした。着替えが終わると、一ヶ月前までの学校生活を思い出した。今日はちょうど五月二十四日なのだ。旅に出たのはクライドの誕生日でもある四月の二十四日だった。
家族や先生、クラスメイトの声が聞きたくなった。そうだ、あとで電話してみよう。
だがクライドは、携帯電話を持っていない。アンシェントタウンでは、使う必要がなかったのだ。それに、山に囲まれているため電波が届きにくく、使ってもあまり良いことがないのである。公衆電話か学校の電話を使うことにしよう。
「行こうか」
そういってグレンを振り向くと、グレンはバッグの埃をはたいているところだった。彼の格好を見て、クライドは学校に入れてもらえるかどうか多少の不安を覚えた。
グレンのシャツは、よれてかなりくたびれていた。そしてボタンは上から三つほど外してているし、ネクタイの結び方はとてもゆるい。
対するクライドは、シャツのボタンはひとつも外していないし、ネクタイもきっちり結んでタイピンまでつけていた。だが、シャツのすそをズボンに入れるのは嫌いなので、そこだけだらしがない。
これが、二人が通常学校でしているスタイルだ。クライドはいつも制服を中途半端にきちんと着るが、グレンはいつも着崩している。
ちなみに、クライドがシャツをズボンに入れなくなったのは比較的最近の話だが、グレンが制服を着崩しているのは入学したての頃からの話である。
「今時の十五、六歳なんて皆こうだろ? 大丈夫、俺だけ浮くことはないはずだ」
クライドのいぶかしげな視線に気づいたのか、自身あり気にそういうグレン。だが、本当に大丈夫なのだろうか。サラが通う学校となると、お嬢様やお坊ちゃんが通っていそうな雰囲気がある。そんな学校に、自分たちがなじめるだろうか?
第一、学校に行くという考えもやめたほうがいいと今更思う。だが、グレンは随分乗り気である。
まあ良い、どうせ一日だけだ。これを逃したら、来年まで学校に行けそうにない。クライドはそう思い、頷いた。
「学校の場所がわからないな、途中で誰かに聞こう」
ふと思いついたように、グレンが言った。
「ああ」
軽く答えてやると、クライドは昨日のことをなるべく思い出さないようにしながらビルから出た。グレンがあとに続いてきたのが解るが、振り返ったりしなかった。振り返ったらまた自己嫌悪の渦にひきずりこまれそうだからだ。
ビルから出ると、潮のにおいがする空気が急に懐かしく感じた。暫く目を閉じて、風を感じる。
目を開けると、澄み切った青空には数羽の海鳥が舞っていた。海鳥たちは鳴きながらクライドたちの頭上を越えて、行方も知れぬはるか遠くへと飛んでいく。その鳴き声は、どこか切なげに聞こえた。
「あの、すみません。道を尋ねたいんだけど」
グレンは早速見知らぬ人に道を尋ねている。背の低い男性が立ち止まり、グレンの問いに首をかしげている。グレンはそうやって知らない人にも気兼ねなく話しかけられるという特性を持っているが、訊ね方があまり丁寧だとはいえないのが痛いところだ。
その人は旅行者らしく、道を知らなかった。彼はグレンの問いに答えることを丁寧に断って去っていった。
今度はクライドが、道行く女性を呼び止めて道を聞いた。女性は親切に道を教えてくれて、クライドが差し出したメモ用紙とペンをつかって地図まで書いてくれた。
女性に丁寧に礼を言って、クライドは歩き出す。グレンが隣で地図を覗き込み、にっこりと笑った。
「なんだ、意外と近いな」
うん、と軽く頷きながらクライドも微笑を浮かべた。見知らぬ人に親切にされると気分がいい。
自分が住んでいる町でも、よく知らない人から何か貰ったりした。祖母が近所づきあいを大切にするので、自然とその孫であるクライドも老年層から人気を得ている。
そういえばクライドは、近所づきあいが上手な方だろうと周りの人からよく言われる。きっとそれは、祖母の血によるものだ。
「そうだな。ほら、もう見えてきた」
地図まで書いてもらったのに、あっけないほど簡単に学校までの旅は終わった。そんなに広くはない街だし、それも当然だとクライドは思う。
「あ、ラジオ局の車があるぜ!」
言うなり、グレンは駆け出した。クライドも、彼の後を追って走る。グレンが目指す先には、確かにラジオ局の車があった。誰か一人が助手席で何かしている。いや、もしかすると寝ているのかもしれない。
運転席側には誰もいなかった。かわりに、座席には雑誌が一冊置いてあった。世界の絶景百選、一七七〇年度版。日光にさらされたためか表紙の色があせているが、多分開いたら色鮮やかな絶景の写真が目に飛び込んでくるのだろう。
この『一七七〇年』がルクルス暦を指すものなのかレベン暦を指すものなのかは解らない。この世界には暦が二つあり、それぞれが聖人の生まれた年から始まっているのだ。
