第一話 はじまり
春というにはもう遅いが初夏というにはまだ早い、そんな気候。四月の下旬のことである。
麗らかな日差しの中、その町では朝から祭りが行われていた。街を行く人々は皆嬉々とした開放感溢れる表情で、出店に陳列された商品を見ている。町の中央に位置する広場では、様々なイベントが行われているようだ。
喧騒が溢れる大広場の真ん中には、石造りの古い塔がそびえ立っている。幾多の民や民の日常や、それらの引き起こす様々な事件や戦争、時には馬鹿騒ぎ。気の遠くなるほど昔からそれをずっと見守ってきた、古い、とても古い塔。ここで事件は起こった。
クライド=カルヴァートは、今日で十六歳を迎えたばかりの少年だ。この街で生まれ、この街で育ってきた。街から出たことは一度もない。街はそこそこ広く、生活に必要なものが豊富に詰まっているので、どこかへ出かける必要がないのだ。このアンシェントタウンに住む者たちは、殆どがクライドのように街を出ずに暮らしている。
一年に一度だけやってくる、久々に聞いた祭りの喧騒は耳に心地よかった。売り子や客の声を遠く聞きながら、歩き回るクライド。家にいるのも退屈なので、朝から家族にことわってこの祭りの見物に来ていた。 しかし、実はあまり楽しんでいない。祭りの雰囲気は好きだし、街の人たちは毎年楽しみにしているこの祭りなのだが、クライドは全く楽しみにしていなかったのだ。
なぜならば、舞踏があるからだ。祭りのクライマックスで、火を使った舞踏が行われるのである。別に火が嫌いだとか、前に家が火事になったからトラウマだとか、そういう類のことではない。その舞踏を、クライド自身が踊らなくてはいけないのが問題だった。
踊りは難しすぎて嫌いだ。髪は焦げるし腕は火傷を負うし、はっきり言って全く楽しくない。観るだけなら面白いのだが、自分が踊るとなると話は別だ。練習にも何かと理由をつけて出席しなかったし、クライドがこの踊りが嫌いだということは友人や学校の先生にも公認されている。
そういうわけで、今回は逃げる。少年なんて沢山いるのだ、その中の一人ぐらい消えたって誰も気づかない。クライド以外の少年の中には、これを楽しみにしている者もいるぐらいだ。そっと抜け出して、観覧に回ろう。誰も怒りはしないはずだから。
がやがやと煩い民衆に背を向けて、クライドは古びた塔を見上げた。石造りなのでよりかかればひんやりと冷たく、外観も何だか厳かな感じがして、クライドはこの塔が好きだった。そういえば、古代の人は真っ直ぐに立ったこの塔を日時計として利用していたのだと郷土史の授業で習ったことを思い出す。
歴史的建造物なので、重要文化財という名目で昔から大切に保存されてきたこの塔は、戦時中も必死にカモフラージュして上空からの攻撃を防いでいたという話も聞く。ただの古びた塔なのに、と言う人もいるが、クライドにはなんとなくこの塔の価値がわかる気がした。もともと歴史や歴史的建造物の類が好きだから、古い物を見れば何でも凄いと思ってしまうのだが。
この塔は上部が鐘楼になっていてるので、祭りの時には毎年必ず鐘を鳴らす。祭り以外の日に入ることは禁じられている塔なので、祭りの日にしかこの鐘を鳴らすことはないのだ。
クライドは、この鐘の響きが好きだった。ひどく古びた響きが街を揺らすその瞬間が、何ともいえず好きだ。踊らなくてはならないので祭りは嫌いだが、そのフィナーレで鐘を聴くのは大好きなのである。
「……ん?」
ふと見ると、鐘楼に誰か人がいる。鐘を鳴らすのは、クライドが大嫌いな踊りの最中のはずだ。踊りは祭りのフィナーレだから、真夜中だ。したがって、鐘楼に誰かいるということはありえないことだ。この鐘楼は、普段は関係者以外の立ち入りを禁じているのに。
