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  幻界創世記 作者:冬泉

翔とリュオンが駆けつけた時、葵は・・・
第四章「光と舞と」
STAGE04◆「光と、舞と」-SCENE#3
■UNO学院/正門前→医療室

 屋上からのその情景を見た時、心臓が止まる思いだった。黒い霧が校舎と正門の間に円弧状に取り巻き、その中心にあおいさんがいた。そして、その変な霧から先輩に向かってゆらゆらと出てくる影のようなもの──どう見ても、骸骨にしか見えなかった。
 歩く骸骨? 自分の目で見たものが信じられない。知らず知らずに、そんな訳がない、嘘だろう、と呟いていた。けれども──
 はっとした。そんなことをぼけっと考えている時じゃない。

「葵さんっ! 葵さんっ!!」

 精一杯叫んでも、状況は刻一刻悪化していく。一刻も早く、葵さんの所に行かなければ。僕は、脱兎の如く走り始めた。
 余裕も何もあったものじゃない。後ろで御殿山君が何か叫んでいたけれど、構ってなんていられなかった。屋上から走り出ると、運良くそこにいたリフトに飛び乗った。

「タルカーンっ! 大至急エントランス・ホールへ!」
『リョウカイイタシマシタ』

 いつもは早く感じられるリフトの降下も、ひどくゆっくりに感じる。早く早く、と気ばかり焦る。

『えんとらんす・ほーるデス』

 リフトの扉が開くと同時に走り出す。
 校舎から走りでると、正門への通路に葵さんがいるのが見えた。

「葵さんっ!」

 真っ青な顔をして、葵さんは地面に座り込んでいた。
 いつもは底知れぬ深みを秘めた双眸が、虚ろに僕を見返してくる。
 周囲には、何も異常なもののいなかった。あれほどいた骸骨を、葵さんが退治したっていうのだろうか?

「葵さん、大丈夫ですか!」
「ショウ、慌てるな」

 何時の間に来たんだろうか──リュオンが葵さんの隣に膝を付いた。
 そっとその華奢な手を取ると、何かを感じ取る様にしている。

「・・・大丈夫だ。コイツを使ったからな。力の粗方を持っていかれたんだ」
「力? なんの事ですか?」
「力は力さ」

 葵にあるとはなぁ、と何気にリュオンは呟いた。その口調に、どこか引っ掛かりを感じた。

「どういう事ですか? それに、あの変な骸骨? 骸骨でしたよね、あれは?」
「あぁ。冥界からの不死者達さ。こんなところに、それも“虚無の霧”が真っ昼間に現れるとはね。相手も相当焼きが回っているのか・・・」
「冥界の死者・・・」

 信じがたい事だったけれど、この目で見たのだから信じるしかない。

「驚いたか?」
「流石に・・・」

 不安な想いがが顔にでたのだろうか。リュオンは、ポンと僕の頭を軽く叩いた。

「心配するな。その為に、オレを呼び出したんだろ?」
「そうなんでしょうけれど・・・」

 その時、葵さんが身動ぎした。

「葵さん、大丈夫ですか?」
「・・・翔・・・くん・・・」
「アオイ、気分はどうだ?」
「・・・リュオン・・・」

 葵さんは辺りが眩しいかのように、何度も瞬きをしている。

「案ずるな、アオイ。その剣を使ったんで、ちょっと躰に負担が来てるんだ。少し休んでいれば元に戻る」
「・・・剣・・・?」
「そうだ。お前が振るって、あの骸骨どもを一掃したんだ」
「・・・」

 葵さんは、また目を閉じた。
 ちょっと話すだけでも、相当きついみたいだ。

「おい、ショウ。お前達の“学舎”で、アオイを横にならせることが出来る場所があるか?」
「保健室がありますけど、開いているかどうか・・・」
「鍵でも掛かってるのか?」
「休日は、養護教諭の方がいないので、普通は閉まっています」
「鍵くらいならなんとでもなる。案内してくれ。今は、アオイを休ませることが先決だからな」