聖ルクルスと、聖レベン。二人の名をとって、この世界に刻まれる時が『ルクルス暦』『レベン暦』の二つになった。暦が二つもあるのはややこしいが、ルクルス教徒もレベン教徒も多いので戦争を起こさないようにという、当時の国々を治めていた国王たちの会議の結果そうなった。
クライドはルクルス暦では一七六〇生まれだがレベン暦だと一八〇〇年生まれになる。今年はルクルス暦で一七七六年、レベン暦で一八一六年だ。この雑誌は、少なくとも六年前に発刊されている。もしかすると、五十年近く前のものかもしれない。
良く見ると表紙の褪せた色は日光のせいではないような気もする。そしてその雑誌は、確かに年数を感じさせる痛みかたをしていた。
クライドは宗教に入るほど信心深くはないが、聖ルクルスの誕生日近辺に一週間ぐらいの休暇がもらえることはありがたいと思っている。
「あれ、君達は?」
不意に声を掛けられて、クライドとグレンはそろって校門を振り向いた。すると、不思議そうな顔をして門から身を乗り出しているスーツ姿の若い女性と目が合った。彼女はきっと、この学校の先生だろう。
「脚の病院行って来て、遅れたんです。もう大丈夫だって先生がいうから、来ました」
グレンが悪びれもせずそういって、門に近づいていった。嘘をつくなんて気が引ける。それに、ばれてしまったら大変なことになるだろう。
クライドは迷っていた。とても迷っていた。自分も嘘をつくか、それともグレンを残して引き返すか。後者は友人としてできることではないし、折角ここまできて帰るのも何だか味気ない。
意を決したクライドは、嘘をついた。グレンのほうをちらりと見てから、先生に向かって微笑んでみる。
「彼とは途中で会ったんです。父さんの出張についていったら、帰ってきたのは昼過ぎで」
とっさに、父という言葉が出る。バッグに放り込んであるズボンのポケットには、父の残した日記帳が入っている。さりげない動作でバッグに手をやり、指で撫でる。
先生はとても嬉しそうに笑い、クライドにこう訊ねた。
「そうなの。お父さん、何してらっしゃる人?」
そこまで聞かれるとは思っていなかったが、微笑を浮かべたまま適当に
「新聞記者です」
と答えることが出来た。嘘だとはばれていないようだ。新聞記者だなんて、一体どうやったらそんな言い訳が出てくるのか。
多分、出張といえば新聞記者というようなおかしな公式がクライドの頭の中には植えつけられているのだろう。
「入って。午後の授業が始まるから」
重たそうな門を全身で押してあけながら、先生は言った。どうやら上手くいったようだが、騙したという事実がとても重荷に感じた。
「ありがとうございます!」
とりあえず、笑みを浮かべてグレンと一緒に礼を言う。先生が手を振ってくれたので、かるく手を振りかえしながら昇降口まで突っ走る。
昇降口はがらんとしていたが、一人だけ生徒がいた。早退するのだろう、顔色が悪い。彼の制服を、盗み見てみた。シャツのポケットの位置やネクタイの色は、クライドたちが着ている制服と似ているので問題なさそうだ。問題は靴だった。
「そういえば普通の靴で来ちゃったな」
そういってみると、グレンは自分の足元を見て「あ」と小さくつぶやいた。どうやら気づいていなかったようだ。クライドもここにくるまで気づかなかった。
「ちょっとズボンを長めにして、隠せ! ベルトの穴二つぐらい緩められるだろ?」
悪戯っぽく笑いながらグレンはベルトを少しだけ緩め、ズボンのすそをぴんと引っ張って伸ばすとその部分で靴をカバーする。
グレンが履いているのは黒系の靴だったので、そんなに注目されなければ誰も気づかないだろう。クライドの履いている靴も偶然黒系だったので、同じ方法で隠すことにする。
「サラの教室は?」
訊ねてみると、グレンはううんと唸った。そして、苦笑い気味にクライドを見て首をひねった。そして、静かに歩いて職員室の前に来た。
「ノエルは多分、そこにいるだろうな」
グレンの言葉にうなずき、クライドは職員室の前に張ってある案内板を見た。ホワイトボードに黒いペンで校舎の内部が書かれている。
すぐ隣にあるドアから先生がいつ出てきてもおかしくないので、クライドはかなり緊張していた。さっと見てさっと昇降口に戻ってきて、二階の視聴覚室あたりが一番怪しいと二人で確認しあった。
先ほどの案内板の視聴覚室の欄に、緑色の文字で『昼食後、臨時で五年が使用(通訳として臨時の講師が来たため)』と書いてあったからだ。この学校は、来訪者にとても親切である。全ての教室に、使用予定の学年と教師の名が書いてあった。
「間違いなくここだろうな。通訳って、ノエル以外考えられないし」
クライドは、グレンにそう言ってみた。発案ではなく、確認の意味でだ。この言葉に頷いて、グレンは荷物を肩にかけなおした。クライドはネクタイを少しきつく締めて、グレンを促して階段に向かった。