「何だあれ」
鐘楼に立ち入った人が、行動を起こした。背格好からすると男のようだ。彼は、鐘を軽く叩いた。不思議と音はしない。彼の隣には背が低い人が立って、鐘をみつめていた。周囲の者は、誰一人として気づいていない。奇妙なほど誰も塔を見ないのだ。
不審な人物たちは少しして、なにやら青白い火花を出して鐘を落とした。すぐさま鐘の上に何か布をかけて、逃げ出そうとする不審者たち。クライドは瞬きもせず彼らを見ていた。
青白い火花、それをどうやって出したのかは全く不明だ。ライターの火にしては青白すぎたし、バーナーを使ったならもっと大掛かりな器具が必要になるだろう。それに、奇妙なことに鐘が落ちたとき何も音はしなかった。
彼らは最後に鐘の上から大きな布をかけたが、何の意味があるのだろう? 何の目的があって鐘を落としたのか。どうやって鐘を落としたのか。理解できない。あの火花は一体何だろう。どうして鐘が音を立てなかったのだろう。あんなに重そうなのに。頭が混乱する。とりあえずまずい、誰かに言わなければ。
そう思い、咄嗟に頭に描いたのは町役場だ。この塔を管理しているのは、この街の町役場なのである。役場の権力者へ報告するべきだと思って塔に背を向けようとした瞬間、塔の上に立つ者と目が合ってしまった。
凍らされるような視線。思わず、足が竦んで動けなくなる。そのままその男と目を合わせていると焼かれるように目の奥のほうが痛んだが、どうしてそんな場所が痛むのか解らなかった。しかし、その変な眼力に対抗している自分がいた。
数秒後、塔の上の者が目を押さえて呻いた。自分は何をしたつもりもなかったのだが、彼が押さえた手の下から微かに煙があがっているのが見えた。煙? いいや、見間違いだろう。
「あの、大丈夫ですか?」
叫んでみる。自分で言ってみて、酷く間抜けな声だと思った。男はクライドに向かって何か喚き、目を押さえて唸っていた。何があったのかは解らないが、自分が何かしてしまったというのは明確な事実である。
クライドは塔に向かって走る。そして、普段は立ち入り禁止とされているドアを思いっきり蹴破り、塔の中に潜入した。上の方からうめき声と怒鳴り声が聞こえる。なにやら口論をしているようだ。
「痛いっ、目が、ああ、あああ!」
「馬鹿! 一体何をしている!」
自分が焼いてしまったであろうと思われる人物は、何故か怒られているようだ。理不尽だが、どうしようもない。声をかければ見つかってしまう。そこまで考えて、急に思う。塔に入ってはみたものの、何をしていいか解らない。
……いや、何もする必要は無かったのだろう。ここに入るという行動は、完全に間違っていた。とりあえず来てしまったが、ここで何をするかまでは全く考えていなかった。
自分のしたことに対する後ろめたさや嫌悪、そして男達の声を聞いたとたん感じた焦燥。全てがごっちゃになって、最悪な気分だ。どうしようもなくむしゃくしゃして、クライドは滑らかな金髪をぼさぼさにかき回す。
――いや、待て。どうせここまできてしまったのだから、最後まで塔を登ってみよう。
ギャング映画みたいで、ちょっとだけ面白そうだ。不安と好奇心を胸に、クライドは塔の中に唯一ある階段を上り始める。なるべく音を立てぬよう、そっと一段ずつ踏みしめて階段を上る。何段目かに足を乗せたとき、上の方から声が近づいてきた。咄嗟に隠れ場所を探す。
この塔の階段は螺旋階段になっているため、下から来る者は自分の目の前に差し掛かるまで見えない。同時に、上から誰かが降りて来ても、直前まで気づくことができないということだ。早く隠れれば何とかなるが、もし隠れられなければ怪しい男らと鉢合せになる。
