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さようならの予感。
作:森本エリ




 良い“さようなら”があるのなら、
 幸せな結末が、あるのなら、
誰か教えてよ。

“HAPPYEND”の作り方。



 愛を作るのは簡単で、持続はなかなか困難だ。あたしは、煙草を吸いながら、目の前にある、カラフルなチュッパ・チャップスとモノ・コムサのコラボレーションのマグカップを眺めていた。
 いなくなってしまった情緒不安定な女友達が、買ってくれたお気に入りのマグカップ。食器なんかに興味はないけど、これは特別。
 とって近くの飲み口が二ヵ所欠けていて、歪で微かな傷みは、あたしの感情みたいに欠落している。
 チュッパ・チャップスは素敵だと思う。
あの包み紙の弾けた極彩色。着色料と砂糖と香料のみのシンプルな味。
 食べたいな。
最近、ちょっと値上がりしてた。
 三十円が三十九円だったっけ。
 でも、こないだ久しぶりに食べたけど、あたしの口いっぱい、顎がはずれそうなくらいあったな。
 あたしはマグカップに入った濃いコーヒーを啜った。
 最近、アメリカンは飲まない。
インスタントコーヒーを適量より多めの量を匙ですくって、柄杓型の鍋で沸かしたお湯を注ぐ。

 あたしに美味しい適量は大匙一杯。
 美味しいお召し上がり方に表示されている適量は2g+沸騰させたお湯140cc
大匙一杯は15g。マグカップ一杯、訳250cc。
気がつけば、二杯も三杯も飲み続けている。
 砂糖はいらない。煙草がある。
あとは、話し相手が欲しい、と思った。

 付き合って三年、同棲して、もうすぐ二年の彼氏は、お話にならない。三か月くらい前から、諍いが増え始めた。
よくある“三年目の危機”に突入したようだ。
 ここ一週間、彼は朝の八時に仕事に出掛けて、帰るのは午前様。仕事場の人達と飲みに行ってるのか、何処に行ってるのか、全く気にならない。 浮気をしていたとしても、どうでもいい。
 あたしと彼の身体の相性は悪くなっていたから。
 付き合いたての時は、遠距離恋愛で、月に一、二回、会えるか会えないかだったから、そりゃ盛り上がりもしたが、こう毎日、毎晩一緒にいると、鮮度が落ちる。
 慣れた男の身体が心地よいと思える時期もあったが、最近は特に、求められるのが、億劫で仕方なかった。
 しばらく彼はめげる素振りを堪えながら、健気に求めて来たが、ことごとく拒否されて、いい加減、憤りを表にした。
 気持ちを察することは出来るけど、その気になれないのだ。
 疲れるし、時々、苦痛で仕方ない。
何もせずにくっついて眠っていた方が、安心する。腕枕なんか、翌日に肩と首がダルくなるので、してもらわなくて良いが、寄り添って眠るのは、何よりも心地よかった。


 彼と口を利かない三日間。
昨日と今朝は顔も見なかった。
 布団を干して、洗濯物を片付けて、掃除機をかけて拭き掃除もした。
 家事はめんどくさいから好きじゃないけど、やったらやったで、気持ちいい。
 紫色の柔軟剤アロマ系の匂いが、風とともに広がった。
 外は快晴で、二月半ばなのに、春のような穏やかさ。
 もうすぐ、四年間働いていた仕事を辞める。今住んでるアパートの更新が済んで、更新料のプラス一か月分の家賃を、彼に渡したら、ここを出て行こうと思った。

 多分、あたしの中の“情”が邪魔をするだろう。
 これ程、ぴったり来る人はいない。二度とこんな素敵な人と出会えることはない、と信じていたのだから。

そして、膨大な衣服とCDが、面倒臭さを際立たせるだろう。

 けれど、そうした方がいい、そうすべきだ。と何かがあたしに告げている。

 その声の正体が、悪魔なのか、未来なのか、わからない。

 紫煙を吐き出して、口に含んだコーヒーは苦くい。
でも、視線の先には、眩しい世界が広がっている。
 春はすぐそこに。

胸に込み上げるのは、

“さようならの予感”。














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