二人で、二階の視聴覚室を目指した。どのクラスも授業中で、それぞれの授業風景がとても印象的だった。あるクラスでは紙飛行機を投げあっていた。このクラスには先生がいなかったため、多分自習の時間なのではないかとクライドは思った。
またあるクラスでは説教の真っ最中で、あるクラスはとても真面目に授業をやっており、あるクラスは無駄話がとても多かった。
音楽室の前を通ると澄んだ歌声が聞こえてきたし、家庭科室の近くからは煮物の良い匂いが漂ってきた。調理実習の最中らしい。
理科室の前を通ると、偶然実験をしている様子が目に入った。教師が試験管を振ると、中に入っていた琥珀色の液体が綺麗な蒼に変わった。何の実験なのだろう。
「視聴覚室って、ここか?」
ふとグレンが立ち止まり、閉ざされたドアを見る。何処の教室のドアにも、光を取り入れるためなのか、それとも中を覗くためなのか、とにかく窓が開いている。だが、このドアに窓はない。プロジェクターを使ったりするときに、無駄な光が入らないようにするための考慮だろうか。小窓のないドアの上に、視聴覚室とかかれたプレートがとりつけられている。
クライドは頷き、グレンを見た。緊張する。今ここでクライドとグレンが入っていったら、ノエルやサラまで悪者扱いされるかもしれない。そうしたら、クライドとグレンの責任だ。
「いこう」
意志のこもった声でグレンは言った。クライドは胸に息苦しさを感じながらも頷き、簡潔に返事をした。
「ああ」
その声と同時に、少しだけドアを開けてすぐに室内に入り、後ろ手にドアをしめる。教室の中は薄暗く、白いスクリーンに何か映像が映し出されている。それを見て、ノエルが何か喋っている。なぜか、この学校の制服を着ていた。
ノエルは、教師としてこのクラスの生徒に何かを説明している。教師として、教壇に立っていた。通訳としてここにいるはずなのに、何故か全員に勉強を教えている。
感動的だと思った。親友の晴れ姿を見て、クライドは笑顔になった。グレンも笑っている。クライドとグレンに気づいたノエルは少しも表情を変えず、目配せもせずに説明を続けた。ここでリアクションをしたら先生にばれると思ったのだろう。だが、心配は無用だった。
「君達は、誰かな?」
心配せずとも、すぐに先生に見つかってしまった。グレンと二人、顔を見合わせる。生徒たちはノエルの授業に夢中で、クライドたちのことなどきにしていなかった。
「えっと、他校生…… です」
さすがに隠し切れないだろうと思い、クライドはうなだれながらそういった。するとグレンはにこりと笑い、心配するなというようにクライドの肩を叩いた。そして先生と向き合い、クライドの肩を引き寄せる。
「俺が連れてきたんだよ、先生! 他校の生徒の癖して珍しく勉強熱心でさあ、クライドは。そういえばノエルって人がここにいるって聞いて、連れてきたんだ。ノエルはもう生徒じゃないけど、こいつの知り合いで」
なんとグレンときたら、この学校の生徒になりきっている。驚いたが、顔には出さないようにする。
クライドのせいでグレンの演技が見破られてしまったら、グレンが悪いことになってしまう。そしてグレンは、喜んで自分から悪人になるだろう。クライドのことを思って。
「その子は解った。とりあえず処分はあとだ、席に着きなさい。で、君は?」
先生のその一言で笑顔を浮かべると、グレンはクライドの肩を抱く腕を下ろし、ためらうクライドの背中をそっと押してくれた。グレンに目線で礼をいい、適当に空いている席に座る。
先生は、怪訝そうな態度でグレンと向き合っていた。
「俺? 病院いってきた。脚のやつな。もう異常ないから学校行ってもいいって医者が」
そういいながら、グレンは足を摩った。先生の視線がグレンの足にうつる。靴のことがわかってしまったら、きっとグレンは追い出される。そして、自分も。クライドはびくびくしながらグレンが来るのを待った。
先生は別に怒った風でもなく、そっとグレンを見て笑った。よかった、ばれなかったのだろう。
「そうか。席についてくれ、君も他校生だね」
クライドは、びくっとして先生を振り向いた。だがグレンは焦ったり取り乱したりせずに、普通に笑った。そして、いつも母校の教師にとっているような友好的な態度で先生に接する。
「あはは、ばれた? 先生目がいいな」
「いい演技だったよ、君。名前は? どこの学校だね」
いいのかこの学校。クライドは、そう思わずにはいられなかった。警備は手薄だし他校生は簡単に入ってこられるし他校生でも何でも授業をすることが認められる。随分自由な学校だと思う。自由すぎて、少し不安だ。
グレンはクライドの隣に座り、親指を立てて見せた。クライドも微笑み、まずはベルトを直した。 |