丁度、あと二段上がったところに倉庫のようなものを見つけた。階段の脇に、そこだけ奥まった場所があるのだ。そこには、清掃用具や塔の修理道具などがしまわれている。一人ぐらいなら隠れるスペースがあるようだ。
クライドはそこにさっと身を潜め、様子を窺う。このままでは丸見えなので、モップや雑巾などで巧みに自分をカモフラージュする。
「だから、ガキがいたんだ! 目を焼かれた、ガキにだ!」
「馬鹿、魔法を使えるガキなんぞこの街にはいない!」
「いたんだって!」
「鐘がある限り、そんな者は存在しない」
「って、俺ら今それ落としただろ! だからだ!」
「だが、まだ魔力があることは確かだろう」
「ちょっと待て、封じただろ今それ! アホだなお前は!」
「この塔にも魔力があるということを貴様は知らんのか! 愚図め」
男らは口論をしている様子だ。それに、魔法を使うガキというのは多分自分のことだと思う。彼らがクライド以外の少年と接触した様子はないし、男の目に関係しているのは明らかに自分だ。
じっと身を潜める。男らの姿を、間近で見てみたい。自分の身に両脇からモップを立てかけ、抱えた膝の上には雑巾をかけるという酷い姿だが、クライドは別段気にしてもいなかった。クライドの関心は、自分の身ではなく男達に移っているのだから。自分の酷い格好は気にもせず、じっと身をかがめて耳を欹てる。男らは、さらに会話を続けた。
「あとで報告しないと、あのガキ」
「だから、そんなものはいない」
「じゃあこの眼はどうなるんだ!」
「鐘にかけた魔法が跳ね返ってきたんだろう。兎に角ガキなんていない、早く忘れろ」
ごくり、生唾を飲み下す。見つかってはまずい雰囲気だ。ここで見つかったら、目を焼かれた男の言い分が通用してしまう。クライドは魔法を使う少年だとみなされ、二人の男から酷い目にあわされるのだろう。大体、魔法なんてあるわけないのに。馬鹿げている。この男らは、いい年をしてまだ魔法なんか信じているというのだろうか。
足音がだんだん近づいてくる。そして、言い争う声もいよいよ煩くなってくる。あまり悠長なことは考えていられなかった。息をひそめ、じっと耳をすませる。
「あのガキの視線が、俺の眼を焼いたんだ!」
「ったく、煩い。そんなに言うなら幻でも出してみろ。どんなガキだ?」
二人は、なんとクライドが身を潜めている辺りで立ち止まった。一人は冷徹そうな長身の男、もう一人は太っていて頭の禿げた中年だった。目を焼かれたと騒いでいるのは、禿げた中年の方だ。心臓が止まりそうになる思いがしたが、クライドは声を立てずにその場にとどまる。
「こんなガキだ」
そういうと眼を焼かれた男は、彼の隣に何かを出現させた。……まさしく、心臓を鷲掴みにされた気がした。
一体どういう方法でそれを出したのかは不明だが、彼がだした幻のようなものは紛れもなくクライドだった。滑らかなつやがある、少しはねた柔らかな金髪。不思議な銀色をした眼。整った顔に凛々しい表情を浮かべているが、その雰囲気には似つかわしくない廉価な服装。半そでのシャツから覗いた腕は、人並みに筋肉がついている。しかしこの腕は、細い方の部類に入るだろう。
男が再現したクライドは、身長から体型、そして服装まで、全て写し取ったように今の自分と同じだった。その酷似ぶりは、思わず大声で叫んでしまいたくなるほどのものだった。
「……認めてやろう、そいつを探して報告だ」
もう一人の男の声が、死刑宣告のように聞こえた。誰に報告されるのかなんてどうでもよかった。兎に角、非常事態なのだ。絶対に見つかるわけには行かない。どうしよう、どうすればいい?