 そう言うと、リュオンはそっと葵さんを抱き上げた。
 こんな時なのに、“絵になるなぁ”と思った瞬間に、何故か胸がちくりと痛んだ。


               ★  ★  ★

「ありがとう。大分、良くなったわ・・・」

 ベッドに横になった葵さんの顔に漸く血の気が戻ってきたのを見て、漸く少し安心する。

「ゆっくり休め、アオイ。今のお前にはそれが必要だからな」
「ん・・・」

 葵さんはリュオンに小さく頷くと、何か気が付いた様に周囲を見回した。

「ここ・・・」
「えぇ、保健室です」

 先回りして言うと、葵さんは大きく目を見開いた。

「誰かに、開けて貰ったの?」

 閉まっているはずだけれども──そんなアオイの疑問は、リュオンの事無げな一言によって解消された。

「鍵くらい、魔導でどうとでもなるさ。Aufschliessen(解錠)ってね」
「・・・魔導?」
「あぁ。」

 本当? と見つめてくる葵さんに、僕は首を縦に振った。

「確かに、鍵は閉まってました。けれども、リュオンが一言何かを唱えたら・・・」
「鍵が、開いた?」
「はい、その通りです」

 そうだったの、と葵さんは小さく呟いた。
 そして軽く溜息を付くと、黙って左手のひらを見つめる。

「動くか?」

 リュオンの方をちらりと見ると、先輩は小さく頷いた。
 二、三回手を握って見せると、不意に気が付いたように言った。

「あの剣は?」
「ここにある。」

 リュオンが、ベットの傍らに立てかけていた剣を取った。
 金色の鞘に収まった真っ直ぐな剣──リュオンに差し出されたそれを、葵さんは左手でゆっくりと掴んだ。

「アオイ。お前は、その剣にあるじとして認められたんだ。魔導の力がないと、剣と“話す”事が出来ない。つまり・・・」
「・・・先輩には、その“魔導の力”があるってことですか?」
「そういうことになるな。」
「そんな・・・」

 葵さんは、リュオンの言葉を黙って聞いていた。
 その整った顔には、何の感情も浮かんでいない。

“葵さんはどう思っているんだろう? 何を考えているんだろう?”

 コチコチ、と壁に掛かった時計の音だけが響く。葵さんが押し黙ったままなので、リュオンも窓枠に寄りかかって、黙って外を見ていた。

「・・・あの・・・」

 暫く沈黙が続いた後。漸く、葵さんが口を開いた。

「・・・主って?」
「簡単なことだ。その剣は、アオイをあるじと認めた。だから、その剣を振るえるのはアオイだけだ。他の誰も、もうその剣に触れられない」
「・・・どうして?」
「どうしてって言われてもなぁ」

 少し困ったようにリュオンは顎をさすった。

「それが運命でした・・・と言っても、納得しないだろうな?」

 微妙に語尾を疑問系で言ったリュオンに、葵さんは一回だけ首を縦に振った。何か、“早く答えなさい”って言ってる見たいに思えるのは僕だけだろうか?

「いいだろう。おれはな、ある時一つの予言を聞いた。その予言を話してくれたのは“夢見”のおさだ。おっと、夢見って言うのは、先読みが出来る賢者だと思えばいい。」
「それで?」
「それで、だ。その賢者から、『何時か汝は必ず一振りの剣を預かる。その剣を、然るべき新しいあるじに渡すまで、大切に持ち歩くように』ってな」
「それで、ずっと持っていたんですか?」
「あぁ」

 何かを思い出したのか、ちょっと嫌そうに顔を顰めるとリュオンは苦笑した。

「夢見っていうのはこぇえ連中でね。冗談が一切通じないのさ。おまけに、そいつ等の言葉は強制力まで持ってやがる」
「逆らうと大変、ってことですか?」
「その通りだ、ショウ。よく判るな」
「それが判っても、余り嬉しくありませんが」

 にやりと笑うと、リュオンは一転して真面目な表情で先を続けた。

「だがな、今は漸く持てるようになっただけだ。それも、一回振るえば、アオイの力を根こそぎ持っていく・・・」
「どうすれば、いいの?」

 黙って聞いていた葵さんが不意に言った。

「幾つか方法がある。一つは、オレに魔導の特訓を受けることだ。あとの一つがどうあれ、これは絶対にやって貰う」
「あとの一つは?」
「・・・“神”に会いに行く」
「えっ?」

 これには、流石の葵さんも吃驚した。

「“神”って・・・」
「“神”は“神”さ。それ以上でも、それ以下でもない。それに、逢えるか逢えないか、それも会いに行こうとする人次第だ。」
「謎掛けみたいですけれども」
「似たようなもんだな。そん時になったら、自分の目で確かめてくれ」

 これ以上の説明は無理だぞ、とリュオンは釘を刺した。

「・・・判ったわ。その時まで、この剣はわたしが預かるしかないのでしょう?」
「そういうこった」
「ならば・・・」

 止むを得ません──そう言った葵さんの表情は決意に満ちていた。

               ★  ★  ★

 葵さんはリュオンの言う通り、暫く寝ているとまた動けるようになった。
 自然に、三人で一度葵さんの家に戻ろうと言うことになった。
 葵さんの躰の具合が心配なので、僕にも特に異論はない。

「ところで」

 葵さんがリュオンに話しかけた。

「なんだ?」
「この剣──名前、あるの?」
「名前、か・・・」

 ついに聞かれたか──そんな表情でリュオンは息を吐き出した。

「まぁ、オレが言わなくても、何れ剣が自分で言うだろうしな」
「自分で?」
「あぁ。魔導剣なんて、大体そんなものさ」

 肩を竦めると。

「アオイ。その剣の名前はな・・・」

 黙って、葵さんはリュオンの言葉を待った。そして、運命の名前が言葉にされる。

「・・・『FORTUNE』と言うんだ」

☆☆ SCENE#4に続く ☆☆
 今回は初めての試みで、翔の視点から書いてみました。“初めて”と言っても、私のヘッポコ文章は一人称・二人称・三人称と入り乱れておりますので(汗)、『今更何じゃい!』と言われてしまいそうですが・・・。
 葵がリュオンから渡された剣の名前が出ましたね。私の世界では、非常に有名な剣なのですが・・・まぁ、おいおい、誰の剣か判明していくでしょう。


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