心の中は混乱しているが、身体は冷静だった。それでも心臓だけはかなり動揺している。耳に自分の鼓動の音しか聞こえないぐらいだ。悲鳴を上げたい心とは裏腹に、この肢体は微動だにしない。微動だにしない身体は、倉庫のような場所から絶対に動かないでいる。よく考えると、冷静なのではなく恐怖で動けなかったのかもしれない。
「あのガキ、一体なんの魔術を使ったんだ?」
ぶつぶつと文句をたれる中年の男。彼は癇癪を起こしたのか、足元の階段を力いっぱい蹴りつけていた。彼の足が階段の敷石にぶつかるたび、彼の体中の贅肉が揺れた。こんな非常事態でなかったら、クライドは彼のダイエットについて真剣に考えていたかもしれない。だが生憎、クライドは自分自身のことで精一杯だった。
「おい、見えてるか? その目は」
「いいや見えない、何とかしてくれジェイク」
「愛称で呼ぶなジャスパー」
「もう十年の仲じゃないか、ジェイコブ!」
男らの名前がわかった。眼を焼いてしまった方は背が低く太っていて禿げた中年、ジャスパー。もう一人の冷徹そうな長身の男はジェイコブ。名がわかったのは、彼ら(とくに禿げた方)が低レベルな言い合いをしてくれたおかげだ。
ジャスパー、ジェイコブ、と頭の中で反芻しながら、クライドは首を動かさずに視線だけで彼らの後姿を見送る。よし、そろそろ外に出ていくだろう。彼らの声が遠くに聞こえる。二人はまだクライドの話をしているらしかった。ああ、さっきのは一体なんだったんだろう?
そっと倉庫を抜け出して、身体についた埃を払う。埃を払いながらジャスパーとジェイコブが戻ってこないかずっと警戒していたが、二人が戻ってくる様子は無い。安心して後ろを向いたとき、誰かの胸にぶつかった。顔を上げると、長い真っ直ぐな金髪を肩まで垂らした青年と目が合った。
外見からいけば、彼は自分と十歳も離れていなさそうである。せいぜい五歳か六歳ぐらいの差だろう。彼は去っていった二人と違って端麗な顔立ちだし、均等の取れた体つきをしている。痩せすぎでもないが、かといって太っているわけでもない。この容姿だったら、たちまちモデルのオファーがきそうである。
ただ、彼からは若年の魅力のひとつである弾けるような元気な好感というものが全く感じられなかった。喩えるなら、雰囲気だけ実年齢よりも老いてしまったような男である。
かなり怒った目元と、対照的に笑う口元。しかしその笑いは残忍なものなので、対照的とはいえないかもしれない。
解っていることはただひとつ。この男は、自分に何かしでかすつもりだ。要するに彼はあの二人の仲間なのであって、クライドをこのまま逃がしてくれる気なんてきっと毛頭ないのだろう。
「うわ」
混乱と焦燥が頭の中を駆け巡る。まずい、逃げなくては。
逃げようとすると、胸倉をつかまれた。成す術もなく、足が階段から浮いた。襟首が首に食い込んで痛い。繊維がぶちぶちと切れる嫌な音がした。あまり買ってもらえない衣類なのに、傷めて欲しくはない。苦痛に眉を顰めながら、クライドは男をじっと見つめた。
「どこから入ってきた。小ざかしいガキには少々しつけが必要だな、ん? どうしたものか」
からかうようにそういう男。クライドは、男の目を黙って睨みつける。
彼はよく見れば誰かに似ているような気もするが、クライドの知る限りこんなに無礼で無愛想な知り合いなんていない。というより、いてほしくない。そしてこの男は、人をいちいち子供扱いするのが好きなようだ。そう思ったとき、心に余裕が生まれた。
クライドは、心の中でこの男が燃え上がるのを想像した。腹が立ったからだ。もう十六だというのに、まだ子供扱いか。あまり童顔と言われたこともないし、背も低すぎない。なのに、皆揃ってガキという。(むかつくんだよ!)
心の中で叫んだとき、自分を掴み上げている男に変化がおきた。
「うわっ」
その言葉を最後に、男はクライドの目の前で火だるまになる。男の身体を燃料にして燃え盛る炎を見た瞬間、手を突き出して男を突き飛ばす。そうしてつかまれた胸倉を開放させると、クライドは息を荒げて男を見上げる。叫びたいが、言葉にならない。嘘だ、嘘に違いない。
想像したら、全くそのとおりに火だるまになった男。今まで、そんなことは一度だってあっただろうか? 答えは、否だ。第一そんなことがクライドの日常で起こっていたとしたら、一体どれほどの人が炭と化していることだろう?
「っ、水! 水を!」
男が叫び声を上げる。ああ、そうだ。水を探さなければ、彼が死んでしまう。
きょろきょろと辺りを見回すクライド。しかし、そんなことをしても水が現れるはずが無い。肉の焦げるにおいがする。もう、男の方を見たくない。肉だけでなく、髪が焦げる嫌なにおいもしてきた。もう絶対見たくない。視界の隅にちらりと何かがうつり、そちらを少しだけ振り向くと、無残に焼け焦げて皮膚のなくなった手が伸びてきた。焼け残った肉と肉の間に白い骨が見える。胃の中身がひっくり返りそうになったが、寸でのところで堪えた。
彼は助けを求めているのだ。これを振り払えば、クライドは人殺しをすることになる。いくら彼が悪人だからといって、殺人なんてしたくない。どうしたら良いのだろう。何もかも、自分が想像したせいだ。……想像のせい?
「それだ!」
着火のときと同じように、イメージで彼の身体を舐めつくす焔を消してみようと思った。
彼は今、全身ずぶぬれで突っ立っている。髪は少しこげているが、肌は何ともない。その二つを強く心に思い描き、目を閉じてみた。すると、どこからか水音がした。水滴が落ちるような軽い音ではない。それは、滝でも出現したかと思われるほどの轟を伴う水音だった。想像が正しければ、彼の頭上から水が降ってきたのだろう。それなら彼を焼く焔が消えてくれる。だから、そうであってほしい。火傷に沁みるかもしれないが、それは天誅というものだ。
足元を水が流れていく。それを確認するようにしてクライドが恐る恐る目を開けると、唖然とした男が立っていた。まさしくさっきの想像通り、全身ずぶぬれで突っ立っている。髪の先が少しこげているが、あとは何ともない。火傷がしみることはなさそうだ。
皮膚がこげているという想像はできなかった。気持ちが悪いからだ。クライドは、基本的にグロテスクなものは苦手だ。漫画や小説に出てくるのと、目の前で見るのとでは全く違う。だからなるべく気持ち悪くならないように、彼が普通に立っている姿を想像したのだ。彼の髪や皮膚の焦げる臭いがしたときには鳥肌が立つ思いだった。
「やるな、このガキ」
男は、何と手を差し出してきた。クライドと何らかの協定を結びたいらしい。困惑したクライドは、しばし逡巡する。
「貴様なら、おそらく良い仲間になるだろう」
無表情にそういい、無感動に目を細める男。どこまでも『無』という言葉が似合う男だ。クライドは思う。悪の道に染まるなんて絶対に嫌だ。ましてや、こんな男らと一緒だなんて。きっと、拒否したら襲い掛かってくるだろう。いや、彼は今丸腰だ。どうにかすれば、何とかやっつけられるかもしれない。男に敵意に満ちた目をむけ、クライドは四、五歩後退する。来るなら来い、受けてたつ。
交渉決裂だ。それを察したのか、瞬時に男の額に青筋が浮いた。
「貴様、俺の言うことが聞けないというのか」
「あっ、塔が崩れる!」
ちらりと男が上を向いたとき、クライドは転がるように階段を駆け下りた。勿論、今のは嘘である。崩れてくる階段など想像しないようにして、クライドは駆ける。
「待て、貴様!」
男の声が上からするが、無視してドアを蹴り開ける。そして外に出て、誰にも追ってこられないところまで走って走って逃げた。
第一話、どうでしょうか。面白くなるのはこれからです。
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